もうじき、全てが終わる。
もうじき、全てが始まる。
終わりと始まり。この世のすべての事柄はこの二つからおりなっている。
もうじき・・・もうじきだ。だから、幕を引こう。この世の神とやらに見せつけてやるのだ。自分達を生み出したことが、いかに失敗だったかを。
さぁ、踊ろう。役者は全て、揃っている・・・・。
IS学園の劣等生 ~第壱拾八話:日常~
◇
「・・・あぢぃ・・・・」
季節は夏。気温は30°を越え、春の面影などもうどこにもない。見上げれば分厚く綿菓子のような雲。その上には深い青と、そのさらに上には憎たらしい程にギラギラと輝く太陽。どうして夏なんてものがあるのか。これについて議論できそうなぐらい夏は嫌いだ。
だが夏がなければ食べられないものもあるわけで。そういった面ではやはり夏は必要なものだと思う。
「大体なんでこんな熱い日に出かけなきゃなんねーんだよ・・・」
「何言ってるんですか、臨海学校ですよ!?新しい水着を買わないわけにはいきませんッ!」
「あー・・・元気なこって」
ただ下がるだけの自分とは対照的に上がりまくるテンションに心底うんざりしながら学園の門を出る。モノレールの駅まではこの場所から徒歩で約5分の場所にある。だがたかが5分、されど5分。この時間が短いようで果てしなく長く、そして地獄のような時間だ。
「あ~ぢ~・・・」
「もう、しっかりしてくださいよ。テロリスト相手に啖呵きってタイマンはったあの巧さんはいったいどこにいったんですか!?」
「だあああうっせぇッ!テメーと違ってコッチとら病み上がりなんだよ!大体水着なんて学校指定のものがあるだろうが。どうしてわざわざ新しいのなんて買いに行く必要があんだよ・・・」
「なるほど、巧さんはスク水フェチなんですね」
何かよからぬこをメモし始めたので、ここは全力であのノートを取り上げたいところ。だがふと、考えてみる。あのノート。常日頃から肌身離さず持ち歩いているがいったいどんなものなんだろうか。まあこういう人を動かすのに便利なネタが豊富に書いてあることは間違いないが、万が一ということもある。もし自分が無意識のうちにしてしまっている癖があるのなら、それを一刻も早く潰しておかねばならない。
「・・・なあ」
「はい?」
「そのノート、何冊もあんのか?」
「いえ、これはこの一冊だけですよ。あ、でも巧さんのは何冊もありますね。料理のレシピとか、あとは癖とか」
思いのほか細かく書かれているらしい。これは尚更確保しなくてはと思いつつ、視線を上げれば見知った金髪を見つける。
「おや、あそこにいるのは・・・オルコットさんですね」
「ああ。それにチ・・・凰もいるな。おーいチビ」
「言い直した意味は!?ねえ言い直した意味は!?」
「声が大きいですわ鈴さん!聞こえてしまいます!」
なにやら訳ありな様子で怪しげに角に隠れる二人。サングラスに帽子、そしてマスク・・・これでもかというほど怪しい。職質されてもおかしくない。では、何故二人がそんな恰好をしているのかというと、原因はその視線の先にあった。
長さの違う、黒い頭二つ。我らが鬼教官こと織斑千冬と、その弟である織斑一夏だ。なんだ、ただ姉弟で買い物に行くだけじゃないかと二人が私服であることを確認して溜息。ますますこの状況の意味がわからない。
「別に、姉弟で買い物に行くだけのように見えますが・・・」
「甘いわよほのか。あの一夏のことだから、本当に彼奴、千冬さんを
「そうなってしまっては、わたくし達に勝ち目はありません。これはお二人の関係性をハッキリさせる絶好のチャンスなんですの」
意気込んではいるがハッキリさせるもなにも姉弟だろ。そうツッコミたかったが面白そうなので呑み込むほのか。いい玩具を見つけたと目を輝かせる同居人を後ろから眺めつつ、やっぱり帰りたいと溜息をつく巧。そんな彼の耳に、聞きなれた声が響いた。
「あれ?タクミとホノカも来てたんだ」
「あ、シャルロットさん。それにボーデヴィッヒさんと篠ノ之さんも」
結局いつもの面子が集合してしまった。いつの間にか大所帯になってしまっていることに、周囲の視線も少なからず集まる。
「ここにいたらマズいわね。みんな、乗り込むわよ!」
鈴を先頭になし崩しに車両内へとなだれ込む一行。既に逃げ場などなく、帰るチャンスを逃してしまった。
「ところで、お三方は買い物ですか?」
「うん。ラウラもホウキも水着持ってないっていうから、それじゃ買に行こうかって。二人は?」
「デートです!」
「ハッ倒すぞテメェ」
相変わらずの呼吸に苦笑い。少なくともデートでないことは巧の様子から理解できる。
「コイツが水着がどうしても欲しいって聞かなくてな。俺は強制的にここまで連行されたってわけだ」
「仕方ないじゃないですか。去年買ったのは胸のサイズが窮屈で着けると紐が食い込んで痛いんですから」
「まだ育ってんのかその駄肉。ていうかさっきからアタシの頭の上に乗せてきてあれか。嫌がらせか。喧嘩売ってんのかアァン?」
「いや~楽ちんだなと」
「降りろデブ。酢豚にしてやんよ」
「ロリツインテとか。篠ノ之さんとキャラが被ってて間際らしいんですよ」
「ちょっと待て、なんで私まで出てくる」
ボケとツッコみが入り乱れ、殺意を煽りが交錯する。そんな車内からは果てしない青い水平線を窓から覗く事が出来る。冷房も程よく効いていて涼しい。出入口を挟んで向こう側で繰り広げられるカオスをまるで認知していないがごとくスルーする巧のスキルは見習いたいものだと軽く尊敬するセシリア。
「でも、何だかんだでタクミもホノカさんに付き合うんですから、お人よしですわね」
「・・・まあ、チームらしいからな。俺達」
「チーム?」
「ああ。フランスを出国する時におっちゃんから言われてさ。それが気に入ったらしくて何かとつけてやれ一心同体だの苦楽を共にだのって・・・連れまわされるこっちはいい迷惑だ」
「・・・わたくしには、お二人の関係が羨ましいです」
「何だったら何時でも変わってやるぞ。俺からしてみればアンタの方が羨ましい限りだかな」
「どうしてです?」
「金持ちで専属のメイドもいて。・・・あ、でもやっぱいいや。俺には真似できねー」
そう言って背もたれに深く沈む巧。
「・・・学業だけじゃなくって。会社のこととか、国のこととか、そういうでっけーこと背負えるほど俺は強くもなんともねえ。だから俺はこのままでいいや」
そうだ。普通に一日を送って、普通に明日を迎える。そんな自分にとっての日常。それだけで充分だ。他の何かなんていらない。自分が抱えられるものだけでいい。
あ、でも。
(・・・ま、背負えるもんは、背負うって決めたしな)
やがて電車は駅に入っていく。さて、降りればまたあの暑さに加えこのカオスと対峙しなければならない。そう思うと憂鬱になるが・・・。
「とりあえず、善処するか・・・」
今日も溜息が尽きることはなさそうだ。