「それじゃあ、いっくよーー!!」
そう叫びながら、ヨルハは真っ直ぐヘルメット団に向かって飛び出した。
銃火器という遠距離武器を持った相手に対して、ただ真正面から突っ込んでいく。
普通に考えれば、そんな行動は良い的でしかない。
ましてや相手は十数人。こちらが一人で突っ込んだところで、あっという間に銃弾を浴びてやられてしまうだろう。
――
「ギャハハッ! な~に、馬鹿正直に突っ込んできてんだ! こいつはいい的……」
「よっと!」
「ぐへっ!?」
ヘルメット団の一人が笑いながら銃を構えた、その瞬間。
いつの間にか目の前まで接近していたヨルハが、相手の懐に潜り込み、勢いよく回し蹴りを叩き込んだ。
「は、はぁ!? こいつ、いつの間にこっちに……!」
「ふんっ!」
「ぐべっ!?」
「ちょ、ちょっと待っ……」
「ほいっ!」
「あぐっ!?」
ヨルハは相手が銃を構えるよりも早く肉薄し、次々とヘルメット団員を無力化していく。
しかも驚くべきことに、彼女は一度も銃を使っていなかった。
正拳突き、回し蹴り、背負い投げ。
その全てを、格闘技だけで行っているのだ。
「な、なんだこいつ!?」
「速すぎて狙えねえ!!」
ヘルメット団が慌てて銃を構え直す。
しかし、ヨルハは素早い身のこなしで銃弾を躱し、時にはいつの間にか手にしている警棒のような武器で弾丸を弾き飛ばしてしまう。
「えいっ!」
「うわっ!?」
「そりゃっ!」
「ぐあっ!」
相手が狙いを定めた頃には、もう別の場所にいる。
銃を撃とうとすれば、あっという間に懐へ入り込まれてしまう。
かといって、近づかれたら近づかれたで、格闘技であっさりと返り討ちにされる。
……うん。
これ、ヘルメット団からしたら、かなり厄介な相手だよね。
「コノヤローッ!! 怯むな! やり返せ!!」
「だ、ダメですリーダー! こっちの銃弾、全部躱されて当たりません!」
「わーー! 銃弾はじかれたっ! どうなってんの!?」
「こ、こっち来た!! く、来るなーーー!!」
「ぎゃー! ぎゃー! ぎゃー!」
「わーー! わーー!」
ヘルメット団は完全にヨルハに翻弄され、統率が取れなくなってしまっていた。
銃を構える者。
逃げようとする者。
味方の後ろに隠れようとする者。
あちこちで悲鳴が上がり、もはや戦闘どころではない。
そして、その混乱は――。
大きな隙になってしまう。
「おいっ! 皆、落ち着け! いくら速くたって、相手は一人なんだ!! 数で押し切っちまえば……」
「「「「「ぎゃーーーーー!!!」」」」
「こ、今度はなんだ!?」
リーダーと呼ばれた生徒が、何とか団員たちに指示を飛ばそうとした、その直後。
ヨルハを取り囲もうとしていた数人のヘルメット団員が、まとめて吹き飛ばされた。
「はぁ……所詮はヘルメット団と言ったところだね」
その声に、リーダーが振り向く。
「目の前の獲物に集中するあまり、周りが疎かになるなんて」
そこに立っていたのは、小鳥遊ホシノ。
展開した盾を片手に、鋭い視線をヘルメット団へ向けている。
その左手には、ショットガンが構えられていた。
「お、お前は……!?」
「ホシノちゃん、ナイスタイミングッ!」
ヨルハは敵を蹴り飛ばしながら、ホシノへと声をかける。
「攪乱おつかれ、ヨルハ。ここからは私も前に出るから、危なくなったら任せて」
「オッケー! 頼りにしてるよ!」
ホシノは盾を構え直し、ヨルハの隣へと並ぶ。
「……それじゃあ、ドンドン行くからねっ!」
「はいはい。無茶しないでよぉ?」
「ホシノちゃんこそ!」
そんな軽口を交わしながら、二人は再び敵陣へと突っ込んでいった。
ヨルハが前方を駆け回り、敵の注意を引きつける。
その隙を狙って、ホシノが盾を構えながら前進。
敵の射線を遮り、ショットガンで周囲のヘルメット団を一気に押し返していく。
「く、くそっ! 狙え! あの二人を撃て!」
ヘルメット団が一斉に銃を構える。
しかし、ヨルハは相変わらず素早く動き回っているため、狙いが定まらない。
その上、近接戦闘に持ち込まれてしまっているので、下手に銃を撃てば味方に当たる危険もある。
「おい、撃つな! 味方がいるぞ!」
「じゃあどうすりゃいいんだよ!?」
「と、とにかくあの盾持ちを……!」
ヘルメット団が迷っている、その瞬間。
「はい、そこまで!」
ホシノが盾を構えたまま、一気に距離を詰めた。
「うわっ!?」
盾の一撃で、前方にいたヘルメット団がまとめて押し返される。
「おらおらぁ! 邪魔だよぉ!」
その隙を逃さず、ヨルハが次々と敵を無力化していく。
「うわっ、こっち来た!」
「逃げろ! 逃げろぉ!」
「いや、そっち行くな! 味方が……!」
完全にヘルメット団の隊列は崩れてしまっていた。
ヨルハが敵の注意を引きつけ、ホシノがその隙を突いて前線を押し上げる。
二人の動きは、まるで最初から打ち合わせをしていたかのように噛み合っていた。
「……ん。二人とも、いい感じ」
少し離れた場所から戦況を見守っていたシロコが、ぽつりと呟く。
「ですね~♪ ヨルハ先輩が敵を引きつけて、ホシノ先輩が押し返す。とてもいい連携です☆」
ノノミも笑顔で頷いた。
「……でも、まだ油断はできませんね」
アヤネは周囲を確認しながら、後方の敵に目を向ける。
「ん。まだ後ろにいる」
シロコの視線の先には、ヘルメット団の後方で銃を構え直している数人の姿があった。
「……ヨルハ先輩、ホシノ先輩! 後ろにも敵がいます!」
アヤネの声が響く。
「えっ? あ、ほんとだ!」
ヨルハが振り返る。
その瞬間、後方のヘルメット団が一斉に銃を構えた。
「よし! あいつらを狙え! 今度こそまとめて吹き飛ばしてやる!」
「お、おい! でも前に味方が……」
「構うな! あの二人を止めろ!」
ヘルメット団のリーダーが叫ぶ。
しかし、その指示が実行されるよりも早く。
「……はいはい。そこまでだよ」
後方から、落ち着いた声が響いた。
「え?」
リーダーが振り向く。
そこには、スナイパーライフルを構えた梔子ヒトミが立っていた。
「ヒトミちゃん!」
ヨルハが思わず声を上げる。
「お待たせ。二人とも、前に集中してていいよ」
ヒトミはライフルを構えたまま、敵の後方を見渡す。
「後ろは私が見てるから」
「オッケー! 頼んだよ!」
ヨルハは再び前へと駆け出した。
ホシノも盾を構え直し、敵の集団へと踏み込む。
そして、ヒトミは二人の動きを見ながら、後方の敵へと照準を合わせた。
「……さて」
ヘルメット団の後方では、数人の生徒が銃を構えていた。
しかし、彼らは目の前で戦っているヨルハとホシノに気を取られ、ヒトミの存在に気づいていない。
「焦る気持ちは分かるけど……」
ヒトミは小さく息を吐く。
「もうちょっと、周りを見た方がいいんじゃない?」
パンッ!
乾いた銃声が響く。
ヒトミの弾丸は、後方で銃を構えていたヘルメット団の武器を正確に撃ち抜いた。
「うわっ!?」
「な、なんだ!?」
「後ろから撃たれた!?」
ヘルメット団が慌てて振り向く。
しかし、ヒトミはすでに次の標的へと照準を移していた。
パンッ!
パンッ!
連続した銃声。
後方の敵が次々と武器を弾き飛ばされ、戦闘態勢を崩していく。
「よしっ! これで後ろは大丈夫!」
ヒトミはライフルを構え直し、前方の二人へと声をかけた。
「ホシノ! ヨルハ! そっち、あと少し!」
「了解!」
「任せて!」
ヨルハとホシノが同時に応じる。
そして、二人は再び敵陣へと突っ込んでいった。
ヨルハが敵の間を駆け抜け、素早い格闘で相手を無力化する。
ホシノはその動きに合わせ、盾で敵の攻撃を受け止めながら、ショットガンで周囲を制圧していく。
ヒトミは後方から二人の死角を補い、危険な敵を優先して撃ち抜く。
三人の動きが噛み合うたびに、ヘルメット団の隊列は少しずつ崩れていった。
「く、くそ~~っ! それなら近づかなきゃいいんだ!!」
リーダーが歯ぎしりしながら叫ぶ。
「おいっ! 手榴弾をありったけ持って来い! あの二人まとめて吹き飛ばしてやる!!」
「は、はい! 今すぐに!」
後方にいた数人のヘルメット団が、慌てて手榴弾を取り出す。
「よっしゃー! 一斉に投げろ!!」
リーダーの号令とともに、十個近くの手榴弾がヨルハとホシノに向かって投げ込まれた。
((((((ヒュ――――ン!!))))))
「……えっ?」
ヨルハが顔を上げる。
ホシノも、飛んでくる手榴弾に気づいて盾を構えた。
しかし。
(((((ドカーーーーーーン!!)))))
手榴弾は二人に届く前に、空中で一斉に爆発した。
「…………へぇ?」
リーダーは目を丸くした。
手榴弾が地面に落ちるどころか、全て空中で爆発してしまったのだ。
「な、なんで……!?」
そのとき、リーダーの耳に別の生徒の声が聞こえてきた。
「焦る気持ちも分かるけどさ~……もうちょっと、考えて投げなよ」
後方。
スナイパーライフルを構えたヒトミが、呆れたような表情で立っていた。
「まあでも、一度に投げてきてくれた方が、無駄な弾を使わずに済むから、こっちとしては助かるんだけど」
「お、お前! 今、何しやがった!!」
リーダーが声を荒げる。
「え? 分からない?」
ヒトミはきょとんとした顔で首を傾げた。
「撃ち落としたんだけど?」
「嘘つけ! あれだけの手榴弾を一度に撃ち落とせるわけないだろう!! 大体、爆発したのは全部同時だったんだぞ!!」
「うん。だから、他が誘爆するように、一つを撃ち抜いたんだけど」
「……はいっ!?」
リーダーが目を見開く。
「そりゃあ、いろんな方向から飛んでくるならまだしも、一方から、しかも一塊になって飛んでくるだけなら、このくらい楽勝だよ~」
ヒトミはライフルを肩に担ぎ直す。
「まあ、次からはもうちょっと考えて投げた方がいいんじゃない?」
「ふ、ふざけんな! そんなことあるはずが……!」
「ところでさ」
リーダーの言葉を遮るように、ヒトミが口を開いた。
「そろそろ……チェックメイトだよ」
パシュ――ン。
パシュ――ン。
パシュ――ン。
ヒトミが数度、引き金を引く。
そのたびに、後方で控えていたヘルメット団員が次々と倒れていった。
「「「ガハッ!」」」
「うわっ!?」
「な、何だ!?」
後方にいた敵は、あっという間に全員無力化されてしまった。
いや。
後方だけではない。
「よしっ! これで全員かな!」
ヨルハが周囲を見渡す。
「全く、相変わらず数だけは多い」
ホシノも盾を構えたまま、ため息をついた。
いつの間にか、前方で戦っていたヘルメット団員も全員倒されてしまっていた。
残っているのは、リーダーただ一人。
「あ、ああ……う、ああ……」
リーダーの手から、銃が滑り落ちる。
カラン……。
地面に転がった銃を拾うことすらせず、彼女はただ、体を震わせていた。
そんなリーダーのもとへ、ヨルハがゆっくりと歩いていく。
「……ねぇ?」
「ひぃっ!?」
リーダーがびくりと肩を跳ねさせる。
ヨルハはそんな彼女を見つめ、少し首を傾げた。
「貴方、よく見たら、いつも襲ってくる子じゃないよね?」
「えっ……?」
「喋り方とか雰囲気とか、何だかいつもと違うし」
「……あ、あわわ……あわわわ……」
「??」
ヨルハは困ったように頭を掻く。
「えっと……まあ、それはいいんだけど」
そして、少しだけ真面目な顔になった。
「今後は、こんなことしないようにね! いろんな人の迷惑になっちゃうから。分かった?」
「は、はい!!! も、もう二度とこんなことはしません!!」
リーダーは何度も何度も首を縦に振った。
「よろしい!」
ヨルハは満足そうに頷く。
「それじゃあ、今回のことはもういいとして……ねえ、君たち!」
「ひぃっ!?」
「良ければ、うちの学校に……」
「うわ――――――ん!!!! もう嫌だーーーーーー!!!!!」
「「「「「リーダーっ! 待ってよ~~~~!!!」」」」
「あ、ちょっと……!」
ヨルハが声をかけるよりも早く、リーダーは号泣しながらアビドス校を走り去っていった。
他のヘルメット団員も、慌ててリーダーの後を追う。
まるで脱兎のごとく、全員が校門の外へと逃げていった。
……あっという間だった。
「…………」
一人残されたヨルハは、ぽかんとしたまま、逃げていくヘルメット団を見送る。
そして。
「……ふ、ふえええん!!」
突然、泣き出した。
「せっかくの生徒数増加のチャンスが~~~~!!」
「そんなに怖がらなくてもいいじゃんか~~~~!!」
「これじゃあ、こっちが悪者みたいになってるよ~~!! ふえええん!!」
「……いや、ヨルハ」
ホシノが呆れたように声をかける。
「さすがに、あれだけやったら怖がられると思うよぉ?」
「ええっ!? でも、私、ちゃんと勧誘しようとしただけなのにぃ!」
「いやいや、勧誘するタイミングが悪すぎでしょ」
ヒトミもため息をつく。
「普通、あんなに泣いて逃げていった相手に、すぐ入学しない? なんて聞かないわよ」
「うぅ……」
ヨルハはしょんぼりと肩を落とした。
……でも。
「……それでも、アビドスに来てくれる子が増えたら嬉しいんだけどなぁ」
その呟きに、ホシノとヒトミは顔を見合わせる。
そして、二人とも小さくため息をついた。
「……ほんと、ヨルハはヨルハだねぇ」
「まあ、そこがヨルちゃんらしいんだけどね」
「えへへ……」
ヨルハは少しだけ照れくさそうに笑った。
……うん。
今回も、アビドスは守れた。
でも、いつか。
いつか、こんなふうに襲撃してくるんじゃなくて、普通にアビドスへ入学してくれる子が増えたらいいな。
そうしたら、もっと賑やかになるし。
みんなで、楽しい学校生活を送れるようになる。
……だから。
「よーし! 次こそは、ちゃんと勧誘を成功させるぞー!」
「「いや、まずは勧誘の仕方を考えようよ……」」
ホシノとヒトミの声が、見事に重なった。
「ふぇぇん……!」