わっはっは!
…昼と夕方に三話目まで投稿するかも。
訂正:膝→かかと
間違えてました、ハハ。
01 怪獣
彼の通学校である、辺須瓶中学校の通学路。九月も終盤の秋空の下、両肘を寒そうに擦る一人の男子生徒が歩いていた。
「寒いぃ……早く教室の暖房で温もりたいぃ……」
彼はその“個性”柄──より具体的に言えばその肘から生えた鋭い棘のせいで、毎年長袖の服を着ることが出来ずにいた。
生まれた頃はまだ可愛いサイズのとげであった故に問題はなかったものの、十余年生きてきた彼の肘から生えるそれはまさに棘、布地などたちどころに貫く針である。
なにかにぶつかった時の危険度があまりにも高い為、専用の肘当てをつけている。さながらローラースケート選手のようだ。まあ……怪我をしないためではなくさせないためという違いはあるが。
「慣れないものは慣れないよ。まだ九月だよな、地球温暖化はどうなってるんだ?寒すぎないかな」
その日は特別気温が低かったそうだ。
いつもの時刻、なにも疑わず、意気揚々と普段の格好で玄関から出た彼。
あまりの風の冷たさに戦慄したものの、今から部屋に戻れば遅刻は必至、さらに冬用の制服などそんなに急いで取り出せるものではなかった。……洗濯してないし。
「はよーす」
「おはよう」
よく見れば彼の異形はそこだけではなく、まず側頭部に大きな対の角。褐色のソレには赤いギザ模様があり、そして額にもサイの鼻を思わせるツノが生えている。
その三本のツノも、これまで彼のファッション道を全力で邪魔してきた。
帽子もヘッドホンもつけられない、つけるとしてもオーダーメイドになる。
口内の牙は鋭く、まさに肉食獣をおもわせる風貌の一因である。
先程述べた肘の先からは茶色い鱗に覆われているし、その掌の先にある爪。人間としての薄く平たい爪ではなく、まさに猛獣のような……唐辛子のような爪が生えている。もちろん人を傷つけないように手入れは欠かさないし、ぶ厚い手袋は必需品だ。
要するに彼は肘と膝(とちょっとだけ太腿)から先が人間ではないのである。
なんと、かかとからも棘は生えているし、カバーをつけているし、そのかかとはだいぶ高い位置にある。爪も鋭い。
わりと真面目に人外度が高めで、彼は非常に生活に困っていた。
その最たる例がその太く雄々しい尻尾の存在であるといえるだろう。全長は背丈を超えんばかりに長く、そして力強い。
ズボンを特製にせざるを得ないその尻尾が、彼の家計を最も苦しめている要因である。
……まあ、尻尾をクッションにしたりするクラスメイト達の存在がやぶさかではないので、内心ではトントンみたいなものだ。
女子たちよ!それ、俺の体の一部だから!感触とか鈍いけどあるから!俺よりデカくてもそれ俺の尻尾だから!
それに、メリットはそれだけではない。教室の席を決める際、誰かの前の席になるとかなり迷惑をかけるので常に一番後ろに居れるのだ!あまり勉強に対して真摯になれないお年頃である中学生にとってはすこしうれしい。
「今日も立派なシッポだね、ゴモラ」
「おはよ。んん、一言目に尻尾のこと?」
通学路の後ろから追いつき、話しかけてきた彼女は耳郎響香。彼のクラスメイトで、志望校を同じくするライバルである。
“ゴモラ”とは、彼の名前である『五毛 楽』からとられたあだ名であり、彼の“個性”である古代の恐竜の通称でもある。
彼女もそれなりの寒がりではあるが、しっかりと長袖を着込み、その格好に寒々しさは感じさせない。
「そのヘッドホン、新しく買ったの?カッコいい。似合ってるよ」
「……でしょ?めっちゃイケてると思って。一目惚れしたから買った」
「ははぁ、思い切りがいいね」
実際、彼は非常に似合っていると思った。思ったことをそのまま口にしただけである。
……まあ、そういうものをつけられないというちょっとした嫉妬もあったかもしれない。なくはない。
彼はそこそこ気立が良く、また、常識人で格好以外は大人っぽさもある。成績もよい。
中学校──大体は恋愛ごとの少ない生活ではあれども、結構な優良物件扱いとしてなされていた。
本人はまったく知らないし、気にした様子もなかったが……彼はまだ、尻尾と女子の接触にドギマギする純情な男子であった。恋愛経験値はゼロに等しかったので、許してほしい。
「今日の一限目ってなんだっけ」
「文学だよ」
「あの先生、やたらと班活動させたがるよね」
「別にヤな先生ではないんだけどねー……」
「ねー」
彼は、彼女と話しているのが好きであった。話しやすいし、付き合いやすいし、可愛い。何より、一緒にいて苦ではないというのは、友人として、貴重で大切な要素であろう。
むろん他に友達がいないではないが、男子のノリについていけない時があったり、女子の距離が近くてドギマギを超えてキョドりそうになったり。キョドるのは堪えたが、まあ、そういった訳で耳郎響香がもっとも隣に居やすく楽な人物であった。
「あとででいいんだけどさ。昨日の数学の二つめの問題さ、ちょっとわからない箇所があったから教えてくれん?」
「もちろん、いいよ。人と勉強すると頭に入りやすいよね」
まあ、程度の差があまり広くない場合において、他者に教えるという行為は自身の理解をも深める行為として有効である。
「はよーゴモラ」
「おはよっすゴモラ」
「おはよ、ゴモラくん」
「はよざいます〜」
挨拶をくれるクラスメイトに挨拶を返し、自身の席に座る。即座に男子どもがわらわら近づき、その立派な尻尾を弄りはじめるのが毎朝のルーティンのようなものだ。
「ゴモラぁ〜、地理の課題見せてくれぇ」
「いい加減自分でやることを覚えろよ……はい、これ」
「サンキュー!いやあ、やる気だったけど忘れてたんだなあコレが」
「なんてやつだ」
「相変わらず字綺麗よな、そんな書きにくそうな手ぇしてんのにな」
「そんな言われるほどじゃ…というか、慣れたって言ったでしょ?もう十何年の付き合いだし」
「ザ・鎧!ザ・鱗!って感じでカッケェと思うぜ。うん」
「慰めてんのか?それは」
「褒めてんだろ」
「モンハンの装備って感じするよな」
「言わんとすることはわからんでもない」
そう、ペンを握りつぶさない・綺麗に線を引くために彼は努力を重ねた。数年前までは、その費用がオーダーメイドズボンに届かんとする勢いであった。
異形個性用のペンを試したり、講座を受けたり。努力は実り、今では使い潰すことは殆どないと言っていい。
「来年はもう受験だよなぁ」
「バッカ考えさせんな」
「でもどうせお前らもヒーロー科だろ?」
「モチよ」
「あたぼーよ」
「……で!ゴモラは雄英!だろ!?」
「そうだね。雄英志望だよ」
「うわー、ゴモラなら行けそう」
「というかマジ頑張れよ」
「倍率300超えだぞ」
「ほんと何度聞いてもおっそろしい」
「勉強面だけならA判定はもらってるからね」
「うわやべえよこいつ」
「信じらんねえ…IQわけろ!」
「俺にその脳みそ寄越せ」
「努力しなよ」
「クッ」
それから時は移ろって──
金曜日の夜。人通りも少なく、ただ街灯やビルの灯りが道路を照らし、時たま思い出したかのように車が通る街並みの上空。
五毛 楽ことゴモラはビルからビルに飛び移り、夜の空中散歩を楽しんでいた。
勘違いしてはいけないのは、彼に飛行能力などないこと。純粋な脚力、ジャンプ力でビルとビルを飛び移っているのだ。
個性を曝け出してはいけないとわかってはいるものの、誰にも見つからないようにと深夜を選び、音もあまり立てないように苦心しているだけ、まあ、少しの理性が残っていると言えよう。
「……罪悪感はあるけど、今日は月が綺麗だ。気分もいいし、やっぱり来てよかった」
駿府城の天守閣、絶対に登ってはいけないそこに腰掛けた楽は、しみじみと空を見上げて一人ごちた。だが──
「『死んでもいいわ』とは言わないけれど、こんばんは。悪い子さん」
「!?」
音もなく隣に立っていた男に仰天し、あわや転げ落ちそうになる。
「おっと、大丈夫かい?」
「だ、誰?」
「別に、お互い名乗らなくてもいいだろう?こんな夜に、こんなところまで登ったバカ二人でいいんだよ」
「……」
その男は彼と同じ年頃に見え、白いパーカーを深く被って顔が見えなかった。月明かりはその男の顔を覗き込むにはあまりに心もとなく、儚い灯りであった。
「私も空を走るのが好きでさ。気晴らしに散歩してたら、君を見かけた」
「見られてたのか……」
「別に気に病むことはないよ、君がヴィランでもない限りね。むろん私もヒーローではないし、個性を無断使用する悪ガキさ」
「不思議なやつだなぁ、君も」
彼は特段含むこともなく、素直にそう思った。別に、悪感情を抱いたわけではない。少し話しただけではあるけれども、むしろ彼の語りを聞くのは心地よかったし、純粋に“不思議”なやつだと感じたから、そのまま口にした。
「はは、よく言われるよ。君も、見たところは異形個性とはいえ、身軽なもんだ」
「身軽なもんか。これは努力の賜物さ」
口先だけムッとさせ、特段気にしてもいないことを宣う。努力の結晶であるのは事実だが、それを触れ回ったりひけらかすつもりもなかった。
「おっと、失敬。それはすごいな、私の個性がそうだから、そのつもりのまま語ってしまった」
「同じ?…異形には、見えないけど」
「そこじゃないさ。私は空が飛べるからね…それこそ、魚のようにすいーっと。個性“光エネルギー”とでも言うのかな?光になんのエネルギーがあるのかは知らないけどね。眩しい昼に力を発揮すると、ちょっと勢い余ることもあるんだよね」
「制御が難しいのか、なるほどな……」
「私は寒いのが嫌いなんだが、たまにはこういうのも悪くない。今日は風もないしね」
無風、と言うほどでもないささやかな空気の流れはただひたすらに穏やかだ。火照る体を吹きさらす程度の冷たさはあるが、やはりあくまで心地よい程度である。
「君はおしゃべりのうまい人だね。話が上手ともいうのかも」
「それは光栄だ。君も私の話に付き合ってくれるからね、つい楽しくて話しすぎる。壊れたラジオのようとも言うけれど、理性を解き放って好き勝手に喋るってのも、たまにはいいだろう?面接みたいにかたっ苦しくするのも必要だけど」
「本当に、歳が近いとは思えない語彙力だ……楽しいし、大丈夫だよ」
実際、彼は楽しかった。話し相手がいると言うのは結構よいものだ。間の取り方も言葉の聞き方も声のトーンもそのどれもが心地よさに作用しているような錯覚を覚える。
服に透けて胸を青く光らせている白パーカーの男は、口元を穏やかに緩ませ、伸びをした。
「さて、夜も遅い。私が言うことではないけれど、あまり遅くまで外に居ない方がいいよ。お互いね」
「ほんとうにお互い様だね。うーん、……風も少し吹いてきた。空の綺麗なうちに帰ろうかな」
「それがいい。君とは、また会える気がするよ。じゃあね」
「うん、バイバイ」
彼らは同時に飛び立った。
一人は跳ねるように飛び上がり、もう一人はふわりと浮遊するように離陸した。二人の少年の帰路は違えど、過ごした時間の余韻は共にある。とても気分の良い夜は、誰にも咎められることなく流れていく。
土曜日の朝、五時おわりごろ。自宅周辺の歩道の広い道を彼は走っていた。
ジャージを着た彼はイヤホンをはめて小走りする。体力づくりが目的ではない。では、なぜ走るのか?
それは綺麗な姿勢づくりであると言うのが一番近い。──彼の足は太く異形である。ゆえに一般人の走り方など参考にならず、普通に走ればドスドスといった印象を与えること間違いなしというところだろう。
なので彼はその足を使っての速く・綺麗な走行フォームを模索していたのだ。
「あ、ゴモラ」
「?あ、耳郎さん」
コンビニの前を通りがかった際、声をかけられた。覚えのあるその声は、誰あろう耳郎響香のものである。
ラフな格好でビニール袋を手に下げ、まさに買い物終わりといった様相の彼女は買い忘れていた食パンを手に入れるためにコンビニを訪れていた。その際、友人を見かけたので呼び止めたのである。
「ランニング?えらいじゃんね」
「ありがと。でも、体力づくりのためじゃなくてさ」
「へえ?どういう……」
「実はさ」
かくかくしかじか。
「ふーん、走行フォームね」
「まあ、形はできてるんだよ。今はそれを体に慣らして定着させようとしてるんだ」
「なるほど」
彼は軽く身振り手振りの実演を交えながら、軽い調子で述べていく。
「チラッと見たけど、良い感じじゃんね」
「そう?ありがとう。やっぱり人に褒められると自信がでてくるね」
彼女の隣まで移動した彼は、持ってきたスポーツドリンクで唇を濡らしながらはにかんだ。お世辞であっても嬉しいものは嬉しいし、何より自信に繋がるのは本当だ。
「ゴモラは雄英受けるんだよね?」
「うん。耳郎さんも雄英じゃなかったっけ?」
「そうだよ」
雄英は言わずと知れた超高倍率の難関校だが、二人とも記念受験のつもりなどさらさらない。必ずや受かり、ヒーローを志すと決めている。
「いつも走ってるの?」
「ううん。土日は走ってる」
「……ウチも一緒に走っていい?」
「えっ?……いいよ?」
「なんで疑問詞」
彼はこの瞬間、困惑しきりであった。ただし、自分でも何に困惑しているのかさっぱりわからない。朝走ることはとても良いことであるし、一緒に走るというのもなんらおかしいことではない。
まぁ、男女という性差はあろうが──彼は全くそれについてたどりつかない。
「や、雄英受けるなら体力はどれだけあっても損はないでしょ?けど、ウチ一人でずっと続けていける自信がなくってさ」
「ああ、なるほど……」
「目的は違うけど、ちょっと付き合ってほしいってコト」
彼は素晴らしい心掛けであると感心した。是非協力させてもらおうと思った。
「一緒にがんばろう」
「うん、よろしく。ゴモラはどこのルートを走ってるの?」
「ええと、地図アプリ開くから待ってね」
彼は、家と公園とコンビニを周るようなルートで走っていた。信号機で止まるような箇所がなく、ランニングするならよい道のりだと考えたから。
合計二キロか二キロ半に届くかという走行距離ではあるものの、そんなことは何周もすればまったく問題ない。
「ん、じゃあ……やっぱりこのコンビニで待ち合わせするのが近いかな」
「時間はそっちに合わせるよ。俺は朝であれば構わないから」
「ふーん。ゴモラはいつも何時から走り始めるの?」
「五時半あたりかな」
「それでいいよ。五時半からゴモラは走り始めて、ウチはコンビニで合流する」
「耳郎さんの家にルートとか合わせないで大丈夫?」
「うん、ウチの家まで来ちゃうとどうしても信号があるし。これでいいよ」
確かに彼女の言う通りである。彼は納得し、日曜の朝にまた会おうと約束した。先程までのランニングと同様に走り出したが、彼の心は彼自身の預かり知らぬところで弾み浮き足立っていた。ようするに、喜んでいた。
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モチベ爆上げのニトロ材やでぇ!!