「それにしても、レイラがコミュ力オバケなのはいいとして、レイラの父ちゃんって本当に人間か......?」
テーブルシティを案内してもらってる時に、ペパー先輩が冗談抜きのトーンで真剣に聞いてきた。
空港で、私のほとんどの荷物をパパに押し付けて運ばせた時、パパのあまりの怪力っぷりにアオイちゃん以外はみんな怯えていた。
「我が父ながら私も定期的に同じことを思いますけど、人間だと思います。スーパーマサラ人だから人間離れしてるんですけどね......」
「えっ!マサラ人って某アニメ界隈で汎用人型バトル兵器の理想系と言われる、あのマサラ人......!?」
さすがボタンちゃん。新世紀イヴァンゲリモンはオタクの必修科目だもんね。
「えー!何それ何それ!私もマサラ出身だけど、バトル兵器になれる?」
「アオイはもう、バトル以外でも兵器みたいなもんだし......」
なるほどね。アオイちゃんってスーパーマサラ人だったんだ。ボタンちゃんのおかげでアオイちゃんのヤバさを完全に理解した。
「お前ら、バトルの話はやめた方がいい。ネモのヤツ、そろそろヤバいぜ」
「あーごめん。ネモの方がよっぽどバトル兵器だった。暴走モードだ。レイラ、ご愁傷さま」
どゆこと?そういえばネモちゃん、さっきからずっと黙ってるな。
「......ごめん、もう無理。限界」
「え!?ネモちゃん、どうしたの?体調わるい?」
「レイラごめんっ!長旅で疲れてるかも知れないけど、バトルしようっ!!今!すぐ!!!」
ネモちゃんが私の手を取って、顔を近付けてきた。よく見たらそばかすがある。かわいい。
「ちょっとネモ!今日はガマンしなよって言ったじゃん!レイラが私の二の舞になるよっ!」
「えー!じゃあやっぱり今すぐしなきゃだ!ライバルが増えるってことでしょ!ね、レイラお願いっ!ちょっとだけ!1対1でいいから!」
「え......いいけど......」
「やったー!!じゃあ行こ!!!!!」
という訳でバトルコートに来た。
「対戦よろしくお願いします!」
ネモちゃん、目がガンギマリだ。怖い。アオイちゃんと同じ怖すぎるオーラが出ちゃってる。
「うん。お手柔らかにお願いします......」
「よぉし、ウェーニバル!」
「ミミッキュ!パルデアデビュー頑張ろうね!」
ネモちゃんのポケモンは、パルデアのはじめてのポケモンの最終進化、みずタイプのウェーニバル。かくとうタイプを複合してるし、フェアリータイプを持つミミッキュならいける!
「あちゃー!ミミッキュか。じゃあ......!」
ネモちゃんはボールを取り出した。交代するの?1対1って言ったのにぃ。
いや、あれはウェーニバルのボールじゃない。黒いボール?......あ!それってもしかして......!
「ウェーニバル!テラスタル!!」
ネモちゃんがボールっぽいものを投げたら、ボールっぽいものはみるみる宝石みたいに輝いて、ウェーニバルを包み込み、ウェーニバル自身が宝石のように輝いている。
これがテラスタル......!じゃあやっぱりさっきのがテラスタルオーブなんだ。
動画で見た時もすごいなって思ったけど、実物は本当にすごく綺麗だ。
でも、頭に噴水みたいな宝石が乗っちゃったけど、それ重たくないのかな。
「ちょっとネモー!ストップ!ストーーーップ!!」
アオイちゃんがバトルを中断させた。
「またひとりだけテラスタルしたー!私がまだオーブ持ってない時にひとりだけテラスタル使ったの、今でも根に持ってるんだからね!」
「あ.......!またやっちゃった!レイラ、ごめんね。びっくりしたよね。テラスタルは無しにするね」
「気にしないでいいよ。テラスタルってとっても綺麗で強そうだね!これでみずタイプだけになって、フェアリータイプは弱点じゃなくなるんだよね?」
「えらい!しっかり予習してきたんだね!」
「あ、そうだ!じゃあ代わりに私もアローラ必殺技の『Zワザ』を使っていい?ポケモンの持ち物を交換しないと使えないんだけど......」
「え!アローラの必殺技!?見たい見たい!!じゃあ続き戦やろう!」
私はミミッキュの持ち物を『フェアリーZ』に交換した。
「よし。じゃあ......いくよ」
私はミミッキュとお揃いのフェアリーのZクリスタルをつけたZリングを掲げた。
ミミッキュと私の思いを合体させるように、さらに拳を突き出す。
ここからだ。
これまで私がポケモンたちとどう接してきたか。何を見て何を学んで、どう生きてきたか。
アローラの神々と同じ、フェアリータイプのZワザと一緒に、パルデアのみんなに見てもらいたい。
あの日のミミッキュとの出会いが、私の原点。
大切なものが、悪に奪われないように。
孤独や苦しみから、悪に手を染める人がいなくなるように。
ヒーローに変身するように、ここで舞う。
「ミミッキュ!ゼンリョクでいくよ!」
ゼンリョクでフェアリーポーズをキメた。
私の想いに呼応して、ミミッキュはZパワーを身体にまとった!
私とミミッキュが放つ、ゼンリョクのZワザ!
「ラブリースター!インパクトォォオオッ!!!」
「ミミキュキューーーッ!!」
ミミッキュは美しく舞い踊りながらウェーニバルに近付き、かわいく見つめて......ゼンリョクでどついてぶっ飛ばした。
ウェーニバルは倒れた。
いつの間にか大勢のギャラリーがいて、ものすごい大歓声が上がった。
「あの生徒会長の、テラスタルしたウェーニバルを一撃で......!」「ワザ名やば......」「あの子誰!?今の何!?」「なんかすげー!かわいいーっ!」わいわいガヤガヤ......
ネモちゃんは静かにウェーニバルをボールに戻した。
「ネモちゃん......?」
下を向いて黙ったまま動かない。どうしよう。きっとZワザを初めて見ただろうし、びっくりしたよな。
「......すっ」
やばい。泣かせちゃったかも知れない。
『ポケモンお悩み相談所』でZワザのポーズがダサいダサいって叩かれてたし、かくとうとかはがねはまだ決めポーズがかっこいいけど、フェアリーポーズはかわいく羽ばたく妖精をイメージした、あざといポーズだ。
神々への冒涜はハラキリ必至の大罪だけど、いきなりあざといポーズをキメて煽ってると思われたのかな......。
「すっっごーーい!すごいよ!はじめて見た!レイラ、対戦ありがとう!......くぅーっ!やったーっ!ライバルが増えたー!よしっ。みんなのとこ戻ろ!」
ネモちゃんは大喜びして私の手を引いて、スキップしながらみんなのところに戻った。
「ネモ、レイラ、お疲れ様!レイラすごかったよ!やったよみんな!レイラ強いよ!わーい!うれしー!」
アオイちゃんがネモちゃんと同じかそれ以上に喜んでる。やっぱりチャンピオンランクの子は強い相手を見ると嬉しくなるくらい意識高いんだ。
私はまだまだだな。強い相手がいたら、負けるの怖くなっちゃうもん。
「あの......ワザ名ってレイラが考えたん......?」
ボタンちゃんはやっぱり気になっちゃうよね!
「ううん。ダンスもポーズもワザ名も、大昔からアローラに伝わる伝統的なフェアリーZワザだよ!ヒーローみたいでかっこいいよね!」
「え、いや、どうだろ......」
「じゃあそもそも、誰が考えたんだよ」
うんうん、ペパー先輩もやっぱりそこ気になっちゃうよね!
「アローラの土地神様がお決めになられたっていう伝承があるよ!」
「......は?幼稚園児みたいなダッセーおセンスの神様だな」
ぷっちーん。
「......アローラの神々への冒涜は万死に値する。今の言葉、今すぐに取り消したまえ。さもなくば......切腹ぷくぷく島流し、ハラキリポッキリ、それっきりだ」
「わーっ!レイラがキャラ崩壊した!すまん!前言撤回します!かっこいい!最高ちゃんだ!」
わかってくれてよかった。出会って小一時間で友人関係を完全終了しなくちゃいけなくなるところだった。
「さらっと忍ポケキャラの決めゼリフ言ってるし、これがレイラの平常運転なんじゃない?しらんけど」
「わぁ!さすがボタンちゃん!忍ポケのぷく丸の決めゼリフってわかってくれるよね!ペパー先輩、それっきりとか言ってごめんなさい。仲良くしてくださいね」
「お、おう......」
パルデアのみんなと仲良くなれた。嬉しい!
先生はどんな人がいるんだろ?先生とも仲良くなれるといいな。
翌日。
入学手続きに、パパと校長室に行った。今日、クラベル校長が担任の先生も紹介するって言ってたみたいだ。男の先生とは聞いてるけど、どんな先生だろ。ドキドキしてきた......。
「レイラさん。改めてグレープアカデミーへようこそ。校長室まで来ていただいてありがとうございます。こちら、レイラさんの担任となるジニア先生です」
うっ......!デフォルトで、研究終わりのパパみたいな髪型の、化学物質の構造を示したやつみたいな個性的すぎる六角形のメガネと白衣が異様に似合ってる。
絶対、研究職してるぞ。中毒者だ。しかもかなり重症のやつ。
「どおもどおも!ジニアです。レイラさん、1年間よろしくお願いしますねえ。お父さまも、お会いできて光栄ですう。ぼく、前職は研究員だったんですよお」
語尾の伸びた、すごくおっとりしたしゃべり方だ。堅苦しい感じじゃなくてよかった。
「シナミ レイラです!よろしくお願いしますっ!」
「天文学のシナミです。娘がお世話になります。そうなんですね!ジニア先生はどんな研究をしておられたんですか?」
「専門は生物学ですが、クラベル校長と一緒にフトゥー博士の研究を手伝ってましたあ」
「では古代や未来のポケモンの生態を研究していらしたんですか!天文学も古代から......が......で......特に......すばらし......!」
また始まった。でも、ジニア先生は生物学の先生なんだ。生物の授業ならアレルギーはほとんど出ないぞ!良かった!
「そうだ、レイラさんのことはアローラの先生からいろいろ聞いてますよお。バトルも強くて成績も優秀だそうですねえ」
「いや、暗記する科目とバトルのダメージ計算に必要な数学は比較的できるんですけど、科学だけは壊滅的で......」
「科学っていうのは『こういうものだ』と理解しておけばいいだけのことに疑問を持ち、常識を疑い続ける学問ですからねえ。だから、科学が苦手な子はみーんな素直ないい子ってことなんですよお」
なにそれ嬉しい。そんなこと言ってもらえたの初めて。ジニア先生すごくいい先生だ。普通に人間として好き。
「ぼくはレイラさんみたいな素敵な生徒さんの担任になることができて、とっても嬉しいですよお」
私もジニア先生が担任の先生で良かった!
「......親である僕が言うのもなんですが、娘は正義感のある素直で優しい子です。故に、突き進むと周囲が見えなくなったり、友人と意見がぶつかったり、友人が悲しんでいると、心を痛めすぎて精神的に不安定になったりするので、それが本当に心配なんです」
私を褒めてんのも短所を言ってんのもマジで恥ずかしい。
ジニア先生は真剣な顔でパパと私を順番にじーっと見つめて少し考えたあと、にっこりとほほえんだ。
「レイラさんはご両親の愛情をたっぷり受けて育ったんですねえ。レイラさんが安全で楽しい学生生活を送れるよう、ぼくが責任を持って守りますので、どうかお任せくださいねえ」
結婚の挨拶みたいになってんじゃん。ヤバい。ドキドキしてきた。まったくもってトキメキとかじゃなくて、パパがどんな反応をするのか恐ろし過ぎるからだ。
「ジニア先生......」
パパの声が普通だ。というか、びっくりするくらい、おだやかな笑顔をしてた。
「娘を......よろしくお願いします」
パパは深々と頭を下げた。
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パパとバル・キバルというごはん屋さんに来た。ここパエジャ=パルデアというメニューは、パルデアのリーグ部お墨付きの、パルデアを代表する郷土料理だ。
黄金色に炊きあげられたお米の中にたっぷりの魚介や野菜。その他、見たことないような綺麗で美味しそうな食材が、これでもかとふんだんに入っている。金銀財宝がざくざく入った宝箱みたいだ。
これがパルデアの名前を冠する食事だと思うと、食べるのもこれからの生活も、とてもわくわくした。
テンションが上がってきたので、ジニア先生との事をツッコんでみた。
「さっきのジニア先生とのやり取り、結婚のご挨拶みたいじゃなかった?」
「やっぱり?レイラもそう思った?」
「パパも思ったんだ。なのに落ち着いてたね」
「ガチ泣きしちゃいそうだったけどね。もう覚悟を決めたからね」
パパは宝箱の財宝をスプーンで軽く混ぜ、取り皿に移していく。
ダメだ。全然覚悟が決まってない。魂が抜けたままそういうことするから、皿に収まってる量よりこぼしてる量の方が多い。
何か面白い冗談をかましてみるか。
「ええっ!?私はジニア先生のとこにお嫁に行く覚悟はないよ!?」
「......面白くないよ」
「ゴメンナサイ」
沈黙。
「ジニア先生は多分、エスパー ノーマルタイプだ」
「え?なんの話?」
「レイラが嬉しくなりそうな事をいちいちエスパーして言ってくるし、レイラの家族構成を知ってるはずなのに、よく考えた後で『ご両親の愛情を〜』ってセンシティブなことを笑顔でぶっこんで来たからね。おそらくただのエスパーではなく、ゴーストワザが一切効かない、ノーマルタイプを複合している」
「それ褒めてるの?貶してるの?」
「すごく素敵な先生だって褒めてるのさ。レイラのポケモンだとエスパー ノーマル複合の対処はなかなか難しいぞ」
その日の寝る前、アオイちゃんとメッセージしてたら、ジニア先生の相棒がエスパー ノーマルタイプのリキキリンだと知って驚愕した。
パパも大概エスパーだ。
対策を考えないとな......。