どうも。
釘崎野薔薇にTS転生成人男性、オレです。
先月に新年度を迎え、小学六年生になった。
あと一年で、オレも中学生である。
中身は成人男性だが一応、女子小学生に相応しい振る舞いをしてるつもりである。
オレは、原作の釘崎野薔薇を遵守して行動していない。オレなりに、違和感の無い女子の振る舞いをしてるだけである。ロールの難易度は、釘崎野薔薇を擬態するよりも実際、楽だろう。
でも、未だに外面と心の溝は一向に塞がらず、ストレスの種だ。日常をこなすことも、ほんのりとしたストレスが付きまとっている。途轍もない痛みが襲ってくるワケじゃない。出処不明の気持ち悪さが、身に纏う感じがずっとするのだ。大きな労力を要する筈の除祓や呪術の研鑽をしている方が、むしろ楽な気がしてくる。
あぁ、クソ。10年に満たない間でもこんなにストレスが溜まるんだ。
1000年間肉体を転々する羂索はなんなんだよ。化け物かアイツ。
呪術と向き合う時は、内面と向き合う時間が必ず生まれる。その際、オレはギャップを気にしなくて済む。なんせ、呪術に必要な要素は、内面だ。外面は関係ないからな。
故に、そっちの方が気楽で、面白い。
現実なんかよりもよっぽど楽しい。
オレが、呪術を得意とする理由は、そこにあるのかもしれない。
そして、その呪術だが。
もう、教わることはほぼ無くなってしまったかもしれない。ここ一年、強さは打ち止め気味である。
取説に書かれた拡張術式については、ほぼ習得し切ってしまった。基本的に芻霊呪法は、基本の「共鳴り」と「簪」があれば十分であるらしい。取説で出てくる拡張術式は、あくまで一人の物好きな強者が開発したモノを、あくまで、「勿体無いから」という理由で残してるらしい。
……もしかして、残したの羂索じゃねぇだろうな。
まぁ、それは兎も角だ。
領域展開については、手本が無いため、未だにピンと来ていない。
仕方ないだろう。
生まれてこの方、領域を展開出来る術師にも呪霊にも会ったことが無いのだから。
シン・陰流の門下生でも無いため、簡易領域は習得してないし、その原型・彌虚葛籠なんてモノは現代に残っていないから習得はムリ。
芻霊呪法による簡易的な結界術は一応出来るものの、それはあくまで簡易のその場凌ぎ。
しかも、ソレは領域対策を主眼としたモノじゃないし。
心象の具現、必中・必殺の術式効果なんぞ夢のまた夢である。
呪霊も呪霊だ。オレが生まれてから今日までに会敵した呪霊の中で、一番強力な個体で漸く準一級だぞ。大体は三級と二級だ。
地方の呪いはやはり、レベルが低いのだろう。
苦戦する相手がいない。
成長するには、強い敵が必要だ。
そして、手本も。
東京都呪術高専。あそこには、あの『現代最強』の五条悟が居る。この世界で最強の男がどんな存在なのか、オレは知りたい。
その規格外っぷりは、呪術廻戦を追ってる人間なら説明は不要。漫画とアニメ通りの実力であるならば、今のオレは塵芥に等しいだろう。
しかし、『最強』と謳われるあの男を一目だけでも見てみたい。
何でも出来るあの男は、「出来ない」に寄り添える教師ではない。けど、今の「出来ない」オレにとっては、最高の手本に違いない。
東京の呪いだってここいらよりも、よっぽど強力だ。オレの成長の機会はきっとあそこにある。
高専に行きたい。
だが今のオレは釘崎野薔薇・小学生。中学生ですらない。東京に行くまで何年かかるのか。
待ちきれない。
高専に行かないとしても、五条悟の呪術を、領域展開を一目見たい。絶対に糧になるから。
東京に行きたい。そこにはきっと、まだ見ぬ強敵が居るだろうから。
というか、羂索が本格的に動く本編が2018年でありその時で漸くオレが十五歳だ。
高専側の戦力に成りたいなら、それまでに力を完成させなくてはならない。
時間は有限だ。中学生の三年間も、今みたいにヌクヌクしてる暇は無い。
やはり中学。東京の中学に進学すれば、三年間東京で呪霊狩りが出来る。
ただ、今のオレは婆ちゃんの庇護の下だ。
原作の釘崎によると、婆ちゃんは自分の元で呪術師をやらせたがっていたという。自分の元で、じっくりと鍛える方針だったらしい。
この結果、東京に行きたい釘崎と婆ちゃんは進路について揉め、釘崎は高専進学が遅れた。
婆ちゃんは、釘崎野薔薇を高専に行かせたくはなかったのだ。
しかし、原作の釘崎野薔薇とオレは違う。
オレは、小学生である内に、一家伝来の芻霊呪法の取説を既に習得を済ませてしまった。
婆ちゃんから学ぶことは、最早無いと言っていい。
婆ちゃんの「釘崎野薔薇を自分の元で鍛え上げる」という目的は、既に達成しているのだから。
故に、自分の元に、オレを置く意味はもう無い。それなら、オレは原作よりも先に東京に行くことが出来るかもしれない。
よし。
オレは、婆ちゃんに東京に行きたいことを話すことにした。
「婆ちゃん、少しいい?」
「なンだ?」
いきなり話を投げ掛けてきたのは、孫娘の野薔薇であった。
「真面目な話がしたい」
野薔薇は目の据わった表情でこちらを見つめる。
はっきりとした意思を持った、純度の高い眼光で。自身の身体を廊下に向け、その眼光を視界から外す。
憂鬱だ。
「……こっち来い」
野薔薇に手招きをし、縁側に向かった。
「………」
「………」
互いに無言を貫き、歩みを進める。
緊張の色が入り混じった空気が、二人の中で対流する。
ふと気づけば、そこは縁側。
野薔薇が好き好んで、よく菓子を食べる場所であった。
どっこいせ、とそこに腰を掛ける。
「ほれ。
「…はい」
野薔薇もまた、腰を下ろす。
「…言いたいことがあンだろ?言ってみな」
野薔薇の言いたいことは、大体察しが付いている。
「……。そうだね。黙ってても仕方ない。単刀直入に言う。ワタシ、中学進学は─────
東京に行きたいと思ってる」
そら来たことか。やはり、そうだ。
「そうか」
自身の口から出た応答は
「駄目だ」
「────っ。理由は?」
納得出来ない、とばかりにこちらを睨め付ける。
「オマエは、まだ小学生。次年度だとしても中学生だ。高専に入るにはまだ早ェだろ」
「高専には入れないのは分かってる!知ってるさ。ワタシは!……兎に角、東京に行きたいんだ」
「なら、尚更駄目だな。行かせねェ」
「っ」
「第一、呪術師は万年人手不足なんだ。この辺りの呪術師が一人居なくなりゃ、人手が足らなくなる。呪霊は誰が祓うんだ」
「……高専から派遣されて、除祓しに来る呪術師だっているだろ。それに、二、三級程度の相手なら婆ちゃんで十分だ。東京だって、呪霊に溢れてる。呪術師が人手不足なのは変わらないだろ。ワタシは、代わりに東京で呪霊を祓ってればトントンじゃないか」
「オマエ、東京で呪霊狩りをする気か?」
確かに、釘崎野薔薇は天才だ。
呪術師を何十年もやってる儂が保証する。
だが、東京の呪霊は地方とはレベルが違う。
天才だからと言う文言だけで、死から免れることは出来ない。
呪いの坩堝、東京では、一流の呪術師が、任務の中で死ぬなんてものは珍しくもなんとも無い。五条悟誕生後から顕著だが、呪術師たちを歯牙にもかけない高位の呪霊が生まれる確率は、驚くほど多いのだ。
「そうとも」
「死ぬぞ」
「確かに、死ぬかもしれない。
─────でも、オレも呪術師だ。生命をベットする覚悟と動機ぐらい、ちゃんと用意してある」
あいつはどうやら、本気だ。
呪術師を続ける上で必要な、覚悟。
死と隣り合わせの戦場に赴いてでも、成したい、と渇望する動機。呪術への感度が誰よりも高い野薔薇が、それを欠いている筈が無かった。
しかし。
「……この話は無しだ」
「でも」
「五月蝿え。無いっつってンだろ」
「まだ話は…」
「黙れッ!!!」
怒鳴り声が、空気を震わせる。
そうだ。野薔薇が自分の前から消えるなんてことは、許せない。孫娘が消えるなんて許せるものでは無い。
なぜなら─────────
「────はっ。婆ちゃん。なんでそんな否定するんだよ」
──────母さんが蒸発したこと、まだ引きずってんのか?
野薔薇が握り拳を片手で掴む。
その景色を見て、漸く。
己の脳味噌が動く前よりも早く、儂の拳が野薔薇に突き出されたことに気づいたのであった。