IS学園の劣等生   作:tubaki7

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第壱弐話 亀裂

「えっとね、一夏が皆に勝てないのは射撃武器の特性を理解できてないからだと思うんだ」

 

 転校してきてからというもの、シャルル・デュノアがクラスに溶け込むのにそう時間はかからなかった。持前のコミュニケーション能力と愛想の良さで瞬く間に彼は一夏同様、クラスの人気者となっていった。そして、いつの間にか一夏のコーチの座さえも。

 

「グヌヌ・・・」

 

 鈴、セシリア、箒がそう呟く。元々彼女たちのコーチでやっていたのだからいきなり現れたシャルルに横取りされる形となったのはさぞ面白くないことだろうがあの指導の仕方を見て今のを比較すればそれはこうなるのも頷けるというもの。

 

「ま、自業自得だな」

「ですね」

 

 それを容赦なく切り捨てる。かたや大雑把、かたや細かすぎ、かたや感覚頼り。そんなやり方じゃ無理だと何故途中で気づかなかったのかがかなり疑問だが今はそんなことどうでもいい。

 目線を移す。辺りがざわめきだすのはそれとほぼ同時だった。カタパルトから歩み出たのは、黒いボディに銀髪を風になびかせるその姿は綺麗で、勇ましい。

 

「ドイツの第三世代型機・・・まさかもうロールアウト段階まで仕上がっていたとは」

 

 横で解説する同居人。それを聞きながら見上げていれば、その視線が誰をみているのかを理解する。なるほど、対象以外は全て眼中にないということか。それならば話は早い。預けていた背を壁から離し、一夏へと歩み寄る。

 

「ご指名だぞ色男、死んで来い」

「いきなり酷くねぇ!?」

「フン、話がわかるではないか二番目」

「この一番には何かと面倒をかけられてきたからな。少し痛い目にあった方がいい。そうだろグヌヌ三姉妹」

「誰が三姉妹よ誰がッ!」

 

 緊張感がまるでない。そう言いたげにシャルルは溜息を吐く。しかしラウラだけは違うようでテンションを変えることなく冷やかな、それでいて好戦的な目を一夏へと向ける。

 

「たしか貴様も専用機を持っていたな」

「ああ」

「ならば話が早い。私と戦え」

 

 決闘の申し込み。しかし一夏が返した返答はNO。それによりラウラの眉間にしわが寄る。気に入らない、そう言いたそうに。だが次の瞬間に見えたのは、イヤな笑みだった。肩に装備されているレール砲がこちらを向く。砲口にエネルギーが収束し、次の瞬間には発砲音と共に弾丸が撃ちだされた。しかしそれは直撃コースではなく、弾道予測の結果をみれば一夏の足元に弾着するよう定められていた。威嚇である。が、それでもISだ。いくら安全装置が働いているからといってその余波までは抑制できはしない。彼の周囲にはISを纏っていない者もいるのだから、これが危険行為であることに変わりはないのだ。

 

 だからこそ、動く。そんな建前や理屈など、端からどうでもいいと言わんばかりに。

 

「オイオイ、誘いを断ったからってぶっ放すとかどんだけバトルジャンキーなんだよ」

 

 枢 巧であった。彼が誰よりも速く動いたことに驚愕する。―――いや、正確には、防ぎ方にだろうか。何せ、撃ちだされてきた弾丸を拳で叩き落とした(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)のだから。

 

「タクミ・・・!?」

(以前より断然に反応速度が上がってる・・・いや、そもそもあの巧さんがこんな反応速度をいつの間に・・・!?)

「・・・おい、なんだよそのお化けを見ましたみたいな顔は」

「え、あ、いえ、そっ、それより巧さん今の・・・」

 

 直後、教員による制止がアナウンスされ、その場はうやむやなまま解散となった。しかし、ほのかには疑問が残る。

 枢 巧という人物は自ら進んで自主練というものをしたことがない。休日は漫画を読んでいるか、自分に創作料理の試食を頼むか、或は運動をしに外出するかだ。最近では射撃の才のなさを嘆いて少し練習し始めたが、それぐらいである。彼の行動は全て把握している。問われれば一週間前に食べた朝食から排便の回数まで言ってクラスメート全員を凍り付かせるほどの自信がある。

 

  なのに、だ。

 

(ここ数日、織斑さんにすら勝てていない巧さんが、いったいどうして・・・)

 

 今の反応速度は今まで自分が見てきたどの代表候補生よりも上だった。それに、機体の展開スピードまで上がっている。それほどシンクロ率が上がっているということだろうか?

 

「あの、巧さん」

 

 アリーナから退散する前に、ほのかは巧を呼び止める。

 

「なんだ」

「一度、ノワールを預からせてもらえませんか?」

「ああ。どうかしたのか?」

「いえ、別に大したことはありません。ただ、その・・・少し、気になるところがあって」

 

 首を傾げる巧。さすがに理由を言わないのはまずかったかと思ったがそんなことはなく、素直に待機状態であるペンダントを渡してきた。

 

「んじゃ、俺先帰るわ」

「はい。私は帰るのは夜になりそうなので、先に寝ててください」

「夜這いすんなよ?」

「よ、よよ夜這い!?」

「あ~、シャルル。ほのかってば実際やる子だから。何度も失敗してその度にシメられてるけどね」

 

 笑い声が遠のいていく。普段ならボケの一つや二つ言いながらついていくのだが、今回だけは違う方向へと足を動かした。

 

 

 

 

 

 IS学園の劣等生 ~第壱弐話:亀裂~

 

 

 

 

「ん~・・・やっぱり甘さはもう少し減らした方がいいな」

 

 皿に彩られたマカロンを一口つまんでそんな感想を漏らす。あれから部屋に帰ってやることもないので日課の菓子作りに没頭する。そういえば作ったことがないなと思いいたってマカロンを作ってみたがなかなかどうして上手くいかない。

 

「やっぱり味見役は彼奴でないとダメだな・・・」

 

 事細かく、だけども要点だけをきっちりと言ってくれる彼女でなければ自分の料理の味見役は務まらないだろうとちょっとした愚痴をこぼしてみる。だがそう言ったところで帰ってくるのは夜だと言っていた。そこまでして調べたいことがあるのだから、それほど集中力のいる作業に違いない。差し入れとして持っていくという手もあるが、それだと邪魔をしてしまうのではないだろうか。そういたり少し考えていると、ドアがノックされた。ふと時計を見れば時刻は19時。夕食の誘いかと思いドアを開けてみれば何やら困った様子の一夏が立っていた。

 

「どうした?性癖の違いで上手くデュノアとなじめなくなったか?」

「そうなんだよ、俺が黒タイツを―――って、何言わせんだお前は!?」

「なるほど、織斑は黒タイツが好き、と。・・・って、まさかお前シス---」

「ダァ、イイから早く来てくれッ!」

 

 強引に部屋から連れ出され、向かったのはやはり二人の部屋。しかし、一歩足を踏み入れれば感じたのはなにやら言い知れる違和感と緊迫感。気まずい、そんな不穏で重い空気が漂っていた。ベッドにはシャワーから出たばかりであろうシャルルの姿もある。扉をロックした音がしたので振り返れば、なにやら真剣な顔の一夏と目が合ったので。

 

「・・・なるほど」

 

 と、呟いてみる。

 

「あ・・・あのさ、枢。驚かないで聞いてくれ。シャルルは実は―――」

「女だった、だろ?」

 

 先を言われ、二人は目を見開く。バレていた―――その事実がシャルルの不安を煽った。

 

「い、いつからそのことに・・・」

「割と最初から。ああ、つっても俺が気づいたわけじゃねーけど」

「え、じゃあどうやって・・・?」

「まぁ違和感はあったな。身体つきとか、仕草がなんかおかしかったりとか。でも気づいたのは同居人だ」

 

 アレでも俺の護衛らしいからな、と付け加える。どうやって知ったのか経緯が非常に気になるところではあるが、彼女がと言われただけでなんだか納得してしまうのはあの異常なまでの情報量とネタの豊富さからだろうか。

 

  それはそれとして。

 

「んで、俺を呼んだ理由は・・・デュノア絡みってわけか」

 

 コクリと頷く二人。話を聞いてみれば、まずこのことがバレれば間違いなく彼女は国に強制送還されること。そして帰れば少なくとも碌な目には合わないということと、出生。そして自分が連れてこられた理由が知恵を貸してほしいとのことだ。

 理由を聞けば、納得はいく。彼女を守りたいという一夏の意思もわかった。彼はそういう性格だ。絵にかいたようなヒーロー、それを地で行くような男だ。

 

  が、世の中そう甘くはない。

 

「なるほどな。だいたいわかった」

「じゃあ、シャルルを―――」

「ハア?何勘違いしてるんだお前は」

 

 再び、驚愕する。

 

「いいか織斑。お前の言いたいことはわかる。だがな、それとこれとは話が別だ」

「どういう、意味だよ」

「・・・デュノア社ってのは、フランス政府との関わりが大きい。となれば、だ。仮にお前の意見に賛同したとしよう。けどそうした場合、俺達はデュノア社だけでなく、フランスという国そのものを相手に喧嘩を売る形になる。そうなった場合、勝てると思うか?」

「それは・・・けどこのまま放っておけるかよ!」

「正義感が強いのは結構だ。だが俺はイヤだね」

 

 あくまでも拒否するという巧と意地でも彼女を守ろうという一夏。二人の意見は正しい。彼女の境遇を知る者であれば一夏のように守ろうとする者もいるだろう。だが、巧の言う通りリスクが高すぎると言って拒否する者もいる。いくら学園の規則があるとはいえ、それも完全完璧なものではない。所詮は人が考えたもの、覆そうと思えば覆すことも容易だ。

 

 2人の言い合いは平行線をたどる。

 

「友達が困ってるのにほっとくのかよ!?」

「友達?・・・そうだな」

「だったら―――」

「だが、だからと言って全部お前だけが背負うつもりか?」

 

 巧が放った言葉。一夏が反論を返しているが、その言葉はシャルルの心にグサッと刺さる。

 そう、これはただ甘えているだけにすぎない。彼の言ってくれた通り三年間は少なくとも考えなくてすむ。だが、三年間だけしかないのだ。解放されたわけではない。ここにいていい、そう言ってくれた彼の言葉は嬉しい。だが、巧の言葉が彼女に現実を突きつける。

 

「どうしてそう分からず屋なんだよお前はッ!?」

「分からず屋はどっちだ朴念仁ッ!テメーも少しは考えろッ!」

 

 次第にヒートアップしていく二人。それをどうしていいものかわからずシャルルは交互に二人を見るということしかできない。一触即発、そんな空気になりつつあった状況でゴングのごとくノックが鳴った。

 

「一夏さん、お夕食のお誘いに来たのですが・・・何かありましたの?」

 

 セシリアだ。どうやら口論が外まで聞こえていたらしい。言いたいことがまだ山ほどあるのだろう、一夏は巧を一睨みしてからシャルルに申し訳なさそうに断りをいれてから退室する。足音が去ったのを確認してから、シャルルは静かに胸をなでおろした。

 

「・・・ごめんねタクミ。僕のせいで、一夏と喧嘩しちゃって・・・」

「気にスンナ。彼奴には一度言ってやりたかったからな。いい機会だ」

 

 そういう問題だろうか。ここにきてようやく苦笑できたシャルルに、巧は振り返ってこちらを見る。その目は射ぬくような鋭さを帯びていた。

 

「デュノア・・・お前はどうしたい」

「・・・僕は・・・」

 

 それきり、言い返す言葉が見つからず沈黙してしまう。暫くして、溜息がもれた。

 

「タクミ?」

「・・・この先どうしたいか、どうするべきかは自分で決めろ」

 

 そう言い残し、退室する。

 

「まったく、素直じゃないですね。まあそこが可愛いところでもあるんですけど」

「なんだいたのか」

「ええ。いつかはこうなるとは思ってましたけどいやはや、こんなに早く事が起こるとは」

「・・・マカロン、どうだった?」

「ん~、私的にはちょうどいい感じではありますね。でももう少し甘くてもいいかと。で、巧さん?」

「なんだ」

「巧さんは、どうしたいんですか?」

 

 どうやら、隠し事をするということは向いていないらしい。

 

「・・・やれるだけ、やるしかないだろ」

「むぅ、相変わらず女の子の涙には弱いですね・・・私にもその優しいところ少しは見せてくれてもいいのに」

「アンタは別。むしろネタにするだろ」

「てへ、バレてましたか」

「当たり前だ。・・・さて」

 

 色々と、気苦労が絶えなさそうだ。そう呟いてから、部屋へと戻った。

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