私が魔女に成る日   作:お散歩をしよう!

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第1話

 

 

 

 

 

 魔法、と呼ばれるものがある。

 それは古くから、ある時は忌み嫌われ、ある時は利用されて、立場やその如何を問わず人と密接に関わっていた。

 

 例えば錬金。例えば飛行。

 食事を摂らなくても良くなる、なんてのも中にはある。それは魔法使いどころの話ではない。魔法そのものに、体を変えた人間。

 すなわち、魔女の所業だ。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 霧雨魔理沙は、昔友人から言われた事を自宅のベッドの上で思い出していた。

 一人暮らしを始めてから数年も経つが、変わらず部屋は汚い、朝は起きれない、夜更かしはする──と、自分で挙げてもどうして一人での生活が成り立っているのか不思議だった。

 

 そこを、両親との……特に父親との確執に対する意固地や、一度始めた事への諦めの悪さ、言ってしまえば魔理沙自身の性格から来る意地で、何とか保たれているようなものだ。

 

 だから、その意志の悪さを数年前のある日、父親に当てた。古物商から始まった手広い商売店を営み安定した収入のある父親は、要するに魔理沙を手元に置いておきたかったのだ。

 けれど好奇心が先走るせいで擦り傷なんかが絶えなかった魔理沙が、程なくして里にやってきた魔女の操る()()に心を惹かれるのも無理はなかった。

 

 そこからは、まるで人が変わったように魔女の元を訪れ続けた。友人に、飽きっぽい魔理沙が、だなんて笑われようともお構い無しだった。

 

 最初、魔女のアリスは親切に魔法がどういうものかを教えてくれた。例えば、水から金を生み出す実験、指を使わず糸人形を歩かせる、中には昼間に見える星を作るなんて、傍から見れば荒唐無稽に映るだろうものもあった。

 

 12歳のある時。

 魔理沙はある決断をする。

 

「ねえ、アリス」

「あら、魔理沙ちゃん。どうしたの? またお空を飛んでみたい?」

 

 幼心ながらあれが初めて強く下した決断だったのを、今でも覚えている。

 

「私も魔女になれる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、もう3年か」

 

 そうして、多感な年頃故に思うところの多かった魔理沙は、家に引き留めようとする父親との度重なる口論の末に、霧雨家を勘当されて今に至る。

 子どもながら、一人で暮らしていくには為の知識は整えていた。元よりさほどの自由を与えてくれない父親があまり好きではなかったから、家出した時のために備えていたし、実際に家を飛び出したことに後悔も未練もない。

 

 たまに、食べるものに困ったり暇だったりした時は、少し離れた場所にある店に遊びに行ったりして誤魔化したりしていた。

 

 3年経った。

 魔理沙は、なんでも自分でやりたがる人間だった。だから、何でも召使いに身の回りの世話をさせようとする父親は嫌いで。

 

「…はあ」

 

 ため息が口をついて出る。

 

 あれから、魔法を形成するための要素や、発動させるための条件、そういった魔女と成る為のプロセスを独力で、あるいは知人の手を借りて進めていくことで、今日まで成り立っていた。

 

 我ながらそこそこ知識もついたし、と意気揚々と教えを乞うべくアリスの元を訪れたのだが、そこに来て、また同じような言葉を並べ立てられたのである。ただし今度は、幼子に言って聞かせる為の柔らかな言葉遣いではなく、感情論の一切を廃して淡々と理論と理由を述べられ、否定されたのだ。

 

 それはちょうど、昨日の事だった。

 

「…なあ…。私が聞きたいのは友達としてのアリスの言葉じゃないんだよ。わかるだろ」

 

 アリスは、基本的には優しい。里の子ども達の話は親身になって聞くし、知り合いの悩み事にも真剣に考えてくれる。

 だから、魔理沙はアリスに打ち明けたのだ。特に、家出をして森で一人で過ごすようになってからは教鞭を執ってくれる間柄でもあったから。

 けれども魔理沙の望む答えは帰ってこなかった。

 

「わかるわ。でもこればかりはいけない。人間が人間であることを辞めた時、その人は孤独になるのよ、わかって?」

 

「わかってるよ… だから頼んでるんだろ?」

 

 分かりきった言葉で返されて、多少不機嫌になったのは魔理沙も認めるところだった。それにアリス自身、魔理沙が自在に魔法を使える自分の事をやっかんでいる事も知っていた。

 しかし、アリスとしては彼女に()()()()()方法を教えたくはなかった。

 

 人間を辞めることは、すなわち人間との関わりを断つことと同義。アリスは最初からそうなるべくしてなったから受け入れられたが、魔理沙は魔女に成るにはあまりにも人間すぎる。

 そして、人である事を捨てた者は、自分に耐えられなくなる。

 

「魔理沙……残念だけど、こればかりはなんと言われようと頷いてあげられない。理解して貰わなくてもいい。私は貴女に、決して譲歩しない」

 

「なんだよ…… なんだよっ、分からず屋!」

 

 吐き捨て、アリスの家を飛び出る魔理沙。その背中を、彼女は見ている事しかできない。

 ただ、心のどこかでその光景に安堵しているのも確かだった。

 同じ魔女なら、きっと彼女も私と同じように魔理沙へ言い含めてくれるだろう。

 生きる世界こそ違えど、考えは同じはずの友人に、思いを馳せた。

 

 

 

 

 

(なんだよっ! なんでだ…)

「くそ…」

 

 走りながら、置いてきた彼女に毒突く。

 

(魔女に成れば長命になる……人じゃなくなる…… でも、そんなの分かってる)

 

 当たり前だと言わんばかりに頭の中に吐き出す。人を辞めることが何をもたらすかも知っている。そしてそれに対する覚悟も持っている。足りないのは、魔理沙を魔女の身体へと導く標だけなのだ。

 

 けれど、頼みの綱だった魔女には断られてしまった。どうしようもなくなって、やけっぱちで駆け出した。

 家に着いてすぐ、服も脱がずにベッドへ伏せる。

 

 走って、疲れて、汗もかいた。

 でもそれ以上に、何もしたくなかった。お風呂に入ったり、ご飯を食べたり、友人と話したりなんてことも、今はする気分じゃなかった。

 

 頭の中で考えが受け入れられない事への不満を爆発させているうちに、次第に溜まった疲れが体を支配していき、いつしか眠りこけていた。

 

 

 

 

 

 そして、今に至る。

 

 起きた時、今が午前なのか午後なのかも分からないまま、いつも通り椅子に座って、適当にだめになる手前のパンを見繕ってココアと一緒に飲み込む。

 温かい息を吐き出し、少しばかり頭が冴えてきて、今日はアリスの所へ行こうかな…などと考えた直後に、昨日その本人から言われた事を思い出して、今度は深いため息を吐き出した。

 

(アリスのやつ、どうして…いつもなら魔法の事、教えてくれるのに)

 

 魔理沙とて、一人で魔法使いとして成長してきたわけではない。先生とも呼ぶべき存在───七色の人形遣いと謳われるアリス・マーガトロイドや、知識の化身を名乗る魔女パチュリーに師事してきたからこそ、魔法に対する叡智を蓄積できたのだ。

 

 だが、最も肝要な【魔女に成る方法】については、二人とも否定するか反対の後に口を噤むだけだった。

 何か都合が悪いのか、それとも。

 

 

「あーあ! あー!! 私らしくもない!!」

 

 大きな声を上げて、無理やり嫌な気分を取っ払う。ダメだと言われて諦めるほど、私は大人しい性格をしていないだろう。魔理沙は自分にそう言い聞かせるように、頬を叩いて自らに発破をかける。

 

 そうだ。

 魔女に成る方法など、聞くからダメなのだ。

 

 それは私らしく、盗んでやればよい。

 落ち込みから立ち直った魔理沙は、普段のように悪巧みを始めたのだった。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

(とは考えたものの…なぁ)

 

 箒に跨り、空を飛びながら考える。

 魔女に成るための方法を探すにしたって、最も分かりやすいのは既に魔女となった二人、すなわちアリスとパチュリーの二人に師事を乞う事なのだ。

 けれど、最速ルートは他ならぬ二人の手によって断たれた。なら地道に材料を集めていく他ない。

 

 たとえば、魔女に成るための手段、必要なもの、条件、そういったものだ。

 そうするには、恐らく一番手っ取り早いのは聞き取り調査だ。それもターゲットは人間ではない。

 

 妖怪達だ。

 

 

「思い立ったが吉日、それ以降は全て凶日ってな」

 

 箒を飛ばし、思い当たる第一の相手へと歩を進めた。異変でもない、自分の欲求の為だけに動く。その程度の事は今まで何度もしてきたのだが、ことこの魔女に成るという欲求に際しては、他以上の楽しみと、そして目標へ進んでいく高揚感があった。

 

 

 

 

 

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