IS学園の劣等生   作:tubaki7

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今回でシャルロット編は終了となります


第壱拾七話 ありがとう

「・・・何故だ」

 

 辺りの喧騒にさえかき消されそうな声。覇気はなく、ただただ虚無感を感じさせるその声は、自身の背に倒れ込む女性のものだ。

 

「意識が戻ったと思ったらそれか」

「・・・そうか、私はおまえに負けたんだったな」

 

 力なくだらんと垂れ下がっていた左手を空に翳してみる。太陽光を反射してきらりと光る銀の輪。偽りのものであっても、それは確かに〝誓い〟をたてた証だ。それを見ながら、背を預ける少年に再度問う。

 

「こんな世界で・・・何が本物なのだろうな」

「・・・哲学か?」

「・・・幼いころ、母が言って聞かせてくれた。自分が変われば、世界が変わると。貧しい家の生まれの私達家族は、父もなく女手一つで育ててくれた母はそれが口癖だった。そんな中、度重なった無理が祟り母が他界。それからの私達の人生は・・・まぁ、酷いなんてものではなかった。そんな時だ。シャベール・デュノアと・・・ISという、転機にであったのは」

「・・・だいたいわかった」

 

 溜息をつき、流石に疲れてきたのか腰を落とし、肘を足に預けるように体勢を倒す。

 

「アンタの夢、重すぎ」

「そう?でもね、これが大人になるってことよ」

「・・・重いんだな、大人って」

「・・・貴方、口が悪いとは思ってたけど女性を重い重いって連呼するのは失礼よ」

「うっせーよオバサン。これ以上喋らせんな。結構キツイんだぞこれでも」

「なら・・・一つだけ訊かせてちょうだい。何故、貴方はそうまでして戦えるの?」

「・・・さぁな。ただ、我儘なだけなのかもしれない。俺は子どもだから。だから、自分の手の中の物を失くさないように、必死に手足をバタつかせながら抱え込んで、みっともなく喚き散らしてな。今もこうして、辛いから支えがないと立っていられない」

「・・・だとしたら、それができる貴方は強いのね」

「・・・いいや」

 

 ―――ただの、劣等生だ。生意気な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園の劣等生 ~第壱拾七話:ありがとう~

 

 

 

 

 

 

 

「いや~帰ってきましたね巧さん!」

「一々うっせーよ・・・」

 

 やたらテンションの高いほのかを鬱陶しく嫌味全開で邪見に扱う。それにいつも通り茶化してくる彼女と、行き交う見慣れた顔立ちに少なからず安心感を覚えつつゲートをくぐる。

 

「・・・なぁ」

「なんですか?」

「あのオバサン、どーなんだろうな」

 

 そうですねぇ、と右人差し指を顎に当てながらうーんと唸ってからそう切り出す。

 

「国家反逆罪、テロみたいなもんですからね。あの人の境遇とか経緯とか考えると同じ女性としてちょぉっと同情します。でもそれとこれとは話が別ですからね。今回の一件ではフランス代表さんも動いてらっしゃいますし、裏ではなんでもロシア代表さんも動いていたとか」

「ちょっと待て。なんでロシアが関わってんだ?」

 

 フランスとロシアは別に何かしらの提携を組んでいるわけではない。表立ったものもあるわけじゃない。それなのに国の代表が動いたということは、事の重大さが知れるというもの。だが、政府の依頼もなしに一個人の感情で動けるような立場なんだろうか。色々と疑問は尽きないが、それも次のほのかの一言で吹き飛ぶ。

 

「彼女がとある組織と繋がっている、なーんてタレコミがあったそうですよ?それが誰が何の為に流したのかはわかりませんが」

 

 とある組織。その言葉に異様な引っかかりを覚える。きな臭い。そんな感覚を覚えた巧は大きく溜息をついた。

 

  また、面倒なことに首を突っ込んでしまったかもしれない・・・。

 

 ターミナルに出れば、一際目を引く巨大なメロン・・・いや、西瓜が二つ。緑のショートに眼鏡、年齢とまったく一致しない外見。そして仁王立ちをしてビシッとスーツを着こなす美女という、なんともアンバランスな二人を見つける。

 

「お帰りなさい、光野さん、枢君」

「その様子じゃ、随分とド派手にやらかしてくれたようだな」

「・・・バカに馬鹿を教えるにはちょうどいいバカだったと思いますけど?」

 

 またここでも減らず口を。そんな意味を込めてジト目で見るほのか。これでは怒られるだろうと思ったが、意外なことにかの鬼教官は怒ろうとはせず、むしろ小さく笑ったのだ。あの、織斑千冬がだ。肉親が命がけの実戦をやった後、間をそこまで置かずに反省文をこれでもかと書かせたあの悪魔が笑ったのだ。下手をすれば国家レベルの馬鹿をやらかしたというのに。

 

  その笑顔は、少し誇らしげだった。

 

「帰ったら反省文と特別メニューだ。光野、貴様も同罪だということを忘れるな」

 

 訂正。悪魔はやっぱり悪魔だった。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 そこは、潮風の薫る丘の上。古びた家屋の面影の残るのどかな場所。花が風に揺れ、草木は陽の光をその体に面一杯浴びてゆらゆらと羽音を立てている。そんな場所に、一つのこじんまりとした墓石がある。

 

  シャーロット・プロケット。そう名が記されている。ここは、母の眠る場所だ。

 

 膝を折り、花を手向ける。

 

「・・・お母さん。ただいま。いつぶりになるかな・・・あの時父様が迎えに来て以来、だっけ。それからしばらくは全然来れ無くて、ごめんなさい。でもね、今日はご報告があってきました」

 

 墓石に向かってそう告げると、入れ替わるように後ろの男が歩み寄る。手には花、娘と同じく少し長い金髪を風に靡かせ、髭は随分と不精に伸びている。珍しく眼鏡をかけてみたり、精一杯の身なりの気遣いをしてきたつもりというのがうかがえる。しかしながらやはり髭くらいは剃っておくべきだったかと、ここに来るまでの道中で話したが。「かっこいいよ」の笑顔と一言にそんなものは遥か彼方へと消えて行ってしまった。

 

 だが、とも思う。当時の自分は髭など無かったし、ましてやこんな老いぼれてもいない。これではわからないのでは?と思うと同時に、やはり罪悪感がこみあげてくる。今更なんて言えばいい?すまない・・・謝って済むようなことではない。愛してる・・・どの口がそれを言うか。彼女を捨て、あの女を抱いた自分が愛などと軽々しく口にしていいはずがない。悩みに悩みながら、墓石の前で膝をついて唸る。

 

「・・・言葉が、見つからない」

 

 どれを言っても怒られそうで。どれを選んでも、笑ってくれなさそうで。こんな自分を・・・否定しそうで。それが怖くて、思考がまとまらない。そんな父を、娘はその華奢な手で膝の上で拳を作る手に添えた。

 

「ボクね、ずっとこうしたかったんだ。お母さんがいて、お父さん(・・・・)がいて。そして、私がいて。当たり前のことだけど、それが一番難しかった。でも、今はこうして家族が揃えた。色々あったし、これからも、多分、ずっと辛い事とかあると思う。でもね、なんだか不思議と頑張れそうな気がするの。だってもう、私は一人じゃないから・・・家族と、一緒だから。それにね!学校でも友達ができたんだ!・・・あー、でもみんなには沢山嘘ついちゃってるから、まずはそれにごめんなさいしないとだね」

「・・・私も、謝らなければならないな」

 

 添えられた手に、自分も添える。あの少年が思い出させてくれた。人として、一人の父として、今の自分にできること。

 

「シャーロット。私達の娘は、こんなに立派なレディに育ったよ。きみに似て、優しく強く、そして美人だ。こんなにも・・・・こんなにも、そっくりだよ」

 

 湿った感覚が手に落ちる。

 

「それに立派な友人も持った。・・・少々荒っぽいが、それでも頼りになる、そんな友人達だ。・・・こんなに立派になったこの子を、きみに見せたかった。私の弱さゆえに、それをできなかったこと。そして、今まで一人にしてすまない・・・・傍にいてやれなくて、すまない・・・・それから・・・――――ッ」

 

 雨が降る。大粒の雨が、とめどなく。滴り落ちる水が、手を濡らし、心を洗う。

 

「・・・私を父親にしてくれて・・・ありがとう・・・・出逢ってくれて、ありがとう・・・・ッ」

 

 少女も、雨に降られた。しかしそれは冷たい物ではなく。温かな日差しと、よく似ていた。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 フランスでの出来事はやはり、と言うべきか。全世界に衝撃を与えた。まず、デュノア社の買収と吸収。鴻上会長指揮の下、経営の立て直しと第三世代の製作着手に入るとのこと。そして、巧とディアンノの戦闘。ある意味これが一番衝撃を与えていた。

 

  主に、1年1組で。

 

「ちょっとタクミ、これはどういうことですの!?」

 

 勢いよく叩きつけられる端末。それを見てあわあわと狼狽えるほのか。精密機器は大切に扱わなければならないとIS操縦者でなくてもわかるぞと言おうとしたが、それを言ったところで聞きはしないだろうと諦め溜息をつく。

 

「どうもこうも、俺は知らん」

「知らない筈がないだろう?この黒いIS、どこからどうみてもノワールではないか。枢、フランスでいったいなにがあった?」

「コイツが暴走して街があわや大惨事だ」

「巧さんの中で私は一体どう認識されてるんですか!?」

「・・・・人、だったもの」

「いりますか!?その間いりますか!?なんで悩んだ末の答えがやっぱり人外なんですか!」

 

 メンドクサイ。そう悪態を溜息と態度で示す。こうなることは予想がついたが実際なってみると対処が面倒だ。

 

「朝から騒がしいぞ貴様ら」

 

 そう言って現れたのは、もう一つの懸念人物であるラウラ・ボーデヴィッヒだ。銀髪に赤い瞳、そして眼帯。出国前の騒動では、確か険悪な雰囲気だった・・・筈だ。だが、今の一言でそれが失せたのを確信する。自分からは決して他人とは関わろうとしなかった彼女が、今こうして自分からこの輪の中に入ってきた。それだけでも、彼女の中で何かが変わったのだろうと思う。それに、纏う雰囲気があの時とは違っているのだ。どことなく、角が取れたような気もする。

 

「・・・アンタ、いい面になったな」

「おかげさまで、な。お前にも、感謝しなくてはならない」

「・・・?俺は特にアンタと接点なかったはずだが」

「いや、此方の話だ。気にするな」

「お、いたいた。帰ってたんだな」

 

 遅れて一夏が教室に入ってくる。

 

「聞いたぞ枢。お前俺にあんだけ言っといて自分だってやってんじゃねーか」

「情報が速いのかセキュリティがガバガバなのか・・・まあいい。自分のやった事にはかならず何かしらの返しがある。これで良く学んだか?」

 

 そう言って首からつるされている右腕を見せる。それに苦笑いをして返す一夏と、スルーされ続けるセシリアが入れ替わるようにして詰め寄る。

 

「答えなさいタクミ!貴方いったいフランスで何を―――」

「席につけバカ共。とうにチャイムは鳴っている」

 

 入ってきた千冬の出席簿が光って唸る。容赦なく叩き込まれたセシリアは頭を押さえつつ、納得のいかない顔でこちらをにらみながら渋々自分の席に戻っていった。そして、教壇では副担任の山田真耶がいつもの晴れやかな顔で告げる。

 

「えー、今日は皆さんに新しいお友達を紹介します!・・・というか、もう知っているというか?」

「山田君」

「あっ、はい。では、どうぞ」

 

 扉を開く。一歩踏み出す。それだけ。たったそれだけの動作が、なんだかいつもと違っていて。新鮮であり、僅かばかりの不安もあり。それでも、視界の端にとらえた少年をみて安堵に変わる。

 

  さぁ、ここからまた始めよう。新しい自分を。そして、本当のボク(わたし)を。

 

 でも、まだちょっと勇気が足りないから。

 

「・・・クソッタレ」

 

 そう呟いてみる。

 

「何か言いましたか?」

「い、いえ、何も。えっと、自己紹介ですよね。―――改めまして、皆さん。シャルロット・デュノアです。よろしくお願いしますッ!」

 

 その笑顔は、今日の空と一緒でどこまでも晴れやかだった。




いかがでしたでしょうか。ISの二次創作でよくあるシャルロットのお家騒動に自分なりに決着をつけてみました。

原作は追いかけているわけではないので、そこはご了承いただけると幸いです。

他作品を読んでいて思ったのは、彼女と父の和解、または決別はありましたが彼女の家族そのものを描いた物はなかったので作った次第です。この話は製作段階からやりたいと思っていたことなのですが・・・・いやはや、いざ形にするとなるとものすごく難しい。うまくできないとは、お恥ずかしい限りです。

次回からは臨海学校編へと突入していきます。ここからストーリーも大きく動く事になるので、是非お見逃しなく!
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