目が覚めた。あれ?なにがなんだか。私はシャドーボールで吹っ飛んで真っ暗なとこに行ってショウちゃんと会って、それからどうなったんだっけ。
明るくて眩しい。ここは......。アローラのお家の私の部屋?なんで?
胸のあたりにものすごい衝撃を感じた。一瞬、命の危機を感じたけど、ミミッキュとヤバソチャとポットデスが飛びついてきてただけだった。
「みんな......。心配させちゃってごめんね。ありがとう」
ジュナイパーもソウブレイズもラウドボーンもゲンパチもヒトモシちゃんを抱っこしたシャンデラもリオも、みんな笑顔で泣いていた。
この子たちのうち誰か1匹でもミミッキュたちと同じ勢いで飛びついて来てたら、私は二度と目覚めなかっただろうな。お気遣いありがとう。
ゲンパチはパパを呼びに行ってくれて、リオがあれこれ説明してくれて、おおよそ理解した。
「そっか......。みんな、本当に......」
話してる最中なのに、ものすごい衝撃音と爆風が巻き起こった。
猛スピードでぶっ飛んできた何かに、ドアが突き破られたっぽい。今度はなんだ。私に平穏は無いのか。
「レイラ、アローラ!」
パパだ。なるほど。今回は普通にドアを開けるより2秒くらい早く部屋に入れたかもね。困ったパパだ。
呆れてツッコミを入れようと思ったのに、何故か笑顔になって涙が出た。
「パパ......!アローラ!」
そういえば、海に落ちたときは、モクローとヒトモシが飛びついてきてくれたっけ。
モクローはジュナイパーになって、私より背が高くなった。あんなに小さかったヒトモシはシャンデラになって、ママになった。仲間もたくさん増えた。
......私は相変わらず強くなんてなれてないし、今後もなれっこないや。
「パパ、私......デオキシスに会いたい」
パパは何とも表現し難い表情で私の目をじっと見つめた。
「どうしても今すぐ確認したいことがあるんだ」
「そういうことなら、パパが代わりに聞いておくよ」
「やだ。私、平均よりだいぶ頑丈だし体力もパワーもあるし、大丈夫だよ!」
パパは大きな大きなため息をついて、怒った顔をした。
「......でもさ、他の人より特別強い訳じゃなかったみたい」
「よくよく考えたら、やっつけなくちゃいけない絶対的な悪役も、か弱いだけの守ってあげなきゃいけない一般人役も、三次元にはいなかった。だからそもそも、特別なチカラを持ったヒーロー役も、三次元には必要なかった」
「三次元ではみんな、素敵な家族がいれば明るくて正しい道を歩いていけるし、一緒にいてくれる仲間がいれば誰でも強い心を持てるみたい。だから、悪をくじき弱きを助ける正義の味方になったって仕方ないや」
「私は確かに平均よりだいぶ頑丈で体力もパワーもあるけどさ。素敵な家族や一緒にいてくれる仲間がたくさんいてくれたから、明るくて正しい道を楽しくまっすぐ生きてこられただけの、平々凡々な一般人だった」
「そんな私にできる事なんて、道を間違えちゃった人やひとりぼっちになっちゃった人が、誰かと一緒に明るくて正しい道を強い心を持って歩いていけるように、手を繋いで一緒に歩くことくらいだよ」
「だから私ね、デオキシスと手を繋いで歩いてみたいの。これからデオキシスが明るくて正しい道を強い心を持って歩いていけそうか、確認したいんだ」
パパは目を見開いて話を聞いていたけど、目を細めて私の頭を撫でた。
「パパの研究室にいるから、一緒に会いに行こうか」
自然とパパと手を繋いだ。
明るくて穏やかな日差しが窓から差し込んでる。
パパがママにかっこつけたくて莫大な額のローンを組んで建てたでっかいお家の、長すぎるまっすぐな廊下を歩いていく。
「パパ、いつもありがとう」
「デオキシスが何かしでかすんじゃないかと思ってかなりビビってるから、死亡フラグ立てるのやめて」
「パパ、これまでもこれからも、ずっとずっと大好きだよ」
「......やっぱ行くのやめようか」
「ごめんなさい。もう二度と言いません」
「......レイラ、でっかくなったね」
「何が?」
「態度かな」
ふたりで爆笑しながら、まっすぐまっすぐ歩いていった。
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「デオキシス、入るよ」
パパが研究室のドアをゆっくり開けた。
パパと同じくらいの背丈をした、人型なのに、手?がうにょうにょしてる、目付きの悪い金ピカのポケモンがいた。
マジか。想像してたのと全然違う。怖っ!どうしよう。
金ピカのポケモンは、ちっちゃい男の子みたいなかわいい声で「ママー!」と言いながら接近してきた。
見た目と、声と発言が合致しなさ過ぎて脳が混乱した。なんじゃこりゃ。
「この子は君のママではない」
パパは臨戦態勢で威嚇してる。
「そっかぁ。じゃあ、おなまえ教えて?」
「レイラだよ。よろしくね」
「レイリャ?」
「レ イ ラ だよ」
「レイルァ.....。レイリュァ......。リュェ......。むじゅかしい......」
「ふふ!かわいい!」
思わず抱きしめてしまった。
「ママもだっこしてくれたの。きみはやっぱりママなの?」
「ううん。『友達』だよ」
「ともだち!ぼく、ともだち知ってる!ママはともだち大好きって言ってた!」
デオキシスは勝手に私と握手して、嬉しそうに上下に振ってくれたけど、表情は全く変わらない。確かに口が無いから難しいかもしれないけど、もう少しどうにかならないのかな。かわいいかと思ったけど、もうホラーの域だよ。でも、温かい。
「......そうだ。うんうん」
パパは勝手に納得して、臨戦態勢を解除した。
「デオキシス、よく聞いてね。レイラが君の友達であるということは、君はレイラの友達ということになるんだ。君のママは『友達が寂しい思いをしませんように』という願いを叶えたんだ。これがどういう事かわかるかい?」
「ぼくもともだち?ぼくも寂しくない?」
「そういう事だ。よかったね」
「わぁい!でも、パパはともだちじゃない。寂しい?」
「友達はたくさんいてもいいんだ。僕とも友達になってよ。だから、発言の危うい君が僕のことをパパと呼ぶのは、金輪際やめてくれ」
友達になって欲しいと言いつつさっきよりだいぶ怖いけど、どうした?そんなに怒らなくてもいいのに。
「こっちもこっちも、ともだち......。じゃあ、おなまえ教えて?」
「シュウシだよ」
「シュウシイ......。シュウシイ!覚えた!」
「ごめん。なんでかわかんないけど、それはもっと嫌だった」
「......むじゅかしい」
結局私のことは『れいちゃん』パパのことは『はかせ』と呼ぶことにしたらしい。
デオキシスが私を『れいちゃん』と呼ぶたび、パパは泣きそうな顔でニコニコしていた。
「ねぇねぇはかせ。さっきそこで見つけたの。これなに?教えて?」
よく見たら、デオキシスの手の先にくせ毛が1本くっついていた。パパの髪の毛じゃん。
「こっちにも、ここにもあるの」
デオキシスはねんりきで本に挟まった髪の毛を取り出した後、本棚の奥からも髪の毛を取り出した。
「なんということだ......!パパとしたことが、研究室にゴミクズチリカスを残していたとは......!デオキシス、他にも無いか探してくれ!」
「いいよ!」
「老眼になってきたのかなぁ......」とボヤきながらもパパはデオキシスと一緒に楽しそうに掃除をしていた。パパの髪の毛はそこら中から出てきた。私はパパが老眼になっていくことよりも、パパがハゲていくことの方が心配だ。
結局すぐに掃除が終わって、デオキシスを真ん中にして3人で手を繋いでリビングに戻った。
窓から差し込む光は、さっきよりも眩しく感じた。
デオキシスはもう大丈夫。寂しかっただけで、悪い子じゃ......。いやわからんな。
「そうだ、デオキシス。ムウマって知ってる?」
「むうま?知らない。教えて?」
スマホロト厶を確認したら、図鑑アプリに新規通知が来ていた。
『ハバタクカミ』......。ジニア先生、図鑑アプリに新種として登録してくれたんだ。
「じゃあ『ハバタクカミ』は知ってる?この子なんだけど......」
デオキシスは写真をじーっと見つめた。
「知ってる!ママのともだちのともだち!でも、ぼくはともだちじゃない。れいちゃん、一緒に遊んでたよね?れいちゃんのともだち?」
「うーん。そうなりたいけど……」
「この子、まるいの投げて、とっても楽しそうだったよ。投げ返して欲しかったみたいだけど、れいちゃんはまるいのキャッチできなさそうで危なかったから、ぼくはれいちゃんをキャッチしたの!」
そっか。私のこと襲わせたわけじゃないんだ。なんなら、助けてくれた。
「おケガしたら痛いし、血がいっぱいでたらしんじゃうもんね。ニンゲンはすぐしんじゃうから、ママはいつも泣いてたの。今まではれいちゃんにぼくの遺伝子があったからおケガしても治してあげられたけど、もうできないからね。おケガしないでね」
そうなんだ。小さい頃からキズの治りは早かったけど、手を大ケガした時に治してくれたのはデオキシスだったんだ。
「そうだ。あのね、ぼくね。せっかくれいちゃんをキャッチできたから、ママにして宇宙に連れて帰ろうと思ったの。そしたら迷子になって、あの真っ暗なところに着いたんだよ」
「それでね、あそこは神様が悪い子を閉じ込めるところなんだ、ってはかせが教えてくれたの。ぼくが無理やりれいちゃんをママにしようとしたから、神様が怒っちゃったみたい。れいちゃん、巻き込んでごめんね。はかせ、助けてくれてありがとう」
デオキシスはいい子だ。
きっと、ジラーチは心からデオキシスを愛してたんだ。
「あ、そうだ。この子、れいちゃんのまるいやつのボタンをポチッとなってしてうれしそうだった!ぼくもやりたい!れいちゃん、まるいのある?」
モンスターボール......は今は無いな。
「パパ、ボール持ってる?」
「あぁ、新品のボール持ってるよ」
デオキシスは目付きの悪い目を輝かせた。怖っ!
「ぼくもポチッとなってしてみたい!やってもいい?」
「いいよ。おいで」
デオキシスはパパの手持ちになった。
ハバタクカミ、笑ってて楽しそうだったし、キャッチボールのつもりだったのかな。早く会いに行ってあげたいな。
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部屋に戻ってスマホロトムを見たら、見た事ない数の通知が溜まっていた。
いろんな人に心配かけちゃった。本当にごめんなさい。順番にお返事していこう。
まず真っ先にシュウメイくんに送った。
気に病んでそうだし、ペパーとアオイちゃんとネモちゃんにもすぐ送って、ボタンちゃんが寂しくならないようにボタンちゃんにも送った。
改めてパルデアのピクニックメンバーのグループにも送って、あとは......。
顔を上げたらパパが廊下に立っていた。ドアが無いせいで、普通にバッチリ目が合った。
「レイラ、入ってもいい?」
「既に部屋に入っているのと大差ない状態だよ」
言い終わらないうちに入ってきた。なんて父親だ。
「これ、ククイ博士からお見舞いの品。スグリくんとウォロくんとショウちゃんは一緒にお買い物に行ったから、後で何か持って顔見せに来てくれると思うし、オーキド校長も明日お花を持ってきてくれるし、クラスの子たちもフルーツ持ってきてくれるって」
「わあ。嬉しい!」
ククイ博士のお見舞いの品には厳かな字で『御見舞』って書いてある。急いで用意してくれたはずなのに、きっちりしてるなぁ。
「あとね、エーテル財団にはレイラが事故に遭ったから仕事休むって連絡したんだ。お詫びとレイラの無事を連絡したらエーテル財団からもお見舞いの品をもらったよ。お菓子だったらパパにもちょっと分けてね」
紙袋を押し付けて、パパはそそくさと出ていった。
いろんな人に心配と迷惑をかけちゃったなぁ。
中身、見てみよう。
ますククイ博士からのお見舞いの品を開けてみた。
ロイヤルマスクさんプロデュースのプロテインと栄養ドリンクのギフトセットだ!
ファンも普通に買っていくから入荷してもすぐに売り切れちゃうのに、今日はあったんだ!今日帰って来れてよかったー!超うれしー!
エーテル財団からのは......。
紙袋かわいい!真っ白かと思ったらほんのり桜色だし、内側もピンクだ。大切にしておいて、何かの時に使おっと。
包装紙もやたらかわいい。捨てるのもったいないし、これで何かデコろう。
包装紙を丁寧に開くと、めちゃくちゃ高級な感じのクッキーの詰め合わせが入っていた。
「うわぁ......!おいしそう!」
思わず声に出ちゃった。パパと一緒に食べよう。
包装紙を取っておく為に広げようと思ったら、何かがひらりと落ちた。
足元を確認したら、心臓から変な音が鳴って、潰れそうになった。
ーー忍ポケ乱プラーのポストカードだ。
この菓子折り、事務的に団員さんが用意してくれたんじゃない。
ルザミーネさん......は、さすがに私なんかの為にポストカードを用意して菓子折りを包む時間は無いだろうし、そもそも私が忍ポケを好きなのは知らないと思う。
リーリエちゃんが入れてくれた?いや、リーリエちゃんならきっとかわいい便箋でお手紙を入れてくれるはずだ。
それに、わざわざ包装紙の中に隠すように入れるなんて、なんのためにやるんだって話だ。
もちろん私が買ったポストカードはお会計が終わったら即ファイルに入れてるから、落としてしまうような場所にほったらかしするようなハラキリ必至のヘマはしない。
恐る恐るポストカードを拾う。
未開封だ。
138話で乱プラーが仲間たち全員からもらいびして10まん%もらいびになった超名シーンの、メッセージ欄に何も書いてない、新品のポストカード。
ーーこんなことするの、グラジオしかいないじゃん。
ちょっとしたプレゼントのつもりで、乱プラーがかっこいいからこのイラストのポストカードを入れてくれたんだよね?
何の涙かはわからないけど、涙が出た。涙がしょっぱくてにがくて、もっと泣いた。
グラジオは知らないだろうけど、このシーンのあと、26話でライバルの乱クルスちゃんのへなちょこのほのおのパンチで10まん%もらいびになれたのは、乱クルスちゃんがずっとずっと乱プラーのこと大好きだったからってのが判明するんだよ。
私、理想のイケメン王子様を見つけたんだ。しかも、お付き合いしてるんだよ。
私のこと、とっても大切にしてくれるんだ。
それなのに、公私混同してこんなことするなんて、グラジオはやっぱり悪いやつだ。
でも、そんなグラジオの気持ちが嬉しくて、苦しくて切なくて悲しくて、心臓が潰れそうなくらいキュンとして、こんなにも愛おしく思うなんて、私はついさっきまで明るくて正しい道を進んでたはずなのに、すごくすごく最低な、超極悪人になってしまったみたいだ。
悪い人になるのは、こんなきっかけもあったりするんだ。
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そういえば、ウォロさんとショウちゃんにはスマホを顔面に落としたり、前髪を切られすぎたり、靴紐を踏んづけて転んだりする呪いをかけたのに、ヒスイにスマホは無いし、美容師さんはすごく上手で、靴には靴紐がなかったせいで呪いが全然効いてなくて、とっても幸せそうだったからめちゃくちゃムカついた。やっぱり許せぬ。
ショウちゃんの出産はちょうど冬休みのタイミングだったので、なんだかんだで私も帰省していて、赤ちゃんに会えるのを楽しみにしていた。
しかし、ショウちゃんと赤ちゃんは出産のとき、一時危ない状態になってしまった。
でも、命を守るカプ・テテフ様に祝福を受けていたウォロさんが駆けつけたら、なんとか持ち直して無事に元気な男の子と女の子が産まれた。
お見舞いに行ったら、ショウちゃんもすっごく元気そうで、なんだかんだですごく心配したから安心して泣いちゃって、ウォロさんはもう既に真っ赤な目をしてたのに、私からもらい泣きして恥ずかしがって逃亡して行った。
「赤ちゃんのお名前決めた?」
「女の子は『マシロ』にするんです。ウォロさんの親友の出身地には『マサラは まっしろ はじまりのいろ』という素敵な言葉があるんだそうです」
そっか。パパ、親友が増えてよかったね。
でも、なんでパパの親友には、本当はいい人なのに悪い事をしてしまう人しかいないんだろう?
類は友を呼ぶのかな。パパ、何か悪いことしてるのかな。
「男の子は『テラス』って名前にします」
えぇ。マジか。
「スグリさんが教えてくれたキタカミのお話のてらす池の精さまがとっても素敵な精霊さんだったので。にへっ」
スグリくん、変な事吹き込んだな。テラスくん、なんかごめんなさい。
「あと、ウォロさんの調べたところによると、てらす池の名前は、異国の神話の『天照大御神あまてらすおおみかみ』という最高位の太陽の神様から取られてるみたいなんです。その神様の『照てらす』という文字は『ショウ』とも読むんだって言って、ウォロさんが絶対に『テラス』がいいって」
「そうなんだ!素敵だね!」
「あと、『テル』とも読むみたいなんですよ」
えぇ。それはちょっと、どう反応すればいいのかわかんないよ。
「もしかするとテルは、神そのものだったのかも知れません」
「......そうなの?」
「わたしとウォロさんは、大きな間違いを犯しました。神に背いて、人の命を奪いかねない事をしてしまった。それでもこうして皆さんが良くしてくださってるのは、あの場にいたのがレイラさんとシナミ博士で、テルがケガせずに生きていてくれて、ちゃんとメッセージを残してくれてたからですよね」
「そうだね」
「レイラさん、本当に申し訳ありませんでした。あと、本当に......ありがとうございました」
マシロちゃんとテラスくんが少し大きくなったあたりで、ウォロさんとショウちゃんはヒスイに帰って行った。
フンドシ姿のウォロさんとショウちゃんとマシロちゃんとテラスくんの幸せそうな写真は、パパが綺麗なフォトスタンドに入れて研究室に飾っていた。
ちなみに、フンドシなのはウォロさんだけだった。人を騙すなんて、パパは悪い人だ。