幼馴染は恋するテリジノサウルス【完結】   作:タク@DMP

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第11話:大神家の一族

「トリガーが見知らぬ絶滅少女に攫われた!?」

「うん!! なんか──大神家って言ってた!!」

「大神家……面倒なのに絡まれましたね……」

 

 

 

 すぐさまスマホで連絡を取るとツバサは例の廃工場にスッ飛んでくるのだった。恐らく、絶滅少女の力を使って最速で駆け付けてくれたのだろう。 

 既にシノニムに話は行っており、亜紀良の捜索を行っているらしいが──結果は芳しくないようだった。

 

「大神家って何?」

「忍者の末裔です」

「ニンジャ!? やっぱりニンジャなの!?」

 

 曰く。

 かつては一国の主に仕える忍者の一族だったという。

 しかし、戦乱の世で国も主も滅び、残ったのは忍である彼らだけ。

 落ちのびた一族は、歴史の影で武力と財力を蓄え、かつて主が夢見た一族の再興を虎視眈々と狙っていたという。

 だが、それも幕末や近代化の波、第二次世界大戦によって阻まれ、結果的に彼らは影の一族として生きることになった。

 

「大神は闇社会を牛耳る危険組織となり、政府からは目を付けられていました。しかし──時が経つにつれて衰退。そして──ある日突然滅びました」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「僕は── 狼煙(ローエン)。大神 狼煙だ。義妹の代矢(ダイヤ)が手荒な真似をしたな」

 

 

 

 亜紀良の前に現れたのは、口元にクラッシャーマスクを装着し、厚手のコートを羽織った白髪の大男。

 力のない瞳をしており、屠殺場の豚でも見るような目で亜紀良を見下ろしている。横には忍者の少女──代矢が俯きながら控えている。

 

「どーせあんたの指示だろ。あんたがその子を俺に誘拐させた」

「代矢は義妹だ。そして、僕の言う事をしっかりよく聞く──可愛い義妹だ」

 

 此処が何処なのか亜紀良には分からなかったが、廃棄された地下施設らしいことは吹き抜ける冷たい風で分かった。

 鉄製の手錠と足枷を嵌められ、不満そうに歯ぎしりし、亜紀良は目の前の大男を睨んだ。

 

「……俺をこんな所に連れてきて、何のつもりだよ?」

「オマエ達の未来の話をしよう。明るい未来の話だ」

「誘拐犯の台詞に耳貸すと思ってんのか?」

「霧島 照」

「……!」

「……彼女は大型獣脚類型の絶滅少女。間違いないな?」

「だったら何なんだ?」

「問おう。社会の手に余る”過ぎた力”は使うべき所で使うべきだと思わないか?」

「べき? ……勝手だな。そんなの俺じゃなくて、本人が決める事だろ」

「才能を持つ側の人間が、何故才能を持って生まれてくるか──分かるか?」

 

 

 

 ガッシャンッ!!

 

 

 

 壁を思いっきり蹴りつける。空気が震え、亜紀良は鳥肌が立つ。

 大男──狼煙は言った。

 

宿()()()()()()()()()()()()()。人は己の持つ力を自覚し、使()()()()()()()()()()()()使()()()()だからだ。お前も薄々勘付いているんじゃないか? ()()()()()()()()()()()()()()()

「あ? 何言ってんだテメー」

 

 亜紀良の額に青筋が浮かぶ。

 

「──彼女達の力は、社会で生きるにはあまりにも強すぎる。力と衝動のコントロールが出来ず、学校に通えなくなった者。外見に特徴が現れ、コミュニティに居られなくなった者」

「ッ……」

「俺は、そういった者達を受け入れ、仲間に加えている。……霧島照だったか。彼女もいずれそうなる」

「テメェ、勝手な事言うんじゃねえぞ。決めつけんなよ」

 

 照の未来は暗く、彼女は社会にも仲間にも受け入れられはしない──そんな事は、隣に居る亜紀良が認めない。彼女には良き友人がいる。そして何より自分が居る。

 

「──あいつは、普通の女の子だ。普通に友達と泣いて笑って、ネイルが好きな──只の女の子だ。力に目覚めた後も、それは変わらねえよ」

「普通? 只? ──()()()()()()()()だ」

 

 足を下ろし、狼煙は告げる。相も変わらず双眸は昏く、亜紀良の言葉を理解出来ないとばかりに、彼は苛立ちを見せつけるように得物の特殊警棒を地面にたたきつける。

 

「今更スッとぼけるつもりか? 彼女は絶滅少女、レプリレクスを絶滅させる鍵だ」

「特別な力を持ってるヤツが、中身も特別だって思ってんのかよ? 自分の道くらい、自分で選びたいのは当然だろ!!」

「誰しもが自分で自分の道を決められると思ったら大間違いだ。環境、周囲の人間、選択肢が無かった者はこの世に山のようにいる」

「……だったら何だってんだ!! 何でそこまでして照を欲しがる!? アイツの今を、未来を奪って良い理由にならないだろ!」

「古田亜紀良……霧島照と共に、僕達の所へ来い。シノニムなどと言う欺瞞塗れの組織を捨てて、僕と共に来い。僕は──絶滅少女の真の自由を約束しよう」

 

 大きく手を開き、仰々しく芝居がかった仕草で彼は言ってのける。

 

「──”大神刃狼商会”。それが、僕達の名だ。全てのレプリレクスの根絶の先にある、絶滅少女の未来を真に憂う組織」

「……」

「シノニムは、邪魔となった絶滅少女を簡単に始末する。己の力が抑えきれず、社会から受け入れられず、爪弾きにされた者、あるいは自分の都合に悪い者を公権力の名の下に処分する」

 

(そーいや、そんな話をつばちーから聞いたな……)

 

 トリガーに拒絶されて暴走し、トリガーを殺害。そして、力を抑えられずにシノニムの手で葬られた絶滅少女の事を亜紀良は思い出す。

 それを「仕方なかった」と思ってしまった、と考えてしまった亜紀良だったが──同時に、もしその少女が照だった時、そのように割り切れただろうかとも考えてしまった。いずれにせよ、シノニムによって不必要な犠牲の拡大は止められたのであるが──

 

「大神は仲間を見捨てない。僕の作る新たな大神も、仲間を見捨てはしない。お前達の事を思って誘ってやっているんだ。邪魔になった瞬間切り捨てられるような組織に居たくはあるまい?」

「俺達に入って、どうしろって言うんだ?」

「──英雄になって貰う」

「は?」

「……大型レプリレクスは、同じく大型獣脚類型の絶滅少女無しでは甚大な被害を出しかねない。必要なんだよ。お前達の力が」

「……戦えってのか」

「報酬は支払う。むしろ、絶滅少女が食いっぱぐれないように、レプリレクスの存在を裏社会に広め、討伐をビジネスにしようとまで考えている」

 

 危険だ、と亜紀良は感じた。

 上っ面は良い事を言っているつもりだが、レプリレクスどころか絶滅少女の存在が裏社会に広がる事のリスクをこの男は考えていないのか? と疑問にすら思う。 

 もし彼の言うビジネスが実現すれば、絶滅少女を単なる戦闘力として運用しようとして攫う組織が現れるのではないか、と亜紀良は危惧する。

 そもそも、実現する気があるかどうかはさておき、この男の言っていることは全て建前で──本音は照を戦闘力として招きたいのではないか、というのが透けて見える。

 感情の起伏こそ感じにくい。だが、その奥底ではグツグツと煮えたぎった憎悪と、それを晴らす為ならば何をしても構わないという黒い執念が感じ取れた。

 

「トリガーであるお前が”はい”と言えば、あの少女も僕達の所に来ざるを得ないだろう」

「わざわざ決闘を持ちかけた理由は──?」

「見せつける為だ。シノニムに──俺達のやり方の正しさをな。そして何より、我が義妹・代矢の意向だ」

「……」

 

 代矢は不安そうに右肩に手をやり、目を逸らす。

 

「……幾ら獣脚類型と言えど、目覚めて数日の素人相手では戦いになりはしない。そこで、時間的猶予を与えてやるのだ」

「へーえ、優しいじゃねえか」

「だが、僕としては時間の無駄だと考えている。あいつらの生温いやり方では、絶滅少女は本来の力を発揮出来ん。哀れだ……」

「……結局俺は只の餌か。いやー、人気者は辛いね!」

 

 自嘲しながら彼は手錠をカチャカチャ言わせる。仲間にするつもりなら、これを外せよ、と言わんばかりに。尤も、大人しく従ってやるつもりは亜紀良には微塵も無いのであるが。

 しかし、返って来たのは意外な返答だった。

 

「そうでもないぞ? 古田亜紀良──古田安良太の息子」

「父さんを知ってんのか」

「シノニムの創設者だったことも調べが付いている」

「……何だって?」

 

 亜紀良は目を瞬かせた。意外な相手から父の名前が出たからである。

 

「シノニムがどうして、霧島照だけでなくオマエを熱心に保護しているのか──分かるか?」

「俺が古田安良太の息子で、トリガーだからだろ」

「自覚無しか──まあ良い、”大神刃狼商会”に来れば、教えてやる」

「……安い釣り餌だな」

「安心しろ、僕はオマエの事をもっと高く買っているつもりだ」

 

 そう言うと、狼煙は代矢へ目配せした。

 彼女は頷くと亜紀良を檻から出し、手錠の鎖を持ったまま連れ歩く形となる。

 先頭は狼煙が歩き、しばらくすると鉄扉が立ち並ぶ廊下に辿り着いた。

 狼煙が扉の1つを開けると──「入れ」と顎で促す。

 

「──代矢」

「……はい」

「あん? 一体何するつもりだ」

()()()()()()()()()()だよ。しっかり受け取り給え」

 

 粗末なベッドが1つ置かれていた。そして小さな棚の上には電池式のランプが灯りを照らしている。

 そのまま、狼煙は扉を閉める。外から鍵を掛ける音が聞こえてきた。

 亜紀良をベッドに座らせた代矢は、手錠、そして足枷の鍵を外す。

 図らずも身体が自由になった亜紀良は、二人っきりになった代矢に向かって「なあこれはどういう──」と言いかけた頃には、彼女は既に髪を解き、鎖帷子を脱ぎ捨てていた。

 後に残るのは肩と腹を露出させた黒いインナーと、短いスカートだけだ。

 

「兄者が言ったはずでござる。……前払いの報酬でござるよ」

「自由にしてくれるってわけじゃねーみたいだが……まさか、報酬と言う名の暴力とか」

「……亜紀良殿は……その、女性経験は……あるでござるか?」

 

 亜紀良は言葉を失う。1つしかないベッド。密室。そして、この状況での質問の意図を考える。

 

「いや、無ェけど──オイ待て。まさか報酬は……」

「……」

 

 覆い被さる形になった代矢は、亜紀良の手首を掴む。そして、自分の胸に持っていった。

 ふに、と柔らかさがダイレクトに掌から伝わってくる。少なくとも照よりは成長している膨らみに胸が高鳴る亜紀良。

 そのまま、何処か意を決したような表情で代矢は告げた。

 

 

 

「拙者を……抱いてほしいでござる」

 

(ハ、ハ、ハニトラ──ッ!!)

 

 

 

 潤んだ目、そして困ったような顔。思わず亜紀良は彼女を押し返し「待て待て待て!!」と怒鳴った。

 

「えっと、そうでござるな、抱く側だから……亜紀良殿が上に」

「違うそうじゃねえ!! 正気か!? 正気か、あいつ!! 自分の義妹を、今日攫ってきたばっかりの奴に宛がう兄貴が何処に居るんだ!?」

「……えーと、代矢の身体はお気に召さなかったでござるか?」

「おい待てよ。お前は良いのかよ!! 抱く、抱かれるの意味は……分かってんだろうな!?」

「わふ!? そ、それは勿論、男女で子を成す行為──」

「はい分かった、確信犯って事だな!! あのクソ野郎、絶対に生かしておかねえ……!! 人の事をナメてやがる!!」

「……兄者の事を、あまり悪く言わないでほしいでござる」

「ああ!? お前、自分が何されてんのか分かってねーのか!?」

「そっちこそ!! ……兄者の事を何も知らないのに」

「ッ……」

 

 キュッと唇を横一文字に結ぶ亜紀良。確かに、自分は──狼煙の事は何も知らない、と考える。だが同時に、自分の義妹を見ず知らずの男に宛がうヤカラの心中など知りたくもないとも考えてしまっていた。

 目的の為ならば義妹という身内の身体すら取引の駒にする、冷酷で非常な男としか思えない。

 

「……君はどうなんだよ。男相手なら、誰にでも抱かれて良いって思ってるのか?」

「それが、兄者の為になるならば」

「だったらやめとけ。俺は君を抱くつもりは無ェし、仮に君を抱いても刃狼商会の世話になるつもりはない」

「……頑なでござるな。しかし、世の中には既成事実と言う言葉があるでござる」

 

 そう言えば、と亜紀良は辺りを見回す。避妊具らしきものも避妊薬らしきものも見当たらない。

 そして、覚悟を決めたかのように目を瞑った彼女の頬とうなじに毛皮が生え揃う。獣の耳が生え、目は狼のそれに近くなった。

 ふさふさとした尻尾が尻からは生え、人狼少女とでも言わんばかりの姿となった。

 

「オ、オオカミ!? オオカミの絶滅少女──」

「然り、代矢はニホンオオカミの力を持つでござる。人間の力で、代矢に勝とうなどと思わないことでござるな」

 

 ニホンオオカミ、と聞いて亜紀良の脳裏に浮かぶのは数少ない剥製の写真だった。

 かつて日本に生息しており、明治時代頃に絶滅したとされている中型犬程のサイズのオオカミの仲間だ。結局、研究が進む前に絶滅してしまったため、生態どころか絶滅の原因すらはっきりとしていない。ただ一つ言えるのは、人間による「狼狩り」が無関係ではないとは言えないくらいだ。

 成程、確かに「大神家」に相応しい絶滅生物だと納得する亜紀良だったが、古生物マニアとして同時に妙な違和感も覚える。

 

(にしちゃあ、耳がデカいっつーか……ジャッカルに似てる気がするのは、気の所為か……?)

 

「なぁに、天井のシミを数えている間に終わるでござるよ」

 

(とか考えてる場合じゃねえ!!)

 

 考察をしている時間は無い。

 手首をベッドに抑えつけられ、無理矢理亜紀良は押し倒される。完全に形勢逆転。力を入れても、跳ね退ける事が出来ない。以前、照が最初に覚醒した時と全く同じ。絶滅少女と男子高校生の間には、肉体面で大きな隔たりがあるのだ。

 

「──代矢が亜紀良殿の子を身籠れば……どの道、亜紀良殿は霧島照の下に帰る事は叶わない──ッ!!」

「最悪だ!! まさかそれも、狼煙の指示か!?」

 

 まさかこの短い期間で、二度も無理矢理女子から襲われる羽目になるとは思わなかった亜紀良であった。避妊など元より代矢は考えていないのである。

 

「……ッ!! だったら何でござるか!!」

「もっと自分を大事にしろよ!! 簡単に身籠るとか言うな!! 取り返しがつかない事なんだぞ!? お前をそこまでさせる狼煙は、お前の一体何なんだ!!」

「世界でたった1人の、代矢の家族で……命の恩人でござるよ!!」

「ッ──命の恩人だと!?」

「代矢は……昔、暗くて冷たい場所にずっと居たでござる。毎日注射を打たれて、苦しくて、痛くて、それでも声を上げられなくって──」

 

 思い出すと口惜しさと恐怖が今でも思い起こされるのか、代矢は涙を浮かべて言った。人体実験、とでもいうべき扱いだ。

 どのような経緯で彼女がそのような施設に送られることになったのかは分からない。だが、子供一人でそこから抜け出すなど不可能に等しかった。

 そんな希望どころか絶望すら奪われ、諦めの日々を送っていた代矢の下に──狼煙は現れた。

 

「兄者は施設を潰し、代矢を助けてくれた。兄者が居なければ、代矢は今頃此処には居ないでござる!!」

「ッ……あいつはお前を利用してるだけだ!!」

「それでも!! 代矢が居なければ……兄者は1人になってしまうでござるよ……!!」

「大神家って言うくらいだから、他にもいるんじゃねえのか!?」

 

 ふるふる、と代矢は首を横に振った。

 

 

 

「もう居ない。大神家は、代矢と兄者の二人だけでござる」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──披露宴。

 花嫁と花婿が結ばれ、親族皆がそれを祝福する世界で一番幸せな日。

 いずれ大神家の当主となる男は、長年思いを寄せていた幼馴染と、此度結ばれるはずだった。

 大神家は決して綺麗な家柄ではない。だが「それでも」と共に歩むことを受け入れてくれた彼女を、狼煙は生涯大事にする覚悟を決めていた。

 両親が、親族が、祝福する。山奥の神社で執り行われる、狐の嫁入りの如き結婚式。

 ささやかではあったが、一生の思い出になるはずだった。

 

 

 

 

「──ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオンッ!!」

 

 

 

 

 ──その日、大神家は滅び去った。

 披露宴に現れ、黒い炎と災禍を撒き散らした巨大な獣。

 見上げる程に強大な姿に大顎。王の如し威容。

 更に、家来のように侍らされた、羽毛を持つ簒奪者の群れ。

 女子供も、老人も、皆殺された。

 

 

 

 花嫁も目の前で殺された。

 

 

 

 成す術は無かった。

 

 

 

 ただ一人、残ったのは──花婿だけだった。




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