ハリーポッターと十六夜咲夜   作:暇をなくした暇人の集

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ハリーポッターと十六夜咲夜 間抜けな鬼に棍棒

私がホグワーツに入学してから、既に二か月が経過していた。

 

 ホグワーツのあちこちにハロウィンの飾りつけがなされており、廊下にはパンプキンパイの良い香りが漂っている。

 

 今夜はハロウィンのご馳走が食卓の上に並ぶと思うと、少々楽しみになった。

 

 ハロウィンの朝一発目の授業は呪文学だった。

 

 呪文学を担当しているフリットウィックはゴブリンの血が少し流れているらしく、一年生の中でも特に身長が低い私よりも低い。

 

 教卓の後ろに踏み台を置いて、やっと上半身が教卓から出るありさまだった。

 

 

 

「今までは、物を動かす簡単な呪文を練習してきましたが、今日は前回達した通り物を浮かす呪文を練習してみましょう」

 

 

 

 フリットウィックは杖を取り出すとビュンと振る。

 

 

 

「いいですか。ビューン、ヒョイですよ? いいですか? ビューン、ヒョイです。呪文も正確に」

 

 

 

 フリットウィックは教卓の横にある重そうな石に杖を向け、呪文を唱えた。

 

 

 

「ウィンガーディアム・レヴィオーサ」

 

 

 

 フリットウィックが杖を振るうと、重そうな石はまるで重力の影響など受けていないかのように浮き上がり、教室中を飛び回った。

 

 石が音もなく教卓の横に着地した瞬間、教室中が拍手で包まれる。

 

 皆、少しでも早くこの呪文を試してみたいようだった。

 

 フリットウィックは生徒を二人ずつ組にし始める。

 

 基本的には席の近しいもの同士を組にしていき、私はハリーと、ロンは偶然隣の席にいたハーマイオニーと組になった。

 

 

 

「ビューンヒョイですって。どっちからやる?」

 

 

 

 私は机の上に置いてある大きな羽根の羽柄を摘んでクルクルと回す。

 

 ハリーは意気揚々と杖を取り出すと、習った通りに呪文を唱えた。

 

 

 

「うぃんがーであむ、れびおーさー」

 

 

 

 ハリーは杖を振るい羽根に向けるが、羽根はピクリとも動かない。

 

 ハリーは数回呪文を試し、全く動かないことを確認するとこちらを見ながら肩を竦めた。

 

 

 

「ダメだ。ピクリともしないよ」

 

 

 

「だらしないわね」

 

 

 

 私は杖を取り出し、わざとらしく咳払いをする。

 

 

 

「うぃんぐぁーでぃうむ・れぶぃおーさ」

 

 

 

 ビューン、ヒョイの動きで杖を振るい、私は羽根に杖を向ける。

 

 杖を向けられた羽根はびっくりするほど動かなかった。

 

 

 

「だらしないのは羽根のほうだったわね。……そうだ」

 

 

 

 私は髪を数回手櫛で梳き、細く真っ白な髪の毛を数本手に取る。

 

 そして髪の毛同士を結ぶと、片方を羽根の真ん中に、片方を杖の先端に結んだ。

 

 

 

「ウィンガーディアム・レヴィオーサ」

 

 

 

 私は机の上で髪の毛の余長を上手く使い、小さく杖を振るう。

 

 そしてそのまま杖をゆっくり持ち上げた。

 

 髪の毛で繋がれている羽根は吊られるような形で宙に浮きあがる。

 

 私の髪の毛はかなり細いので、遠目で見たら宙に浮いているように見えるだろう。

 

 

 

「ハリー、浮いたわ」

 

 

 

 手品にしてはあまりにもお粗末なそれを見て、ハリーは耐えきれないと言わんばかりに噴き出す。

 

 

 

「サクヤって頭良さそうに見えるけど、結構ふざけるよね」

 

 

 

「種や仕掛けしかございません」

 

 

 

 私はそのまま杖を上下させる。

 

 それに合わせて羽根はふわふわ宙を漂った。

 

 

 

「僕の黒髪じゃ無理そうだ」

 

 

 

「そんなことないわ。手品の糸は黒いほうが目立たないのよ?」

 

 

 

「太さがね」

 

 

 

 私は羽根をぶら下げて遊びながらハーマイオニーたちのほうを見る。

 

 私はそうでもないが、ハリーとロン、ハーマイオニーの仲は驚くほど悪い。

 

 ロンとハーマイオニーが組もうものなら、険悪な雰囲気になるのは必然だった。

 

 

 

「ウィンガディアム! レヴィオーサ!」

 

 

 

 ロンは杖をブンブンと振り回し呪文を叫んでいる。

 

 ハーマイオニーは非難するような声色でロンを制止した。

 

 

 

「言い方が間違ってるわ。ウィン・ガー・ディアム レヴィ・オー・サ。流れるように綺麗に言わなきゃ」

 

 

 

 ハーマイオニーに口を出されてロンは途端に不機嫌になる。

 

 

 

「そんなによくご存じなら、ぜひご教授していただきたいね。さあやってみろよ!」

 

 

 

 ロンがハーマイオニーに怒鳴る。

 

 ハーマイオニーは袖を少しまくると、杖を振り呪文を唱えた。

 

 

 

「ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」

 

 

 

 すると羽根はふわりと机から浮き上がり、ハーマイオニーの頭上で停止した。

 

 

 

「オーッ! よくできました!」

 

 

 

 フリットウィックが拍手をして叫ぶ。

 

 

 

「みなさんごらんなさい。グレンジャーがやりましたよ!」

 

 

 

 ハーマイオニーは得意げな顔でロンを見る。

 

 対してロンはうんざりしたような顔で大きくため息をついた。

 

 

・・・まあ確かに腹立つわね。

 

 

 

「おっと! ホワイトも成功したようです!」

 

 

 

 フリットウィックは私のほうを見て拍手をする。

 

 どうやら私の手品を見てまんまと騙されたようだった。

 

 授業が終わって、私とハリーはロンと合流する。

 

 ロンは先ほどのハーマイオニーとのやり取りのせいか、機嫌は最悪だった。

 

 

 

「まったくなんなんだあいつ。自分が少し他人よりできるからって……あ、サクヤのことを言ってるんじゃないからね?」

 

 

 

 ロンは私がまっとうに成功しているものだと思っているらしく、慌ててそう付け足した。

 

 

 

「いや、あれは羽根を糸で吊るして遊んでいたらフリットウィック先生が勘違いしただけよ」

 

 

 

「たまに君からフレッドとジョージと同じ雰囲気を感じるよ」

 

 

 

 ロンは呆れて苦笑いをするが、すぐにハーマイオニーへの怒りがぶり返したようだった。

 

 

 

「ほんと悪夢みたいなやつだよ。あれじゃ絶対友達いないね。サクヤもよく同じ部屋で我慢できるよな」

 

 

 

 その瞬間、誰かがハリーの肩にぶつかり、慌てて追い抜いていく。

 

 ハーマイオニーだ。

 

 それに私の見間違いでなければ、目に涙を溜めていたように見えた。

 

 

 

「あー、聞こえたみたいね」

 

 

 

「知るもんか」

 

 

 

 ロンは悪びれもせずに言った。

 

 結局次の授業にも、午後の授業にもハーマイオニーの姿はなかった。

 

 ロンの言葉が思った以上にハーマイオニーを傷つけたらしい。

 

 慰めに行こうとも思ったが、ハリーとロンと仲良くしている私が行っても逆効果だろう。

 

 午後の授業の荷物を置きに女子寮に戻ると、同部屋のパーバディとラベンダーがちょうどハーマイオニーの話をしているところだった。

 

 

 

「あ、サクヤ。ハーマイオニーのことなんだけど……」

 

 

 

 パーバディは私が入ってきたことに気がつくと、すぐさま声を掛けてくる。

 

 

 

「ずっと女子トイレで泣いてるの。何かあったの?」

 

 

 

 私はロンの名前が口から出そうになるがぐっと飲み込んだ。

 

 男子が女子を泣かせたとなったら、ロンがグリフィンドールの女子生徒から総攻撃を受けてしまう。

女子とはだれかを攻撃するときには一致団結する生き物なのだ。

勿論私のようにどうでもよいと感じて参加しない人もいるが。

 

 

 

「さあ……でもその様子じゃハロウィンパーティにも出ないつもりなのかしら。迎えに行く?」

 

 

 

 私はパーバディとラベンダーに聞くが、二人は小さく首を振った。

 

 

 

「もうラベンダーが行ってきたわ。一人にして欲しいって」

 

 

 

「あの様子じゃしばらく出てこないわよ。聞いたことないぐらいショボくれた声してたもの」

 

 

 

 それならば、もう私から出来ることは何もない。

 

 

 

「そう、ならそっとしておいてあげましょう? きっと落ち着いたら戻ってくるわ」

 

 

 

 私は荷物を仕舞い込むと、パーバディとラベンダーとともに談話室へ降りる。

 

 そして談話室でハリー、ロンと合流し、大広間へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トロールがッ!! 地下室に……お知らせしなくてはと思って──」

 

 

 

 大広間で行われたハロウィンパーティ。

 

 私がグリフィンドールのテーブルでハロウィンのご馳走を食べていると、かなり慌てた様子のクィレルが大広間に駆け込んできた。

 

 クィレルは息も絶え絶えにダンブルドアにそう伝えると、パタリと気絶してしまう。

 

 一瞬の静けさのあと、悲鳴と怒声に大広間は包まれる。

 

 多くの生徒がパニックに陥る中、私は自分でも気味が悪いほどに落ち着いていた。

 

 地下室にトロール?

 

 そもそもトロールってなんだ?

 

 皆の慌てようを見るに、トロールは化け物か何かなのだろう。

 

 『闇の魔術に対する防衛術』の教員が気絶するとは、かなり危険な生き物なのだろうか。

 

 その後、ダンブルドアの指示のもと、生徒は一度各寮の談話室に戻ることになった。

 

 私は監督生に引率される生徒に交じってホグワーツの廊下を歩く。

 

 まあ何にしても、トロールは教員が何とかするだろう。

 

 ハロウィンのご馳走は既にたらふくお腹に入れたし、今日はもう寝よう。

 

 そんなことを考えている最中に、ふとあることが頭を過ぎる。

 

 女子トイレで泣いているハーマイオニーはトロールのことを知らない。

 

 女子トイレはここから少し離れているため、この騒ぎも聞こえていない可能性が高いだろう。

 

 

 

「……まあ、迎えにいくか」

 

 

 

 放っておいても大丈夫だとは思うが、最悪の事態を考えて呼びにいくぐらいはしたほうがいいだろう。

 

 私は人混みに紛れてグリフィンドールの生徒たちから離れると、女子トイレへと走った。

 

 女子トイレには個室が四つ並んでおり、一番奥の扉だけが閉まっている。

 

 

 

「ハーマイオニー! ここにいるんでしょう!」

 

 

 

 私は閉まっている扉の前でハーマイオニーを呼んだ。

 

 返事こそなかったが、呼びかけた際に物音がしたため、中に誰かいるのは確かだろう。

 

 

 

「いつまでも閉じこもってないで出てきたらどう?」

 

 

 

「ほっといてよ! どうせ貴方も私のこと性格の悪い頭でっかちって思ってるんでしょう?」

 

 

 

 ハーマイオニーは扉の向こうで声を荒げる。

 

 小さく鼻を啜る音がするあたり、まだ泣いていたようだった。

 

 

 

「面倒臭いわね貴方」

 

 

 

「ほら! やっぱり!」

 

 

 

 ハーマイオニーは声を出して泣き出してしまう。

 

 別にそういう意味で言ったわけではないのだが、ハーマイオニーは自分に都合が悪いように解釈したようだった。

 

 

 

「何馬鹿なこと言ってるのよ。勉強ができることが悪いことなわけないでしょ? それに、嫌ってたらこんなところまで探しにきたりしないわ」

 

 

 

 私はそっと扉に触れる。

 

 

 

「私は貴方のこと友達だと思ってたんだけど、貴方は違うの?」

 

 

 

「ほんとに? 嘘じゃない?」

 

 

 

「嘘じゃないったら……ほら、一緒にハロウィンパーティに……は中止になったんだった」

 

 

 

 カラカラとトイレットペーパーが回る音が聞こえる。

 

 音からして、どうやら鼻をかんでいるようだった。

 

 

 

「ハロウィンパーティが中止ってどういうこと?」

 

 

 

 扉越しにハーマイオニーは私に聞く。

 

 次の瞬間、ひどい悪臭が私の鼻をついた。

 

 

 

「あ」

 

 

 

 嫌な予感がする。

 

 私がトイレの入り口の方に視線を向けると、そこには四メートルはあろうかというハゲた人型の化け物がこちらに近づいてくるのが見えた。

 

 異様に長い腕には棍棒を握っており、ズルズルと棍棒を引きずって歩いている。

 

 

 

「ハーマイオニー、やっぱりしばらく出てこなくていいわ」

 

 

 

「どういうこと? この臭いは何!?」

 

 

 

 私はハーマイオニーのいる個室から離れると、化け物と対峙する。

 

 なるほど、こいつがトロールか。

 

 名前通りの間抜けヅラじゃないか。

 

 問題があるとするなら、間違いなく私より力が強いということと、ハーマイオニーがいるため時間を止めて一人で逃げることができないということだろうか。

 

 

 

「はぁい、お間抜けさん。このトイレには私しかいないわよ?」

 

 

 

 トロールは不思議そうに私の顔をじっと見ている。

 

 時間を止めてこのトロールを殺すことは簡単だ。

 

 止まっている間に眼球を抉り、眼孔から脳を掻き回せばいい。

 

 だが、この状況でそれをしてしまってはあまりにも不自然だ。

 

 最悪ハーマイオニーが死んだとしても、この能力の秘密は守らなければならない。

 

 となれば、取れる手段は一つ。

 

 私が囮となってトイレの外にトロールを誘導すればいい。

 

 私はポケットの中から金貨の詰まった小袋を取り出す。

 

 そして金貨を一枚握り込むと、トロールと私の間に投げた。

 

 キンッと澄んだ音がトイレに響き渡り、トロールの気が一瞬金貨に向く。

 

 その隙を突いて私は全速力で駆け出すと、トロールの横をすり抜けてトイレの入り口の扉までたどり着いた。

 

 

 

「さて、追いかけっこでもしましょうか。鬼が交代することはないけど」

 

 

 

 トロールは一瞬私を見失って辺りを見回すが、すぐに私の方を向く。

 

 トロールの意識が完全にこちらを向いたことを確認し、私はドアノブを捻った。

 

 

 

「……あれ?」

 

 

 

 結果から言うと、扉は開かなかった。

 

 ドアノブを何度も捻り扉を開けようとするが、押しても引いても扉は何かが引っかかっているかのように開かない。

 

 その手応えは、まるで扉に鍵が掛かっているかのようだった。

 

 

 

「嘘でしょ……」

 

 

 

 私は咄嗟にトロールに向き直る。

 

 トロールは私が扉を開けようと手こずっているうちに私の前まで移動してきたらしい。

 

 トロールは、天井が低いためか棍棒を横薙ぎに振るう。

 

 私がその棍棒の軌道上にいることはあまりにも明白だった。

 

 まあでも焦ることではない。

 

 私は時間を止めることができる。

 

 たとえナショナルリーグのプロ野球選手の振るうバットであろうと、私に掠らせることすら叶わないだろう。

 

 私は時間を止めようと、一瞬周囲を見渡す。

 

 物の配置を覚えたり、人目がないかの確認のための癖だが、この一瞬の癖が命取りとなった。

 

 

 

「サクヤッ!!」

 

 

 

 奥の個室の扉が勢いよく開き、ハーマイオニーが顔を出してこちらを見る。

 

 彼女の目は完全にこちらを向いている。

 

 今時間を止めて移動したら、明らかに不自然だ。

 

 

 

「──ッ!」

 

 

 

 私は時間を止めるために身構えていたため、この体勢からではどう頑張ってもトロールの棍棒を避け切ることなどできないだろう。

 

 勿論、時間を止めたら回避できる。

 

 だが、そうしたらハーマイオニーが私の不自然な動きを観測してしまう。

 

 最悪ハーマイオニーが死んだとしても、この能力の秘密は守らなければいけない。

 

 だが、私が大怪我を負うだけで能力の秘密が漏れないのであれば、それが一番だ。

 

 私は時間を止めることなく、腋を締め左腕を身体の横で固める。

 

 運が良ければ左腕の骨折のみで済むだろう。

 

 あとは私が覚悟を固めるだけだ。

 

 

 

 次の瞬間、私の身体に強い衝撃が襲いかかった。

 

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