TS転生釘崎野薔薇   作:楼ノ卦

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盛岡から行くのに四時間掛かるクソ田舎より④

どうも。

釘崎野薔薇にTS転生成人男性、オレです。

 

先月に新年度を迎え、小学六年生になった。

あと一年で、オレも中学生である。

中身は成人男性だが一応、女子小学生に相応しい振る舞いをしてるつもりである。

 

 

 

オレは、原作の釘崎野薔薇を遵守して行動していない。オレなりに、違和感の無い女子の振る舞いをしてるだけである。ロールの難易度は、釘崎野薔薇を擬態するよりも実際、楽だろう。

 

でも、未だに外面と心の溝は一向に塞がらず、ストレスの種だ。日常をこなすことも、ほんのりとしたストレスが付きまとっている。途轍もない痛みが襲ってくるワケじゃない。出処不明の気持ち悪さが、身に纏う感じがずっとするのだ。大きな労力を要する筈の除祓や呪術の研鑽をしている方が、むしろ楽な気がしてくる。

 

あぁ、クソ。10年に満たない間でもこんなにストレスが溜まるんだ。

1000年間肉体を転々する羂索はなんなんだよ。化け物かアイツ。

 

呪術と向き合う時は、内面と向き合う時間が必ず生まれる。その際、オレはギャップを気にしなくて済む。なんせ、呪術に必要な要素は、内面だ。外面は関係ないからな。

故に、そっちの方が気楽で、面白い。

現実なんかよりもよっぽど楽しい。

 

オレが、呪術を得意とする理由は、そこにあるのかもしれない。

 

 

 

そして、その呪術だが。

もう、教わることはほぼ無くなってしまったかもしれない。ここ一年、強さは打ち止め気味である。

 

 

取説に書かれた拡張術式については、ほぼ習得し切ってしまった。基本的に芻霊呪法は、基本の「共鳴り」と「簪」があれば十分であるらしい。取説で出てくる拡張術式は、あくまで一人の物好きな強者が開発したモノを、あくまで、「勿体無いから」という理由で残してるらしい。

 

 

 

……もしかして、残したの羂索じゃねぇだろうな。

 

 

 

まぁ、それは兎も角だ。

領域展開については、手本が無いため、未だにピンと来ていない。

 

仕方ないだろう。

生まれてこの方、領域を展開出来る術師にも呪霊にも会ったことが無いのだから。

 

シン・陰流の門下生でも無いため、簡易領域は習得してないし、その原型・彌虚葛籠なんてモノは現代に残っていないから習得はムリ。

 

芻霊呪法による簡易的な結界術は一応出来るものの、それはあくまで簡易のその場凌ぎ。

しかも、ソレは領域対策を主眼としたモノじゃないし。

 

 

心象の具現、必中・必殺の術式効果なんぞ夢のまた夢である。

 

 

呪霊も呪霊だ。オレが生まれてから今日までに会敵した呪霊の中で、一番強力な個体で漸く準一級だぞ。大体は三級と二級だ。

 

 

地方の呪いはやはり、レベルが低いのだろう。

苦戦する相手がいない。

 

 

成長するには、強い敵が必要だ。

そして、手本も。

 

 

 

東京都呪術高専。あそこには、あの『現代最強』の五条悟が居る。この世界で最強の男がどんな存在なのか、オレは知りたい。

その規格外っぷりは、呪術廻戦を追ってる人間なら説明は不要。漫画とアニメ通りの実力であるならば、今のオレは塵芥に等しいだろう。

 

 

しかし、『最強』と謳われるあの男を一目だけでも見てみたい。

 

 

何でも出来るあの男は、「出来ない」に寄り添える教師ではない。けど、今の「出来ない」オレにとっては、最高の手本に違いない。

 

 

東京の呪いだってここいらよりも、よっぽど強力だ。オレの成長の機会はきっとあそこにある。

 

 

高専に行きたい。

だが今のオレは釘崎野薔薇・小学生。中学生ですらない。東京に行くまで何年かかるのか。

 

 

待ちきれない。

高専に行かないとしても、五条悟の呪術を、領域展開を一目見たい。絶対に糧になるから。

東京に行きたい。そこにはきっと、まだ見ぬ強敵が居るだろうから。

 

 

というか、羂索が本格的に動く本編が2018年でありその時で漸くオレが十五歳だ。

高専側の戦力に成りたいなら、それまでに力を完成させなくてはならない。

時間は有限だ。中学生の三年間も、今みたいにヌクヌクしてる暇は無い。

やはり中学。東京の中学に進学すれば、三年間東京で呪霊狩りが出来る。

 

 

ただ、今のオレは婆ちゃんの庇護の下だ。

原作の釘崎によると、婆ちゃんは自分の元で呪術師をやらせたがっていたという。自分の元で、じっくりと鍛える方針だったらしい。

この結果、東京に行きたい釘崎と婆ちゃんは進路について揉め、釘崎は高専進学が遅れた。

 

 

婆ちゃんは、釘崎野薔薇を高専に行かせたくはなかったのだ。

 

 

しかし、原作の釘崎野薔薇とオレは違う。

オレは、小学生である内に、一家伝来の芻霊呪法の取説を既に習得を済ませてしまった。

婆ちゃんから学ぶことは、最早無いと言っていい。

 

婆ちゃんの「釘崎野薔薇を自分の元で鍛え上げる」という目的は、既に達成しているのだから。

 

 

故に、自分の元に、オレを置く意味はもう無い。それなら、オレは原作よりも先に東京に行くことが出来るかもしれない。

 

 

よし。

 

 

オレは、婆ちゃんに東京に行きたいことを話すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「婆ちゃん、少しいい?」

 

 

「なンだ?」

 

 

いきなり話を投げ掛けてきたのは、孫娘の野薔薇であった。

 

 

「真面目な話がしたい」

 

 

野薔薇は目の据わった表情でこちらを見つめる。

はっきりとした意思を持った、純度の高い眼光で。自身の身体を廊下に向け、その眼光を視界から外す。

 

 

憂鬱だ。

 

 

 

「……こっち来い」

 

 

野薔薇に手招きをし、縁側に向かった。

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

互いに無言を貫き、歩みを進める。

緊張の色が入り混じった空気が、二人の中で対流する。

 

ふと気づけば、そこは縁側。

野薔薇が好き好んで、よく菓子を食べる場所であった。

 

どっこいせ、とそこに腰を掛ける。

 

「ほれ。(わん)も座れ」

 

 

「…はい」

 

 

野薔薇もまた、腰を下ろす。

 

 

「…言いたいことがあンだろ?言ってみな」

 

野薔薇の言いたいことは、大体察しが付いている。

 

 

「……。そうだね。黙ってても仕方ない。単刀直入に言う。ワタシ、中学進学は─────

東京に行きたいと思ってる」

 

 

 

そら来たことか。やはり、そうだ。

 

 

「そうか」

 

 

 

自身の口から出た応答は

 

 

 

 

「駄目だ」

 

 

 

 

「────っ。理由は?」

 

 

納得出来ない、とばかりにこちらを睨め付ける。

 

 

「オマエは、まだ小学生。次年度だとしても中学生だ。高専に入るにはまだ早ェだろ」

 

 

「高専には入れないのは分かってる!知ってるさ。ワタシは!……兎に角、東京に行きたいんだ」

 

 

「なら、尚更駄目だな。行かせねェ」

 

 

「っ」

 

 

 

「第一、呪術師は万年人手不足なんだ。この辺りの呪術師が一人居なくなりゃ、人手が足らなくなる。呪霊は誰が祓うんだ」

 

 

「……高専から派遣されて、除祓しに来る呪術師だっているだろ。それに、二、三級程度の相手なら婆ちゃんで十分だ。東京だって、呪霊に溢れてる。呪術師が人手不足なのは変わらないだろ。ワタシは、代わりに東京で呪霊を祓ってればトントンじゃないか」

 

「オマエ、東京で呪霊狩りをする気か?」

 

 

確かに、釘崎野薔薇は天才だ。

呪術師を何十年もやってる儂が保証する。

 

だが、東京の呪霊は地方とはレベルが違う。

天才だからと言う文言だけで、死から免れることは出来ない。

 

呪いの坩堝、東京では、一流の呪術師が、任務の中で死ぬなんてものは珍しくもなんとも無い。五条悟誕生後から顕著だが、呪術師たちを歯牙にもかけない高位の呪霊が生まれる確率は、驚くほど多いのだ。

 

 

「そうとも」

 

 

 

「死ぬぞ」

 

 

 

「確かに、死ぬかもしれない。

─────でも、オレも呪術師だ。生命をベットする覚悟と動機ぐらい、ちゃんと用意してある」

 

 

あいつはどうやら、本気だ。

 

 

呪術師を続ける上で必要な、覚悟。

死と隣り合わせの戦場に赴いてでも、成したい、と渇望する動機。呪術への感度が誰よりも高い野薔薇が、それを欠いている筈が無かった。

 

しかし。

 

 

「……この話は無しだ」

 

 

「でも」

 

 

「五月蝿え。無いっつってンだろ」

 

 

「まだ話は…」

 

 

 

 

「黙れッ!!!」

 

 

 

怒鳴り声が、空気を震わせる。

そうだ。野薔薇が自分の前から消えるなんてことは、許せない。孫娘が消えるなんて許せるものでは無い。

 

なぜなら─────────

 

 

 

 

「────はっ。婆ちゃん。なんでそんな否定するんだよ」

 

 

 

──────母さんが蒸発したこと、まだ引きずってんのか?

 

 

 

野薔薇が握り拳を片手で掴む。

 

 

 

その景色を見て、漸く。

 

己の脳味噌が動く前よりも早く、儂の拳が野薔薇に突き出されたことに気づいたのであった。

 

 

 

 

 

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