IS学園の劣等生 ~第壱拾六話:英雄~
「巧さん!」
ほのかから放られた黒いペンダントを受け取るとそのまま走り出す。ディアンノが機体の展開を終えるのと巧がノワールを纏ったのはほぼ同時で、二人はそのままマリアンヌがぶち破って空いた窓から身を投げる。錐揉みしながらしばらく落下し、やがて別れて上昇。
「ディアンノ様!」
ノワールの警告に身を任せてその場から引けば、弾丸の雨が通過する。標的を失った鉛の滴は下を走っていた車に直撃、エンジンを貫いてガソリンに引火、爆発を起こす。市街地だというのにお構いなしに撃ってきた相手を巧は睨み据える。
「申し訳ありません、このような事になってしまい・・・」
「いいわ。それよりも、貴女も手伝いなさい。こうなっては手段を選んでいる暇なんてないわ」
「イエス、ユアマジェスティ!」
駆け付けきたモスグリーンのリヴァイブがソードを展開して接近してくる。上段より振り下ろされる刃を横に躰を反らして躱し、カウンターで拳を叩き込む。しかし相手は戦闘のプロ。直撃する前に躰を後方へと曲げてそれを反らし距離を置き、再び発砲。回避行動に入ろうとする巧だったが、そうはせずに舌打ちをして腕をクロスさせて防御する。武器の威力は大したことないのが幸いだが、それでもエネルギーは目に見えて減っていく。一対二、しかも相手は戦い慣れているというだけあって巧にとっては最悪極まりない相手だ。しかしここで引き下がるわけにはいかない。あそこまで大見得を切ったのだ。
そして、約束もある。
(なんとかしねーと・・・!)
けたましく鳴るアラート。本能に従って後方へとさがれば、振り下ろされていた刃。あと少し遅れていたら、あの一撃で地面に叩きつけられて絶対防御が発動していたかもしれない。巧の背中をイヤな汗が伝う。
「落ちろッ!」
放たれる弾丸。回避は間に合わない。ニヤリと口角を歪めるディアンノが映った――――瞬間。その弾丸を黄色い何かが遮る。マリアンヌだ。
「私がいるの、忘れてないかしら?」
「っ、フランス代表・・・!」
忌々し気にミレアが呟く。
「・・・ミレア、そっちは任せるわ」
「はい・・・姉さん」
「へ~・・・貴女達、姉妹だったのね。道理で香水の匂いから顔まで一緒なわけだ」
「あと少し。あと少しで姉さんの夢が叶う・・・邪魔だてするなら、たとえ貴女でもッ!」
「面白い、相手になるわ。そんなわけでタクミ―――あの子にああ言ったんだから、責任とりなさいよ」
イタズラな笑みを浮かべ、マリアンヌはミレアとの交戦に入る。距離を離していく二機を後方で感じながら、巧はディアンノを見据える。
「・・・私達姉妹にもね、譲れないものがあるの。貴方には到底理解できないような夢がね」
夢。先ほど巧が守ると決めたもの。―――自分が、持っていないモノを、この女性は持っている。
「あと少しでそれが叶う・・・貴方に私達の夢を壊すことができるかしら?」
「・・・・」
無言。その問に対する答えを巧は持ち合わせていない。守ると言った夢を、壊す。この人にも、戦う理由がある。そして―――今の自分にも、理由がある。だが、それの為に壊していいものか・・・巧は揺れる。その問答に。たとえ彼女の言っていることが嘘だったとしても、同じ状況で果たして戦えるのだろうか。
守るために、何かを壊す。それが大義名分だったとしても、正しいというわけではない。構えた拳が、僅かに揺れた。
「出来ないわよねぇ・・・だから貴方は弱いッ!」
高出力のレーザーライフル。それが展開されると同時に光を放ち、巧を射る。間一髪のところで防御に成功するが、腕のシールドはもはや役に立たない。高熱で熱せられた部分が溶かされ、穴が開く。
「自分のことすら盾にして・・・!」
どこまでも汚い。しかし巧の精神に揺さぶりをかけることに成功しているところを見る限り、狙ってやったことは明白だ。
「ディアンノ・デュノア・・・恐ろしい人」
由里子がそう呟く。彼女の言動から察するに今まで壮絶な人生を歩んできたのだろう。立ち振る舞い、そして執着。自らの夢を穢しても、その歩みを止めようとはしない。どこまでも自分の夢―――野望の為に、貪欲であり続ける。
そしてそれは、この少女をも巻き込んでしまう。
「父様・・・!」
シャルルの声に振り返れば、そこには銃を突きつけるシャヴェールの姿が。
「シャヴェール・デュノア。貴方という人は・・・ッ!」
「なんとでも言いたまえ。・・・私にはもう、何も残されてはいない。あるのは、忌まわしき後悔と、憎しみだけ」
真っ直ぐにシャルルに向けられる銃口。そしてシャヴェールの口から語られる、彼と、彼女の真実。
「・・・私は、つくづく愚かな男だ。愛していた
「後悔があるなら、何故貴方は・・・」
「憎いのは己自身。知っていたにも関わらず、何もせず、耳を塞ぎ、全てあの女の言う通りにしてきた。・・・しかしそれが今、終わろうとしている」
外では、報道のヘリが飛び交っている。戦闘の影響で怪我人も出るだろう。最悪の場合、死人すらでるかもしれない。荒らされたデュノア社。巧と戦うディアンノ。もはや言い逃れなど、できはしない。
「故に、終わらせなければならない」
そう言って、向けていたはずの銃を降ろし、床の上を滑らせる。黒い塊が、シャルルの足に軽く当たって止まった。
「父、様・・・?」
「・・・私は全てを失った。もはや大切なものなど、残ってはいない。そして、お前には私を撃つ権利がある・・・」
「まさか、自分の娘に・・・!」
元蔵の言葉に静かに頷く。シャルルは足元の銃と父とを交互に見る。
「私が死ねば、デュノアの権限は全てお前に譲渡されるよう仕組んである。あの女に好き勝手されるくらいなら―――」
「ふざけんなッ!」
オープンチャンネルで声が響く。こちらの会話を聞いていた巧がディアンノと組合ながら叫ぶ。
「何もかも投げ出して、自分だけトンズラしようとしてんじゃねぇッ!何もかも押し付けて、それで罪滅ぼしとかのたまわってんじゃねぇッ!そいつは・・・シャルルは、自分が道具としてしか扱われてないって言った時も、自分の正体を明かした時もッ!一切アンタのことを貶したりはしなかった。ひとっつもアンタのことを嫌いって言わなかったッ!それがどういう意味か・・・親のアンタならわかるだろッ!」
巧の言葉に、シャヴェールはシャルルを見る。心の底から心配そうに此方を見る目に出会った時、彼女の心の内を悟った。
恨んでいると思っていた。憎んでいると思っていた。こんな仕打ちをした自分を。父として、なにもしてやれなかった自分を。なのにこの子はそれらを一切抱かずに、それどころか想ってくれていた。ただの道具として、扱った自分を。
「父様・・・」
逃げていた。全てから。なのに、この子は恐怖を感じながらも・・・真っ直ぐに・・・。
「・・・・っ!?」
そして、シャヴェールは見る。彼女を通じて見える、かつて自分が愛した女性の姿を。出逢った時も、こんな風に自分を曇りのない、真っ直ぐな目で見つめていた。今のシャルルの姿は、まさに彼女そのものだ。
そうか・・・やはり、きみの娘だ・・・。
「くだらないッ!」
組み合っていた巧の注意が逸れたことを好機に、ディアンノは巧を投げ飛ばす。バランスを崩し、されるがままに巧はシャルルらがいる部屋へと投げ飛ばされ、転がった。それにより散らばっていたガラス片や瓦礫が舞い、さらに部屋を荒らす。
「シャルロットッ!」
とっさの行動。シャヴェールは娘を庇うようにして倒れる。
「父様・・・?」
「・・・私は・・・」
ほぼ無意識による行動。それに困惑し、すぐさま身を離すシャヴェール。言い淀む男に、誰よりも不器用な少年の声が響いた。
「はっ・・・ちゃんとわかってんじゃねーか。最初っからそーすりゃいいんだよ」
「だが・・・」
「自分の娘なら・・・きっちり守ってやんのが、親の役目ってもんだと、俺は思うぜ?
そう言い残し、再び飛び立っていく巧、その後ろ姿を見送ったシャヴェールの手を、シャルル―――シャルロットはそっと握りしめた。
「・・・父様は、ずっと僕を―――私を守ってくれてました。たとえ話せなくても、どんな扱いを受けていても。父様の想いだけは、ずっと感じてました」
「シャルロット・・・」
「・・・ありがとう。そして、愛してます。父様」
微笑むシャルロット。その顔が、視界でグラッと歪んだ。まるで何かが吹っ切れたかの如くあふれ出す滴を、止める術など知らない。ただ、その手から伝わる温度だけが、壊れかけた心に染み入る。
「・・・どこまでもやってくれるわね」
「まぁ、こっちはアンタの邪魔するって腹だからな」
「貴方も私を否定するのね」
「否定はしねーよ。肯定もしねぇ。・・・ただ、許せねぇだけだ」
「一時の感情に任せて、こどもね」
「あぁ、そうさ。・・・けどな。子供には子供なりの意地がある。あの人には到底及ばないだろうけどな」
「だったらその意地―――粉々に砕いてあげるわッ!」
両手に展開されるレーザーライフル。そして両足、肩に現れるミサイルポッド。大量に放たれたミサイル、そしてレーザー。その全てが巧に向かって放たれる。
「やろ・・・ッ!」
回避する―――しかし、そうはせず、巧は下に向かって急降下し、急停止。その行動にほのかが叫ぶ。
「巧さん!?」
「・・・ほのか、アレ!」
シャルロットがリヴァイブのハイパーセンサで巧の向かった先を拡大する。それを由里子の端末に繋げ、拡大する。そこには、こどもを抱えて蹲る母親の姿があった。
「まさか、あの親子を庇って・・・!」
「まずいわ、このままじゃノワールのエネルギーが!」
みるみるうちに減少していくノワールのエネルギー。それを自身のハイパーセンサで見たディアンノは高らかに笑い声をあげる。
「さっきまでの威勢のよさはどうしたのかしら?」
外道が。そう意味を込めて後方を睨む。攻撃が止み、もう使い物にならなくなったシールドを投げ捨てる。疲労と、まだ薬の抜けきらない躰での戦闘により疲労も溜まっている為膝をついてしまう。息も上がってきている。子供がなにか言っているがフランス語であるためわからない。だから「逃げろ」と日本語とわかりやすいよう手でジェスチャーをする。それで何を言っているのかを理解した親子がこちらに頭を下げて駆けて行った。
それを見て安堵の息をもらす。直後、横殴りの衝撃が巧を襲った。
「巧さん!」
「啖呵の割には大したことないわね。弱い、弱すぎる。そんなことであの子の夢を守るだなんて・・・笑わせるわ!」
うつ伏せに倒れる巧を蹴り飛ばす。転がって仰向けになった上に、さらに足で踏みつける。
「クッソが・・・ッ!」
もがく。が、体に力が入らない。エネルギーも、もう残りわずか。ここで絶対防御を発動させれば、機体はその躯体を維持できずに粒子と消えるだろう。つまり、詰み・・・ということだ。
諦めが、巧に忍び寄る。どうあっても覆しようがないこの状況。そんな崖っぷちの中で、巧は日本にいる彼の背中を思い浮かべた。
(彼奴なら、こんな状況でもなんとかしてみせるんだろうな・・・)
そういう奴だ、彼は。誰かが望んだ時、ヒーローのように現れて途端に一発大逆転。そして、勝利する。
「・・・やっぱ向いてないか、俺には」
そんなことを呟く。だがそこに、響く声があった。
「弱いからって、なんなんですかッ!」
上を見れば、仁王立ちして叫ぶほのかと、膝をついて見下ろしているシャルロットの姿が。
「確かに貴方は弱いですよ。クラスでも一番実力の低い織斑さんにさえ勝てないほど弱いですよ。でもッ!」
「タクミは僕の為に、ここまで頑張ってくれた。僕に勇気を教えてくれた。だから、きみは弱くなんかないよッ!たとえ力及ばなかったとしても――――そんな弱さだって、きみの強さだよッ!」
「だから・・・だから、立ってください、巧さんッ!」
無茶苦茶言ってくれる。弱さが強さ?そんなわけ、あるはずないだろ。そう愚痴を漏らす。だが―――
「ったく、言いたい事いいやがって・・・ッ」
わるくは、ない。
「諦めきれねぇだろうがッ!」
相手の背中を蹴り、足がはずれると躰を起こして構える。
「巧さん、ノワールの拡張領域に新しい武装をインストール済です。それで・・・!」
ほのかの言葉に呼応するようにそれが表示される。気合を入れるがごとく、右手首をスナップさせてイメージし、展開。右手に現れたのは・・・
「・・・銃って、マジかよ」
そう、巧が最も苦手としている銃。しかもレンジはショート。ライフルであれば安全圏から撃てただろうが、これでは近づかなければうてない。そもそも巧自身戦闘スタイルが超近距離格闘戦な為、これ以上のエネルギーの消費はさけたい。が、ノワールはその思考を否定した。浮かび上がる、使いかた。それを理解した後思いいたる。
そうだ。彼奴がただの武装を入れるわけがない、と。
「たかが遠距離武装一つでッ!」
槍を構えて向かってくる。それに対し、巧は銃を掲げ―――
「―――チェック」
ただ一言、そう呟いた。そしてトリガーを引けば、放たれる弾丸。ディアンノはそれを槍で弾く・・・かのように見えたが、触れた瞬間、まるで金縛りにあったかのように動きが止まる。そして、展開される赤い、円錐のようなもの。
「な、なんだこれは・・・ッ!」
抜け出そうにも抜け出せない。そのまま硬直した状態でハッとなったディアンノは上を見上げる。太陽を背にし、飛びあがる巧は蹴りの体勢を取りながら降下してくる。そしてそのまま円錐に吸い込まれるようにして入り―――
「そんな・・・こんな、ことで・・・ッ」
そう言い残し、意識を失って倒れた。
最後につかったのはデルタのルシファーズハンマー、色はファイズ、といった感じですね。ファイズ系ライダーの中では好きなんですよ、デルタ