TSして第四聖女になった私は魔人にNTRされるってマジィ!? 作:ピエロギ
捕虜になって、早三日。あの青い魔人の言った通り、最初にいた椅子だけの独房から机、椅子、ベッドが付いた牢屋に待遇はグレードアップした。
しかも、食事も毎日3食出る!こっちの生活は一日二食が基本だった。簡素なパンやスープといった物だったけれど、ちゃんと野菜と肉が入った料理を食べるのは久しぶりで涙が出た。
戦場で癒手として、たらい回しにされていた時は、めちゃくちゃ硬い乾燥パンが出るだけで、いつもお腹を減らしていた。飲み水で浸して柔くしてもガリっと音がする忌まわしき乾パンでなく、ライ麦パンってだけでも最高だって言うのに。
しかし、一つだけ不満点がある。それは…
「……暇すぎる。魔法の自己鍛錬、ここだとできないしなぁ~」とぼやく。
青魔人に体を清潔にするために、水魔法を使っていいかとそれとなく聞いてみたら、怪しげなことはするなと注意された。代わりに、毎日、お湯と清潔な布を提供されている。
「このまま、食っちゃ寝してたら豚聖女になっちゃうよ」とお腹をつつく。今までは、学園、野戦病院、前線といった環境で、ビシバシ体を鍛えたからか、体はくびれており、筋肉質な体型ではある。しかし、このまま怠惰に過ごしていたらBMI40まっしぐらだ。
せめて筋トレぐらいはやろうと考え、行動に移す。学園で教わった108式自己鍛錬法と前世の筋トレ方法を組み合わせて、広くはない牢屋の中で体を鍛える。
「…….フッン…..フッ…..」と静かな牢屋の中に、私の漏れ出た声が響く。最初は、腕立てやプランク、スクワットなんかのアップ用のトレーニングを行う。
体が温まってきたのを感じる。肌に汗が滲み、一筋の玉となって床に落ちる。頭がクリアになってきた。
その後は、本格的に体を動かし、ジャンプハーピー、クランチ、108式と合わせてやっていく。
1時間ほど、休憩を挟みつつ一通り終わした。何とも言えない、良い体だるさ感じながら、やりきったという達成感が脳内でほとばしる。
すると、鉄格子の奥の外扉の鍵が開かれる。扉の向こうから出てきたのは、例の魔人、クシールだった。名前はここに運ばれた時に教えられた。
「怪しいことはするなといったはずだが?」と問われる。
「ほとんど日光が入らない部屋に閉じ込められると心が少しずつ削られて行ってしまうのですよ。少しでも心がさび付かないように、体を動かすことは人間にとって大切なことなんです」
「…そうか、配慮が足りなかったな…牢屋以外に、人間に強い憎しみをもった同胞の反感を買わずに置いておける場所がなくてな。待遇もそれ相応になってしまう」
心の中では、好きな時に寝れて、食事も出るから不満はないと思っているが、相手の言葉に乗っておく。
「尽力していることは伝わっています。私も、まさかあなた達が人道的に扱ってくれるとは思ってもいませんでした。少し時間を持て余してしまっていますけど」
「あっちでは、捕虜はひどい扱いを受けると思われているのか」
「死ぬことより辛く、人としての尊厳は無い物になると教えられましたね」
実際は違ったけど。まぁ、そう広めることで敵前逃亡を防ぎたいってことは分かるけど。
「フン!あの国は、本当に我々のことを不俱戴天の仇だと思っているんだな」と吐き捨てた言い方をクシールがする。
「……それで、何かご用でしょうか?」
「尋問の続き、ということになるか。明日、とあるお方と面会して話してもらう」
「…とある方?」
「本来は、お会いすることなど叶わないやんごとなきお人だ」
(えぇー!なんで、そんな大物と話さなくてはいけないんですか!?)
「理由をお聞きしても?」
「…交渉の為だ」
何の交渉?心の中に疑問が湧き出た。その答えが出ないまま、青い魔人は言葉を続ける。
「和平交渉の話は、聞いたことあるのか」
「いいえ、聞いたこともありません」
「6年前の話だ。こちらから使者を送っただろう」
6年前とすると、私が聖印者用の学園に通っていた頃の話だ。もし、使者が来ていたなら、話題に上がっていたに違いない。あの頃に起きた事件は…
「…あっ!王都近くで、人に化けた魔人が出たと騒ぎになりました」
「大方、向こうは最初から交渉する気などなかったということだ」
「不躾なことを聞きますけど、なぜ今になって和平交渉を?百年近くの争いで疲弊したからですか?」
「バカを言うな。このまま戦い続けたとしても我々が勝つ。だが…ただでさえ、数が少なくなっている我々の同胞も多くが犠牲になるだろう」
(魔人も少子化の問題を抱えているのか?)
「因みに、魔人ってどれくらいの数いるんでしょうか?」と興味が湧いて聞いてしまった。
前線で主に戦うのは魔人によって生み出された魔物と土塊人形(ゴーレム)が主だ。魔人自体に出会うことは滅多にない。故に、首級として魔人を殺害した聖印者は一躍、英雄へと至る。
「そんな重要な情報、俺が話すとでも?」
ギロッ!という擬態語が実際に音として出ているかのような鋭い視線が突き刺さる。怖い。
「……私自身、聖女って言われてましたけど、休戦取引の材料としての人質の価値はないですよ」
「お前にそんなことは求めていない。……それに自分の価値がないと言うものじゃないぞ」
アレ!?意外に優しい。キュン……ってなってないわ!
ハッ!これがいわゆる、ストックホルム症候群ってやつか!
「捕虜として、重要な人物なら丁重に扱われる可能性。逆に、ただの印付きの駒っていうのなら解剖されて殺されることは考えなかったのか?」
アッ、ハイ。クシールは別にデレを見せたわけじゃなかった。
「でも、実際、他の聖女たちと比べると見劣りするのは事実です。コネと時の運が絶妙にマッチした結果、成り行きでなっただけです」
「…聖女と呼ばれている中で、我々の同胞を直接葬っていないのはお前ぐらいだろう。丁度いい。その成り行きというものを教えろ」
えぇー。自分の話ですか。うーむ。まとめるのに少し時間が欲しいな。
「少し考える時間を頂いても?今、運動をしたばかりで汗くさいですし、体を洗っている間に考えますので」と伝えると、目の前の偉丈夫は、サイドポーチからその容量に合わない水壺とタオルを取り出した。それを鉄格子の搬入口へ———
「ありがとうございます」とお礼をして受け取る。
十分なお湯と肌触りの良いタオルが二枚。
早速、体を洗おうと準備しようとするが、目の前の青魔人は動こうとしない。
「あの~、出て行ってもらっても?」と本当はこの変態!!早く出ていけ!!と叫びたい気持ちを抑え、オブラートに包む。
「…?何か不都合か?」
不都合だよ!何、やっぱりジャパニーズ的紳士なの!?このムッツリ魔人がッ!
「私が本当に怒って、明日、その高貴なお方に粗相をするかもしれせんよ」と脅迫する。
「分かった。外で待っている。終わったら声をかけろ」
トコトコとすぐに去っていった。
「へ?文化の違い?それとも、お前の体なんか興味ねーからッ!ってこと?」
まぁ、結果的にオッケーってことで。
危うく、玉肌晒しのストリップスショーになるところだった。
服の留め具に手を掛け、布地が下がる。脱いだ服は、ベッドの上に置き、頭からお湯をかける。
「ぶはっ!うん、適温。心地良い~」と体を濡らした後は、布で、体の隅々まで拭き、綺麗にした。
体を拭くのに、もう一枚のタオルを使い、体を伝っている水分を拭きとる。
別に用意されている、白いTシャツといった寝具に着替え、すっきりした状態に切り替える。
(本当は、風と火の魔法を組み合わせたドライヤーを使いたいけど…)
水に濡れた艶やかな金髪が、絹糸のように流れている。ちょっとした魔法の小細工で肌や髪の艶を保っているから、ピッチピチだ。
体を洗っている最中に、大体話すことは決まった。
「終わりましたよ~」と声をかける。返事はない。いや、足音が伝わって聞こえてきた。扉が開かれ、再び、クシールが姿を現す。
「お待たせしました」
「何、こっちも気が休んだ」
(休んだ?私と話すのそんなに疲れる?)と心の中で呟く。
「それでは、つまらないお話になるかもしれませんが、話させていただきます」と私が切り出した。
「私が訓練学園、聖印者の養成所ですね。そこへ行くことが決まったときからお話することにしましょう」