それはぎゅっという可愛らしい音では無く、ぎっとまるで木製の床が軋むような音だった。
「お、ぐぉぁっ!?」
膝が折れる。手を握られたのに対し始めに悲鳴を上げだのはこの身体を支えていた二本の足だった。
驚きに見開いた目はただ地面を見つめていた。
その姿、許しを請うように不様。
握られた手が持ち上げられる。
「どうしたの?」
まるで釣り上げられた魚のような姿の俺に不思議そうにこちらの顔が向けられる。
顔を覗いてくる彼女の澄んだ瞳に俺は恐怖した。
まるで無自覚、今自分が俺に対して何をしているのかを、何故俺が膝をついたのかこれっぽっちも理解をしていないのだろう。
この少女、なんの怒りも喜びもなく、俺の手をまるで万力のように押しつぶしにかかっている。
狂気。
彼女にとってそれは当たり前で日常的であるのか。
己の握力に何の疑いもないのか。
道端に落ちた見えないナイフ。
なんの理由も無く、何の悪意も無く、その刃は誰かの足を切り裂くだろう。
彼女の腕はソレだ。
今、何の理由も悪意も躊躇いすらなく俺の手を破壊した。
今度は本当に、放してと許しを請うため見上げた彼女の顔。
ふいに、にこりと笑われた。
「君の顔、なんだか可愛い」
あ、悪魔だ。
01.あの子の右手が破壊兵器。
その子と出会ったのは偶然、て言えば偶然なのだろう。
名前はフェイト、フェイト・T・ハラオウン、そういうらしい。
転校生で金色の綺麗な髪をしていた。
別に、外人が少なくないこの学校でそれが人一番目立つってことは無かったけど。
ただ自分の髪を一束つまんでみて、俺とは違うな、そんな事を思った。
転校してきた当時は特に話す事なんてなかった。
俺と彼女の席は離れていたし何より話す事とか接点なんて何にも無かったから。
そんな彼女と俺が、二人っきりになったのはただ日直で重なっただけ。
そんな簡単な理由。
名前の頭文字、あから始まって男女分けられたらそれがただ重なっただけ。
ただ俺の苗字がふで始まるから選ばれたのに、彼女はフェイトのふで選ばれたのは何かおかしい、なんて思う。
日直を二人で、て言っても特にこれといって何があったわけじゃない。
漫画じゃあるまいしそこに何の気落ちも無かったけど。
ただ、あげるとすればあの時か。
「じゃあ、俺これを持ってくから。何かあったら呼んで」
提出するプリントを手にそう彼女に話しかけた時。
何故か彼女は不安そうな顔をした。
こちらが首を傾げるとぼそりと小さな声で何かを呟いた。
「どういう風に、呼べば……」
なに言ってるの?
素直にそう思った。
いや、適当に呼んでくれればいいのに。
なんか変に真面目だ。
そんな事を考えている家にもじもじとしだした彼女がまた口を開く。
「あの、名前……まだ、皆の名前覚えきれてなくて」
なるほど、やっぱり変なやつ。
そんな事、考えていたのか。真面目。
笑いそうになるくらい、馬鹿馬鹿しいとは思ったけど。
「まひる。古河まひる」
だから名乗ってやるとさっきまでオドオドとしていた情けない顔がへにゃりとこれまた情けない笑顔に変える。
「あの、私はフェイト。フェイト・T・ハラオウン」
知ってる。
そう返して僕は左手を差し出した。
「よろしく」
そう、ただそれだけの挨拶のつもりだった。
だった、はずなのに。
※
可愛い。
彼女は俺の痛みに歪む表情をそう捉えた。
おそらく彼女の身体には人を痛めつけて喜ぶ血が流れているに違いない。
なんと恐ろしい血だ。絶対彼女の家族には近づかない。
たぶん彼女のお母さんとかは鞭で人を叩いちゃうんだろう、ぜったいそうだ。怖い。
もしかすると遠い未来、俺が彼女に鞭で叩かれるという可能性だって無きにしもあらず。
いや、彼女場合あの左手がある。
そんなまどろっこしい事をせず俺の身体のどこかを握りつぶしてくるに違いない。
お、恐ろしい。
もう恐怖しか感じない。
力で叩きのめされ、言葉で心までもが砕かれた。
簡単に、そう、簡単すぎる。
どこか自分は特別なんだと思っていた。
別に勉強をしなくたってテストで点数はとれたし一度見せられたら動きなら何となくで出来るから運動だって得意。
だから思い上がっていた。
知らなかった。
上には上がいる。
その事を握手一つでわからされた。
これが俗に言うトラウマというやつなのか。
馬鹿馬鹿しいと他人には笑われるかもしれない。
しかし誰か注射の針を苦手なように、俺は彼女の小さな手が……
俺は彼女には勝てない、そう覚え込まされてしまった。
最も分かりやすく、痛みで、恐怖で。
最低、な気分だ。
女子に負けるなんて、情けなくて。
でも、プリントを提出して教室に戻った時。
こちらに笑顔を見せた彼女に、
泣きそうになった。
。
凄い久しぶりに書いたが……全く書けない。
リハビリ的に細々と書いていきたい。