TSして第四聖女になった私は魔人にNTRされるってマジィ!?   作:ピエロギ

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共詠唱

「それじゃ、やってみましょうか」

 

「ぅうん…」

 

 ちょっと震えている。初挑戦で成功を願われることは本人にとって大きな重責だ。

 

「…失敗したってもいいんだよ。ダメだったら別の方法をみんなと考えよう。やってみることが重要」

 

 静かに手を差し出し、レイナの手に触れる。柔らかな温もりと指先の冷たさが伝わって、胸の中がほんの少しざわめく。

 

 手を握り合う。その瞬間、魔力の流れが私の体に響いてくる。

 

「準備はいい?」

 

「まッ、任せて!」

 

 作戦は極めて単純。私が最初に土魔法を詠唱し、その後、要である水魔法をレイナと共に使用する。

 

 息を整える……タイミングが大事だ。レイナの詠唱に完璧な形で合わせる。

 

 手から伝わるじんわりと熱が互いに伝わり、交ざりあう。

 

 彼女の呼吸、心拍数、魔力の周波が合わさっていく。そして、その時が訪れた。

 

「――ッ!!Terra firmus, sanu quetëa!(大地よ、堅固な力を示せ!)」

 

 先ほどと同じように泥の塊が空中に浮かぶ。その瞬間、莫大な魔力が手から伝わる。不思議な一体感と共に水魔法用に変換された魔力が膨れ、空気を揺らす。

 

――さぁ、盛大にぶっ放そう――

 

「「Nara luma, ela quetëa!!」!!」

 

 練り上げられた魔力は沼地の上空に解き放たれた。水魔法を使用しているのにも関わらず、異様な熱と重圧感が体に降りかかる。

 

(こ…これ…想像以上に出力が大きすぎ…)

 

 土魔法の泥塊も、沼の水でさえ吸い上げ、巨大な水玉に。不格好なドーム状のソレは大きな影を私たちの足元に写し出した。

 

(どこかに放たなければ…放出する方向は沼地脇の茂み…)

 

 狙いを定め、巨大な水が動き出す。最初はのっそりとしたものだったが、徐々に高度を下げながら加速していった。

 

「お…おぉ…」

 

 後ろで見ている少年二人が声を上げている。

 

 巨大な水の玉は地面に接触し、水風船が割れるように一気に崩壊。大きな波となったのが遠目に見える。

 

「これで、なんとかなったかな…」

 

 言い終わる前に視界が暗転。足元が安定しない。せ、世界がグルングルンと回ってる。

 

 次の瞬間には意識が暗闇へと飲まれていた。

 

 

 

 

 後頭部に柔らくも暖かい感触が伝わってくる。それに心地よい柑橘系の香り。

 

(う~ん。むにゃむにゃ。アレ、何だかとっても心地いい)

 

 目を開けると、ラベンダーに似た髪色の幼い少女が私の瞳を覗いていた。

 

「あ…起きた。おはよう…セリーナ」

 

「お…おはよう。シーファ」

 

 返事をして、周りを見ようと体を起こそうとすると、小さな手が私を引き留める。

 

「まだ…休んでいた方がいい。かなり疲れた様子…大丈夫…上手くいった…これ食べて」

 

 姫カットの少女は、自身のサイドポーチから何かの葉っぱで包まれたドライフルーツを口に突っ込まれる。

 

「フ、フゴォッ!」

 

 口内に広がったのはしょっぱさ、そして酸っぱさ。ツーンと鼻に抜け、レモンのような鋭い酸味に舌がギュッと縮む。

 

「サンザシの塩漬け…噛んでると甘くなる」

 

 モムモム。確かに、味が落ち着くと塩と酸味が絶妙にマッチ。噛めば、自然の甘味が際立つ。

 

「あ、ありがとう?」

 

「うん…良かった。ほんの少しの間…気を失っていた。今は…水位が下がった沼に貴方が作った土塊で足場を作っている」

 

「レイナは…」

 

 視界の端から、ひょっこりと名前を呼ばれた少女の可愛らしい顔が。

 

「私は大丈夫だよ。急に倒れてビックリした。体とか痛めてない?」

 

「うん。平気だよ」

 

 こんな風に意識を失う症状はアレだ。高位の魔法を無理に使用する時に、脳が魔法使用の処理に間に合わずにシャットダウンする奴だ。

 

 今回はレイナの膨大な魔力が初級魔法であったのも関わらず私の処理量を上回ったということだろう。

 

 レイナに支えられて、立ち上がり、周りの様子を観察する。

 

 沼の方を見ると、私が作った土塊が点々とした足場になるようになっていた。うまくジャンプして行けば、目的地に着けるそうだ。

 

 二人と一緒に畔に向かい、沼に落ちないように渡っていく。

 

 そして、旗が括られた木の下に行くとあの少年二人がいた。こっちに気付いたカイルが口を開く。

 

「おう。やっと来たか」

 

「待ってくれていたのですか?」

 

「ここに来れたのは、あんた達二人のおかげさ。置いていくのは筋が通らない」

 

 どうやら残っているのは、彼らとここまで何とかついてきた者達だけだった。

 

 もう一人の少年、ディアゴが

 

「ここまでの道中で助けられた奴らから感謝してたよ。直接言えばいいのにな」と

 

「そうでしたか。わざわざ伝えてくれてありがとう。ディアゴ」

 

 笑顔で彼に感謝を。彼は頬に手を当てて、別の話題へと変えた。

 

「…あぁ、それと、この籠に入ってるのが、記章だ」

 

 彼が指差した大きな金属製の籠。その中には紺色の布が敷かれており、小さなバッジがいくつか入っていた。

 

「とっとと早くいくぞ女ども。夕暮れが近い」

 

 若干の焦りを見せる野球ボーイの言葉に

 

「そうだねぇ~。坊主頭くんの言う通り夜の森は超危険」

 

 とひょっこり現れたタチアナが話に割って入ってきた。

 

「この時期だと、冬越えに餌を求める肉食動物がいるし、寒いし、暗くて足元見えないしで、マジ最悪なんだから」

 

「…その通りだ。まだ走れないようなら、俺たちが背負っていくがどうする?確か…セリーナだったか?」

 

「もう大丈夫です。もし可能であれば、途中で走れなくなった人を助けてあげれくれれば嬉しいです」

 

「そうか」

 

 少しだけ、少年たち二人に呆れたような顔をされたような気がする。ま、気にしないけどね。

 

「それでは、行きましょうか」

 

 そう声をかけ、学園の帰り道へ。

 

「こっちこっち~!」

 

 タチアナの声に先導されて、走りやすい道を突き進んでいく。

 

 行きより帰りの方が断然に辛い。それでも、彼女のナビゲーション、そして…

 

「背負っている奴の足に治癒を頼む。くじいちまったみてぇだ」

 

「わかりました」

 

 そっと魔法を行使し、足首の腫れが消えていくのを確認する。先に走っていた生徒たちも途中で息切れや水不足で止まっており、続々と合流している。

 

 あの少年たちの協力もあり、そうした脱落者の救助は行きよりもスムーズに進められている。

 

 そうして、誰も取り残さないようになんとか進んでいるとゴールが見えてきた。

 

「あと…少しで…」

 

 息も絶え絶えで、限界を迎えている同回生も居る中、そう念じる。正直、自分も限界に近い。

 

 そして、古い城のような学園へ近づくにつれ、ある音が聞こえてきた。

 

 鋼鉄と鋼鉄が凄まじいスピードでぶつかり合う、鈍い音。それに、何か濃い煙が空へ昇っている。

 

 訓練が始まった広場に到着した時には、その音は轟音となり、何が起こっていたのかを知ることになった。

 

 アレクシオスとガリアーノ教官が剣で打ち合っていた。それも、真剣。いや、赤髪の少年の方の剣は炎を纏っていた。

 

 高速に打ち合い、移動するアレクシオスを目で追えるのは、手に持つ剣が発光しているからだろう。

 

 刹那の鍔迫り合いから、流れるような斬撃。彼の剣は炎の軌跡を描き、大岩をも裂くような鋭さがあった。しかし…

 

 ガリアーノ教官は寸分の狂いもなく受け流す。凄まじい力が込められていたはずだ。なのに斬撃を受けた瞬間、その体幹に一切のブレが見えない。

 

 地に根が張っているかのような凄まじい体幹。その体勢を保ったまま、一歩、相手の間合いに踏み込んだ。

 

 アレクシオスの隙は致命的で、教官の肘打ちを鳩尾に的確に打ちこまれた。

 

 超痛いし、呼吸もできなくなるはずだ。なのに…

 

 咄嗟に後ろに回避し、肘打ちの威力を軽減しながら、回し蹴りを教官の頭目掛けてかました。

 

 決死の蹴り。しかしまともに重心が安定してない蹴りでは、軽いものであった。

 

「グホォ!!..ォォオ…ゲホォ…!」

 

 尻餅をついた赤毛の戦士は、咳き込みながらも言葉を吐く。

 

「…ゲハァ…ハゥハァ。イッパツ…アタッたので…要求…飲んでもらいますよ…教官ッ!!」

 

 彼は凄まじい目つきで教官を見上げ、返答を待っていた。

 

「最後の蹴り、有効打として認めてもいいが…もう少し早く出せていれば、飛び級して戦地へ征けただろう」

 

 そうして教官は私たちの方へ指差した。

 

「お前の予想に反して彼ら彼女らは戻ってこられたようだ。お前が設定した時間切れ。甘く見過ぎだ。私と、そして他の同回生を」

 

 教官は咳払いをして

 

「総員ッ!!本日の訓練はここまでだ!!次は今日ほど生易しくないぞ。体を休め、次に備えろ、解散!!」

 

 するとガリアーノ教官は去っていった。

 

 残されたアレクシオスの応急措置をするために疲労をこらえて近づく。しかし、彼はすぐに体を起こした。

 

 そして、私をまじまじと見つめ、

 

「まさか、俺以外戻って来れないと思っていたのに」

 

 彼は正直に話した。

 

「ハァ…ハァ…いぇ、いえ。ワタ…しも…ギリギリ…でしたよ。アレクシオス様」

 

 途中で、他の同回生を助けなかったらもっと楽に着けただろう。だけど、私は助けることを選んだ。目の前の少年はそんな私の”甘さ”というのを気付いていたのかもしれない。

 

 そして、きっと共倒れすると予想したのだろう。しかし、現実は誰も見捨てることなくここまで連れて来た。

 

「ここでは、同級だ。敬称を使わなくていい。君は特別にアレクでいいよ。セリーナ」

 

 彼の表情は清々しいものだった。だけど、何か距離間がおかしい。私、コワイです。

 

 

 

「ハハハ…それでは、アレク。これからもよろしくお願いします」

 

 彼の手を取り、握手をする。そして、一人去っていった。

 

 そんなこんなで、初のガリアーノ式訓練は終わった。

 

 汗びっしょの体を引きずりながら、校舎の方へ向かう。すると、三人の生徒がいた。

 

 一人はツヴァイ先輩だ。そして、他二人は…男と女。女性の方は黙していたダークグリーンの直毛。白の紐でまとめられた、ポニテに近い髪型だ。

 

「よっ。お疲れ。やっぱりガリアーノ教官の訓練は辛そうだな」

 

「えぇ、もうへとへとです」

 

「ハァッハッハ!鬼軍曹のシゴキ、新入生でありながらよく耐えたなぁ、後輩!」

 

 豪快な喋りの男の先輩。特徴的な亜麻色の天パ。どこかで見たことがあるような?

 

「昨日は助かったぞ!」

 

 あ!火傷の治療をした人か!

 

「どうも…お元気そうで何よりです」

 

 すると、沈黙していたポニテ女子の鋭い瞳が天パ先輩を射抜く。そして…

 

「おい!お前みたいな声のデカイ奴に詰められたら、後輩ちゃんが可哀想だろッ」

 

 私の方に、その女の先輩は振り向くと表情は一気に軟化し

 

「今日の訓練で最後まで走りきったやつだろ?根性あるじゃん。しっかも仲間見捨てないで」

 

 何故、そのことを?疑問に思いながら、彼女の話を聞く。

 

「まっ!今日はもう疲れ果てていると思うから、とっとと風呂入って寝な」

 

 そう言えば、肉体訓練後は浴場の使用が許可されるとか何とかって昨日言ってたな。

 

 てことは…つまり…

 

「風呂の湯は、私が温めておいたから他の後輩たちを誘って行ってこい。掃除はお前たち一回生の仕事だ」

 

 入浴。それ即ち、裸の付き合い。ということは…

 

 ええぇ~脱ぐんですかァ~!

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