私とホシノちゃん、ヒトミちゃんの三人が、銃声の聞こえたグラウンドへと急いで向かう。
そこで目にしたのは、正門前に集まった十数人の生徒たちだった。
全員が同じヘルメットを被り、アビドスの校舎に向かって銃を乱射している。
――カタカタヘルメット団。
また、あの子たちか……。
「はぁ……懲りないなぁ~」
思わず、そんな言葉が口からこぼれた。
だって、あの子たちがアビドスを襲撃するのは、今日が初めてじゃない。
それどころか、ここ最近はかなりの頻度でやって来るのだ。
私が言うのもなんだけど、一体この学校のどこがそんなに気に入ったんだろう。
何度追い返しても、懲りずにまたやって来る。そんなにアビドスが好きなら、襲撃なんかせずに正規の手続きを踏んで入学してくれればいいのに。
そうしたら、喜んで歓迎するのになぁ……。
……いや、もちろん、ちゃんと反省してくれたらの話だけど。
そんな私の願いなど知ったことではないとばかりに、ヘルメット団の銃声はますます激しくなっていく。
どうやら、のんびり考え事をしている場合じゃないらしい。
まずは先生とユメ先輩を安全な場所へ避難させて、それからシロコちゃんたちと合流しないと。
「ホシノちゃん、ヒトミちゃん! 私は先生とユメ先輩を避難させるから、二人は……」
そう言いながら後ろを振り返る。
……あれ?
「二人とも?」
そこに、二人の姿はなかった。
「……あっ! もしかして!?」
嫌な予感がした。
いや、嫌な予感しかしなかった。
私は慌てて校門へと駆け出す。
そして、その直後――。
「「「ひぃぃぃぃっ!?」」」
複数人の悲鳴が、校門の方から聞こえてきた。
……ああ、やっぱり!
* * *
(アビドス校門前)
「ひぃん……。なんでいきなり襲ってくるの~」
先生が困惑した様子で声を上げる。
「このヘルメット団は、在籍している生徒が少ない私たちの学校を根城にしたいみたいで……。今まで何度も襲撃してきてるんです」
アヤネが手短に事情を説明した。
「ったく、あいつら、ホントしつこいわね! 今度こそ追い返してやるわ!」
セリカは銃を構え、ヘルメット団を睨みつける。
「アヤネちゃん、ヨルハ先輩たちは?」
周囲を警戒しながら、ノノミが尋ねた。
「まだ戻ってきていません。一体どこに……」
「心配いらないわよ、アヤネちゃん! ヘルメット団なんか、私たちだけで十分よ!」
「ん。とにかく、襲ってくるなら倒すだけ」
シロコは淡々とそう言うと、先生とユメに視線を向けた。
「先生は危ないから、ユメ先輩と一緒に下がってて」
「えっ、私も?」
ユメがきょとんとした顔をする。
「ん。ユメ先輩には、もしものときに先生を守ってほしい」
シロコは一度言葉を切り、改めてヘルメット団へと目を向けた。
「……それに、これは今アビドスに通っている私たちがやらなきゃいけないことだから」
「シロコちゃんの言うとおりですよ♪ ここは私たちに任せてください☆」
ノノミもいつもの笑顔で頷く。
「シロコちゃん……ノノミちゃん……」
ユメは二人の顔を見つめ、少しだけ目を細めた。
かつて自分が守ろうとしていたアビドス。
その場所を、今は後輩たちが自分の手で守ろうとしている。
そんな彼女たちの姿を見て、ユメは何かを思うように、そっと微笑んだ。
「……皆、行くよ」
シロコの声を合図に、アビドスの後輩たちが一斉にヘルメット団へ向かって駆け出す。
――しかし。
その動きよりも早く、横合いから一人の生徒が飛び出した。
盾を構え、真正面からヘルメット団へと突っ込んでいく。
「「「えっ、うわあああああっ!?」」」
次の瞬間、先頭にいた数人がまとめて吹き飛ばされた。
瞬く間に敵を無力化した生徒――小鳥遊ホシノは、長いピンク色のポニーテールをなびかせながら、敵から一瞬たりとも視線を外さない。
その手には、ユメから譲り受けた盾がしっかりと握られていた。
「「ホシノ先輩っ!?」」
突然の乱入に、シロコとノノミが驚きの声を上げる。
「皆、遅くなってごめんねぇ。私が前衛で突っ込むから、皆は後ろから援護して」
ホシノは盾を構え直し、いつもの気の抜けた口調とは裏腹に、鋭い視線で敵の動きを見据えていた。
「了解!」
「ん。分かった」
「任せてください♪」
後輩たちも、それぞれの武器を構えて応じる。
「では、私は後方から支援を――っ!? ホシノ先輩、危ない!!」
アヤネの叫びが響いた。
前方に意識を集中していたホシノの視界に、ヘルメット団の一人がロケットランチャーを構える姿が映る。
「これでも食らいやがれぇぇぇっ!!」
発射音とともに、ロケット弾がホシノめがけて一直線に飛んでいく。
「――っ!」
直撃する。
誰もがそう思った、その瞬間。
――パァンッ!!
鋭い銃声が響き渡った。
そして。
(ばあああああん!!)
ロケット弾は、ホシノの数メートル手前で爆発した。
「は……?」
ロケットランチャーを構えていたヘルメット団の生徒が、呆然と声を漏らす。
「な、なんで……!?」
何が起きたのか分からず、敵が混乱する中。
銃口から細い煙を立ち上らせたスナイパーライフルを担ぎ、一人の生徒が姿を現した。
「お姉ちゃん! 大丈夫!? 怪我してない!?」
真っ先にユメのもとへ駆け寄ったその生徒は、梔子ヒトミ。
「う、うん。大丈夫だよ」
「よかったぁ~……!」
ヒトミは心底ほっとした様子で胸を撫で下ろすと、改めてシロコたちの方へ向き直った。
「みんなも遅くなっちゃったね。ごめんね」
「それはいいけど……ヒトミ先輩、もしかして今、発射されたロケランの弾を撃ち抜いたの!?」
シロコが驚きを隠せない様子で尋ねる。
「す、すごい……」
アヤネも思わず呆然と呟いた。
ロケット弾を狙撃するなんて、普通なら考えられない芸当だ。
それを、この先輩は当たり前のようにやってのけたのだから。
「な~に。ただ真っ直ぐ飛んでくるだけの的なんて、余裕よ、余裕」
ヒトミは得意げに胸を張る。
「どこぞの猪ピンクと同じで、単純だからねぇ」
「おい。それは誰のことを言ってるんだ、性悪シスコン」
すかさず、ホシノが低い声で反応した。
「名前を言わなきゃ分からないなんて、やっぱり残念な頭なんですねぇ、凶暴ピンク」
「そっちこそ、状況も考えず、ところ構わず姉に甘えていく残念な思考回路をお持ちではないですか、粘着ミドリ」
「「………………」」
二人の間に、妙な沈黙が流れた。
そして。
「「〇す」」
ホシノが盾を構え直し、ヒトミがスナイパーライフルを持ち上げる。
ヘルメット団をそっちのけにして、辺りは一瞬にして一触即発の空気に包まれた。
「ま、まずいわよ! あの二人、また!」
「は、早く止めないと!」
アヤネとセリカが慌てふためく。
今日初めて二人と顔を合わせた先生も、どうしたものかと困惑している様子だった。
『そうだね。こんなときにケンカしてる場合じゃないし……』
先生も二人を止めようとした、そのとき。
「ん。大丈夫」
シロコが、妙に落ち着いた声で言った。
「ええ~。多分、もうそろそろですから☆」
ノノミも、いつもの笑顔を崩さない。
「えっ? ああ、そっかぁ……」
ユメまで納得したように頷いた。
「いや、そっかぁ、じゃなくて! 皆さん、何でそんなに落ち着いてるんですか!?」
アヤネの悲鳴じみた声が響く。
しかし、二年生のシロコとノノミ、そして卒業生のユメは、まるでいつものことだと言わんばかりに、二人の様子を見守っていた。
――そう。
彼女たちは知っているのだ。
この二人が本気で衝突する前には、必ずと言っていいほど、あの人物が現れることを。
そして、その予想は見事に的中した。
「もう、二人とも!! やっぱりまたケンカしてる!!」
聞き慣れた声とともに、一人の生徒が二人の間へと飛び込んでくる。
月宮ヨルハ。
アビドスの現生徒会長である。
「全くもう……! 今は目の前のことに集中っ!!」
ヨルハは二人の間に割って入り、両手でそれぞれを押さえ込んだ。
「ホシノちゃんも、ヒトミちゃんも! ケンカはあと! 今はヘルメット団を追い返すのが先でしょ!」
「チッ……」
「はいはい、分かってるわよ」
不満そうにしながらも、二人はひとまず武器を下ろした。
ヨルハはほっと胸を撫で下ろすと、改めてヘルメット団へと向き直る。
目の前では、まだ敵の襲撃が続いている。
守るべき校舎がある。
帰るべき場所がある。
そして、その場所を守ろうとしている仲間たちがいる。
ならば、今ここで自分がやるべきことは決まっていた。
「……みんな、行くよ!」
現生徒会長、月宮ヨルハの号令がグラウンドに響き渡る。
ホシノとヒトミ、そしてヨルハ。
三人は息を合わせるように、再びヘルメット団へと向かっていった。