嵐というものは、いつも突然やってくる。それは気象的なものであれ、抽象的なものであれ、例外ではない。ここIS学園1年1組でもその現象は見られる。こと最近もこのクラスではちょっとした嵐が吹き荒れたばかりだ。
だが、今回は規模が違う。
渇いた音、それがあまりにも衝撃的だった為唖然とその光景に見入る生徒たち。誰一人としてそれを止めることはできず、反応することもできずにただただ目の前の光景を受け入れることしかできないでいた。
たった一人を、除いては。
「・・・貴様、何者だ」
「それはこちらのセリフです。この人に敵意を持つ者は例え誰であろうと排除する。それが私の任務です」
一触即発とはまさにこのこと。今にも懐から銃でも抜き出さんとする雰囲気を出す少女2人に怖じ気ることどころか呆れさえ見せる担任。こうなることを見越していたのかかどうかはわからないが、少なくとも片方に関してはこうなるとは思っていたのだろう。実際になるとは、まったく想像してはいなかったようだが。
なにはともあれ。
「何だか知んねーけど、とりあえずチャイム鳴るんだけど」
SHR終了の予鈴。それが2人が離れるゴングとなった。
IS学園の劣等生~第拾話:金と銀~
いきなりなんなんだ、とは巧。とんだとばっちりでしたわね、とはセシリアだ。そもそもなんでこんなことになったかと言えば原因は今苦笑いを浮かべている目の前のこの男に原因がある。そう違いないと睨みつける。
「そんな目で見んなって。俺だってさっぱりわからないんだから」
今朝、二人の転校生がやってきた。一人は金髪で見た目美少年―――いや、もはや美少女と言っても過言ではないであろうフランス出身、またしても代表候補生であるシャルル・デュノア。そしてもう一人が件の人物である銀髪に眼帯をした小柄な少女であるドイツの代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒ。問題は、後者だ。
「自己紹介するなりいきなりビンタだもんな」
「俺はそれよりコイツが初めて仕事したことに驚いてるがな」
「巧さんて偶にサラッと酷いことと言いますよね」
事実なんだから仕方ない、と切り捨てる。普段の生活がアレなだけに想像し難いのは無理もないのだ。だが、それだけに印象には残る。あの、怠けて自分の洗濯物・・・年頃の女子だというのに自身の下着を同室の男に洗わせ、あまつさえ「菓子を作れ」と要求する始末。見る人が見たら徹底的にダメ人間、女子力の欠片もないようなこの女が、あんな鬼気迫るようなことをやってのけたのだ。今も信じられず夢なんじゃないかと思える。
「今そこはかとなく馬鹿にされた気がします」
「気のせいだ。それより早く行くぞ。あの鬼教官から地獄を味わうのは御免だ」
席を立ったころ、時計を見ればそんな時間かと各々教室から出て行く。が、男子3人はここから既に
「織斑、プランBに従いデュノアを護衛。ルート5を駆使しつつ敵部隊の包囲網を潜り抜ける。いいな」
「ああ。今回はシャルルもいるからな。相当手強いぜ・・・って、言ってるそばからッ!」
なんのことだと聞いているだけではまったく理解できない会話だったが、直後にシャルルは戦慄する。これが、血に飢えた獣に追われるということだと。今の自分はまさに兎。ライオンに睨まれ、無我夢中に逃げ惑う無力な兎。弱者が強者に食われる、そんな自然界に放り出されたかのような錯覚に陥ってしまうような空気感の中、必死に足を動かして先導する2人を追いかける。
そういえば、どうしてこんなことに?
「男子はこの学園でたったの3人。女子高という封鎖された空間で外部からの刺激が制限されている状況なら、こうなるのは頷ける」
つまり、男子が物珍しいからこうなっている、と。案外冷静さを欠いていなかった思考でそう解釈すればこの状況に合点がいくと同時に直感する。アレに捕まったら、終わる。色々な意味で終わる。故に、彼の足は自身のキャパ以上の力を発揮し始めた。少し離され気味だった距離が縮まる。
「織斑、あと少しだ!」
「ああ!―――って、ヤバいッ!?」
視線を少し上へとあげれば、そこにはまるで読んでいたかのように立ちふさがる女子の群れが。先頭にいる、おそらく指揮を執っているであろう眼鏡の生徒が待ってましたとドヤ顔をする。
(いや、待て。読んでいた?このルートは俺と織斑しか知らない、最近組んだルートのはずだ。それを一体どうやって・・・)
だが時は一刻を争う。思考している余裕はない。ここまで追い詰められた巧の取れる選択肢は一つだった。
「仕方がない、織斑、強行突破だ!」
「おうッ!」
「え、えぇ!?」
「迷うな、行くぞッ!」
躊躇するシャルルの手を取り速度を上げて突っ込む。すると、流石に気おくれしたのかどうすることもできずにさながらモーゼのように割れた人並みを猛スピードで駆け抜ける。後方で悔しがる女子たちの声と地団駄を背に受けながら、目の前に見えるアリーナへと続く扉を開き先ほどのことを思い返す。
(あの顔・・・あれは絶対に此方の動きを把握していた。しかも的確に。まさか同居人・・・は、考え難い。だとするならクラスの誰か・・・・いや、あのクラスの連中はどちらかというと独り占めしたがる傾向だった。だとすると・・・いったい誰が・・・)
◇
「いや~、今回はいつにもましてハードだったぜ」
「おかげで無駄な時間を費やした。急ぐぞ」
早くしなければ鉄槌が下る。そんなのは何が何でも回避しなければならない。制服の上着を脱ぎ、シャツのボタンに手をかければ違和感に気が付いた。
「どうした?」
「え、あや、その・・・ぼ、僕あっちで着替えるね!」
何やら挙動不審になりつつ反対側へと消えていくシャルル。同じ男子なんだから恥ずかしがることないだろうにとは一夏だ。
「・・・事情があんだろ。俺みたいな」
「お前、そういうリアクションしずらい例えサラッとだすよな最近」
「会話を打ち切るには便利だと最近気が付いた」
「ハァ・・・お前、その内友達失くすぞ」
「大きなお世話だ。それより早くしろ。つかなんでお前ISスーツ下に着てねえんだよ」
「便利なのはわかるけどさ、引っかかるんだよ」
「あ~・・・気持ちはわかる」
「二人ともさっきから会話がナマナマしいよ!?」
アリーナにたどり着いたころには既に集合の合図がかけられた後だった。綺麗に整列し、隊列に乱れがないのはこの人の
「・・・フン、今回は見逃してやる」
ナチュラルに人の心を読む辺りこの人はやっぱり人間やめてると切に思う。
「さて、今回からはISを使った本格的な行動訓練に入る。がその前に・・・凰、オルコット。前に出ろ」
「なんでアタシがこんなこと・・・」
「こういう見世物は、些か気が引けますわね・・・」
愚痴りながら前にでる。完全にやる気がないのは見てわかるが、織斑先生がなにか吹き込んだ途端にやる気を出した。しかし鈴はわかるが何故かセシリアに関しては少々複雑そうな感じである。それに首を傾げつつ、さっきから上空で待機している陰を見上げて見当をつける。
あ、これそういうことか。
「ですが、相手がいらっしゃいませんが」
「そうね。なんだったら、アタシはセシリアが相手でも一向に構わないわよ」
「あら、負けて惨めな姿を自ら晒ていくなんて・・・鈴さんは相当精神がタフなようで」
「おうドリル、アンタ最近太ったんですってね」
「よろしいですわ。ならば戦争です」
「なにショボイ理由で物騒なこと始めようとしてるんだ馬鹿者どもが」
さっそく出席簿がとんだ。アレ、地味に痛いらしいがどんなものなんだろう。・・・まあ、見ればわかるが。
「貴様らの相手は・・・彼女だ」
―――何やらやな予感がする。そう思い上を見上げればきりもみしながら降りてくる一機のISが。さっきから上空で待っていたのを見る辺りいい恰好して生徒からの威厳を取り戻そうと踏んだんだろうが、このままいけば逆効果間違いないのは明白。これだからあの人は子供だと言われるんだと呆れつつ見ていると。
「タクミ、何をやっているのです!」
「危ないから早くこっちに来い!」
「ア?」
と、辺りを見回してみればいつの間にか人がいないことに気が付く。巧が降下してくる山田真耶を見て呆れるまでわずか1秒に至るかそうでないかという短い瞬間でこうも回避運動をとれるとは人間とはすごいものだと思う反面、自身に痛覚というものが存在していない為に危機管理能力がザルになっているのだろうと思う。
「ヤバ――――」
瞬間、ドーンという物凄い音を立てて地面から土煙があがった。
「枢!?」
目を凝らし、確認をする一夏。やがて濛々と立ち上がっていた煙は晴れていき、シルエットが浮かび上がる。
「いたたた・・・大丈夫ですか、巧さん?」
「すみません枢君。私の不手際で・・・」
「フゴ。フゴゴゴ・・・」
「先生、別の意味で危険です」
4つの・・・そう、表現するのであれば
「ほのかさん、急に飛び出して行かれたと思えば・・・」
「あはは。巧さんをお守りするのが私の役目でもありますので」
失敗しちゃいましたけどね、とお茶目に舌をだしてみる。が、そのお守りする対象は今にも窒息しそうなほどもがき苦しんでいた。
「枢!?」
「アンタらいい加減にどけ!」
◇
「あ~・・・コホン。少々トラブルはあったが、これより凰・オルコットペア対山田先生による模擬戦を披露してもらう。なにやらいきがってはいるが・・・安心しろ、今のお前たちならすぐ負ける。だがそうだな・・・枢」
「ハイハイ、ハンデっすね」
「そうだ。当初の予定を変更し、山田先生と枢でチームを組んでもらう。これで2対2だ。さらにハンデとして代表候補生チームはどちらか片方を撃墜すれば勝ちとする。どうだ?嬉しいハンデだろ」
完全にバカにしている&煽っている顔で条件を付けくわえる。やっぱり鬼だ、悪魔だと散々貶すだけ貶しているのはおそらく自分だけではない筈と視線を移せば案の定、悔しさ半分とやる気半分のよくわからないドス黒いようなオーラを放ちながらグヌヌと唸っていた。
「よ、よろしくお願いしますね、枢君」
「あ~・・・そこそこに」
かったるい。とっとと終わらせてしまおうと端からやられにいく面持で機体を纏うが。
「ちなみに枢、貴様万が一ワザと負けるような真似すれば光野から預かっている㊙ノートが公開されることになるからそのつもりでいろ」
「勝ちにいくぜ、先生」
「は、はい?」
かくして、負けられない戦いが一方的に強いられて始まった。
おまけ IS学園の劣等生番外編
「実家か?」
「ああ。どんなものかと思ってな」
放課後。珍しい組み合わせで下校してみればそんなことを言われた。ちなみに一夏は居残り、セシリアと鈴は部活でほのかはノワールの定期メンテの為不在。その為このような組み合わせとなっていた。
「そうだな。大した店というわけじゃない。喫茶店と言って差支えないかもしれない、そんな規模で割とこじんまりとしているな」
「だがその腕前ならばさぞ店は繁盛しているのだろう?」
「いや、そーでもない。まあ、ランチタイムはそこそこ混んだりもするがそれでも行列ができたことなんて一度もない」
そもそもそこまで人気があったわけでもないしなと付け加えれば、なにやら顎に手を当てて考える仕草をする。何か見当違いでもしていたのだろうか。そう考えていれば顔を上げ、
「今度、行ってみてもいいか?」
「あ?まあいいけど・・・ほれ、これが住所と名前」
「うむ、この住所・・・それに、喫茶Kaname・・・、思い出したッ!」
「うお、なんだ急に?」
「お前の作ったケーキを食べてみてから気になっていたが、やはりあの店だったのか」
「なんだ、ウチの店知ってんのか」
「母さんがいつも買ってきてくれてな。抹茶ロールが特に好んでよく食べていた」
これは思わぬ誤算だった。まさかこんな身近に常連がいたとは。ならば話は早い。
「実は作ってあるんだが、食べるか?」
「いいのか!?」
「ああ。この前織斑からチャーハンをご馳走してもらってな。その返しで作ったはいが余ってるのがある」
「おお、それは楽しみだ」
キャラがいつもと違う。そう感じるほど箒ははしゃいでいた。
「な、何がおかしい?」
笑ってしまったことがバレ、軽く睨まれる。しかしながら照れ隠しで睨まれているためいつものような迫力は微塵もない。
「いや、アンタでもそんな顔するんだなと思ってさ」
「わ、私とて女子だ。甘味は好きだし、好物が貰えるのであれば嬉しいに決まっているであろう」
段々と小声になるがしっかりと聞き取った為そうした意味がない。こう、不器用なのはわかるが誤魔化すのであればもっと器用にできないものかと思う。
「いつもそう素直なら織斑も気づくんじゃないか?」
「な、何故そこで一夏を出す!?」
コイツ、隠せてると思ってたのか。いや、あそこまであからさまなことしていれば普通は気づくだろうに。やっぱり不器用だと溜息を吐く。どいつもこいつも揃ってメンドクサイのばかりだ。
「ハア・・・言いたいことはちゃんとストレートに言わないと何も伝わらないぞ?」
「そ、それは・・・」
「折角光るもの持ってんだから、宝の持ち腐れにだけはすんなよ。でないと後悔する」
「それはどういう意味だ?」
「・・・実例が身近にいるんでな」
そう言いながら以前電話越しに愚痴ってきた由里子のことを思い出す。年齢を重ねた女性は色気がでるというが同時にさらに面倒にもなると彼女の男日照りぶりを嘆く。
「よくわからないが・・・しかし、私にできるかどうか」
「できるさ。彼奴にとって、今一番近い場所にいるのはあの姉を除けばアンタだけだ。自分に嘘をつかないで真っ直ぐに伝えればきっとわかってくれる・・・と、思う確率が1%未満だな」
「上げて落とすとはエグい」
仕方ないだろう、あの鈍感魔王のことを考えたら1もあっただけ奇跡だ。そう言いたげに抗議の目線を送る。
「・・・まあ、励ましてくれる辺り少しは良心があるようだな」
「酷ぇ言いぐさだな」
「お互い様だろ?・・・そうだな、お前から見て私のいいところとはどんなところだ?」
「ん~・・・ありきたりな意見じゃ参考にならないから、ぶっちゃけた話になるがいいか?」
「ああ。で、どうなんだ?」
「・・・ぶっちゃけ、タイプ。付き合いたいくらいだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・へ?」
続く!
※続きません(笑)