もしあの子が手を握る事に特化していたら。   作:枝切り包丁

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02.あの子の右手が拘束具

 

 

「まひる」

 

 

あの日以来、彼女は俺をそう呼ぶようになった。

別に古河でもいいだろうに。

 

少しの恥ずかしさとまるで心臓を握られたような恐怖。

 

それに、

 

「ど、どうしたの、ハラオウン、さん?」

 

「あっ、フェイト、でいいよ?」

 

何で、そんなに親しくしてくるの?

同じ日に日直になって、名前を名乗りあった、それだけだろうに。

 

「えっと、その、俺とハラオウンさんは、それほど親しくないでしょ?」

 

「え、私とまひるは友達、だよね?」

 

いや、いやいや?

 

え、いつなったんだ?

日直の時?

名乗った時?

 

まさかあの拷問みたいな握手の時?

 

これじゃあ意味が無い。

あの日から俺は彼女を避けてきたのに。

彼女から近づいてくるなんて。

 

あの手が迫ってくるなんてっ。

 

「まひる?」

 

「ひっ…」

 

一瞬、我を失っていたようだ。

心配そうにこちらに伸ばされた腕をよける。

あ、当たりさえしなければ。

 

「と、にかく、それだけなら」

 

ごめんなさい。

心の中で何かに謝り、そう逃げるように踵を返そうとした時。

 

「あ、待って!」

 

何かに、身体を引かれた。

 

まるで縫い止められたかのように体が前に進まなくなる。

いったいなにがっ、と振り返った所で俺は見てしまった。

 

彼女の手が俺の服の端を摘んでいる所を。

 

こ、こいつッ、

 

たかが指数本、しかしその数本で俺の身体と拮抗しているのか!?

 

な、にっ、に、逃げられ、ないっ。

 

 

「ハラオウン、さん。指っ、あの、放してっ」

 

「ねぇ、まひろ」

 

無視、するなっ。

 

「私、なにかしたかな?」

 

何とか逃げようと体を引っ張る俺に対し彼女は俯いたまま微動だにしない。

その力はいったいどこからくるのか。

そして手で捕まれているせいか足が勝手に震えてきた。

 

あの時の恐怖が蘇る。

 

ギリギリと締め付けられるこちらの手。

ただ力が強いと言うわけでもなく少しずつ少しずつ、痛めつけるかのように増していく力。

そして最後のあの笑顔。

 

その手で、次はどこを握り潰すつもりだ。

ま、前のようにはいかないんだからなっ。

 

「まひる」

 

「ひっ」

 

服が引っ張られる。

多々良を踏むようによろけながら彼女のそばへ寄せられると特徴的な赤い目で見つめられる。

それだけで身体が固まったように動かせなくなった。

蛇に睨まれた蛙。わかりやすい今の俺の心境。

 

「まひる、私のことを避けてるよね」

 

……バレ、てた。

 

ま、まさか気にくわないからお仕置き、とか?

 

ど、どこを潰すんですか!?

 

「せっかく友達になれたのに」

 

せめて、せめて見えないとろこでお願いしますっ。

 

「まひる?」

 

ハッ!?

 

ま、またか。また我を失っていたのか。

くそ、自分の肝の小ささに嫌になる。

だけど逃げたい。逃げ出したい。

放せ、その左手を放せよ。放してくださいよぉ。

 

「あのね、私、なにかしちゃったのなら言ってほしいんだ」

 

そんなの怖くて言えるか。

どうせ言ったらバランスよくもう片方の手も潰そうか、とかにこやかに言うんだろ!?

 

「まひるは初めての、男の子の友達だから……よく、わからなくて」

 

と、とにかく離れていてくれれば俺はそれ以上求めません。

いつ友達になった、とかもう言わないから。

 

「だから、だからね。嫌な事があったら言ってね!」

 

お願いっ。

彼女はそれだけ口にすると走ってどこかへ言ってしまった。

助かった、のだろう。

怖かったぁ、いつあの手で身体の一部をもぎ取られるのか戦々恐々としていた。

しかし何てやつだ、彼女は。嫌な事なんて聞いてどうするつもりだ。

 

俺の不幸で悦に入るつもりか。

 

くやしい…!でも…逆らえない!

 

 

後日、その日あった不幸を彼女に報告しにいくといたく気に入られたようで終始笑顔でいらっしゃられた。

 

い、いい趣味してますわ。

 

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