パパと私とスーパーヒーロー。   作:にゃかぽけ

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ライバル

パパのおかげで留学の準備はさくさく進んで、今日は予定のないおやすみだからベッドでゴロゴロしながらパルデアのストリートビューマップを眺めて、一足先にパルデアを大冒険している。

 

最近、スグリくんとよくメッセージのやり取りをするようになった。

留学があまりにも不安みたいで、アローラの事をあれこれ聞いてくるもんだから、電話もめちゃくちゃかかってくる。

 

下手したら自分が留学してからやることよりも、スグリくんが留学してからやることの方が詳しいまである。

 

アローラのポケモンスクールには寮なんて立派なものはないから、スグリくんはククイ博士のポケモン研究所で寝泊まりする。ククイ博士の研究所にはもうスグリくんのお部屋が用意されてて、その間はパパが初めてのポケモンを渡す係をするんだって。

 

それで、スグリくんはアローラのスクールで授業を受けるのはもちろん、ククイ博士の研究のお手伝いをしつつ、島めぐりにも挑戦するみたいだ。島めぐりは、正直言ってスグリくんなら楽勝だと思う。

 

あと、スグリくんはあっという間にメッセージが上達したから、アローラのみんなの連絡先を教えておいた。

 

マーマネくんと天体観測したり、カキくんに盆踊りを教えてあげる約束をしたりしていて、もうすっかり仲良しになっていた。

 

あと、何故かプロレスラーのロイヤルマスクさんがいつの間にかスグリくんのことをよく知ってて「彼は身体を鍛えた方がいいな!特訓もエーンジョイ!してもらうぞ!」とやたらと燃えていたけど、スグリくんには内緒にしておくことにしている。

 

スグリくんのことを考えてたら、狙ったみたいにスグリくんからメッセージが来た。

 

ーーーーーーーーーー

レイラさん、留学の準備進んでる?

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うん。もうほとんどの荷物は日付指定のぺリッパー便で送ったよ。スグリくんは?

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わやじゃ!荷物多すぎてどうすっか悩んでたけど、そうすればいいのか!おれもそうする!

ーーーーー

ククイ博士のポケモン研究所はすごく広いからたくさん送っても大丈夫じゃないかな。

荷解きはパパも手伝うからね!

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ほんとに、レイラさんとレイラさんのおとーちゃんがいてくれてよかった。

知り合いが誰もいなかったら、留学なんかおっかなくて絶対できなかった。

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私もスグリくんがいてくれてよかったよ。

おかげさまで、ネモちゃんとアオイちゃんとは仲良くなれたよ!

ボタンちゃんとペパーくんと仲良くなるのはまだ時間がかかりそうだけどね

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ボタンちゃんは「人見知りだから仲良くなるの時間かかる。感じ悪く思ったらごめん」ってメッセージくれたから、会ってからゆっくり仲良くしてもらえたらいいなって思ってるけど、ペパーくんはいきなりキレてて、正直すごく怖かった。

 

ーーーーーーーーーー

初めまして!4月から留学に行くレイラです。

仲良くしてくれると嬉しいな!

よろしくお願いします!

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オレの方が先輩だぞ

オマエ、アオイとも連絡取り始めたんだってな オレはアオイの一番の親友だ アオイに変なことしたら承知しないからな

ーーーーー

失礼しました。申し訳ありません。気をつけます。

ーーーーーーーーー

 

これだけ。

 

ペパーくん。いや、ペパー先輩。フトゥー博士の息子さん。

フトゥー博士は無表情だったけど、結構紳士なジェントルだったぞ。ちくしょーめ。

 

会えるのをすごく楽しみにしてたけど、なんかいきなり嫌われてる気がする。

私、既にアオイちゃんに変なメッセージ送っちゃったっけな。

確認したけど、割と普通だ。大丈夫そう。

 

悶々としていたら、パパの研究所の固定電話が鳴った。固定電話なんか、久しぶりに鳴った。なんだろう?

パパは研究室に篭ってるし、私が出なくちゃ。緊張する〜。

 

「はい、シナミ天文学研究所です」

 

「あっ!あのっ!えと、こんちは!島めぐりの申請して、ポケモンが欲しいんすけど、申請のやり方わかんなくて。教えてくりゃしゃい!」

 

この人、めちゃくちゃ緊張してるな。

 

「はい、ククイ博士のポケモン研究所のホームページに申請フォームがありますので、そちらから申請していただいて......」

 

「おれ、パソコンもスマホも持ってないんです。今、公衆電話からかけてんすけど......」

 

えぇ。声と話からして、結構おにいさんだと思うんだけど......。

 

「では、申請書をお渡ししますので、こちらにお越しいただけますか?」

 

「あざっ......!ありがとございましゅっ!14時に取りにいきみゃしゅ!」

 

「......落ち着いて、お気をつけてお越しくださいね」

 

パパにメッセージを送ってみたら、すぐに返事が来た。

 

ーーーーーーーーーー

今ちょっと手が離せないんだ

申請書だけなら印刷して渡してあげておいて

ーーーーーーーーーー

 

えー。電話の人、めちゃくちゃ緊張してたな。何故か私までめちゃくちゃ緊張してきた。

 

時間ピッタリにチャイムが鳴った。

 

インターホンのカメラを確認する。どこにでも居そうな至って普通の素朴なおにいさんがソワソワしながら立っていた。私と同じくらいの歳かな。

 

「はーい」

 

「こにちは!さっき電話したヤツでしゅ!」

 

「......開けますね」

 

緊張しないでー。私も緊張しちゃうよー。

ドキドキしながらゆっくりドアを開ける。

 

「こんにちはー」

 

「こんちうわぁぁあ!?バカつえーねぇちゃん!?」

 

え、誰?

私をバカ呼ばわりする人......。えーっと。

 

「もしかして、パイセンさん!?」

 

「なんでバカつえーねぇちゃんがここにいんだよ!?おれ、もう悪いことしてねーぞ!?」

 

全然気付かなかった。確かに見た目からして、全然悪くなさそうになってる。

 

「私、シナミ博士の娘なんで......」

 

「マジかよ。バカつえー上にエリート金持ちお嬢ちゃんかよ。しかもすげーかわいいし。人生は不平等......」

 

バカ呼ばわりしながら褒められても、申請書しか出ないぞ。

 

「はい、これ。申請書です」

 

「ありがとよ。あと、ありがとな」

 

政治家さんのミズゴロウ構文かな?

 

「ねぇちゃんがやり直せるって諭してくれたのを思い返してみたら、なんかママのこと思い出して寂しくなっちまってさ。久しぶりに家帰ったんだよ」

 

ママ呼びなんだ。パイセンさんかわいいな。

 

「おれのおやじは借金作って出てっちまって、ママとおれはずっとビンボーで、島めぐりする金なくて。それにムカついて、ママにひでーこと言って大喧嘩して家を出たんだ。でも、帰ってみたらママはずっとおれのこと探しながら仕事も頑張って金貯めてくれてたんだ」

 

「わぁ、そうなんだ!」

 

「ねぇちゃんのジュナイパーみたいになれるかわかんねーけど、モクローをもらって一緒に島めぐりてぇと思ってんだ。もちろんペルシアンとスカタンクも一緒にな」

 

「うんうん!えへへ。なんかすごく嬉しい!パイセンさんなら絶対、島めぐり突破できるよ!」

 

「へへっ。ありがとよ!バカつえーねぇちゃんにまた会えて良かった!じゃあな!」

 

「うん!今度バカ呼ばわりしたらぶっ飛ばすからねー!ばいばーい!」

 

「ひょぇーー!」

 

パイセンさんはすごいスピードで逃げていった。

 

嬉しい。パイセンさん、安らかに更生できたんだ。被害届出さないでおいたから、ジュンサーさんにちょっと怒られたくらいで済んだと思うし。あと、靴も返してもらえたみたいで良かった。

 

パパに無事に渡せたことを報告して、スグリくんからの返事を確認する。

 

ーーーーーーーーーー

ボタンさんもペパーくんも人見知りなだけでとってもいい子だべ。それに、レイラさんに会ったらみんなレイラさんのこと好きになるよ。

ーーーーーーーーーー

 

『好き』......か。

 

あれから半年くらい経ったけど、一度もグラジオとは連絡を取ってない。でも、グラジオがくれたネックレスは、お風呂のとき以外は常に付けている。

 

(オレはレイラの幸せを願いたい)

 

(オレもレイラのことを好きになってしまったんだ)

 

(さよなら。オレの......初恋の人)

 

グラジオの言葉が脳内でぐるぐる回って胸が苦しくなってきた。

時が経つほど、本当にこれで良かったのか不安になる。

 

グラジオは今は真面目に頑張ってるんだし、これから悪いことをやめてくれるなら、過去のことは気にしなければいいんじゃないだろうか。

 

いつかアローラに帰ってくるし、グラジオのお嫁さんになったってエーテル財団の仕事しなきゃいけないわけじゃないし。

せっかく両想いになれたんだし、遠距離恋愛すればよかったかな。会えない時間が愛を深めるって本当かな。

 

いやいや。グラジオが今も私を好きでいてくれてるかなんてわかんないし。前向かなきゃ。

 

でも、まだグラジオの暗い部分を知らなかったあの日に触れてくれた肩の温もりが、何度前を向いて進もうと思っても、何度も肩を叩いて立ち止まらせて、私を振り返らせる。

 

暗い部分を知ったからって、グラジオのことが好きなんだもん。

 

抱きしめて、抱っこしてくれた。パパに抱きしめられた時と同じくらい安心したし、リーリエちゃん家のお庭でリザードンさんに抱っこしてもらって飛んだときより、ドキドキしたもん。

 

あと、リザードンさんのときと違ってもう1枚履いてたわけじゃなかったから、多分ぱんつ見えてた。いや、絶対見られた。責任取ってよ。ちくしょーめ。

 

後悔したくないな。やっぱり連絡してみよう。

 

ーーーーーーーーーー

グラジオ、元気?

私ね、グラジオとまた話したいって思ってるんだ。よかったら会ってくれないかな?

嫌だったらお返事くれなくてもいいよ。お仕事頑張ってね。

ーーーーーーーーーー

 

送信ボタンを押して、速攻でスマホ画面を下向きにして布団に押し付ける。

 

送っちゃった。

 

まだお昼過ぎだ。返事待つのつらっ。夕方に送ればよかった。

 

でも、どれだけ待っても、何日経っても、返事は来なかった。

自分で書いておいてなんだけど、返事がないのはとってもつらい。

 

......でも、これがグラジオの答えなんだ。

 

グラジオは私の夢を応援してくれた。

正義の味方が大好きな私の、初恋の相手になってしまったことで自分を責めてるんだろう。

 

パルデアに行くまで、あと1週間しかない。私はもう、先に進むしかないんだ。

 

って思ったのにさ。グラジオからメッセージが届いちゃったんだよ。

 

ーーーーーーーーーー

連絡できなくてすまない。今、電話してもいいか?

ーーーーーーーーーー

 

はい。今すぐ電話してもいいです。全然オッケー。むしろ是非してください。声聞きたい。

 

いや、落ち着け。なんでこのタイミングで?会いたくなかったんじゃないの?何を言われるのか、全く予想がつかない。怖いな......。

 

でも、やっぱり声聞きたい。なんて返事したらいいかわからなくて「うん」とだけ返信したら、速攻で電話がかかってきた。

 

「はひっ!!」

 

声が裏返っちゃった。恥ずかしい!

 

「レイラか。急にすまない。メッセージできなくて悪かった」

 

「仕事すごく忙しい?」

 

「最近かなり忙しくはあるが、さすがにメッセージすらできなくなるほどエーテル財団はブラック財団ではない」

 

「そっか。そうだよね。じゃあ、なんで?私のこと嫌いになっちゃった......?」

 

「そんなわけあるか。レイラと会うと、気持ちを抑えるのがあまりにも難しい。だから会わない方がいいと思ったんだ」

 

「気持ち?なんの?」

 

「レイラに対する......ッ!......」

 

グラジオは言葉は途中で途切れて、少し間を空けて、グラジオのものすごく深い溜息だけが聞こえた。

 

「え?ごめん。よく聞こえなかった。私に対する、何?」

 

グラジオは黙ってる。

 

「電波悪い?もしもーし?」

 

「......オマエ、もしかしてわざとやってるのか?」

 

あれ。なんかすごく怒ってる。

 

「え......?私、グラジオを怒らせるようなことしちゃった......?」

 

「クッ......!本当にオマエってヤツは......っ!」

 

どうしよう。怒鳴られた。すごく怒ってる。なんで?やだ。グラジオの優しい声が聞きたいのに。

 

「ごめんなさい......。私の特性、どんかんだったみたい。グラジオがなんで怒ってるのか全然わかんないよ......」

 

涙が出てきちゃった。嗚咽を抑えようと頑張ってみたけど、ダメだった。

 

「うぅ......。ごめんなさい......。ひっ......ぐすっ......」

 

「まてまて!怒ってない、微塵も怒ってなどいない!大きい声になってすまなかった。違うんだ。その......」

 

嗚咽を漏らしながらグラジオの言葉の続きを待つ。

 

「レイラの事がまだ好きな気持ちを抑えるのが大変なんだよ......。言わせないでくれよ......」

 

え?どういう事?理解にちょっと時間がかかるから嗚咽しか返せないよ。

 

「レイラは真面目で穢れのない相手と一緒にいるべきだと言ったのは本心だし、今もそう思っているんだ。ただ......」

 

相槌を打ったつもりだったけど、多分嗚咽にしか聞こえなかったと思う。

 

「パルデアに留学するんだってな。今しがたリーリエに聞いた。激励を送らなければと思ってな。レイラにもわかりやすいように言い方を変えると、どうしても......。最後に声だけでも聞きたいと思ってしまったんだ」

 

「私も......。グラジオの声聞きたかった......」

 

「オレは今後、エーテル財団を継ぐことになる。知っての通り、ポケモンの保護を担う場所だ。レイラは、人間を守れる場所を作ってくれるんだろう?」

 

「うん」

 

「レイラは必ずそれを成し得てくれるだろう。苦しむ人間が減れば、苦しむポケモンも減る。オレはそれをすごく楽しみにしてるんだ」

 

「ありがとう。そうだね。頑張る」

 

「それで時間を作れるようになったら、またバトルしてくれ」

 

「わかった。じゃあもう、いっそジムでポケモンも保護するよ」

 

「何っ!?それは......。いや、ポケモンがより幸せになる方法があるならその方がいいが......。どっちがポケモンをより幸せにできるか、手強いライバルになりそうだな......」

 

「もうライバルだよ。既にもう結構手強いと思うよ?」

 

「フッ......!仰る通りだ。ここのところレイラの事を考えると、痴情に溺れて仕事に集中できないでいたが......。ライバルとなれば話は別だな」

 

「私もグラジオのことを考えるとずっと胸が苦しかったけど......。ライバルとなれば話は別だね!絶対に負けないから!」

 

「さて、ライバルに負けない為にも、そろそろ前を向いて、仕事に戻るとするよ」

 

「うん!頑張ってね!私も頑張る!」

 

「ああ。じゃあ、またな」

 

「うん!またね!」

 

電話を切って、グラジオからもらったネックレスを外した。

 

グラジオが私の幸せを願って贈ってくれた、誕生石のガーネットには、恐怖や不安を明るい気持ちに変化させる力がある。

 

私、グラジオを好きになって良かった。

 

間違ったことが全て悪なわけじゃない。正義にはいろんな形がある。善悪だけでは決められないことがたくさんあるんだ。

 

悪いことをする人が最初から悪人なわけじゃないし、やりたくてやってる訳じゃない人だっている。

頼れる場所を失って、手を差し伸べてくれる人がいなくて、困ってる人がたくさんいる。

悪い人をやっつけるだけじゃダメなんだ。

 

悲しい理由で悪に手を染める人がいなくなるように。もし悪いことしてしまった人でも、諦めなければ何度でもやり直せるように。そういう社会を作るんだ。

 

本当の極悪人は......。

申し訳ないけど、そればっかりはジュンサーさんに任せるしかないな。

 

ネックレスを丁寧に箱にしまってみたけど、どう頑張っても最初のように綺麗に収まらなかった。不器用な初恋の記憶と重なって、甘くてすっぱい涙が流れて、それすら愛おしくなった。

 

ありがとう。

 

グラジオが好きだと言ってくれたガーネットを、まだ残る切ない想いと共に、きっともう使うことのない学習机の鍵付きの引き出しに入れて、鍵をかけた。

 

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