TSして第四聖女になった私は魔人にNTRされるってマジィ!? 作:ピエロギ
ドン!!という鈍い音。英雄として名を上げた時に頂いた机がひしゃげる。
「すぐに救出に向かうべきですッ!!アレクシオス!!あなたもセリーナに世話になった恩義があるでしょうッ!?」
天幕の中、俺と、後ろに控える近衛兵二人、そして目の前で喚く殲滅姫。
同期でもある彼女をどう慰めるべきか。いや、上官である人間に対してこのような態度を取った愚かさを咎めるべきか…。
「…そのために、前線の兵士、部下たちに死ねと命令させる気かッ…!!加えて、上官への態度!! お前が王より聖女の名を授かった英傑であっても看過できんぞッ!!」
「貴方は、何も思わないんですかッ!!私を含む一部の精鋭だけを敵陣に送り込むだけですッ!!ならば、最低限の犠牲で凌げるでしょう!!」
確かに、俺の所には、セリーナに救われた実力者がその恩義に報いるため戦うという知らせが多く寄せられている。が…
「論外だ。それだけ手練れや聖印者がいなくなれば、魔人が出た時はどうする?前線はいとも簡単に崩壊し、仮に救出できたとしても敵に囲まれて終わりだ」
「随分と臆病なことを…昔の貴方なら魔人たちを殺すためなら何でもやる獣のようなお人であったのに…」
(コイツ…!!触れていいことと悪いことの区別もつかないのか!!)
湧き出る怒りを必死に抑え込む。
「あぁ、良かったよ。獣から人になれて。出てけ。勝手は許さない」
鬼のような顔したまま、聖女レイナは去っていった。
彼女が天幕から出ていった数刻後に、地鳴りがするほどの爆発音が響き渡る。
(物に当たるなよ…!!癇癪持ちのガキか、お前はァ…!!)
思わず頭を抱えてしまう。すると、後ろから
「…あのアマ殺しても…」
フルプレートアーマーの近衛兵、その兜の隙間からソプラノ声で提案される。
「やめとけ。暗殺を試みても返り討ちだろう」
あの女はその二つ名が表す通り、強力な兵器と言っていい。正面から戦えば俺より強い。
前線の守護神、彼女だけで勝利を得た戦いさえある戦術級の聖印者。セリーナがいた頃は、もっと丸い性格だったが、今はもう荒れに荒れている。
そう、部下の言葉に応えている時、聴覚が遠くからの蹄の音を捉える。音は徐々に激しくなり、ここで止まった。
「アビゲイル。早馬だろう。応対してきてくれ」
「御意」
先ほど、聖女殺害を口にした俺の懐刀を向かわせる。
天幕内にあった剣呑な雰囲気が霧散する。
はぁぁーと息をつきたい。戦地に来て、ずっと多忙であったが、最近は輪をかけて忙しい。主に戦線の維持とセリーナ関係で。
「何か淹れてくれるか?」
もう一人の近衛兵にそう伝えれば、全身鎧でありながら慣れた手つきでテキパキと茶の準備を行う。
すると、天幕が静かにめくられ、先ほどの向かわせた部下が一礼して入ってきた。そして…
「主様、統合参謀本部より封書が届きました」
「分かった。すぐに確認する」
黒鉄の筒に入った書簡は参謀から送られたことを示す封蝋が施されている。
「悪いが二人とも、一度外へ」
情報管理は徹底する。たとえ、一番信頼している部下であっても。
二人は礼をしてから、立ち去ったことを確認してから封を切り、中身を開く。
「………………….」
運がいいのか、悪いのか。寝不足の頭がズキズキと痛む。少し温くなった茶を一気に飲み干し、立ち上がり、外へ出る。書簡は筒に入れ、手で握る。
「少し、外で風に当たってくる…お前たちは中を見張ってくれ」
「「…了解しました」」
地面を踏み、様々な大きさの天幕を抜け、開けた景色の見える丘へとたどり着いた。
日はすでに沈み、大きな三日月が雲の中を泳いでいる。前線から距離があるとは言え、戦地特有の重く押し寄せる臭いが冷たい風に乗って漂ってくる。
「今日も…月は変わらず綺麗だ…」
柔らかな金色のそれは、静かに輝く孤を描き、美しい長髪のように見える。その景色は、否が応でも彼女のことを思い起こさせる。
レイナは言った。俺がセリーナに対して何も思わないのかと。そう冷たい視線を向けながら、恩義に報いるべきだと。
そんなこと、言われなくても分かっている。心を殺し、一番救出できる確率が高くなるように睡眠時間を削って本部に作戦案を送ってきた。
セリーナが拉致された時、魔人が二人いたと報告されている。確実に計画的な犯行。狙いはセリーナ。殺されているとは考えにくい。
相手の狙いは人質交渉か。戦う力がない彼女を選ぶのは道理だろう。他の聖女は皆、魔人殺しでその称号を得た強者。死に物狂いで道連れだろうと魔人たちを殺しに行くはずだから。
となれば、今もどこかで囚われているはずだ。聖印者を魔人たちの国へ移送するとは考えにくい。最も考えられるのは…
視点を月から、死地、戦場のその先へと移す。魔法による爆撃で荒野となったその先、茨の森となった魔人たちの領地、そのさらに奥。常人では捉えられない、粒のように見えるそれは城であろう。
(あそこが、あっちの前線司令部。随分と立派な城だ。地下牢も完備されているだろう)
人質として生かされているとしても、彼女の身に何も危害を加えられていないとは考えられない。
逃げられないように閉じ込められ、辱しめを受けているかもしれない。
押し殺していた殺意が漏れる。
無垢で優しい彼女の無惨な姿を想像して。
(もし彼女を穢すような行為をしてみろ
手に持っていた、書簡を守るために強固に作られた筒がひしゃげる。奥歯を強く噛み締め、血の味が鼻腔を通り抜ける。
解放された殺気が、空気を鋭く切り裂き、茨の森に止まっていた鴉どもを一斉に羽ばたかせた。
もはや獣の咆哮に近い殺気は、後ろの追跡者さえ腰を抜かすほどであった。
「…アビゲイル。何をしている。見張るように言っただろう…?」
「…ヒィ…モッ、申し訳ありません!!主様の身を案じて勝手に付いてきましたァ」
情けない姿を見せる忠臣に、一言、二言、言いたいが、丁度良い。頭は完全に整った。作戦を立てようじゃないか。
「すぐにレイナを呼びに行け。望みが叶うと伝えてな...!!」
書簡に書かれたものは、すべての戦線で一気に攻め入る、同時攻撃。今までのような小規模の戦いではない。
我々聖印者は相手の本拠地を叩き、指揮を執る魔人を討伐する。そうすれば、長い間停滞した戦線を押し上げられる。
「俺は先に天幕に戻って他部隊の指揮官たちと打ち合わせを行う。お前も要件が終わり次第、合流しろ!!」
そう伝え、来た道を戻る。三日月の淡い光の中、セリーナと初めての会話を思い出す。
――
「まさか、俺以外戻って来れないと思っていたのに」
「ハァ…ハァ…いぇ、いえ。ワタ…しも…ギリギリ…でしたよ。アレクシオス様」
「ここでは、同級だ。敬称を使わなくていい。君は特別にアレクでいいよ。セリーナ」
「ハハハ…それでは、アレク。これからもよろしくお願いします」
――
遠い記憶。あの時の俺は何も知らないガキだった。自分の才能に酔い、世界を救うのは俺だと本気で…
けど、セリーナはあの時に完成されていた。ずっと変わらない軸となるものを持っていた。幼い俺はソレに縋っていたのだろう…
「必ず連れ戻す…!!」
俺は天幕に戻り、会議の準備を進めた。
思った以上に読まれていて作者ピエロギはびっくりだ~。
ここまで、読まれるならもっと作り込んでから投稿すれば良かった...
ピエロギは遅筆に加えて、物ぐさな性格故に、かなりゆっくりな更新となります。それでも、本作を読んでいただければ幸いです。