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「始めまして、オレは釘崎野薔薇。これからはキミのお隣に住む事になる…らしい。よろしくね」
深い茶色の髪に、ショートカットの髪型。
いかにも、「快活そうな女の子」といった出立ちをしていた少女。しかし、その表情には、困惑の色が隠せずにいた。
五条が連れて来たということから察するに、この困惑は、どうせ五条によるモノだろう。
オレは、彼女の姿形を一瞬だけ観察する。
ファッションというのは、一種の自己表現だ。身に付けるモノは、人の嗜好、性格によって左右される。周囲の目を気にするのか、自分のセンスを貫きたいのか。
もし、動き回ることが多ければ、その運動に適した衣類を着ることになるだろう。
特に小学生は私服で登校するため、それは明らかだ。勿論、服装の自由度は、校則の規定範囲に縛られている。洒落っ気が強まった女子、外見のことはあまり気にしない男子といった具合に、思想や嗜好の一端は服装で、ある程度は察することが出来る。
眼前の少女は、「快活そうな、中性的な服装」。身体を動かすことが好きなのだろう。
ストレッチ素材のズボンと靴底の柔らかそうなスニーカーは、今から全力で走り出したとしても、全く問題は無さそうだ。
「女の子」らしさに振れて無い、実用的な服装。
そして、困惑の中に居ても、俺よりも先に挨拶をしようとする真面目さ。
偏見であるかもしれないが。
俺は、彼女に邪気の無い、素直な印象を抱いた。
しかし、問題はこの後であった。
彼女は将来呪術高専に入学し、呪術師になることを条件に、援助を約束してもらった身なのだと言う。境遇としては、俺達と同じだ。
「呪術師」、「呪術高専」。この言葉を耳にした時、胸の奥から、じわりと厭気が湧き出してくるのを実感した。
津美紀の進学もあって、呪術高専に進学しなくてはならない事実が、より近くなっている今。そのワードは、聞いてて心地のいいモノでは無かった。
そして、あの人の発言。
「領域のことなんだけど、恵と仲良くなったら教えてあげるよ。逆に言えば、それまではお預けってことで」
これを聞いた時、目の前の少女は梅干しのような表情と化していた。
領域展開。生得領域を結界というカタチで生成し、その結界に術式を付与する、呪術の神髄。
この呪術を修めた者は、呪術界でも指折りの強者のみ。
そして、この男は、現代最強の呪術師・五条悟。
領域展開を可能とする、数少ない呪術師の一人だ。俺も、彼の任務に連れ出された際に、その術を見せられたことがある。
どうやら、目の前の少女……釘崎は、領域展開を一目見ることを望んでいたらしい。
その呪術の極意を披露してもらう代価として、この男は、釘崎に俺と仲良くすることを指定した。
俺の目の前で、そんなこと言ってどうするんだ。目の前の少女が、汗をダラダラ流し始めたぞ。しかし、俺は彼女がそこまで動揺する理由が分からなかった。
俺は特段、新しく引っ越して来た隣人に自分から親交を深めるようなことはしないし、するつもりは無い。
それに、領域展開の希少性は知識としては知っていた。領域展開。それは、一流として区分されるような呪術師たちの中でも、出来る者は殆ど居ない。
並の呪術師では、下手したら一生で一回も目にせずにして生涯を終えるだろう。
領域展開は珍しい。だから見てみたい。
それは分かる。
だが、ソレを「一回だけ見せてもらった」として、何になるというのだろうか。
領域展開は超高等呪術。殆どの術師がたどり着く事は無い、呪術の極み。
あの人の「無量空処」を見た事があるが、オレは何をすればコレが出来るのか、全く理解できなかった。
仮に今、俺が領域展開を何回も見させられたとしよう。何回も、何回も。
目が腐り落ちるほど凝視したとしよう。
そうすれば、俺はソレが出来るのだろうか?否、不可能である。
今の俺の想像力、呪力、術式の解釈。
全てのリソースを把握し、シミュレートする。
全く足らない。結界術か?呪力操作か?術式への理解度の不足か?
今の俺では、ソレをイメージ出来ない。
領域を展開する自分を、イメージ出来ない。
最強の男の領域展開を見たところで、俺は領域を展開する自分を想像することはできなかった。そもそも、俺の呪術師としての技量自体は高くない。任務自体、五条悟に無理矢理連れて行かされたモノ以外は経験していないし、週末に彼による手解きを受ける程度だ。
そもそも、小学生が祓除の場に立ち会うことが異常なのだ。
故に、「領域展開を披露する」という、まるでメリットを提言するような言い草に、オレはピンと来なかった。
ましてや、話す相手は俺とタメの少女だ。
五条悟の言葉は、どうしてメリットと成り得るのだろうか。なぜ、「俺と仲良く」という条件をつけたのだろうか?
そもそも、彼女はなぜ一人で俺たちの隣に引っ越して来たのか。
しかし、それらの思索、疑問は一瞬で頭の片隅に追いやられた。
どうでもいい。
俺にとって、それは心底どうでも良かった。
呪術師が祓う呪霊とは、一般人から流れ出た負の感情が具現化した存在だ。
つまり、実体を持たない人間の排泄物。
感情の吐瀉物。そして、それの処理業者。
幼少から、人間の薄暗い面はよく見えていた。
それ故に、その仕事は何を意味しているのかは分かっていた。
馬鹿馬鹿しい。なぜ、あんなモノにわざわざ、立ち合おうとするのだろうか。
将来、呪術師になること自体に俺は、厭気が差していた。
俺は、彼女と関わる時間を作らないようにしてた。いや、この表現は違う。
彼女自身も、俺に距離を作っていた。
「話し掛けはしたいが、話し掛けられない…」というオーラを漂わして。
それは、どんなコミュニケーションを取ろうとしても、自身の行動全てに打算が含まれているのではないか?という疑問が払拭できてないからだろう。
どうにかして、フラットなコミュニケーションを築きたい、でもそれは出来ない。
どうやら彼女は、俺という城を攻めあぐねているようだった。
「仲良くなった振りでもしてくれ」と頼み込めばよいのに。しかし、それをやらない、妙な誠実さと真面目腐った様子。
そして、津美紀と談笑しながら、買い物袋を持って家に帰って来る姿。
その様は見えていたし、分かっていた。
そうして一ヶ月間、微妙な距離を保ったまま、時間が経った。
それまでの時間で、遠目で釘崎を見て、彼女が悪人ではないことぐらいは分かった。
教室の中で目を輝かせながら手の平サイズの菓子を頬張る姿は、まるで宝ものを見つけた幼児のようであり、邪気は感じなかった。
悪人では無いなら、こちらから歩みよってもよかったのではないか?
それは嫌だ。俺は悪人は嫌いだが、善人は苦手だ。人の良さそうな無邪気な面をしたあいつに、自分から話しかけるほどの熱量は、オレには無かった。
初めてのweb小説、二次小説でまさか、ここまで多くと人に読んでもらえるとは……読者の皆様、本当にありがとうございます。
ただ、書き溜めが完全に0と化したので、練り出す為に時間が掛かるかもしてるかもしれません
コンスタントに文章書ける物書きの方々の凄みを実感してます…