TS転生釘崎野薔薇   作:楼ノ卦

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盛岡から行くのに四時間掛かるクソ田舎より②

 

 

さて、オレという自我がはっきりしてから数年が経った。数年経って変わったことといえば、呪術の腕前の上達と母親が蒸発したことくらいである。

 

 

言及すべきであろう事柄が述べられたが、そのことについて、オレはあんま触れたく無い。

 

 

 

それは兎も角。

今のオレ、釘崎野薔薇は小学生である。

 

 

 

さて。

 

五時間目の授業の終業のチャイムが鳴り響いてから、幾許か時間が過ぎた。

ここは放課後の小学校。

 

 

突然だが、放課後の子供たちと言えば、友達の家へ突撃する生物であることは知っているだろうか?

 

 

少なくともオレの周りではそうだった。子供たちは、遊び盛りだからね。

 

 

習い事とか塾とかがある小学生も居るだろうが、生憎、このド田舎にはそんなモノすら無い。

 

 

よってわざわざ学校が終わったのに残る生徒は僅かだ。良い子たちはもう下校済みである。そもそも、この小さい校舎自体、生徒数が少ないというのもある。

元々少ない生徒がほぼ消え、最早この校舎にはオレと教員しか居ないのであった。

 

そんな校舎の中、オレは一人トイレに向け歩みを進める。別にトイレがしたいというわけではない。別の目的があるんだ。決して友達の居ないヤツだから、一人トイレに引き篭もるわけでも無い。

 

 

ホントだぞ?

 

 

静かな校舎には、良い点がある。

 

それは、思索に耽るのに丁度良いと言うこと。

 

そして、更にこの静かな校舎の中で最も静謐な場所こそが、トイレなのだ。

 

 

がちゃり。

 

トイレの扉を閉じ、洋式トイレの便座にフタをし、トイレに腰掛け、思索を始める。

 

 

 

 

 

 

成人男性のオレは、ひょんなことから、呪術廻戦の登場人物・釘崎野薔薇として転生を果たした。

 

呪術廻戦。現代に甦った呪いの王・両面宿儺。その呪いを身体に宿す少年虎杖悠仁ら呪術師たちが、呪いたちと戦う少年バトル漫画である。

 

その物語の過程では呪霊、呪詛師によって一般人たちや呪術師は命を落とすことになる。

 

呪霊による民間人の被害は年間10,000人と洒落にならない。

 

されど。これ以上にヤバいのが、渋谷事変を発端とした日本国内の大混乱である。

 

これによって渋谷は壊滅。そこに居合わせた一般人は戦闘や宿儺の蹂躙の余波で多くが死亡。

 

そして、さらに最悪なのが、羂索による1000万体以上の呪霊の解放である。これにより、渋谷のみならず東京23区が壊滅。

 

全国の各地で行われた死滅回遊なるデスゲームが開催されたり、米軍による干渉が成されたりと、国内は文字通りの滅茶苦茶である。

 

そしてこの首謀者・羂索の計画を挫かなければ、日本国民全員呪霊同化という悪夢が実現してしまう。まさに地獄絵図だ。

 

 

「……はぁ」

 

 

将来のことについて想起すると、頭が痛くなる。

原作を知るオレは、これから起こる未来を知って居る。それを踏まえて、どのような身振りをすべきか。

 

基本方針として考えられるのは、

①渦中から逃れる

②渦中に立ち向かう

の二択。

 

この2つのうち、どちらを選ぶかだ。国外に頑張って逃げれば、呪いの坩堝からは逃れられるだろう。だが、完全に安全であるとは言い切れない。

もし宿儺、及び羂索打倒が失敗してしまった場合、世界がどのような様相と化すのだろうか。

 

一億呪霊がどのような動きをするのが全くの不明瞭であることが怖すぎる。世界中の人間を殺し回る可能性だって低くないだろう。

なにが「笑っちゃうよねー」(たはー)だ。

ふざけんなよお前。

 

 

それに、人生暇潰し四つ目カイリキー。

あいつが暇潰しに世界鏖殺旅行でも企てたらどうなる?

オレ含めた世界中の人々は仲良く三枚おろしだ。ふざけんなよお前。

 

人生の指針を、生存することだけに特化したとしても。脅威からのガン逃げに徹したとしても。呪いから逃れ切れる保証はどこにも無いのだ。

 

 

なんなんだアイツら…

どんな生き方をしても、絶対に障害と化すのだが。

 

 

それなら、むしろアイツらぶっ飛ばした方が早くないか……?

 

……確かに、この田舎を出て、その戦いに加わった方が、世の為だろう。

だが、今のテンションでの、この思考。

ぶっ飛ばせるわけない。

その意気は愚者の驕りだ。自身の実力を把握してみろ。

確かに、師匠である婆ちゃんから才覚を褒められはした。たが、それは婆ちゃん一人だけだ。

オレは、未だに婆ちゃん以外の術師に会ったことが無い。遭遇した呪霊も、二級以上のヤツは居なかった。

 

 

 

俺は、はっきりとした強者に会ったことがない。完全に、井戸の中の蛙である。

 

 

 

婆ちゃんだって言ってたろ。「実力を冷静に客観視出来ない呪術師には死あるのみだ。オマエは確かに筋は抜群だが、今の実力を弁えて立ち回れ」って。

 

 

 

自然呪霊を始めとした特級に区分された呪霊たち、今も暗躍を続ける最悪の呪詛師・羂索、特級術師・九十九由基、五条悟……この時系列だと特級呪詛師に堕ちた夏油傑。

 

死滅回遊による強者の復活が無い現在でも、化け物はいーっぱい居る。

 

それに比べ、今のオレはどうだろうか。

カスである。

 

その理由が、呪力の出力と量。術式と並び、呪術廻戦が才能ゲーである原因の三つのうちの二つである。

 

 

 

婆ちゃん以外の呪術師たちを目にしてないからわかんないけど、多分。呪力の出力・量という観点では、オレはあまり優秀ではないような気がする。

呪術終盤のバトルのスケールに喰らいつこうとすると、コレがネックになりそうだ。

 

 

それになー。

小学生女児のちんちくりんな体格。確か成長した十五歳でも、釘崎野薔薇の身長は160はいかなかったな。

 

呪力という要素があるにせよ、鍛え上げた肉体が戦闘でモノを言うのが、呪術廻戦である。

全ての元凶と言っても過言でもないヤツもそう言っていた。

ガチガチの肉弾戦をするとなると、厳しい所がある。原作の釘崎野薔薇も、ステゴロで強さを強調するシーンもなかったしな。

 

 

「やっぱ、強くなんなきゃな」

 

 

オレは、呪術が嫌いじゃない。自分の出来ることが拡張され、増えていくことが、何より生物としての強度が上がる感覚は、何よりも面白い。

強くなることは、オレの目標の一つと言っていい。

 

 

二つ目の目標と言えば、五条悟たちとのパイプだ。五条悟たちに、自分の持つ情報を提供出来れば、悲劇は回避できるかもしれない。ただ、敵は千年を超えて暗躍する最悪の術師だ。

あの手この手で、オレの想定を上回ることをしてくるに違いない。

 

と、なると未来を視たような素振りをすることは危険だ。最悪誰も知らない所で羂索に消されることも十分にあり得る。

 

そういう違和感を抱くような行動をしない方がいいだろう。

 

それに、今からこの情報を伝えようとしても、小学生女児の言う戯言と切り捨てられるに違いない。死滅回遊だの、両面宿儺の復活、最悪の呪術テロだの、メロンパンなど、信じられるものか。夏油なんてまだ在命中だぞ。

裏を取れる証拠も無いしな!

信頼を勝ち取ることも、必須になってくる。

 

うーむではどうしようかな。

今すぐ高専に行くのは無しとして───

 

 

 

 

 

がちゃ。

 

 

 

 

「は?」

 

 

「あ」

 

 

 

目前には、豆鉄砲を食らったような表情をしたオレのクラスメートの男子生徒が。

 

 

 

 

あ、鍵付けるのを忘れてたわ。

 

 

 

 

「釘崎!!!アンタ!なんでトイレにいるんだよ!!!!」

 

 

「え」

 

 

……確かに思索をする為だけに、この学校の少ないトイレを用いるというのは、今にも臨界点を迎えそうな爆弾保持者に対し、冒涜に当たる非倫理的行動かもしれない。

 

だが、オレは反論したい。

 

学校の大便器は、洋式二つに、和式一つのワンセット。

 

そしてこのトイレの内、オレの座るトイレ以外は使われていない。故に、オレが洋式トイレに座っても、洋式トイレと和式トイレ、二つが空いている。

 

たとえ彼が宗教上の理由で、片方の方式のトイレしか使えなかったとしても、片方のトイレは君を優しく迎えてくれるはず────

 

・・・・・

「違う!なんで()()()()()に居るんだって言ってんだ!!」

 

 

 

「あ」

 

 

やっちまった!心の中で叫んだ時は、もう遅い。

そうであった。オレは釘崎野薔薇。

今世の性別は女である。一生の不覚だ。

なぜ気付かなかった!

トイレに行く際、性別を全っっく気にしなかった。きっと男子トイレに、ダイソンの掃除機でもあったに違いない。ダイソンの途轍もないバキュームのせいだ。ダイソンなら仕方ない。

 

 

 

「あー、ごめん!ごめんなさい!」

 

 

 

男子生徒に平謝り(?)し、急いで男子トイレを後にする。

 

 

 

 

 

 

はぁ。

 

 

 

 

 

…別に、普段からこんなことをやらかす訳では無い。ほんの偶にだ。ふと偶に、オレが釘崎野薔薇であるということを忘れて振る舞ってしまう。

 

 

もし、恒常的にやらかしてたら、あの男子だってオレをもっとからかっていただろう。「また男子トイレかよ」って具合で。

 

 

ほんの、偶になんだ。

 

 

そう。

 

別に、女性であることをいつも忘れているワケじゃない。

 

認めてないワケじゃない。

 

 

そうでなければ、赤色のランドセルを背負ってる理由に説明が付かない。

 

 

 

でも、なんかしっくり来ないんだ。

別に、前世で「男であるオレ」ということだけをアイデンティティの核にした人生は送っていないはずだが。

でも、しっくり来ないんだ。

 

きっとそれは、釘崎野薔薇という外殻と、「オレ」という内面の間には、ギャップがあるからだろう。

 

多分、そのギャップに、オレは多少なりとも苦しんでる。

 

なんだか、生きて動き回る内に、そのギャップで中身と外殻が擦れる。そして、何回も続いた小さな擦れが、小さな傷をつくる。まるで、合ってない靴を履いた時の足みたいに。

 

 

ほら、実際男と女で靴のサイズって違うしね。

 

 

あはははは。

………。

 

 

 

 

やめよ。

こんな小さなコトでちょっとおセンチになるなんてらしくない。

 

 

今日はさっさと帰って寝よう。

ネガティブになったら、一旦頭をリセットが一番良いい。

 

 

 

靴箱から薄青い瞬足の靴を取り出し、足に嵌める。小さな校舎に別れを告げ、帰路に就く。

 

 

 

歩みを進める中、一つの予感が、頭の中で響く。

 

 

 

 

 

 

恐らく、殻を、ガワをどれだけ繕ったとしても、この靴擦れが埋まることは永遠に無いだろう、と。

 

 

 

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