明日、パパがアローラに帰ってしまう。
正直これまで旅行気分でいたけどパパと離れるのが現実味を帯びてきて、ものすごーく不安になってきた。
パパはことあるごとに「パパは覚悟を決めたから」とか言って喚かなくなったから、逆に私が怖くなってきちゃったよ。
「パパ、私ちょっとお散歩してくる」
「わかった。気をつけてね」
「......行ってきます」
こんな感じ。「パパも一緒に行く!」って言ってくると思ったのに。
私、パパと離れて生活するんだ。
とりあえず、テーブルシティをウロウロしてみる。大都会って感じの広大な街だ。
アローラでは私が住んでたハウオリシティが1番大きい街だったけど、そんなの目じゃない。
パルデアには他にも、ハッコウシティやカラフシティっていう大きい街があって、どれもハウオリシティよりよっぽど大きい。
私、パルデアでひとりでやって行けるかな。
「あ!ラブリースターさんだ!こんにちは!」
え、私のこと?星形のサングラスの怪しい女の子が駆け寄ってきた。アローラで一般的な丸とか四角のメガネやサングラスはないのかな。
「カイチョーとのバトル見ました!ラブリースターさんのポーズ、すごくかっこよくて!ファンになりまスター!サインしてください!」
えぇ。ラブリースターさんって。フェアリーZワザの『ラブリースターインパクト』のそこから取っちゃう?
「私はそんな......。4月からグレープアカデミーで学ばせてもらう、ただの留学生で......」
「マジ!?何年生ですか!?どこのクラスですか!!??」
よく見たらこの服装、グレープアカデミーの制服かな?ちょっと改造してある。ヤンキーかな。どうしよう。困ったなぁ。
「タナカちゃん、相手の子、困ってるよ!やめてあげて!」
落ち着いたヤマトナデシコって感じの女の子が来てくれた。助かった!
......気がしたけど、この子身長2mくらいない!?でっっっか!怖っ!
「ごめんね。この間、生徒会長さんとバトルしてるの見たよ。アローラから来たの?」
声はめちゃくちゃ優しくてカワイイ。背が高いだけで、見た目通りのおしとやかな子だ。怖がってごめんなさい。
「はい。4月からグレープアカデミーに行く、留学生です」
「そうなんだ。わたしたちもグレープアカデミーの生徒だよ。私はビワ。こっちはタナカちゃん。よろしくね」
「そうなんですね!レイラです。よろしくお願いします!」
「レイラちゃん、よろしくね。わたし、アローラのロイヤルマスクさんのファンなの。生のZワザ、初めて見た!すごくかっこよかったよ!」
嬉しい。ビワちゃん、女神って感じ。あと、ロイヤルマスクさんと一緒にバトルロイヤルに出たらめちゃくちゃ強そう 。
「タナカちゃん。レイラちゃんもグレープアカデミーに来るみたいだし、普通に仲良くしてもらお!レイラちゃん、じゃあまた、新学期にね!」
「レイラさん、よろしくお願いします!それでは、お疲れ様でスター!」
ビワちゃんとタナカちゃんは、星マークを手で描いて、ポーズをキメて去っていった。
あのポーズ、流行ってるのかな?すごくかっこいいな。真似したい。
落ち着いて街ゆく人をよく見てみると、春休みなのにグレープアカデミーの制服の人をちょくちょく見かける。
超超超名門学校の制服だし、自慢したいよなぁ。早く制服着たいなぁ。
街よりも人を観察してみる。みんな帽子やグローブ、カバンとかで個性を出てるんだ。なるほどね。
キョロキョロしていると、身体に稲妻が落ちたような電撃がランニングした。
やばい。これはやばい。
私の理想の王子様が現世に転生して、グレープアカデミーの制服を着て、息をして歩いてる。
長いまつ毛、青い瞳、キリッとした眉毛、彫りが深くて唇も鼻筋もすごく綺麗。
くすんだ銀色の髪の毛を綺麗にセットして、本当に王子様みたいな髪型だ。
どうしよう。始業式に遅刻しそうになってパンを咥えて走ってるときに曲がり角でぶつかったりしないかな。
でもグレープアカデミーは生徒さんも多いし、もう会えないかも知れない。
さりげなくストーキングして様子を見てみよう。声をかけるチャンスないかなぁ。
しばらくストーキングしてたら、急に王子様が立ち止まった。
「先程から我をストーキングしておるな......?何奴だ」
やば!バレた!ってゆーか、声もイケメンだし、しゃべり方かっこよ!
「あ......えっと......」
どうしよう。言い訳が思いつかない。
「む!ユーはラブリースター殿ではござらぬか!?」
「あ、はい!そうです!!」
やばい。ラブリースター呼ばわりされて「はい、そうです」はイタい。めちゃくちゃイタい奴になった。恥ずかしい。あと、王子様のしゃべり方、思ったよりかっこよくないかも知れない。
「いつか邂逅できないかと思っていたのでござる!あぁ......!近くで見るとなお麗しい......!」
ふと、王子様のつけているベルトのバックルが気になった。これってもしかして......?ガン見してたら、王子様は急に股間を隠した。
「もしかして社会の窓がオープンしているでござるか......!?」
それはちょっとわかんないです。
「あぁ!なんということだ!見苦しいところをお見せしてしまった。すまぬ......」
あ、開いてたんだ。気付いて良かったね。
「いや、ベルトのバックルがすごいオシャレだなと思って......」
「おお!この素晴らしさを理解して頂けるとは!これは我の推しの変身ベルト......」
「やっぱり!シャインポイズンの!うわー!かっこいい!こんなグッズありましたっけ!?」
「なぬ!『まじかる☆社員ちゃん』をご存知か!こちらは我のお手製......非売品の一点物でござる」
「え!すっごーい!自分で作ったんですか!」
「いかにも。是非とも良く見て頂きたい!」
王子様はおもむろにベルトを外し始めた。待って。それはいろいろとかなりまずい。私には刺激が強すぎる。
「おい!テメーなにやってんだ!?」
赤髪の女の子が走ってきて、王子様をぶっ飛ばした。すごくカワイイけど、ヤンキーみたいなしゃべり方だ。
「ったく......。ゴメン。コイツちょっと、なんていうか......。何もされてねぇか?」
「あ、はい。大丈夫です」
「......やれやれ。間に合ってよかった。じゃあな」
女の子は王子様を引きずって行ってしまった。
私もそろそろ帰ろうかな。
そういえば、王子様と女の子の名前、聞きそびれちゃった。
王子様、また会えるといいな。女の子もいい子っぽかったし、仲良くなれるといいなぁ。
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「パパ、ただいま」
「……おかえり。何か面白いものあった?」
パパは机の上で本を上下逆さまの状態で開いて、椅子から転げ落ちそうなポジションで座ってんのにカッコつけながら、ちびちびとコーヒーを飲んでいた。
これは重症だ。
「あのね。この間、ネモちゃんとバトルしたときにフェアリーZを使ったんだけど、結構ギャラリーがいてさ。『ラブリースターさん』としてちょっと有名人になってて、声かけられた」
「あはは!他の地方の人は、Zワザ見たらびっくりするよね」
「あとね、王子様を見つけて、ついストーキングしちゃった。パパがママをストーキングした気持ちがわかっちゃった」
「ふふふ。ついにレイラも運命の出会いをしちゃったか。仲良くなれるといいね」
あれ......。笑ってる。ギャーギャーしてるパパを見たくなって言ってみたのに、そんな反応されると思わなかった。
昔のパパみたいだ。いつも笑ってる、完璧だった頃のパパ。
「パパ、すごい無理してるでしょ」
「そんなことないさ」
「私がちいさかった頃も、今みたいなパパだった。本当はいろいろ思うところはあっただろうけど、ママがいなくても私が寂しくないように、不安にならないように、無理しながら私のことずっと笑顔で育ててきてくれたんだよね。本当にありがとう。でも、もう無理しなくていいんだよ。そろそろ私がおんがえしするターンになるからね」
「ふー。……まいったな。レイラは思ってたよりもオトナだった」
「ちいさかった頃、パパは私がどれだけワガママ言っても笑顔で、何かしでかしても全然動じなくて、迷惑かけちゃっても冷静に対処してくれて。家事も仕事も完璧で、パパは人間離れした特別なチカラのあるヒーローなんだと思ってて、パパさえ一緒にいてくれたら私もなんでもできちゃうような気がして、調子に乗ってたんだ」
「でもね。パパが泣いて怒って、暴走したり失敗しちゃうようになってから、パパは特別なチカラのあるヒーローなんかじゃなくて、パパも普通の人間なんだなって思ってさ。そんな当たり前ことに割と最近気付いたんだよね」
「いずれパパもおじいちゃんになっていくし、たくさん親孝行して、今度は私がパパのこと支えられるようにならなくちゃいけないんだって思ったら、いろんなことに真剣に向き合って一生懸命になれるようになって、自分のことを好きになれたし、パパのこと、もっともっと大好きになったんだ。パパ、本当にありがとう」
「......大きくなったね」
「おかげさまでこんなに大きくなりました」
パパは静かに涙をこぼし始めた。
「パパ......」
「大丈夫。何も言わないでくれ」
私も涙が出た。パパを抱きしめて、頭を撫でた。パパのくせ毛がふわふわだ。アローラのお日様の匂いがする。
「ごめん、やっぱりなんか言って」
「私もママみたいなストレートヘアが良かったな」
「......やっぱり黙ってて」
「パパもワガママ言うことがあるんだね」
なんだかんだで、笑いながらパパとの時間を過ごした。
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結局パパは、ギャーギャー言わずに帰って行った。
でも、もう大丈夫。
アオイちゃんに今日パパが帰っちゃうから寂しいって話をしたら、このあとみんなで集まって、私の歓迎会としてピクニックしようって言ってくれた。
他のお友達も呼んでくれるみたい。たくさんお友達を作って、素敵なパルデア生活になるように頑張ろう!
という訳で集合場所に着くと、アオイちゃんとペパー先輩が先に来ていて、準備をしてくれていた。ペパー先輩、すごくニコニコしてる。やっぱりアオイちゃんと付き合ってるんだろうな。
「アオイちゃん、ペパー先輩、アローラ!......こんにちは!」
あ、やっちゃった。
「よう。で?アローラが、なんて?」
ペパー先輩、やっぱり私に対しては怖い。
「えと、アローラ!ってのはアローラの、おはよう、こんにちはの挨拶なんです。癖で出ちゃいました。ごめんなさい」
「レイラ、やほ!ペパーのことは呼び捨てでいいんだよ。敬語も使わなくていいし」
「ううん。怖いからこのままがいい」
「ペパー、レイラが怖いってよ!なんでそういう態度しか取れないかなぁ。絶対レイラの方が強いし、バトルでボコボコにされちゃえー!」
「やらねえ。オレはポケモンが傷付くのが嫌いだから、バトルは苦手なんだよ」
パパも同じこと言ってたっけ。ペパー先輩、優しい人ではあると思うんだけど......。なんだろ。なんか近づき難いんだよなぁ。
「おまたせ!んジャカパーン!お菓子買ってきたよ!」
「どもー。おまたせー」
「ネモちゃん!ボタンちゃんも!あと......」
ビワちゃんと、赤髪の女の子と、王子様だ!あと、男の子がふたり。
「みんなレイラのこと『ラブリースターさん』とか言って知ってるし、ビワ姉とメロちゃんとシュウメイがレイラと話したことあるって言うし、びっくりした......。コミュ力オバケ、マジこわ......」
ボタンちゃん、普通にガチで怯えてる。
「レイラちゃん、ボタンちゃんとお友達だったんだね。今日はタナカちゃんは都合がつかなくて。またタナカちゃんとも遊ぼうね!」
「ビワちゃん、こんにちは!ぜひぜひ!楽しみ!あとは、えーっと......」
王子様がすっ飛んで来た。距離、近っ!近くで見るとなおイケメンだ。
「ラブリースター殿!イエスタデイは名乗らず、申し訳ござらぬ!我、シュウメイと申す!今日こそ、我の自慢の逸品をじっくりと見て頂きたい!」
シュウメイくんはまたベルトを外し始めた。
「テメー!黙っててやったのに、なんでまたちんぽ見せようとすんだよ!?爆ばぜろや!」
赤髪の女の子、また王子様をぶっ飛ばした。
あと、女の子が『ちんぽ』はよくない。せめて『ちんちん』くらいにしてほしい。あと、ちんちんは見せるつもり無かったと思うよ。
「げっ!シュウメイ、マジかよ。なんでそんなことになるんだよ......。ボタン、しつけがなってねーぞ!」
ペパー先輩がドン引きしてる。でも、ペパー先輩も散々、しつけがなってない四足ポケモンみたいな扱い受けてたよ。
「うちのせい!?うち、何も聞いとらんし!シュウメイといえど、さすがにそこまでヤバいと思っとらんかったし!」
「ボタン殿!濡れ衣でござる!我はただ、ラブリースター殿にベルトを見て頂きたく......!?」
王子様がビワちゃんにヒョイっと担がれた。
「シュウメイくん。ちょっとあっちでわたしとお話しよっか」
「うちも行く。メロちゃんも一緒に来て」
「はいよ。......あ、オレはメロコ。よろしくな」
「あ、うん。レイラです。よろしく......」
メロコちゃん、オレっ娘かわいい!王子様は......シュウメイくんって言うんだ。名前もかっこいいな。
「あいつらイントロから爆音だな......。ボクはピーニャ。a.k.a DJ悪事!レイラa.k.aラブリースターくん!ヨロシクね!」
「DJ悪事くん!よろしくね!私はレイラでいいよ!」
「ゴメン、素で呼ばれると恥ずかしかった。ボクも普通にピーニャでいいよ」
ピーニャくん、見た目はちょっと怖い人かと思ったけど、普通にいい人だ。
「ところで、もうひとりの人、どこか行っちゃったけど......」
「オルティガ?おーい!......あれ、いないな。レイラにあのラブリースターのダンス教えて貰いたいって楽しみにしてたのに。トイレかな?」
キョロキョロしていると、ボタンちゃんたちが戻ってきた。シュウメイくんは白目剥いてメロコちゃんに引き摺られてるし、もうひとりの人もビワちゃんに首根っこ掴まれてじたばたしてる。
ボタンちゃん、センターを颯爽と歩いてるけど、なんか異様にかっこいいな。なんでだろ?
「レイラごめん。うち、何も知らなくて......。シュウメイにはヤキ入れといたから。もう大丈夫だと思う」
ちょいちょい任侠言葉になるのもかっこいいな。なんのアニメの影響かな?
「あ、ありがとう......。ところでその人は......」
「オルくんだよ!恥ずかしくて逃げちゃったみたいだから、捕まえた!ちょっと素直じゃないけど、本当はいい子だから......仲良くしてあげてね!」
ビワちゃんが釣り上げた大物のバスラオを見せびらかすようにオルくんを掲げた。めちゃくちゃじたばたしてる。活きのいい新鮮な男の子だ。
「ビワ姉!そろそろ離せよ!」
「はーい」
ビワちゃんはオルくんを落とした。グシャっと嫌な音がした。
「わわっ、えーっと、オルくん?大丈夫?レイラだよ。よろしくね」
「オルティガだ!オレはお前より1年先輩なんだぞ!気安く話しかけんな!」
「あ......。オルティガ先輩。失礼しました。ごめんなさい」
背が小さいから、普通にタメ口で話しかけちゃった。ペパー先輩も怖いし、きっとグレープアカデミーは上下関係が厳しいんだ。
アローラの人はみんな初対面から気さくで、それが当たり前だと思ってた。でも、他の地方の人からしたら、私みたいなのは失礼な奴に見えるよな。
どうしよう。上手くやって行けるか不安になってきちゃった。涙出ちゃう。
「ごめんなさい......。うぅ......ぐすっ......」
「ヤバ!ガチ泣きじゃん!ごめん、うちのしつけがなってなくて......」
「ちょっとオルくん!恥ずかしいのはわかるけど、言い過ぎだよ!レイラちゃん、大丈夫?ごめんね」
ボタンちゃんとビワちゃんは本当に優しいな。でも、今は優しさが少しつらい。ボタンちゃんとビワちゃんは私のこと本当はどう思ってるんだろう。
アオイちゃんもネモちゃんも......。私のこと変な子だと思ってるのかな。
「みんなー!準備でき......」
アオイちゃんが呼びに来てくれた。泣いてて姿を見れてないけど、停止したっぽい。そこから急にものすんごい禍々しい圧を放ち始めた。怖すぎてもっと泣けてきた。
「おやおや?レイラを......私の大切なお友達を泣かせたのは、誰かな?」
「オルくんがやった」
「ちょっ......!ボタン!......ひぃっ!すみませんごめんなさい申し訳ありませんでしたー!!」
アオイちゃん......!私のこと、大切なお友達って言ってくれた。嬉しい。オルティガ先輩も謝ってくれたし、泣きやみたいところだけど、アオイちゃんが怖すぎて無理。えーん。