IS学園の劣等生   作:tubaki7

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第壱拾四話 女神

――――お前はどうして、そんなに強くなりたいんだ?

 

 そう聞いた時に見た顔は、どこか意外なものを聞いたような驚いた顔をしたのを今でも覚えている。そこまで驚くことかと思うが自分自身ここに来てから強くなろうと努力したことは一度もない。精々誘われて訓練に付き合うか、どうしても納得のいかない射撃を偶にセシリアに頼んで基礎を教えてもらうということぐらいだ。それ以外の努力をしたことなど、一度もない。

 

  ましてや、誰かの為になんて動いたことなど。

 

 目の前の男はそうではない。自分とは正反対、ここまで真逆の人間を見たのは正直初めてだと思う。

 

「強くなりたい理由か・・・」

 

 上を仰ぎ見る、そんな何かを考える動きをした後静かに語りだした。

 

「俺、小中って千冬姉と一緒でさ。何かと比べられてきてな。〝あの織斑千冬の弟〟って肩書がどうしても付きまとってた。・・・強くて、凛々しくて。そんな千冬姉が眩しくて、羨ましくてさ。いつも守られてばかりで」

「・・・そうか」

「第二回のモンド・グロッソで千冬姉が優勝逃したの、知ってるよな」

「ああ。雑誌や新聞に大題的に取り上げられてたから、よく目にした」

「・・・試合の当日、俺は何者かに拉致されたんだ」

 

 そう、切り出した。驚きと、意外なのと。多分、さっき彼がしたような顔と同じような顔を自分もしてることだろう。それだけ一夏が自分のことを話すのが意外だった。

 

「その時助けてくれたのが千冬姉だった。誰よりも、何よりも俺を助けに来てくれてさ。嬉しかった。でも、同時に悔しかった。俺のせいで、千冬姉の夢を台無しにしちまったことが」

 

 静かに拳を握る。夢―――それも巧にとっては、考えもしないことだった。

 

「今でもはっきり覚えてる。俺を見つけた時、千冬姉・・・泣いてた。安心したみたいに。今まで泣いたことどころか弱音なんて一度も漏らしたことがない、あの千冬姉が泣いてたんだ。それを見た時だ。この人が安心して、笑顔でいられるように・・・千冬姉が胸を張って、自慢の弟だっていえるくらいに、強くなりたいって」

 

 力強い瞳の輝きが自分を映す。真っ直ぐで、どこまでも純粋な想いで彼は今ここにいる。おそらく、この男は誰よりも強くなるだろう。この意志の強さと向上心は姉譲りだ。そう思わせるほどこの二人はよく似ている。そして―――自信に満ち溢れていた。そして夢もある。

 

「・・・ラウラが俺のことよく思ってないのは、その事件にドイツが関わってるからだと思う。彼奴が千冬姉に対する憧れは本物だ」

「心酔してる気もするがな」

 

 それは否めないな。そう苦笑する。そういえばこんな会話をするのは何だか久しぶりだなと思う。さほど時間がたっているわけでもないが、それだけ二人の仲は少し気まずくなっていた。故に少しヘンな感じもする。

 

「だから枢。俺は彼奴と決着をつけなきゃならない。俺は、ここに残る。だから―――」

 

  ―――シャルルのこと、頼む。

 

 そう言われた。だから。

 

「善処する」

 

 いつも通り、そう返した。

 

 

 

 

 

 IS学園の劣等生 ~第壱拾四話:女神~

 

 

 

 

「―――さん・・・巧さんッ!」

 

 ハッとなって首を動かせばムスッとした同居人である少女と困ったように笑う友人が視界に入る。どうやら考え事をしすぎていたらしい。

 

「もう、ちゃんと聞いてます?」

「悪い、聞いてなかった」

「えっと、今日を含めて僕らの滞在期間は三日しかないんだ」

「ですから、交渉も今日に日程を定めたわけです。鴻上会長とはこの後合流します。場所はこのオープンカフェで間違いありませんから、もう少し待っていてください」

 

 説明しながらほのかは巧の視線を追う。すると、そこには胸元の空いたシャツを着た二人組の女性がいるのを見つける。なるほど、そういうことか。いくら見慣れてしまったとはいえ彼も年頃の男子、女子の肢体に興味がないわけがない。そうならそうと素直に言ってくれればいいのにと自身も胸元のボタンをはだけてテーブルに胸が乗るようにわざと前かがみになる。それを見たシャルルが赤面しあわわと慌てる。しかし一向に巧が視線を自分に向けることはない。これでもダメか。ならもっと露出度をあげるまでのこと。上着を脱ぎ、さらに胸を強調させる。どうだと視線を投げかければピクリとも動いていない。集まるのは周囲の男の目だけで肝心の巧は微動だにしない。

 

  それもそうだ。なんせ彼が見ているのは女性ではない。

 

(あの店のピザ職人・・・いい腕してる。さすが本場は仕込みが違うぜ)

 

 残念ながら、ほのかの思いが巧に届くことはない。

 

「・・・トイレ行ってくる」

「巧さん・・・貴方は理性の塊か何かですか・・・?」

「何言ってんだあんた・・・少し席を外す」

 

 呆れながら席を立つ巧。それから間もなくして鴻上コーポレーション会長である鴻上元蔵と牧瀬由里子が合流。しかしそこに巧の姿が現れることはなかった・・・。

 

 

 ◇

 

 

「あ・・・」

「お?」

 

 パキンと音を立ててマグカップの取っ手が取れる。幸い中身はまだ入っていなかった為惨事になることはなかったが、お気に入りのマグカップが壊れたことにショックを受ける。

 

「気に入っていたのだがな・・・」

「前からヒビでも入ってたか?」

 

 一夏の言葉に箒は首を振る。熱したあと急激に冷ましたわけでもない。ましてやそんなことで割れるような不良品でもない。

 

「どうかなさいましたの?」

 

 ロールケーキを切り分けていたセシリアが顔を覗かせる。それに次いで鈴もやってきた。

 

「あら、箒さんも?」

「も・・・ということは、セシリアもか」

「はい。わたくしはトレーニングで使うシューズの紐でしたけど・・・」

 

 不吉。何かしたわけでもないのにマグカップが壊れ、話を聞けば、セシリアのシューズはまだ購入して間もないとのこと。高級品と自慢していたから、それほど耐久もあるはず。ならそんな不良品ということはないだろう。

 

「・・・タクミ・・・」

 

 セシリアが聞こえるか聞こえないかの小さな声でそう呟く。

 

「枢がどうかしたのか?」

「え・・・あ、いえ、その・・・ほ、箒さんこそどうしましたの?」

「なにがだ?」

「箒さん、さっきタクミのこと呟いてましたわよ?」

 

 自分が、彼を?そんなバカな。そう思うも、セシリアの顔は真剣そのものだった。まさか、彼に何か・・・。

 

「・・・枢」

 

 イヤな胸騒ぎが、駆け巡った。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 視界が歪む。気持ちが悪い。ぼんやりとした意識の中で巧は目を覚ました。トイレに行って・・・それからどうなった?

 

「ボス。ターゲットの少年を確保しました」

 

 フランス語で何やら声が聞こえてきた。おぼろげな視界の中、見えたのは黒服にサングラスをした女性が7人と、今おかれた状況。紐で手足を柱に縛りつけられ、口に布を噛まされ喋れないようにされている。そして薬でも盛られたのだろうか、意識はハッキリしているのに躰に力が入らない。不安定な意識の中、黒服達の言葉に耳を傾ける。

 

『そう。手荒な真似はしてはダメよ?大事な人質ですからね』

「心得ています。ミレア・デュノア様」

(ミレア・・・?それに今、デュノアって・・・)

 

 どうやらマズい状況になっているらしい。早くここから脱出しなければと思うも指を動かすのも億劫なため身動きがとれない。おまけに胸元にあるはずのノワールがないということに気が付く。

 

「機体も回収しました。・・・つきましては、折り入ってお願いがあるのですが」

『なにかしら』

「その・・・少々つまみ喰い(・・・・・)をしてもよろしいでしょうか?」

 

 ゾクリと、背筋が震えた。何を言っているのかはわからないが、今間違いなくナニかしらの危機を迎えている。ほとんど情報を得られない中でそれだけは確信をもてた。

 

「ありがとうございます・・・では」

 

 電話をしていた女性が通話を終え、取り巻く女性陣に目くばせすれば何やら黄色い声が小さくあがった。使われていない廃港にある倉庫、人目に絶対につかないこんな場所に拘束され躰の自由を奪われいる。そして目の前には、息を荒くして迫り来る7人―――いや、7匹の獣。どう考えてもヤバい。苦し紛れにもがいてみるが、まるでダメだ。ノワールまで奪われ、万事尽きている。相手の手がズボンに掛かった。ああ、終わった―――そう思った、その瞬間。

 

「あらあら、揃いも揃って逆レが趣味なの?まあそれぐらいの子ならそうした方が絵にはなると思うから否定はしないけど」

 

 轟音を上げて天井が崩れる。そこに現れたのは、黄色い装甲に身を包んだ・・・女神の姿が。少なくとも今の巧にはそう見えていた。

 

「あ、アレは・・・!?」

「そんなバカな、どうしてあの方がここにいるッ!?」

「知りたい?でも・・・教えてあーげナイっ」

 

 動いた。そう認識した時には、全てが終わっていた。感想からして、凄いの一言しか出てこない。先ほどの7人全てがISを使用していた。見かけからしておそらくはカスタム仕様。しかもそれなりに訓練を積んでいるのだろう、すぐさま陣系を組んだところを見ればただの犯罪組織ということではないことは明白。

 だが、彼女は次元が違っていた。その射撃は、セシリアより鋭く。斬撃は、箒よりも澄んでいて。攻撃の勢いは、鈴よりも獰猛だった。

 

 だが、それでいて優雅で勇ましい。全員を気絶させたその人物は物足りなさそうな顔をしてから自分に歩み寄ると、機体を解いて持っていたナイフで縄を切る。

 

「大丈夫?」

 

 日本語でそう語りかけてくる。

 

「は、はあ・・・なんとか」

「うん、ようやく躰が馴染んできたところね。あの薬・・・一時的に麻痺させるってだけだったみたいね」

 

 肩を借りてようやく立ち上がる。爽やかな香りが鼻をくすぐる。その匂いに、巧は覚えがあった。

 

「この匂い、確かデュノアからもしてた・・・」

「デュノア・・・あぁ、あの子」

 

 心当たりがあるのだろう。そう呟いたが深くは聞くことはせしない。そんなことよりも、今は。

 

「時間がないわ。飛んでいくから、掴まりなさい」

「ああ。・・・と、名前は?」

「マリアンヌ。マリアンヌ・エリアールよ。よろしく、タクミ・カナメ君」

「え、なんで俺の名前―――」

「喋ると舌噛むわよ?」

 

 そう言って自分の胸に顔を押し込む。直後、巧はマリアンヌと名乗る女性に抱えられ空を駆けた。




オリキャラ、5人目のマリアンヌ・エリアールさん。年は25歳、金髪のおねーさんです
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