「ンガッ!」
急にゲンパチが飛び出してきて、寮の部屋の鍵を確認した。
「ゲンパチ、どうした?」
「お嬢。自分、お嬢のライドポケモンやりますよ」
「え?ゲンパチが?」
「今日、カル坊とかいうガキンチョをゲットした後のこと、よく覚えてないっすよね?」
「うん。私、どうやって帰ってきたんだっけ」
ゲンパチの話はこうだ。
カルボウをゲットした私は、呆然としていた。そこにシュウメイくんが号泣しながら走ってきた。
「レイラ殿!よくぞ......!よくぞ成し遂げた!ついに苦難を乗り越えたのでござるな!我は......!感動したでござるっ!」
そう言ってシュウメイくんは私に向かって飛びかかってきて、さすがに見かねたゲンパチが飛び出して、私の代わりにシュウメイくんとアツい抱擁を交わしたんだそうだ。
で、結局私はぶっ倒れて、ゲンパチは私を胴上げみたいに運んだ。でも高まったシュウメイくんがブロロロームに乗って追いかけてくるから、ゲンパチは私をポルターガイストで動かしながらブロロロームの影に潜んで私を運んだらしい。
「自分、走るより影の中の方が速く動けるんすよ。ほら、自分中年腹だし足短いんで」
そう言われると、太ったおじさんのお腹みたいに見えてくるからやめてほしい。
「そんで、お嬢のダンナのキョーダイってタッパもあるし、光るブツがついてたじゃないすか。そしたら影もくっきりしててえらい動きやすくて。お嬢も光るブツがついたアシがあれば、自分が動かせるなって思ったんすよ」
「なるほど!じゃあライトがついてて、私が座れるものがあればいいんだね!持ち運ぶなら、魔法の絨毯みたいなのがいいよね!シュウメイくんに相談してみる!」
「うす!そしたら自分、昼間にピクニックシートかなんかでとっくんしとくんで。しばらくカル坊のヤツを組に入れてみたらどうすか?」
「そうする!ゲンパチありがとう!あと、カルボウを手持ちのみんなに紹介しないとね!」
まずはゲンパチにカルボウの話を聞いてもらうことにした。
「うす。自分、ゲンパチっていうモンだ。よく来たな新入り。アニキって呼んでくれていいぜ」
「ボ!ボゥ!」
カルボウがしゃべる度、ゲンパチの顔がどんどんこわいかおになっていく。不穏な空気だ。何の話してるんだろ?
「ああん?おいコラ、生意気言ってんじゃねぇぞ。お嬢が選んだ以上は、組の仲間とキョーダイになるモンなんだよ。ワガママ言ってると、ヤキ入れっぞ」
「ボウ......。ボァー!!」
カルボウは泣き出してしまって、私の胸に飛び込んできた。
「ちょっとゲンパチ!カルボウはゲットされたばっかりだし、まだ小さいでしょ!意地悪しないであげて!」
「お嬢!よく見てくだせぇ!コイツ、ふざけた顔で煽ってきてまっせ!?てんめぇ......!マジでぶっころがすぞ!」
「ゲンパチ!やめてあげて!」
ゲンパチはしょんぼりしてしまった。やっちゃった。せっかくゲンパチとはお話できるのに、ゲンパチの話を聞かないでどうするんだ。
「ゲンパチ。大きい声出してごめんね。落ち着いて話そ?」
「お嬢......。申し訳ねぇ......。いやコイツ、お嬢はカワイイし走るの速くて気に入ったから友達になってやるけど、自分はニンゲンとすがたが似てる高等生物だから、ポケモンなんかとは仲良くならねぇって生意気言うんすよ」
「あ、うん。それはかなり生意気。ねぇ、カルボウ。確かにゲンパチは中年のおっさんみたいだけど、私の大切な友達なの。他の子たちもそう。みんなすがた形は違うし、できることも全然違うけど、友達はみんな対等な存在なの」
「ボウ!カーウ!」
カルボウは納得いかない様子だ。
「友達ってさ、普通にしてると作るの難しくない?でも、友達の友達と仲良くすると、すぐ友達になってくれるんだよ。私には今カルボウ以外に6匹のポケモンたちがいるの。私と友達になってくれるなら、私の友達と仲良くしようよ。一気に友達がたくさん増えるよ」
「ボウ......ボ......」
カルボウはシュンとしてしまった。
「なぁカル坊。ビビらせてスマンな。お嬢と仲良くなりてぇなら通訳してやるからよ。とりあえずちょっと話さねぇか?」
「ボウ」
カルボウとゲンパチが話し初めた。仲良くなれるといいけど......。
「なんだよ。そんな事か。ヤバソチャとポットデスのキョーダイ、ちょっと来てくれねぇか?」
ヤバソチャとポットデスが飛び出してきた。
「見てみろよ。コイツらはお前よりちっせぇだろ?でもな。ヤバソチャのキョーダイは何回シバかれてもなかなか倒れねぇし、苦手なはずのほのおタイプにも一切イモ引いたりしねぇ。ポットデスのキョーダイはこんなにピカピカで綺麗なのに、躊躇なく自分をぶち破ってガチになるんだよ。そしたらもう無双して、ひとりで他の組を潰しちまう」
「カル......!」
あ。ヤバソチャとポットデスはだいぶいい感じ。
「ミミッキュのキョーダイも!このキョーダイはお前と同じくらいのタッパに見えるだろ?でもな、実はこっちの上のほうはハリボテなんだよ。でも、そんなふうに見えねぇだろ?なんでって、コイツはハリボテじゃねぇ強さがある。お嬢やキョーダイたちが、特攻隊長として頼りにしてんだ」
カルボウ、身長を気にしてるのかな?確かに遠くにいた他のカルボウさんたちより小さかったな。
「ジュナイパーのキョーダイも来てくれよ。この長くてどっしりとした手足!マジパネェ。羨ましい。でも顔はとりポケモンだろ?進化前なんか手もなくて足もこーんな短かったのに、なんか知らねぇけど進化したらニンゲンがみんなペコペコしてキャーキャー言ってモテまくりなんだよ。なんならそこいらのニンゲンよりよっぽど高等生物の可能性があると思わねぇか?」
確かに、取材とかやたら来て、断ってんのにめちゃくちゃ頼み込まれて、仕方なくメディア露出したらガチ恋勢とか出てきちゃって、めちゃくちゃ大変だった。
「あと......シャンデラの姐さん!ちょっと頼んます!ほら、シャンデラの姐さんを見てみろよ......!この愛らしいフォルム!でもこの先っちょは磨き抜かれたドスみてぇでよ......!そしてこの、くるりと巻いてて超絶美しい、なんかよくわかんねぇブツ!どうだ?激マブだろ?」
あれ?ゲンパチ、顔が赤く......というか赤紫色になってる。もしかして、シャンデラのこと好きなのかな?
「姐さんには手も足もないのに、どいつもこいつも手も足も出ないくらいにとにかく強ぇ。文句無しのみんなが認めるお嬢の切り札だ。キョーダイがヘタこいても、全部ケツ持ちしてくれるんだぜ」
「ボゥ......!ボボーウ!」
カルボウは目をメラメラと輝かせてシャンデラに飛び込もうとした。
「ッシャ!」
シャンデラはちょっと弱めにかえんほうしゃした。いやいや、それでもダメだよ!火事になっちゃう!
それに、カルボウはシャンデラのかえんほうしゃを正面から受けた。少々手加減しても、シャンデラの火力を受けたらひんしになっちゃう!
でも、カルボウは更にメラメラと燃えて、嬉しそうにしている。間違いない。カルボウは100%もらいびだ。
「ボウ......。カルボボー!」
カルボウは申し訳なさそうな顔をしたあと笑顔になって、みんなに頭を下げた。
「いいってことよ。これからはキョーダイだ。自分はこれからしばらく組を離れるからよ。ケツ持ちは頼むぜ!」
「ボウ!」
良かった。仲良くなれたみたい。
「あ、あとお嬢。お嬢に旦那ができたこと、オヤジにはとりあえず黙っておきますんで。オヤジを悲しませるような下手をこくのだけはやめてくだせぇよ。自分がタマ取られるんで」
「ゲンパチ、ありがとね。マジで気をつけるね......」
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数日後。
今日は早めに授業が終わったから、校長先生にホゲータさんを貰えないか相談してみようと思って校長室に来てみた。
緊張しながらノックしてみる。モクローを貰った時のこと思い出すなぁ。
「こんにちはー!留学生のレイラでーす!」
誰もいない?クラベル校長が留守のときはタイム先生がいてくれるはずだけど......。ちょっと覗いてみよう。
「失礼しま......」
ヤバい現場を目撃してしまった。
リーゼントヘアでサングラスのガラの悪い生徒さんが、校長のロッカーを漁ってる。どろぼう!?
いや、早まるな。おつかいを頼まれたのかも知れない。隠れて様子を見てみよう。
あれは......。校長先生のお財布だ!高級おブランドのやつ!しかも分厚い!
こんなに高額でお金がいっぱい入ってそうなお財布を生徒さんに取りに行かせるわけない。つまり、どろぼうだ。
どろぼうは、なんだか只者でない感じのオーラが出てる。しかも、おとなのおにいさんだ。グレープアカデミーは何歳からでも入学できるから、学年もわからない。
私ひとりでは捕縛するのは難しいかも知れない。
ゲンパチに影に潜ってもらって......。ダメだ。ゲンパチは今手持ちにいない。バトルもすごく頑張ってくれてたけど、バトル以外のことはゲンパチに頼ってばっかりだったな。
どうしよう。どろぼうはキョロキョロと廊下を確認しながら校長室を出ていこうと踏み出した。出て行っちゃう。廊下には誰もいないんだ。
ここで無茶をしてしまって何かあったら、みんなに迷惑をかけちゃう。追跡して、誰か助けを呼ぶんだ。
静かにボールからポットデスが出てきた。
「ポッス......!」
ポットのフタの部分を投げて、どろぼうのリーゼントに潜り込ませてガッツポーズをした。もしかして、発信機みたいになるとか?でもポットデスのポット、ヘタしたら校長先生のお財布より高いかもしれないよ?
どろぼうが出て行った。よし。私も出よう。
周囲を見渡したけど、どろぼうを見失ってしまった。窓は鍵までしっかり閉まってる。窓から逃げた訳じゃない。
でも、隠れる場所のないこのまっすぐな長い廊下を、もう駆け抜けて行ったって事?やっぱり只者じゃない。無茶しなくて良かった。あと、廊下は走っちゃいけないんだぞ。
「ポットデス、さっきのフタってどこに行ったかわかるの?」
「デス!」
ポットデスは、浮けずにぴょんぴょん跳ねて指をさしてる。追跡できるけど、フタがないと浮けないんだ。ヤバチャだった頃みたいだ。
あと、ポットデスのフタを外したすがた、見ちゃいけないものを見てしまった感がすごい。言葉にできないヤバさだ。
「ポットデス、ありがとう。とりあえずこれ、貸してあげるね」
ポットデスの頭に忍ポケのピンバッジを乗せてあげた。大きいやつで良かった。ポットデスも気に入ってくれたみたい。
「よし、追いかけよう!」
「ポッス!」
よし、追跡しながら誰か助けを呼ぼう。廊下を一瞬で駆け抜けられる人を捕まえられる可能性のある人......。
そうだ。アオイちゃんとシュウメイくんなら、きっとなんとかしてくれる。騒ぎになると対策されてしまうかも知れない。簡単な事情を説明し、こっそり集合してもらえるようにメッセージを送った。
「シュウメイ、推参!緊急事態と聞き、このようなだらしの無い格好で来てしまって申し訳ない!」
シュウメイくんはすぐに来てくれた。テレポートが使えるのかも。
あと、生徒手帳のお手本として載ってていいくらいきっちりした制服の着こなしだよ。大丈夫。とってもかっこいいよ。いや、それどころじゃない。
「シュウメイくん、ありがとう!あとね、アオイちゃんにも連絡してみたんだけど、返事がないの」
「ムムム......。アオイ殿は人気者ゆえ、忙しいと推察する。しかし、これは緊急事態......!我らだけで行くしかないでござるな」
「......そうだね、頑張ろう!」
アオイちゃんがいてくれたら心強かったけど......。シュウメイくんと一緒ならきっとできる!
「「いざ、参る!」」
「......という訳なんだけど、ポットデス、どろぼうはまだテーブルシティにいるかな?」
ポットデスは首を横に振った。
「方角は......?フム。北エリアと東エリアの狭間の方角。そちら側は我の庭ゆえ、任せるでござる」
テーブルシティの外に出てみたけど、ポットデスは焦った様子だ。
「どうしたの?もしかして、どんどん離れてる?」
「デスデス!」
「フム。では、我がブロロロームでカチこむでござる。して、ポットデス殿のそのフタ......!我が同胞とお見受けした!我と共に参ろうぞ!」
「ポス!」
「......しかし、レイラ殿にブロロロームは刺激が強すぎたとお見受けしたゆえ、レイラ殿はテーブルシティで待っているでござる」
かっこいい。優しい。シュウメイくんは王子様だ。えへへ。いやいや、それは置いといて。
確かに、気分が悪くなって迷惑かけちゃうかも知れない。でも......!
「私も行く!シュウメイくんと一緒なら大丈夫!」
「なぬ......!悪を成敗するため、勇気を持って踏み出す......!なんと胸アツなストーリー......!がってんポッ拳、承知の助でござるよ!ささ!そうと決まれば、乗り込むでござる!」
この間は恥ずかしくて、少しでも距離を取ろうと変な体勢になってたからダメだった気がする。今日は破廉恥ハレンチにならない程度にシュウメイくんにしっかり掴まっておこう。
「ポットデス殿には道案内をお願いしたいゆえ、前方にに来ていただきたいでござる」
「あ......。ポットデスは今、本物のフタがなくて浮けなくて......」
「ムムム......。否!心配無用。こちらに来るでござる!」
シュウメイくんは足を開いて少し後ろに座り直した。ポットデスが乗れそうな空間ができたけど......。私のちちの逃げ場がない。破廉恥だ!うわぁーん!
ポットデスはおずおずとシュウメイくんの足の間の空間に収まった。
「ポットデス殿!そこでは転げ落ちてしまうでござる。もう少しこちらにきて、しっかり掴んでおくござるよ!」
シュウメイくんはポットデスを引き寄せた。
ぎゃー!絶対ポットデスにちんちんが当たってる!やめたげてよぉ!しかも、そのあたりを掴ませるのは......!もうやめてェ!!
と思ったけど、ポットデスは全く気にしてなさそう。ポットデスには性別がないからよくわかんないのかも。黙っておこう。ごめんねポットデス。
「ポッス!」
「ウム!しかし、心配無用!任せるでござるよ!」
なんか会話が成立してる。
それにしても、今日はあんまり怖くないな。
シュウメイくん、助けを求めたらすぐ駆けつけてくれた。
見た目は細身なのに、ムキムキだし背中おっきい。身体能力がやたら高いし、男の子だし、私が勝てなさそうな相手も倒せそう。パルデア人もだいぶすごい。
カレシがいるっていいな。こんなときに申し訳ないけど、とっても幸せ。
「ポッスポッスー!」
「なぬ!ならず者が近いとな!?フム......。しるしの木立ちか!ならず者め!我の庭に逃げ込むなど、怒髪衝天どはつしょうてん!覚悟するでござる!!」
「ポス......ット......」
「ムム!?ポットデス殿の様子が......!?ならず者の罠か!?......レイラ殿!ポットデス殿がポストになってしまったでござる!一度ストップするでござるよ!」
「え、ポストが、なに!?」
ブロロロームさんが急ブレーキで止まった。
ポットデスがぐったりしてる。どうしよう。酔っちゃったのかな。でも、ポットデスがいないと......。
「ちゃぁっ!」
ヤバソチャが出てきてくれた!『いのちのしずく』を使ってくれてる!
「ちゃっ!ちゃーあ!!」
ヤバソチャが頑張ってくれてるのに、ポットデスの元気が出ない。様子がおかしい。
「ヤバソチャ!ちょっとストップ!ポットデス、どうしたの!?しっかりして!」
「ポッス......ット......」
ポットデスの頭から何か漏れて、鳴き声がポストになっちゃってる。きっと、フタがない時間が長すぎたんだ。
シュウメイくんがポットデスを抱き上げて、号泣し始めてしまった。
「うわぁぁあー!ポットデス殿ーーーっ!!くっ......!本当に......いい奴であった.......。我が仇かたきを取ってくるでござるよ......」
シュウメイくん、状況に酔ってんのかガチでポットデスがしんじゃったと思ってんのかわかんないけど、ちょっと黙っててほしい。
シュウメイくんはポットデスを私に預けて、ゆっくりと立ち上がった。
「......レイラ殿。ポットデス殿を頼むでござる。奴はあまりに危険過ぎる。そのような場に、我の同胞......否!我の大切なガールフレンドを行かせる訳にはいかぬ!」
え、うそ。やだ、かっこいい。
正直言うと、付き合ってると思ってんの私だけじゃないか説が若干浮上してたけど、そんなことなかった。よかった。シュウメイくん、ありがとう。大好き。
「シュウメイくん!気をつけてね......!」
「必ずや悪を討ち滅ぼし、生きてレイラ殿の元に帰ってくるでござるよ」
シュウメイくんはにっこりと笑うと、しるしの木立ちを睨みつけた。
「漢、シュウメイ!いざ、参る!!」