「──ッ!?」
目が覚めた私は無意識的に時間を止め、体に掛かっていた毛布を蹴とばす。
蹴とばした毛布はふわりと宙に浮くと、そのまま空中に静止した。
「ここどこ!?」
私は見慣れないベッドと部屋に一瞬混乱したが、すぐにここがホグワーツ魔法魔術学校にある女子寮の部屋の中だったことを思い出す。
そうだ、私はホグワーツという魔法学校に入学させられたのだった。
私は寝惚け眼を擦りながら空中で静止している毛布を手に取り、ベッドに投げる。
そして改めて周囲を見回した。
同部屋の生徒はベッドの中に入っており、起きている様子はない。
私はそれを確認すると、時間停止を解除した。
「……まあ、昨日の料理は美味しかったし、ベッドも綺麗で豪華だし」
私は寝間着のまま洗面所へと向かうと、歯を磨いて顔を洗う。
そういえば、今何時なんだろうか。
私は洗顔を済ませると自分のベッドへと戻り、ポーチの中から数ポンドで買える安物のクォーツ時計を取り出した。
「……止まってる」
クォーツ時計の液晶は十九時半を表示したまま固まっている。
電池切れかとも思ったが、そんなことはないだろう。
たとえ安かろうが、この時計は日本製だ。
電池の寿命も七年と書かれていたと記憶している。
買ってからまだ三年も経っていないため、電池切れということはないだろう。
「あら、ホグワーツではそういう電化製品は使えないらしいわよ」
私が腕時計を眺めていると、横からハーマイオニーが覗き込んできた。
「そういう魔法が掛けられているんですって。『ホグワーツの歴史』っていう本に書いてあったわ」
「なるほど……」
私は妙に納得すると、そのまま時間を止める。
次の瞬間、腕時計は何事もなかったかのように動き出した。
「昨日懐中電灯が使えたのはそういう理由ね。電化製品は止まった時間の中でしか使えない」
私は時間停止を解除すると、腕時計をポーチに仕舞い直す。
クォーツの時計が使えないとなると、機械式時計を用意しないといけない。
それとも、そういった物も外の機械と判断されてしまうだろうか。
私は女子寮を出ると、談話室にある掛け時計を見る。
しばらくはこのように各地に掛かっている時計を見ながら行動するしかないだろう。
私がしばらく談話室で時間を潰していると、ハリーとロンが寝惚けながら男子寮から出てくる。
二人とも一応制服は着ているが、ボタンを掛け違えていたりと、目が覚めているとは言えなかった。
「二人ともちゃんと顔洗った? ボタン掛け違えてるわよ」
私は二人に身だしなみを整えさせ、三人で談話室を出る。
なんにしても、朝ご飯を食べに行こう。
「サクヤ、僕あまりお腹空いてないんだけど……」
ハリーは重そうな足取りで私の後ろをついてくる。
どうやら昨日の夜食べ過ぎたらしい。
「朝ご飯はちゃんと食べないと駄目よ。オートミールでもいいから何かお腹に入れなきゃ」
私は半ば強引にハリーを引きずりつつ大広間へ移動する。
大広間の長机にはイギリスでは代表的な朝食であるイングリッシュ・ブレックファストやエッグベネディクト、チーズオムレツなど、様々な料理が並べられていた。
「わぁ……」
私はつい感情が声に出てしまう。
このような豪華な朝食は生まれて初めてだった。
「凄いわハリー! ロン! なんでもあるわよ!」
私は二人を引っ張りながら机に近づき、椅子に座る。
ハリーも料理を見たら食欲が湧いてきたのか、様々な料理に目を輝かせていた。
私は皿にベーコンや目玉焼き、ソーセージなどを盛り付け、こってこてのイングリッシュ・ブレックファーストを作り上げる。
「見てこの完璧なイングリッシュ・ブレックファースト」
ロンはそれを見て、対抗するように皿にベーコンを盛り始める。
ハリーも負けじと皿に料理を盛り始めた。
朝食が何もつけないパンじゃなくなっただけでも、ホグワーツに入学した甲斐があったかもしれない。
「そういえば、授業は今日から始まるのかな?」
ロンがベーコンを掻きこみながら誰にでもなく聞く。
確かに、昨日の夜は歓迎会があっただけで今日の話は全くなかった。
「やあ、ロン。昨日はよく眠れたか?」
そんな話をしていると、監督生のパーシーが机の向かい側に座った。
パーシーは慣れた様子で皿に料理を盛ると、新聞を読みながら朝食を取り始める。
「一年生は九時から大広間……要はここで今後のホグワーツでの授業の受け方や生活の仕方を教わることになっている。その後は早速授業だ」
なるほど、思っていたよりも早く授業自体は始まるようだ。
私はホグワーツでの授業を想像しつつ、ソーセージをフォークで突き刺した。
ホグワーツでの生活は、今までの孤児院の生活とはあまりにも異なるものだった。
階段や扉が動いたり変な挙動をするのは勿論のこと、肖像画に描かれた人物はひっきりなしに動き回り、廊下にはゴーストが徘徊している。
よく言えば退屈しない、悪く言えばあまりにも面倒くさい建物だ。
ある程度方向感覚がある私でも、迷わず目的の教室にたどり着けないことがあるほどだった。
授業も授業だ。
杖を振るだけで魔法が使えるとは思ってはいなかったが、想像していた以上に座学が多い。
むしろ、杖を振らない授業のほうが多いぐらいだった。
天文学や薬草学、魔法史などはその典型で、基本的には観察や実習、座学しかない。
闇の魔術に対する防衛術の授業は一応実習もあるはずなのだが、皆の期待とは裏腹に授業は座学が中心だった。
担当のクィレルは相当臆病な性格で、常に何かに対してビクビクと体を震わせている。
頭に巻いてあるターバンにニンニクでも詰め込んでいるのか、クィレルの周りには常にニンニク臭が漂っていた。
もっともそういった授業とは裏腹に、杖を振る授業も当たり前だが存在する。
「変身術はこの学校で学ぶ魔法の中では最も複雑で危険なものの一つです。いいかげんな態度で私の授業を受ける者は問答無用で教室から出て行ってもらいます。勿論、二度と教室に入れると思わないように」
変身術の担当はマクゴナガルだった。
マクゴナガルはいつも通りの厳しい口調で生徒にそう釘を刺す。
「いいですか、今から貴方たちが目指すべき最終段階をお見せします。ホグワーツを卒業する頃には、これぐらいのことができるようになることを期待します」
そう言うとマクゴナガルは教卓に向かって杖を振る。
次の瞬間、教卓は大きな豚に変わった。
豚は何回か鼻を鳴らすと、周囲を嗅ぎ始める。
マクゴナガルは豚が移動する前に、今度は教卓に戻して見せた。
クラスがわっと拍手に包まれる。
私はその手品みたいな光景に、素直に尊敬していた。
もしあの豚が生きているのだとしたら、マクゴナガルは生命を作り出したということになる。
まあ、流石にそれはないか。
生きているように見えるだけだろう。
まあそれは"生きている"という言葉の定義にもよるが。
「本日は、変身術の基礎の基礎である、マッチ棒を縫い針に変える魔法を練習してみましょう」
そう言ってマクゴナガルは黒板に変身術の基礎となる原理を書き始めた。
マクゴナガルは黒板を時折指さしながら変身術の原理を解説していく。
私はその解説を時折メモを取りながら聞いた。
なるほど、理解はできる。
理屈も納得した。
一足す一が二になるように、この理論通りに魔法を行使すれば、マッチ棒を縫い針に変えることができるのだろう。
「それでは、実習に入りましょう。皆さん私の机から一本ずつマッチ棒を持って行ってください」
私は言われた通り教卓からマッチ棒を一本取り、自分の席へと戻る。
私はマッチ棒を観察しながら、教室の様子を眺めた。
「チェンニグード!」
生徒たちは皆杖を取り出し、マッチ棒に向けながら呪文を唱える。
マクゴナガルの言った通り変身術という魔法自体かなり難しいのだろう。
マッチ棒を少しでも変化させることができている生徒はいないようだった。
「ミス・ホワイト。ほら、貴方も杖を出して」
周囲を観察していた私に対し疑問を持ったのか、マクゴナガルが私の机へと近づいてくる。
「はい先生」
私はマクゴナガルに返事をすると、ローブから杖を取り出した。
「チェンニグード」
私はマッチ棒に杖を向けて、呪文を唱える。
マッチ棒は変化するどころか、ピクリとも動かなかった。
当たり前だ。
私はただ杖を持って、呪文を口に出しただけ。
呪文はきっかけで、杖は魔力の増幅、指向装置でしかない。
そこに魔力が宿っていなければ、術が発動するはずもない。
だが、私は全くと言っていいほど魔力の行使の仕方が分からなかった。
「チェンニグード!」
横でハーマイオニーが杖を振っている。
マッチ棒はブルリと震えると、先端が少し尖る。
ハーマイオニーはそれを見て目を輝かせた。
「見てサクヤ! ちょっと変化したわ!」
「そう、凄いじゃない」
私はハーマイオニーの方に笑顔を向ける。
ハーマイオニーは一層夢中になってマッチ棒の変化にいそしみ始めた。
「さて……」
私はもう一度マッチ棒に杖を向け、呪文を唱える。
やはりマッチ棒は変化しない。
そりゃそうだ、だってマッチ棒を構成する主要素は炭素と酸素と水素、縫い針を構成する主要素は鉄だ。
「炭素原子って陽子が六個に中性子が六個、電子が六個だっけ?」
いや、そういう話ではない。
そういう認識では、一生マッチ棒を縫い針に変化させることはできないだろう。
私は大きく深呼吸すると、自分の体の中心へと意識を集中させる。
イメージするのは時間を止める際の感覚ではなく、初めて杖を振ったときの感覚。
私の心臓から湧き上がった魔力は血管を通り指先へと集中する。
そのまま魔力は杖を走り、杖の中で複雑な変身術式へと形を変えた。
「チェンニグード」
呪文とともに杖の先から変身術式に形を変えた魔力が放出され、マッチ棒へと当たる。
マッチ棒はムクムクと形を変えると、そのまま私がよく使う銀色の縫い針に形を変えた。
「ふむ」
私は縫い針を手に取る。
なるほど、こういうことか。
私の時間を止める術の中心は心臓だ。
心臓の鼓動を基準にして自分と時間を同化させ、止まった時間へと入り込む。
つまり、私の二つの力の源は心臓なのだ。
そこまで来ればイメージは容易だった。
心臓が電源、血管が銅線、脳が制御部で杖が変換器。
コンピュータの演算装置内を流れる微弱な電流も、岩を砕くような落雷も、本質的には同じものだ。
形のない魔力を杖に集め、脳からの命令によって杖の中で用途に合わせて形を変化させる。
これが、魔術の基本になるのだろう。
私は指の先で変身させた縫い針を隠しつつ、教室内を再度見回す。
皆、一生懸命杖を振り、机の上のマッチ棒に集中しているが、変化させることができている生徒は私の他にはハーマイオニーしかいない。
私はこっそり縫い針をマッチ棒へと戻すと、もう一度マッチ棒に杖を向ける。
「チェンニグード!」
そしてわかりやすく呪文を口にした。
マッチ棒はピクリとも動かず、変化することもない。
当たり前だ。
私は呪文を口にしただけである。
「あら、やっぱり駄目ね。サッパリだわ」
私はハーマイオニーの顔を見て肩を竦める。
ハーマイオニーは既にマッチ棒を色以外ほぼ縫い針へと変化させることができていた。
「私はあともう少し……もう少しなの……」
ハーマイオニーはマッチ棒へと集中しており、既に私の方を見る余裕はない様子だった。
私は少し移動し、ハリー達の近くへと移動する。
ハリーは他の生徒と同じように呪文を唱えながらマッチ棒に集中していたが、ロンは既に飽きかけていた。
「調子はどう?」
私はマクゴナガルがネビルに付きっきりになっているのを確認し、ロンに話しかける。
ロンは大きく肩を竦めると、杖先でマッチ棒を突いた。
「まったく。ピクリともしないよ」
「私もよ」
マクゴナガルがこちらを向いたので、私は自分の席へと戻る。
結局今日の授業でマッチ棒を少しでも変化させることができたのはハーマイオニーだけだった。
マクゴナガルはハーマイオニーの変化させた縫い針がいかに銀色でいかに尖っているかを力説し、ハーマイオニーを褒める。
ハーマイオニーは嬉しそうに顔を赤くしていた。
杖を振る授業があれば、杖を振らない授業もある。
私はどちらかというと杖を振らない授業の方が得意だった。
変身術の授業である程度の魔力の使い方は分かったが、やはり私の常識はどちらかといえば『マグル』寄りだ。
純粋な学問の方が馴染みがあり、何より私の能力が使いやすい。
「今日は何の授業だっけ?」
入校から数日が経った金曜の朝の大広間。
私がチーズオムレツを口に運んでいると、ハリーがオートミールに砂糖を掛けながら聞いてくる。
「今日は魔法薬学よ。確かスリザリンとの合同授業だったかしら」
私がスリザリンと言った瞬間、ロンとハリーの表情がわかりやすく曇った。
「魔法薬学の担当のスネイプはスリザリンの寮監だ。いっつもスリザリンを贔屓するってみんな言ってるよ」
ロンは分かりやすくスリザリンの長机を睨みながら言う。
私はそんな様子に肩を竦めた。
「まあ、噂が本当かどうかは授業を受ければわかるわよ」
私がそう言った瞬間、大広間に何百という数のフクロウがなだれ込んできた。
どうやらこれがホグワーツの朝の日常らしい。
フクロウたちは運んできた手紙や小包を目的の者の膝の上に落としていく。
そのうちの一匹が私たちの前に降り立った。
「ヘドウィグ!」
どうやらハリーのフクロウだったらしく、ハリーの目の前に一通の手紙を置いてじっとハリーの方を見ている。
「誰からだろう?」
ハリーは興奮を抑えきれない様子で慌てて封を破る。
そして手紙を取り出し読むと、自分の荷物を漁り始めた。
「誰か羽ペン持ってない?」
「ボールペンでいい?」
私は何かのおまけで貰った有名店のロゴが入ったボールペンを取り出してハリーに手渡す。
ハリーは手紙の裏に返事を書くと、ヘドウィグに持たせた。
「ハグリッドが今日の午後にお茶しようって」
「なるほど、確かに今日の午後の後段は授業が入ってないし」
「ロンとサクヤもどう? 一緒にハグリッドのところに行かない?」
ハリーはおずおずと私とロンに聞く。
開いている時間はホグワーツを探索しようと思っていたが、私にとって時間があるとかないとかという話は非常にナンセンスだ。
「ええ、私もご一緒しようかしら。ハグリッドさんにはロンドンで世話になったし」
「うん、僕も行くよ」
私とロンはハリーの誘いを快諾する。
ハリーは私たちの返事を聞き、嬉しそうに頷いた。
まあ、何はともあれ魔法薬学の授業だ。
魔法薬学の授業が行われる場所は地下牢で、少し肌寒い。
地下牢の壁には所狭しとガラス瓶が並んでおり、その中にはアルコール漬けの動物がプカプカと浮いていた。
授業が始まる時間になると、地下牢に一人の魔法使いが降りてくる。
肩まで伸ばしたぬらりとした黒髪に鉤鼻の男、スリザリンの寮監のスネイプだ。
スネイプは教室を見回し、生徒が集まっていることを確認すると、名前を呼んで出席を取っていく。
「ああ、なるほど……」
スネイプはハリーの順番が来た時に、ハリーの方を見ながら言う。
「ハリー・ポッター。我らが新しい……英雄だね」
それはハリーを称賛しているというよりかは、何か嫌味を言っているようだった。
それを聞いて一部のスリザリンの生徒がクスクスと笑う。
スネイプは出席を取り終わると、じっと生徒を見渡す。
「この授業では魔法薬調剤の厳密な化学と絶妙な芸術を学ぶ」
決して大きな声ではない。
だがその声は地下牢全体に響き渡った。
「この授業では杖を振り回すようなバカげたことはやらん。だからこそ、これが魔法かと思う諸君が多いかもしれんな。ふつふつと沸く大釜、立ち上る湯気、人の血管の中を這い巡る液体の繊細な力……心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力。諸君がこの真理を理解することは期待しておらん。私が教えるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえ蓋をする方法である。ただし、私がこれまで教えてきたウスノロたちより諸君がまだマシであればの話にはなるがな」
地下牢がシンと静まり返る。
授業の初めの掴みとしてはこれ以上のものはないだろう。
「ポッターッ!」
スネイプが突然ハリーの名前を呼ぶ。
「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になる?」
ハリーはロンと顔を見合わせる。
あの顔を見るに問いの答えは分かっていないようだ。
少し離れたところでハーマイオニーが高々と手を挙げた。
「……わかりません」
ハリーは素直にそう答える。
スネイプはその様子を鼻で笑う。
「ふっ、有名なだけではどうにもならんらしい」
スネイプはハーマイオニーの方を見向きもせずに問いを続ける。
「ポッター、もう一つ聞こう。ベゾアール石を見つけてこいと言われたらどこを探すかね?」
ハーマイオニーは更に高く手を挙げる。
だが、聞かれているのはハリーだ。
ハリーは表情を暗くしながら答えた。
「わかりません」
「入校までに教科書を一度も開かなかったのかね? ポッター、ええ?」
まあ、授業までに教科書を丸暗記するような生徒がハーマイオニー以外にいるとは思えない。
ハリーとハーマイオニーのそんな様子を見て、スリザリンの一部の生徒が声を出さずに身をよじって笑っている。
「では、そうだな……ホワイト、君に聞こう。モンクスフードとウルフスベーンの違いは何だね?」
スネイプはハーマイオニーを無視し、あえて私に質問をした。
私はこの時点でスネイプの質問の意図を察する。
スネイプは単にハリーやハーマイオニーに嫌がらせをしているだけではない。
これは、先程の演説の続きなのだ。
魔法の才能だけではどうしようもない、この授業では知識と経験がものを言う。
そういうことを訴えているのだ。
時間を止めて先ほどの質問の答えを教科書から探すこともできる。
だが、スネイプが欲している答えは、教科書には載っていないだろう。
私は「わかりません」と答えるために口を開く。
だが、その瞬間心配そうな顔でこっちを見るマルフォイと目が合った。
私は、開きかけていた口を閉じ、そのまま時間を止める。
そして教科書を取り出すと、パラパラとページをめくり始めた。
三十分ほど教科書を探しただろうか。
トリカブトの項目に別名としてモンクスフードとウルフスベーンの記述を見つける。
どうやらトリカブトという毒物の別名らしい。
私は教科書をもとの場所に仕舞い直すと、時間停止を解除した。
「わかりません」
私はスネイプに微笑みながら言葉を続ける。
「私トリカブトのことは詳しくなくて」
私の答えに、ハーマイオニーは眉を顰め、スネイプは少し動揺したようだった。
どうやら私のジョークの意味が理解できたのはその二人だけだったようだ。
「ふん、まあいい。教えてやろうポッター。アスフォデルとニガヨモギを合わせると眠り薬となる。この薬は強力なため、『生ける屍の水薬』と言われている。ベゾアール石は山羊の胃から取り出す石で、大抵の薬に対する解毒剤となる。……どうした諸君? 何故今のを全部ノートに書き取らんのだ?」
一斉に羽ペンと羊皮紙を取り出す音が辺りに響く。
授業の掴みとしてはばっちりだろう。
私は羊皮紙に先ほどの内容を書き取り始めた。