「むか~し、むかし。あるところに、お姉ちゃん想いの、とっても素敵な生徒がいたそうな……」
「いやっ! そういうのいいから!? 話すなら真面目に話して!」
「うん? そう? ……なら、改めて」
ヒトミ先輩は、ほんの少しだけ表情を引き締めた。
「これは、私がまだアビドス高校にやって来る前の話だよ……」
今から約三年前。
まだ私が生徒会に入っていなかったどころか、アビドスの生徒ですらなかった頃の話。
*****
当時、あたしは中学三年生で、高校進学を目前に控えていた。
そして、お姉ちゃんはあたしの一つ上。あたしより一足先に高校生になっちゃったんだよね。
……とっっっっても寂しかったのを、今でも覚えてるよ。
うん、それはもう寂しくてね。高校に行っちゃったお姉ちゃんを思って、何度枕を濡らしたことか……。
今、思い出しただけでも当時の感情が胸の中を駆け巡って、締め付けられるくらい苦しくなっ……。
……うん? さっさと話を進めろって?
ああ、それもそうか。
まあ、とにかく、あたしはお姉ちゃんのことが心配だったのよ。
だから、私なりに当時のアビドスの状況を、できる範囲で調べてみたわけ。
そしたら、もう想像以上に絶望的な状況だったことが分かってね。あのときは流石のあたしも面食らったよ。
「……なんだこれ」って。
当然、そんな学校にお姉ちゃんを通わせておくなんて我慢できなかった。
だから、すぐにお姉ちゃんに分かったことを全部伝えて、別の学校に行くように説得したんだ。
何度も、何度も。
それこそ、ケンカになりかけるくらい言葉を荒げてね……。
おかしいよね。
たかが、衰退している学校に行ってほしくない。それだけのことなのに、あそこまで必死になって。
正直、今でもあのとき、どうしてそこまで必死になっていたのか、はっきりとは分からないんだけど……。
ただ、あのときのあたしは、こう感じていたんだ。
このままお姉ちゃんをアビドスに行かせたら、きっと取り返しのつかないことになる。
…………お姉ちゃんを、失ってしまうんじゃないかって。
そんな嫌な予感がしていたんだよ。
だから、必死になった。
泣いて、喚いて、縋って、叫んで。
何とかして、お姉ちゃんをアビドスから遠ざけようとしたんだ。
……まあ、そんなあたしの努力も虚しく、結局お姉ちゃんはアビドス校に進学しちゃったんだけどね。
お姉ちゃん、ああ見えて頑固だからなぁ。
それに……アビドスのこと、本気で好きだったんだろうね。
だから、あたしもそんなお姉ちゃんが心配で、後を追うようにアビドス校に入学したってわけ。
だけど、当時のあたしにとって、アビドス校の印象はもう最悪だった。
だってさ、二年生に生徒会の仕事を全部押しつけて、他の生徒は全員いなくなったんだよ?
普通、そんなことある!?
おかしいでしょ!
生徒会が会長一人だけっていうのもおかしいし、それが最高学年ですらない二年生だっていうのもおかしい!
実際、入学したとき、周りから見てもテンパってオドオドしながら挨拶をしているお姉ちゃんを見て、すぐに察したよ。
「ああ、面倒事を押しつけられたんだな」って。
セリカちゃんは知らないかもしれないけど、どれだけ規模の大きな学校でも、生徒会や、それに相当する組織がなければ、その学区は正式な管理主体を持てないんだ。
つまり、他の学区や企業、組織に好き勝手にされても、文句を言うのが難しくなってしまう。
だから、たとえ潰れかけのアビドス校でも、生徒会と役員は必要だった。
……ここまで言えば、なんとなく分かるでしょ?
そう。
お姉ちゃんは、アビドス校を存続させるための【生贄】にされた。
当時のあたしは、そう考えたんだ。
……だけど、それは間違いだった。
だって、お姉ちゃんは自分からアビドスの生徒会長になったんだから。
正直、初めてそれを聞いたときは、流石のあたしも思ったよ。
「バカじゃないの!?」って。
だって、どう考えても、砂漠化が取り返しのつかないところまで進んでいた当時のアビドスに未来なんてないと思ったし。
そんな学校の生徒会長になったら、苦労の連続になることだって簡単に想像できた。
そんな、どう考えても罰ゲームでしかない役職に、自分から進んで就こうとする人がいるなんてねぇ……。
おまけに、自分にはほとんど得なんてないはずなのに。
……ホント、改めて考えてみても信じられないよ。
それでも、お姉ちゃんはその道を選んだ。
アビドスが大好き。
たったそれだけの理由で。
そして、あたしにはお姉ちゃんを止めることができなかった。
最初のうちは、さっさと生徒会長なんて辞めちゃいなよ、とか、アビドスを守る方法は他にもあるよ、とか言って説得しようとしたんだけど……。
お姉ちゃん、ああ見えて結構頑固なところがあるからさ。
最終的には、何を言っても無駄だって結論に至ったわけ。
まあでも、そのときは説得がうまくいかなかったことを、そこまで気にしていなかったんだ。
当時のアビドスについて調べていたから、たった一人で何とかできるはずがないことは分かっていたし。
いくらお姉ちゃんでも、しばらくすれば現実を見て諦めるでしょ、って思ってたからね。
むしろ、これで落ち込んだお姉ちゃんを慰めれば、好感度アップなんじゃない!? とか考えてたくらい。
いや~、我ながら割とゲスいこと考えてたねぇ。
……でも、結局、あたしの予想は外れることになった。
あたしが入学してから、一週間くらい経った頃だったかな。
ある日、家に帰ると、お姉ちゃんの機嫌がとっても良かったことがあったんだ。
ああ、いや、普段は機嫌が悪いってわけじゃないよ?
その日は何というか……いつもより浮き足立っている感じだったんだ。
前日までは生徒会長の仕事が大変なのか、どことなく疲れた様子だったのに。
その日は疲れなんて微塵も感じさせなくて、それどころか鼻歌まで歌って、いつもより何割増しかで元気そうに見えたんだよね。
……ちなみに、その日はお姉ちゃんの鼻歌を録音するのに忙しくて、何があったのか聞きそびれちゃったんだけど。
いや、だって貴重なんだよ? お姉ちゃんの鼻歌。
……まあ、それはともかく。
次の日、学校に行ったとき、すぐに理由が分かった。
「ユメせんぱーい! 待ってくださいー!」
「あっ、ごめんね、ヨルハちゃん。ちょっと張り切りすぎちゃったかな?」
「いえ、私が遅れてしまったので、ユメ先輩が謝る必要なんてありませんよ! むしろ、私も先輩を見習って、もっともっと気合いを入れていかなくちゃ!」
「おお! ヨルハちゃん、すっごくやる気だね! よーし、私も先輩として負けないように頑張らなくちゃっ! えいえいおー!」
「おー!」
そんなふうに声を弾ませながら、書類の束を抱えて学校から駆け出していくお姉ちゃん。
そして、その隣には、同じアビドスの制服を着た女子生徒が一人。
二人の姿を目にしたあたしは、呆然として言葉も出なかったよ。
だって、この間までお姉ちゃんは一人で生徒会の仕事をこなしながら、アビドス復興のための署名活動までしていたんだよ?
それなのに、いきなり知らない生徒が隣にいるんだもん。
しかも、やたらテンションが高いし……。
……とにかく、お姉ちゃんが急に元気になった原因は、あの生徒にある。
そう確信したあたしは、すぐに調べることにした。
あの人の大切なお姉ちゃんをかっさらおうとする、泥棒猫の正体をね。
だって、さっきも言ったけど、当時のアビドス校の生徒会に入るなんて、罰ゲーム以外の何物でもなかったんだ。
自分から進んで入るような変わり者なんて、お姉ちゃんくらいだと思っていたからね。
だから、その生徒の目的が分かるまでは安心できなかった。
もしかしたら、アビドスを手に入れるために、お姉ちゃんに危害を加えるつもりなのかもしれない。
……まあ、結果から言えば、完全な杞憂だったんだけど。
「うん。今、セリカが考えてる通り、その生徒はヨルちゃん……当時のあたしと同じアビドス一年生、月宮ヨルハだったんだ」
ヒトミ先輩は、どこか懐かしそうに笑った。
「てっきり、アビドス生のふりをしてる他校の生徒かと思ってたんだけど……普通にアビドスの在校生だったうえに、まさかの同級生でした」
「え、同級生ならすぐに気づくんじゃないの?」
「いや~、当時のあたし、お姉ちゃん以外には興味なくてねぇ……。アビドス校に来た理由だって、十割お姉ちゃんが心配だったからだし。他のことなんて、ほとんど眼中になかったんだよね」
「…………」
「……ああ、うん。言いたいことは分かるけど、そんな呆れた目を向けないでよ。自分でもどうかとは思ってるから……」
ヒトミ先輩は、苦笑いを浮かべながら肩をすくめた。
「ま、まあ、そんなわけで。とりあえず、ヨルちゃんに危険性がないって分かって一安心したんだけど……今度は別のことで、あたしの心がざわつくようになったんだ」
その原因は、当時から変わらず、お姉ちゃんとヨルちゃんの二人。
なんていうか、傍から見ていても分かるくらい、二人は仲が良かったんだよね。
相性が良かったのかな。
二人とも性格が似ているところがあったし、お姉ちゃんは初めてできた生徒会の後輩に嬉しそうにしていた。
ヨルちゃんも、理由は分からないけど、最初からお姉ちゃんのことを慕っているように見えた。
そりゃあ、二人が仲良くなるのに時間はかからないよね。
毎日、毎日、見かけるたびに、二人は慌ただしく動き回っていた。
あるときは、重たい書類の山を運んでいたり。
あるときは、町中で誰にも相手にされない呼びかけを、日が暮れるまで続けていたり。
またあるときは、署名活動そっちのけで迷子の子供を保護して、親を探し回っていたり……。
本当に、休む暇なんてないくらい忙しそうだった。
……でも、二人とも笑っていたんだ。
すっごく、楽しそうに。
大変なのに。
何の得にもならないのに。
頑張ったところで、どうにもならないかもしれないのに。
それでも、二人は楽しそうに笑っていた。
そんな二人の様子をしばらく見ていて……鈍間なあたしも、ようやく理解したんだ。
あたしが、お姉ちゃんのために本当にしなきゃいけなかったことを。
……一緒に、アビドスを復興させる。
たったそれだけのことだった。
こんな簡単なことに気づけなかったなんて……。
たぶん、あたしも、アビドスを去っていった人たちと同じだったんだろうね。
最初から諦めていたんだ。
自分で調べて、もうアビドスはどうしようもないんだって、勝手に現実に打ちのめされて。
いつの間にか、生まれ故郷を見放していた。
……だから、気づけなかった。
ううん、きっと、本当は目を背けようとしていたんだと思う。
自分が諦めてしまった道を、それでも進もうとしていた、あの二人の姿から。
あのときは、本当に悔しかったな……。
だって、あたしは誰よりもお姉ちゃんの傍にいて、誰よりもお姉ちゃんのことを分かっているって思っていたから。
お姉ちゃんを支えられるのは、あたしだけなんだって。
それなのに、あたしじゃない誰かがお姉ちゃんを支えて、あんなに素敵な笑顔を取り戻してくれた。
それが……たまらなく悔しかったんだ。
だから、かな。
気づいたのなら、さっさと生徒会の仕事でも手伝えばよかったのに、何となく行きづらくなっちゃってね。
お姉ちゃんは気にしていなかっただろうし、ヨルちゃんに至っては、あたしと面識すらなかったのに。
それでも、どうしてか、一歩を踏み出せなかった。
……ま、あたしも相当ワガママで、ひねくれた子供だったってことだよ。
自分が間違っていたことに気づいていながら、悔しさのせいで、それを素直に受け入れられなかった。
そんな、ただの子供だったんだ。
おかげで、あたしが生徒会に入ったのは、あのクソチビピンクの後になっちゃった。
しかも、踏ん切りがついた理由が、あのピンク猪が入って人数が増えたから、あたしも焦ったっていう……。
……何ともまあ、締まらない話だよね。
その後は、四人で生徒会の仕事やアビドス復興のための活動を続ける日々だった。
この辺のことは、もうヨルちゃんから聞いてるんじゃないかな?
ああ、聞いてないなら、それはそれでいいよ。
……正直、ろくでもないことも多かったし。
「ううんっ! とにかく、これであたしの昔話は終了~! ご清聴ありがとうございました~!」
*****
「ええっ!? これで終わり!?」
あたしが話を終えると、隣で聞いていたセリカは驚いたような顔をして、こちらに身を乗り出してきた。
「そ。これで終わり。一応、嘘偽りのない、あたしの昔話だったけど……どうだった?」
「どうだったって……うーん、なんというか、普通っていうか……。ずっとお姉さんのことしか話してなかったような……」
「そりゃあ、あたしを構成している九十九パーセントは、お姉ちゃんへの溢れんばかりの愛だからね! 当然でしょ!」
「いや、そんなわけないでしょうが!!」
セリカは思わず声を張り上げたあと、深いため息をついた。
「……はぁ。なんか気が抜けるっていうか、肩透かしっていうか……」
「アハハ! あたしの昔話に、一体何を期待してたのさ!」
「そ、それは……だって、あんな顔して話し始めるんだもん。もっとこう……ドラマとか、何かためになる教訓とか、そういうのがあると思うじゃない」
「ないない。何せこれは、素直になれない子供が、その性格のせいで出遅れちゃっただけって話だからねw」
「ええ……。じゃあ、なんでいきなりそんな話を聞かせてきたのよ」
セリカは不服そうに目を細め、じとっとした視線をあたしに向けてきた。
ああ、これは結構お冠みたいだね。
……原因は、あたしなんだけど。
でも、しょうがない。
確かに、セリカの言う通りだ。
はっきり言って、平凡で、どこにでもあるような話でしかないんだから。
……それでも。
あたしは、話し始める前と同じように、セリカの頭にそっと手を乗せた。
そして、まっすぐにその顔を見つめる。
「それでも、こんな話が、あたしが変わるきっかけになったんだよ」
セリカが何か言う前に、あたしはゆっくりと言葉を続けた。
「どこにでもあるような、ありきたりな日常の一コマ。それが、姉のことしか見えていなかった、ただの子供だったあたしを……少しは周りを見られる人間に変えてくれた。少なくとも、あんたみたいないい後輩の役に立てるくらいにはね」
あたしはセリカの頭を撫でながら、ゆっくりと話し続ける。
少しでも、今、迷子になりかけている目の前の子に伝わるように。
……目の前の子が、自分自身を見失ってしまわないように。
「だからさ、セリカもそんなに焦らなくていいんだよ。何しろ、今のあんたは、あの頃のあたしより間違いなくアビドスのことを思ってる。そんなあんたが、今すぐ無理に変わらなくてもいいって、あたしは思うけどなぁ」
「でも……私は……」
「それにさ、セリカはさっき、役に立つとか立たないとかって言ってたけど……それって、ちょっと寂しくない?」
「……え?」
「だって、あたしたちって、誰かの役に立ちたいから生徒会をやってるわけじゃないじゃん。少なくとも、あたしはお姉ちゃん以外の人の役に立とうなんて、これっぽっちも思ってないし!」
「いや、そこは少しは思いなさいよ!」
「何なら、いつもホシノとやり合って迷惑かけてるな~って思っても、全然気にしてないしw」
「そこは気にしなさいよ!!」
「アハハ! ナイスツッコミ! 調子戻ってきたじゃん!」
「うっ……! か、からかわないでよ! もう!」
「ごめん、ごめん。ついね」
あたしは、くすくすと笑った。
それから、ほんの少しだけ声の調子を落とす。
「……まあ、つまり、あたしが言いたいのは、焦らなくていいってこと。今の、あの慌ただしくて騒がしい毎日の中で、セリカはちゃんと成長していってるんだよ」
セリカの頭を撫でる手に、そっと力を込める。
「少しずつ。本当に何気ない、小さなきっかけの積み重ねが、セリカを変えていってくれる。だから、今すぐ何かを変えなきゃって、無理をする必要はないんだ」
そして、あたしはセリカの目をまっすぐに見つめた。
「あたしは……
セリカも、目を逸らすことなく、まっすぐにあたしを見返していた。
あたしの言いたかったことが、ちゃんと伝わっているかどうかは分からない。
何せ、あたしは昔っからひねくれ者だ。
そんなあたしには、自分の素直な気持ちを伝えるなんて、正直、自信がない。
……それでも。
目の前にいる後輩の涙が、いつの間にか止まっていることだけは、はっきりと分かった。
「だからさ。いつかセリカがそうなれるまでは、あたしたちに頼れる先輩をさせてよ」
「…………」
セリカはしばらく黙っていたけれど、やがて小さく息を吐くと、少しだけ困ったように笑った。
「……なーんか、うまく丸め込まれたような気もするけど……」
「おやおや?」
「でも、いろいろ吐き出せてスッキリしたし……少しは貴重な話も聞けたみたいだし……」
セリカは一度、夜空を見上げてから、あたしの方に向き直った。
「……うん、分かったわ。ヒトミ先輩の言う通り、私のペースで、私にできることをやっていくことにする。今の日常を大切にしながら……ね」
「うん、うん! その意気、その意気!」
あたしは満足げに頷いた。
「でも、怪しい広告とかにホイホイ引っかかる癖は、早急に直した方がいいと思うけどねw」
「う、うっさいわね!! 今はそのことはいいでしょ!! ほらっ、もう遅いし、さっさと帰るわよ!!」
「あいあい。仰せの通りに、お嬢様」
そんなやり取りを交わしながら、あたしたちは公園を後にしようと歩き出した。
……ああ、よかった。
少しは元気が戻ったみたいだね。
あとは、これから少しずつ、自分の答えを見つけていけばいい。
あたしも、そうやって変わってきたんだから。
…………まあ。
これで一件落着、と思いたいところなんだけど。
「…………」
あたしは、ふと足を止めた。
「……てなわけでさぁ、あたしたち、そろそろ家に帰るんだけど……」
セリカが不思議そうに、あたしの顔を覗き込む。
「え? ヒトミ先輩、どうしたの?」
あたしは、視線を向けた先にいる何者かへ向かって、いつも通りの気楽な口調で声をかけた。
「……いい加減、隠れてないで出てきたら?」
「えっ……?」
セリカが驚いて振り返った、その瞬間。
公園の茂みから。
建物の陰から。
そして、裏路地の奥から。
複数のヘルメット団が、あたしたちを取り囲むように姿を現した。
「なっ……!?」
セリカが息を呑む。
夜の公園に、さっきまでの穏やかな空気はもう残っていなかった。
あたしはセリカを庇うように、さりげなく半歩前へ出る。
……まったく。
せっかく、いい話で締めくくれたと思ったのに。
「……で? こんな夜更けに、あたしたちに何の用かな?」
いつもと変わらない、のんびりとした声。
けれど、その目からは、先ほどまでの柔らかな笑みが消えていた。