幼馴染は恋するテリジノサウルス【完結】   作:タク@DMP

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第15話:あたしを見て!

「うっひょひょひょひょひょぉぉぉぉーっっっ!! あひあひあひあひあひぃぃぃぃっっっ!!」

 

 

 

 それはシノニムの飛行艇にバイタルチェックの為立ち寄った時の事である。

 かねてより自らの欲望に忠実な古田 亜紀良は、それを躊躇なく代矢にぶつける事にした。それは──群狼の術を自分の目の前で使ってほしいというものであった。

 勿論、何のことか分からない代矢はそれを快諾。結果、変態は本物(といえるかは微妙だが)のダイアウルフに囲まれて昇天しかかっていた。

 現場を目撃した照とツバサも、白い目。

 

「これは、何の催しですか?」

「アキ君……?」

「ああ、見てくれ二人共!! 天国だぞ」

 

 ダイアウルフと戯れる亜紀良の顔は完全にご満悦であった。ついでに、喜んで貰えているからか代矢も満足げだった。お前はそれで良いのか。

 

「わふふ、代矢の能力がこんなところでも役立つなんて」

「ねえ、大丈夫? 代矢ちゃん……」

「これくらいお安い御用でござるよ!! 曰く”君の能力は考古学発展の礎になるんだよ!!”だとか!!」

「はぁ……それは只の建前だよッ!!」

「短いあんよが可愛いねぇ!! 肩甲骨がバッキバキで筋肉も整ってるよォ!! 肩にチョモランマ飼ってんのかいッ!!」

「ボディビルの会場かな!?」

「お手!! お座り!!」

「犬の芸をダイアウルフに仕込もうとしないでください」

「わふ」

 

 尚、それをノリノリでこなすダイアウルフであった。絶滅動物としての尊厳は何処に行ったのか。

 

「わふふーっ! 代矢のオオカミ達は、良い子でござるよーっ!」

「そういえば、この子が動かしてるんだった、このオオカミ……」

「やっぱり耳はジャッカルっぽいねえ、体毛もオレンジだし──フゥー……興奮するッ!!」

 

 そして、どばばばばば、と鼻血を垂れ流し続ける変態は、メジャーでオオカミの身長を測りまくっている。このまま失血死するのではなかろうか、と照は心配になるのだった。

 この男は数日前にはカッコいい言葉で代矢を説得していたのに、控えめに言ってカスである。これでは、義妹を躊躇なく他の男に宛がおうとする奴とどちらがマシか分かったものではない。

 救いだったのは、群狼の術自体は代矢の身体に全くと言って良いほど負荷がかからない技であったことか。代矢自身、この技を繰り返し使っているので、既に力の使い方を最適化させているのだ。

 

「なぁこれ、何匹でも出せるんだよな?」

「最大で8匹ほど出せるでござるな! わふっと──忍法、”群狼の術”!!」

 

 ふぅ、と自分のうなじの毛に息を吹きかけると、追加でオオカミ達が現れる。

 

「おほぉぉぉぉーッ!! パラダイスじゃーッッッ!!」

「わふーっ! 見たでござるか? 見たでござるか!? これが、代矢の”群狼の術”でござるよ!」

「……」

 

 興奮しすぎて「至って」しまった亜紀良は頬を上気させながら、狂い悶えている。

 だが、意中の幼馴染が他の女の子に──というよりその能力で出現したオオカミにデレデレしている様を見て、ドン引きする照だった。

 

「あ、あたしの時は、こんなにならないのに……!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「おこだよ!!」

 

 

 

 霧島 照はおこであった。そんな彼女に同情するかのように、ツバサはコーヒーをマグカップに注ぐ。今日も今日とてブランドは王室御用達のアイレス。彼女は生活費以外だと、コーヒー関連に最も金をつぎ込んでいると言っても過言ではない。

 

「……やっぱり歪みないですね、トリガー」

「うぐぐぐ!! 代矢ちゃんに……ってか、ダイアウルフにあんなにデレデレしちゃって!!」

「前から思ってたんですが、何で()()()()を好きになっちゃったんですか」

「ほんっと……何でだろーね……」

 

 飛行艇の中の応接室で、ツバサの煎れたコーヒーを飲み、そして茶菓子を丸のみにしながら照は遠い目。結局の所、惚れた弱みとしか言いようがない。

 

「いつから好きなんですか。トリガーのこと」

「……分かんない。幼馴染で、ずっと一緒に居たからっていうのもあるけど……泣き虫なあたしの事、何かと励ましてくれたから」

 

 そして何より──夢を追いかけている時の亜紀良は、誰よりもキラキラと目が輝いている。確かに照は、彼の真っ直ぐなところに惹かれたのだ。 

 おまけに、普段はあれだけ変人奇人っぷりを隠さないというのに、いざという時になると彼は真っ先に身を挺して照を守ろうとする。

 

「……ズルいんだよ、本当に……あーもう……」

 

(こじらせてますね……)

 

「アキ君、何だかんだで優しいから代矢ちゃんにも懐かれてるんだろうな……はぁ」

 

 しかし、それはそれ、これはこれ。恋する乙女は、意中の相手が自分以外の女の子に現を抜かしていると気が気でないのだ。

 

「このままじゃ結局アキ君が代矢ちゃんに盗られる……!! 代矢ちゃん、あれで結構天然だから、アキ君に全く嫌悪感とか感じてなさそう!!」

「頼られて喜ぶタイプですからね」

「にゃーっっっ!! ヤバいよ、ヤバいよーっ!!」

 

 ジャキン、と爪を伸ばす照。力のコントロールというものが全くできていない。

 それに対し、こっちもこっちで問題であることを認識したツバサは眉間を摘みながら呆れるのだった。

 最初に会った時はもっと穏やかだと思っていたが、この照という少女は聊か直情的過ぎるきらいがある。特に亜紀良が絡むとその傾向は顕著だ。

 

「友達になろうって言ったばかりなのに対抗心バリバリに燃やしてるじゃないですか」

「だ、だって!! ズルだよアレは!! 部屋に勝手に上がり込むし、ベッドの中には潜るし!!」

「はぁー……さっさとトリガーに告白して付き合えば良いのでは」

「ダメだよ!! アキ君、あたしの事全然女の子として見てないもん!!」

 

 

 

 ──あー、悪い……人間の女の子は、守備範囲外なんだわ。

 

 

 

「こんな事言われたら、あたし二度と立ち直れない!! そのまま絶滅少女どころかレプリレクスになっちゃうかも……」

「トリガーなら言いかねない……あと、貴方の介錯なんてゴメンですから冗談でもやめてください」

「あ、ごめん、冗談でも言って良い事と悪い事があったよね」

「いや──大型獣脚類の相手なんて真っ平御免だからです、甚大な被害が出ます。貴女絶対にしぶといんで」

「そっちかぁー」

「それにしても、問題はトリガー自身ですね」

「?」

「今一度確かめてみるとしましょう。ちょっと気になっていた事があるので」

 

 この朱尾ツバサという少女は、心がけていることがある。

 それは、共に戦うチームメイトのパーソナリティや能力の把握、そして分析である。

 相手が「おもしれー男」「おもしれー女」であれば、猶更その行動原理や趣味・趣向を知り、それが戦いでどう反映されるのかを知っておく。

 それが作戦に勘定されることで、彼女の組み立てたプランはより完璧なものへと近付く。

 ドイツに居た頃から学校のクラブ活動でそのブレーンっぷりは遺憾なく発揮されており、彼女が居るチームの勝率の高さは彼女が司令塔を務めているが故と言っても過言ではなかった。

 シノニムに所属して早1年で、新人の監督役を任されているのは、彼女の面倒見の良さ、そしてマネジメント能力の高さ故である。

 

 

 

(トリガーという男……私も興味が無いわけではないんですよ)

 

 

 

 ──問題は、ツバサ自身、自らが「おもしれー女」であるという自覚が無い事であった。彼女は自分の知識欲の為ならば手段を選ぶという事をしないのである。

 

 

 ※※※

 

 

 

 その次の日。

 放課後に飛行艇の一室でツバサは「行儀よく来たようですね」と来訪者に告げた。怪訝な顔の亜紀良が「オメーが呼び出したんだろ」と返す。

 

「おい、何の用だ? てるてると()()()()()を挟まないで俺にだけ用事って何なんだ?」

「ダイちゃんって代矢さんですか」

「そうだけど」

「また仇名を付けてる……ま、それは良いでしょう。今日は一つ、確かめたい事がありまして」

「何だ?」

 

 すっ、と亜紀良に近付いたツバサは、その手首を握る。そして──自分の胸に近付けさせた。

 びくりと肩を震わせた亜紀良だったが、間もなく掌に柔らかい感触が伝わる。

 

 

 

 ふにゅ

 

 

 

「……ッ!? お前、いきなり何すんだよ!?」

 

 すぐさま手を払い除けた亜紀良の顔は──真っ赤になっていた。いきなり自分の胸を触らせる彼女の神経がよく分からなかった。

 

「あー、はいはい、分かりました」

「なにが!?」

「……貴方、意外と奥手というかウブですね」

「はぁ!?」

 

 訳が分からない、と言わんばかりに亜紀良は目を瞬かせる。

 

「てっきり、古生物にしか興奮出来ない変態だと今まで思っていましたが……少し安心しました。私の身体でも意識してしまうくらいには正常でしたか」

「バカにしてんのか!? いきなりどういうつもりだよ」

「別に。こんな()()()()()()()、触られてもどうという事はありません。これ以上、減るもんじゃありませんし」

 

 ツバサは自分の身体リソースは全て、絶滅少女としての戦いに注ぐべきだと考えている。代矢とは別ベクトルで自分の身体に頓着していないのだ。

 女性的な起伏が少ないのも、始祖鳥の力を宿す者としては長所だと彼女は考えている。体が重いとジャンプや滑空の邪魔になるからだ。しかし、そんなことは亜紀良には関係ない。服越しだったとはいえ、思春期の男子には──というより、亜紀良にはあまりにも刺激が強すぎるものだった。

 

「無いって……!! フツーに()()()()()()()……!?」

 

 わきわき、と掌を動かしながら──彼は蒼褪める。そう言えば、この感触。本来、女性の服の下に「あるはず」のものが感じられなかった。

 

「お前、ちょっと待て……セクハラを承知で聞くが、まさか下着を」

「何故必要なんです? 私の身体には必要無いものですが」

 

 その返答に亜紀良は頭を抱える。女子として大切な何かを投げ捨てたかのような発言であった。

 

「おい!! 自分の身体は大事にしろッ!! あんまりだろ、幾ら何でも!! てるてるが聞いたらキレるぞ!!」

「飛ぶときに邪魔になるんですよ」

「トんでるのはテメェの常識だッ!! ああ、つばちーだけは常識人だと思ってたのに!!」

「貴方にだけは言われたくありませんが」

「大体何なんだ!? 俺が勘違い野郎だったらどうするんだ!? この場で襲われても文句は言えねーんだぞ!?」

「おや、勘違いしてしまうのですか? てっきり、意中の相手が居るものだと思っていたのですが」

「あ!? な、なな、何のことだよ」

「別に──では、これとかどうですか」

 

 飛行艇の中なのを良い事に、ツバサは躊躇なく己の変身を晒す。

 頬には鱗が生え、腕には羽毛が現れる。そして、部屋には当然、始祖鳥由来のそれが散らばる訳で──目の色を変えて亜紀良は飛びついた。

 

「オホーッ!! 羽毛ーッ!! 始祖鳥の羽毛ーッ!!」

「うわ」

 

 ツバサはドン引きした。

 彼女が亜紀良に感じる気色悪さは概ね、この「理解出来ない趣味・趣向」にあると言っても過言ではない。

 思春期男子が女子の胸だの尻だのに興味を示すのは、まあ分かる。理解出来る。特にツバサはスキンシップに寛容な環境で育ったが故か、ある程度気を許した相手ならば身体を触られても気にしない。

 だが──絶滅少女の変身後の身体の一部位に興味を示すヤカラは初めて見た。やはりこの古田亜紀良という男、古生物に対しては並々ならぬ執着と執念の持ち主である、と確信できる。

 一体何が彼をそこまで惹きつけるのかは分からないが──しかし。それでも分かる。今の彼の「反応」はいつものそれに比べても若干鈍い。ピンセットを取り出して羽毛を拾う時も、若干大袈裟な「フリ」や動作が入っているのをツバサは見逃さなかった。

 

「……なんというか、貴方の事が少し分かった気がします」

「ああ!?」

 

 途端に冷静になった亜紀良に対し、見下ろす形でツバサは言った。

 

「恐竜相手への興奮は、どちらかといえば学者としてのサガ。研究資料を見つけた時の学者と同じ反応です。ただ、興奮の度合いが異常に大きいだけの話です」

 

 変身を解除したツバサは勝ち誇る。古田亜紀良という少年のパーソナリティが多少なりとも解明出来たからだ。

 

「一方、それはそれとして女体に対しても興味がある──ただし、女子への免疫が無さすぎて挙動不審になってしまう」

「うぐ……!!」

「なぜなら、貴方は貴方が思っている以上に真面目だからです。照さんといる時だって、彼女が振り回されているように見えて、実は貴方の方が振り回されて尻に敷かれている側でしょう」

 

 図星だった。

 

「そんな自分を隠したいがばかりに、私達相手に普段はあくまでも恐竜好きの変態として意図的に振る舞っている。貴方は変態ですがバカではありません。自分が周りからどう思われてるか理解している」

「……」

「だから、それを良い事に相手を女として意識しているのを、自分のキャラで誤魔化そうとしてしまうフシがありません?」

 

 これもまた図星であった。

 古生物を前に抑えが効かなくなってしまうのは事実だ。だが同時に──亜紀良はそんな自分を理解しており、女子の前など意識してしまう相手の手前では、余計にそれを大袈裟にするフシがあった。意識的にではない。これは無意識に身に着けてしまったクセのようなもの。そして──

 

「思春期特有の典型的な自意識過剰な仮面役者──なんというか、()()()()()()()。照さんが苦労している理由が分かった気がします」

「か、からかってんのか……!?」

「良いじゃないですか。役得だったでしょう? ただ──本心を誤魔化そうとするのは悪い癖ですね」

 

 手を振ると、ツバサは満足げに部屋を出て行った。一方、完全に男子の純情を弄ばれた亜紀良は怒り心頭だった。すると──何かを思い出したかのように戻ってくる。

 

「あ、そうだ。お詫びに、今度からは私の羽毛、好きなだけ見て良いですよ」

「!?」

 

 これは紛れもない本音である。正直、彼女としても亜紀良の事を弄んだ自覚はあったので、せめてもの謝罪の気持ちであった。

 立ち去っていくツバサの後姿を見送りながら、彼はしょげたように壁にへたり込むのだった。

 

 

 

「な、何なんだよ、あいつ……!? マジで何考えてるのか分からねえ……」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 更に次の日。

 亜紀良のパーソナリティを凡そ把握できたと踏んだツバサは、弁当を食べ終えてネイル器具を弄っている照の肩を叩いた。近くに今、亜紀良の姿は無い。

 

「ど、どしたの、ツバサちゃん!?」

「……照さん。多分いけますよ」

「何が!?」

「押せば通る、ということです。私が保証します」

 

 流石に自分の胸を触らせて反応を見た──とは言えなかったが、彼女は自らの知見を照に伝えた。

 

 

 

「……幾ら化石バカと言えど、男子は男子だったということです」

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