IS学園の劣等生   作:tubaki7

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第弐拾参話:悪夢 ―シルバリオ・ゴスペル―

 連れられて入ったのは、旅館の一室。大広間まではいかないものの、それなりの広さがあるためファミリー向けの部屋といったところか。普段の和の雰囲気溢れる畳の匂いも、外から聴こえてくる波の音も、今はキーボートを走る指の奏でるリズムと排出される機械熱のような、どこか鉄臭い匂いで満たされていた。中は静まりかえっているように見えても、ディスプレイに向かうオペレーターの顔色から察するに切羽詰まったものだという事が見て取れる。よほど人手が足らなかったのだろう、教師以外にも生徒の姿がちらほら見受けられた。

 

 部屋中央に置かれたテーブルを囲むように座らせられ、全員が着席したところで千冬が作戦会議を開始する。

 

「今回の任務は、暴走した〝銀の福音〟の静止、および保護を目的としている。・・・・普通なら、日本政府かもしくは米国から特殊部隊が派遣されるところだが、今回は事が急だ。その為、ここにある戦力だけでこれを遂行するものとする」

 

 千冬の言葉に固唾を呑む。既に経験があるとはいえ、基礎訓練しかしていない彼らにとってはかなりの重荷である。その事を頭では理解しつつも、千冬はいつもとは少し違う、どこか困惑と焦燥の入り混じった声を、それを悟られまいと自分を律しつつも作戦内容を説明した。音速で移動するターゲットに接近し、バリア無効化攻撃によりこれを停止させる。言葉だけ聞けば極シンプルなものだが、これにより難点が複数存在する。一つは、今回のターゲットである〝銀の福音〟が現存するどのISよりも速度が出るという事と、たった一撃でISのエネルギーを0にするほどの攻撃力を持った機体がない、という事だった。

 

  〝白式〟という、機体を除いては。

 

「・・・なんか実感わかねーな」

 

 作戦本部が敷かれている部屋から出て、指定された待機ポジションに向かいながら一夏が呟く。

 

「今更怖気づいたか?」

 

 半ば煽るかのような巧の発言。それに対し、一夏が反論するわけでもなくただ感想を漏らす。

 

「作戦の内容からしてさ、なんつーか・・・・重要な役割だってのはわかるんだけど、なんかこう・・・・」

「感覚がマヒしてるってか?」

「そうそう、ソレ。・・・俺も枢もさ、要は実際に戦ってきたわけだろ?命のやり取りがあるかもしんねーってのにさ。不謹慎かなって」

 

 右腕に待機状態でいる〝白式〟を見つめながらそう呟いた。ラウラの時といい、クラス代表対抗戦の時といい、いつも出来事は突然で。今回もまた、急に巻き込まれてしまっている。覚悟がなかった・・・というわけではない。一夏自身、守りたいものの為に戦う覚悟は持ち合わせている。その為に危険な事に首を突っ込む事になることだって承知の上だ。だからこそ、実感がわかない自身に対して不謹慎という言葉を使う。身が入っていない・・・・きっとラウラが居たら、そう言われるんだろうか。そんな事を考えつつも、一夏は出て行く直前の箒のことを想い出す。

 

 ―――任せろ一夏!私とお前なら、絶対に成し遂げることができる!

 

 心強い幼馴染の笑顔と言葉。彼女の言葉でふわふわしていた気持ちが定まった時もある。剣道の試合の時、そして作戦会議の時。だからこそ、千冬に「覚悟はあるか」と聞かれた時に返すことができた。俺がやる、と。やってみせると。

 

  なのに。浮ついている自分がまだいる。それが納得がいかない。

 

「・・・不謹慎もなにも、俺たちは普通の高校生だぜ?それを緊急事態とはいえ、前線にぶち込もうってんだ。覚悟も何もないだろ。だったら、這ってでも帰るって事だけ決めてりゃいいんじゃねえの?」

「そういうもんかな?」

 

 そういうもんだよ。そう返して、二人は分かれ道を別々の方向へと向かう。互いに背を向けて歩く最中、一夏は後ろを振り返る。自分とは何もかもが違う男の背中は、どこか遠くて。それでも、どこか安心できてしまう相方とも言えるその存在は一夏にとっていつの間にか目標にもなっていた。いつか、あの背中に追いつきたい・・・そう思えた。だからこそ、帰ってこなければならない。

 

 自分達の生還を、不器用ながらも願ってくれている家族の為にも。

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

《―――以上が、アップデートしたオプションの内容です。巧さん、その・・・大丈夫ですか?》

 

 いつもの明るいノリとは違い、不安そうな顔色と声でホロウィンドウ越しに映るほのか。今回といい、前回といい、またしても巧は命がけの戦いへと赴く。前回はフランス代表もいたから、万が一の事があっても対処が可能だった。だが今回はそうはいかない。戦闘が始まれば、おそらく怪我だけでは済まないかもしれない。いくらISに搭乗者を守るための絶対防御があったとしても、それがパイロットに傷一つつけないという保証などない。まして、巧には痛覚がない。怪我を怪我と認識できない上に彼の性格上、それを無視して無茶をやりかねない。それが不安に思っているという事を察したのか、巧はいつもと変わらない様子で返す。

 

「大丈夫も何も、なるようにしかなんねーだろ。だったら、やるしかないさ」

《でも・・・》

 

 尚も食い下がるほのか。そんな彼女に対し、巧は特に何か言うまでもなく。ただ作戦開始のカウントに目を向ける。

 

「・・・・味見」

《はい?》

「新作、また作ろうと思うからさ。味見頼むわ」

《・・・・巧さん》

「なんだ?」

《ホント、貴方は不器用な人ですね》

 

 その言葉に対して、巧は。

 

「ああ。なんせ、劣等生だからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園の劣等生 ~第弐拾参話:悪夢 ―シルバリオ・ゴスペル―~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眼下に流れていく青と白。雲よりも高い高度を高速で進みながら、巧は自身の下にいる少女に目を向ける。流れる金髪はシャルロットよりも薄く、その色彩が身に纏った機体色である蒼をより鮮やかに魅せている。スピードで一番劣ってしまう〝ノワール〟を運搬する為、半ば背負うような形でセシリアの〝ブルーティアーズ〟が運ぶ。既に〝白式〟と〝紅椿〟はターゲットを捉えており、戦闘にも入っているとの事だ。先行した二人に少し遅れる形で、いよいよ残りの機体もエンゲージする。そんな時、今まで沈黙していたセシリアが徐に口を開いた。プライベートチャンネル、つまり今から行われる会話は、セシリアと巧しか聞こえない。

 

「タクミ、その・・・昨晩の事なんですが」

「こんな時にフラグ建てんな」

「ふらぐ・・・?何を言ってるのかはわかりかねますが、わたくしが言いたいのは、昨晩の返事はしなくてもいいということですわ」

 

 保留でいい、ではなく、しなくていい。なぜだと首を傾げる巧にセシリアは何処か不満げな声で続ける。

 

「貴方、意中の方がいらっしゃるのでしょう?・・・・わたくしの勘が正しければ、それは篠ノ之さんではなくて?」

 

 ずばり、といった感じで当てられてしまう巧。しかし特に焦ることもなく、淡々と返す。

 

「乙女の勘ってやつか。当たってるが、もう既に撃沈してるよ。アイツが俺に振り向くことはない。織斑にゾッコンだからな。つか、なんで俺なんだ?てっきり織斑だと思ってたぞ」

「それは・・・・自分でもわからないんです。最初は、確かに一夏さんをお慕いしてました。ですが、その・・・心のどこかで、それが本当に好きという感情なのかどうか、疑問だったのかもしれません。そしてその気持ちに向き合うたびに、いつの間にかタクミ。わたくしは貴方をの事を追っていた・・・って、こんな時になんて話をしてるんでしょうかね」

 

 嘲笑とも受け取れるような、そんな笑みを浮かべるセシリア。目前に迫りつつある三つの軌跡を遠くで捉えながら、巧は言う。

 

「そういうのをフラグってんだよ。ま、良くない事が起こる前振りってやつ」

「縁起でもないことを言わないでくださいまし!」

「そうだな。だったら、それをへし折らなきゃいけないな」

 

 そう言いながら、セシリアから離れる。

 

「・・・答え、いつかは出すよ。そうだな・・・時期的に、夏休みくらいには」

「あまり答えを急がなくても・・・」

「こういうのは長くなるとなあなあで終わるから、白黒ハッキリさせときたいんだよ。まあ、約束だ。それなりにしっかりとした答えはだすさ。あのオルコットが俺なんかに勇気を振り絞って告白したんだぞ。だったら、それに見合う事はすべきだろ」

「・・・・タクミ、貴方そういうところですわよ?」

 

 何が?と首を傾げる巧。それに溜息をつきつつも、言われた言葉に満更でもないように頬をわずかに朱に染めるセシリア。そんなやり取りをかわしつつ、二人は一夏と箒に加勢していった。

 〝銀の福音〟の特徴としては、製作された際のコンセプトは広域殲滅型の高速戦闘を得意としたもので、現存する機体の中でもトップクラスを誇る。篠ノ之束の開発したイレギュラー機である〝紅椿〟はそれに追随するほどのスペックを誇ってはいるものの、パイロットが熟練のそれではなくほぼ素人に近い箒だ。機体スペックで何とか食いついてはいるものの、福音にはまだ傷一つ付けることはかなっていない。

 

《ホウキ、前に出すぎだよ!》

 

 シャルロットの声が飛ぶ。先ほどからセシリアと同様射線に入った福音に向けて引き金を引こうとするものの、直後に〝紅椿〟が被ってしまう為やむなくロックを外す。

 

《大丈夫だ!私と一夏ならやれる!》

《マズいな・・・タクミ、フォローに入れるか?》

 

 行動隊長であるラウラからの提案に、巧は頷いて三色の軌跡に入って行く。懸念されていた相手の速さも、戦闘に思考を切り替えたのか今はそのなりを潜めている。それでも〝紅椿〟と同等まで落としているというだけで、カスタムされているとはいえ、基盤が〝ラファール・リヴァイヴ〟である〝ノワール〟では、その背中を見失わないよう動くので精いっぱいだ。それでも、機体が軌道を予測して先回りのルートを算出、エネルギー消費を極力抑えつつ瞬間加速を使って相手の前へと出る。銃を構え、ロックすると同時に引き金を引けば、放たれたエネルギー弾が白銀のボディを直撃―――したように見えた。

 

「おいおいおい、近年まれに見るベストショットだぞ今の!?」

《なにやってんのよアンタは!?》

 

 苛立ったかのような怒号で鈴が砲撃を放つ。何らかの防御機能を働かせていたとしても、〝甲龍〟の固有武装である〝龍砲〟は空間自体に圧力をかけて砲身を作り、衝撃を弾として打ち出す特性を持っている。これならば、ダメージを与えられる可能性はある。が、それさえも〝銀の福音〟は回避してみせた。初見で見切れるほど、この衝撃砲は簡単なものではない。ない筈なのだが、それがパイロットの腕なのか、はたまた機体性能によるものなのか。いずれにせよ、不意打ちの攻撃すら回避して見せた驚きの運動性に鈴は衝撃を受けた。

 

《ちょっと、情報以上じゃないのアレ!?》

《ならば、これでどうだッ!》

 

 次に躍り出たのはラウラの〝シュヴァルツェア・レーゲン〟だ。右掌を前に突き出し、AICを使って動きを止めることに成功する。しかし、それでも完全に停止するには至っていない。錆びた機械のようなギギギ、という音を立てながら動こうともがいているが、軸となっているのは生身の人間。これ以上の足掻きはパイロットの身体機能を損傷しかねないが・・・・。

 

《ハァッ!》

 

 箒の剣撃がさく裂する。しかしそれはラウラの集中が切れることを意味していた。慣性の網から抜け出た銀の機体は、天高く舞い上がる。それと同時に、戦場一帯にまるで鳴き声のような音が鳴り響く。機体が危険を知らせる。〝銀の鐘〟・・・・機体の特徴とも言える翼の形をした大型スラスターである二基。その内部に備わっている36の砲口から高密度に圧縮されたエネルギー弾を、自身を中心に放つ。そのモーションはさながら踊るようで。破壊を楽しんでいる・・・・そんなようにも見える。一撃一撃が威力が高い為、回避することで精いっぱいになりながらも、そこで一夏は視界の隅に一隻の船を捉える。

 

「密漁船!?ここら辺の海域は封鎖されてるんじゃなかったのか!?」

 

 攻撃の範囲内に入ってしまっている。ISを纏っている一夏達はまだいい。だが、彼らは生身の人間だ。それを、仮に犯罪者だとしても放ってはおけない。〝零落白夜〟ももうエネルギーがない為発動限界まで時間がない。このままやってても埒が明かないなら、今最も役立つ使い方でやるしかない。一夏は攻撃をかいくぐりながら、密漁船の上にまで飛び向かってくる弾を〝雪片弐型〟で弾いていくが、それも体力と気力を削りに削った状態では付け焼刃、被弾数も増えてきた。機体が、躰が、悲鳴を上げる。

 

《何をやっているのだ一夏!》

 

 箒の声が聴こえる。

 

《そいつらは犯罪者だろ!?そんな奴らを守ってなんになる!》

 

 〝福音〟の攻撃が止む。機体はボロボロで、エネルギーももう残り僅か。パイロットを守るためにあるシールドでさえ、カバーしきれないほどのダメージもある。戦闘続行は不可能なまでの傷を、一夏は負っていた。

 

「・・・らしくない。らしくないぜ、箒・・・・」

「な、なにを・・・」

 

 瞬間、箒の背後で見えた光。一夏の脳裏で、対抗戦の時の光景がフラッシュバックした。雄たけびをあげ、攻撃が撃たれる前に残ったエネルギーを使い瞬間加速を使って肉薄する。しかし相手の方が早く、放たれた攻撃に飲まれてしまう。響き渡る箒の悲鳴。直撃を喰らった一夏は機体を粒子化されていきながら海中へと落下する。全員に、動揺が広がる。

 

《聴こえるかボーデビッヒ》

 

 指令部から千冬の声で通信がはいる。

 

「教官、一夏が・・・!」

《こちらでも確認できた・・・・作戦失敗だ。一時撤退しろ》

「了解・・・・撤退だッ!」

 

 ラウラが千冬の命令を受け、それをオープン回線で伝達する。一夏を抱えながら必死に呼びかける箒。錯乱しているのか、こちらの声が聴こえていないようで反応がない。セシリアと鈴が二人を抱え、海上から引き上げる。まったく返事がなく、だらんとし、まるで糸の切れた操り人形のような状態を見て、箒の中の焦りが怒りへと変換される。眼前に佇む銀の機体を睨みつけ、抜刀する。

 

《ちょっと箒!?》

《何をする気ですの!?》

「決まっているだろ!こんな事で・・・・こんな事で、引き下がれるかッ!」

 

 セシリアと鈴の静止を無視し、切りかかる箒。しかし彼女の刃は相手に当たることなく、その代わりに腹部に衝撃が走る。慣性の動きに従って後方に吹っ飛ばされる最中に見えたのは、黒一色の機体だった。セシリアが箒を受け止めるも、彼女の怒りは今度は違う方へと向けられた。

 

《枢ッ!貴様なんのマネだ!》

「・・・二人とも、その馬鹿を頼む」

 

 箒を相手にすることなく、彼女の身を頼むと鈴とセシリアに言葉のみを向ける。

 

《何を言っているんだお前は!悔しくないのか!?》

 

 悔しい。その言葉を聞いた瞬間、何かが切れたように巧が声を荒上げた。

 

「ンな事どうでもいいだろッ!織斑が負傷したんだ、その時点でこの作戦は破たんしてる。これ以上続ける意味はないだろ・・・それに、早く医者に診せないとそいつの躰もどうなるかわからない。ちょっとでも織斑のことを考えるんなら・・・退け」

 

 巧の言葉に、カッとなった思考が一気に冷静さを取り戻す。傍らでグッタリとなった想い人の姿を見て、今自分が何をしようとしていたのかを理解した。

 

「・・・・わかった」

 

 何も言えず、ようやく絞り出した言葉を口にした後に撤退行動を開始する。が、そこで違和感にシャルロットが気づいた。巧だけが、〝銀の福音〟とにらみ合ったまま動かない。

 

「タクミ・・・?」

 

 胸がざわつく。イヤな予感がする。そんな悪寒がシャルロットだけじゃなく、やがて全員に伝染したのかのように皆が振り返った。少しの静寂。その後、二機は激突した。拳と拳、金属特有の、衝突した瞬間になる甲高い音。

 

《何をやってるんだ枢!》

《戻りなさいよ!アンタじゃそいつに勝てっこないでしょ!?》

「そーは言ってもなァ・・・・どうやら、コイツは俺に用があるらしいぜ・・・ッ!」

《訳の分からないこと言ってないで戻りなさい!》

 

 一度離れ、再びまたぶつかり合う。両手を組み、まるで力比べでもするかのような体勢になりながら巧はセシリアの言葉に応える。

 

「できりゃとっくにやってるッ!」

 

 振りほどこうにも想像以上の力で握られている為、無理やり相手の鳩尾を狙って蹴りを入れる。それに反応して組んでいた手は解放されたものの、若干の反応の鈍さが残る。伝達系のケーブルがやられたか、手に伝わってくる感覚がはっきりしないのを開閉を繰り返すことで認識し、距離を取った相手を睨む。

 

「勝つ気・・・は、さらさらねぇ。そもそも勝てる見込みがないからな。隙を見て逃げるから、アンタらは時間稼ぎしてる間にとっとと退避してくれ。ってなわけで、サポートよろしく!」

《お任せください巧さん!皆さんは織斑さんを連れて、早く!》

 

 激突する黒と銀。巧の言う通り、先ほどとは打って変わってこちらなど眼中にないと言わんばかりに、巧が上へと上昇すればそれに牽かれるかの如く、遥か上空へと軌跡を描きながら舞う。ぶつかっては離れを繰り返す二色の痕を見据えながら、ラウラは発しかけた言葉を飲み込んで口を閉じる。アーマーの下で握った手が行き場のない憤りに震えつつ、この場で何が最善かを瞬時に、冷静に判断してしまった自分自身を強く嫌悪した。織斑一夏と出会い、今までの自分から変われると思っていた。仲間を、友を得て、彼のように強くなれると。

 

 だが、このザマはなんだ。指揮を任されながらも、チームメイトのミスすらフォローできず、こうしてただ仲間を一人戦場に残すことしかできない。軍人としても、人間としても、情けない事この上ない。守りたいものを護ることができない・・・力を欲したあの頃と、何一つ変われていないではないか。

 

「・・・この場から撤退する。奴の意思を、無駄にするな」

 

 彼女が下した決断は間違ってはいない。それは頭に血が上っていた箒でさえ理解できている。それでも―――心とは、真逆だった。

 

「・・・・っ」

 

 何もできなかった。その上撤退を強いられた。その事に悔しさと懺悔の念に苛まれながらも、箒は後方で遠ざかっていく黒い背中を視界の端に捉えながら、その場から離脱した。

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