あのクラス代表騒動から一週間。あれからオルコットとは普通に話もするし食事もする。何故か俺の部屋に織斑や篠ノ之ともども入り浸るようになってきたのは些か納得のいかない部分もあるが、それでもまぁ一人でいるよりはいくらかマシなのでよしとする。
とはいえ
「なぁ枢、今日は何作るんだ?」
「お前昨日も食ったばかりだろ?そう何度もつくらねーよ」
「どうして俺の喰いたいもんがわかったんだ!?」
「顔にこれでもかってくらいに自己主張してるからだ」
オルコットと和解した日に作ったフルーツタルトが気に入ったらしくあれからちょくちょく・・・・いや、ほぼ毎日喰いに来てる。そろそろ体重のことを気にし始めた篠ノ之はもう頻繁とまではいかないが、来たときには食えない彼奴の代わりに目の前でバクバク食うんだから始末に負えない。デリカシーという文字はなさそうだな、コイツの辞書。
「いいじゃんかよぉ・・・・そうだ!なんだったら俺も今度作って食わせてやるよ。ちょうど何かお返しにって思ってたしな」
「ほう、そいつはいいな…なら、交換ってのはどうだ?」
「決まりだな!いつにする?」
「そうだな・・・・」
織斑とそんな話で盛り上がる。此奴、見てくれと性格の割にはかなり家事力は高い方だった。むしろそこらの女性とよりも確実に上だ。一度チャーハンを手作りしたのを食したことがあったが、中々の腕前だった。というか、完全に本場中国のソレだったことに軽く驚いた。
二人で予定を練る。入学以来、なんやかんやで此奴とは話すことが多い。そこに織斑の幼馴染である篠ノ之、クラス代表を賭けて争ったオルコットと俺の同居人を入れて5人でいることが常となりつつある。中学時代は考えられなかった光景だ。
・・・・いや、小学校の時からわりとそんなんだったか。
とにかく、今は割と賑やかにやっている。
「そういえば、枢はあの話聞いたか?」
「あの話?」
「あぁ。なんでも二組のクラス代表が変わったらしいぜ」
大方の予定を練ったあとに織斑がそんなことを言い出した。二組のクラス代表といえば、たしかアメリカの代表候補だかなんだかって話だ。実力もそれなりだって聞いていたが・・・・一体誰が?
「巧さん、そんなことも知らなかったんですか?」
「アンタは知ってたのか」
「えぇ。これでも鴻上会長から貴方の身の回りのお世話兼護衛を任されていますから」
え、コイツ俺の護衛とか世話とか頼まれてたのか?・・・・護衛とかはまぁハニートラップ系はまだないけどよ、身の回りの世話って・・・・どっちかっつーと逆じゃね?俺もう此奴の洗濯何回したかわかんねーぞ。
とまぁ、そんなことはさておき。
「相手は中国の代表候補生らしいです。僅か半年にして代表候補の座まで上り詰めた正真正銘の天才だとか」
「僅か半年で代表候補にですか・・・・」
いつの間にか来ていたオルコットがその話を聞いて眉を顰める。此奴からしてみればあまりイイ気はしないだろうな。自分が苦労に苦労を重ねてようやくつかみ取った栄光を、僅か半年という超スピード出世で勝ち取ったのだから。しかもクラス代表という冠まで。自らの意志であったとはいえ、クラス代表を辞退したことに少し複雑なんだろうな。
「…ま、そのウチわかることだ。近々代表対抗戦なんてもんもあるらしいしな」
「各学年のクラス代表者のお披露目と実力の測定、そんなところでしょうね。ここでみっともないところを見せたら一組の評判だけでなく織斑先生の顔に泥を塗ることになるでしょうね織斑さん。ま、精々頑張ってください織斑さん」
「なぁ枢。光野さんてこんな毒舌だったっけ」
「割とそうだったと思うぞ」
何気に容赦ないからな。ボケにしろツッコミにしろ。日常会話でこれならたぶん舌戦とかになったら多分相手の精神崩壊するんじゃないかと思う。此奴との付き合い方はしばらく考えよう。
と、そこへ。
「随分と情報が早いのね。これなら手間がはぶけるわ」
一組の生徒ではない明らかに聞き覚えのない声が教室内に響き渡る。誰もがその声に振り返るが・・・・。
「…あ?声はするのに誰も居ねーじゃねーか」
「ここにいるわボケ」
織斑に隠れて見えてなかったが、よく見ればそこには褐色のツインテールをした女生徒が立っていた。…つかあの制服、ホントにこの学園てカスタム自由なのな。俺が見た中じゃ露出が一番出てる。というか彼奴本当にこの学園の生徒か?やけに背が小さいが。
「それ以上身長ネタを思い浮かべたらブッ飛ばすわよ」
「おぉ、読心術とは」
「鈴・・・・おまえ、もしかして鈴か!?」
織斑が反応を示したところを見るとどうやら知り合いらしい。・・・・あ、篠ノ之とオルコットが不機嫌な顔になってきてる。此奴まだフラグ建築した奴いたのかよ・・・・。
「そうよ。中国代表候補生にして一年二組クラス代表の凰 鈴音(ファン・リンイン)。今日はこの私が直々に宣戦布告に来たってわけ」
そう言って歩いてくる―――――俺のところに。
「って、は?」
「アンタがこのクラスの代表だってことはわかってるわ。どんな手段でイギリスの代表候補を負かしたのかは知らないけど、アタシには通用しないから覚えておきなさい!」
「・・・・イヤぁ、俺違うんだけど」
「は?だって男が代表って・・・・」
と、そこで目の前の凰が俺から視線を移して織斑を見る。「ンなアホな」みたいな表情をしているあたりこのクラスの代表が誰かというのを知らされていなかったみたいだな。気づいた瞬間、顔が一気に赤くなったのがわかる。そりゃあんだけ大見栄切って俺んとこきて「いいえ違います」なんて言われたらそりゃそうもなるわ。
うむ、なんかあったらこのネタで当分此奴をイジれそうだ。
「まさか、一夏が代表なわけ!?」
IS学園の劣等生 第五話~ツインテールの小悪魔~
あ~、また面倒なことになりそうだ。これは早速無関係を貫こう。もうオルコットの時のようなことは御免だ。
おい誰だ自業自得って言った奴。
「なんだよ、俺が代表じゃ悪いのかよ?つかなんださっきの。すげー似合わねーぞ」
「うっさい!つかアンタ本当にこのクラスの代表なわけ!?」
「だからそうだって。・・・まぁ、ちょっと色々あったけどよ」
イマイチ説明しにくいもんな、この話題。オルコットの立場上、それを他国に知られた時点で舐められるのは目に見えてることだし、ここは最低でも織斑がワンチャンを生かして勝ったって思われてた方が都合がいいかもしれないしな。
政治やらなにやらが絡むとメンドクサイのはいつでも何でも一緒だな。
「じ、じゃぁアンタは?」
「俺はただ此奴が一次形態移行を終わるまでの時間稼ぎをしただけでぶっちゃけオルコットにボコボコにされただけだ」
結果だけ見れば俺はそうなる。あくまで俺がやたのは織斑がまともに戦える程度まで時間を稼ぎ、なるべく相手の手の内を晒させること。それ以外は飛び道具外しまくったり、ビットに煽られたり、ミサイルに突っ込んでったくらいだしな。
対して織斑はビット兵器の破壊とオルコットに対しての一撃必殺。まぁ決まらなかったけど実質あれはオルコットの敗北と言えるかもしれない。此奴がちゃんとシールドエネルギーと単一能力にさえ気を使っていればキッチリ勝てた試合だ。
まぁ、今さらこんなこと言うのもおかしな話ではあるが・・・・
(・・・・らしくないな)
いつまでも過ぎたことを考えるなんて俺らしくもない。自分で決めて自分でやったことの結果だ。これが今の俺の実力で、限界。・・・・成り行きでここに押し込まれてるんだ、それ以上考える必要はない。
そこで思考を切り替える。
「ふ~ん…まぁいいわ。どうせ勝つのはアタシだし」
「へぇ、言ってくれるじゃねーか」
互いに睨みあう織斑と凰。こういうノリは余所でやってほしい、つかいい加減俺の席の周囲でたむろすんのやめにしないと・・・・
「いつまで少年漫画みたいなことをやっている気だ馬鹿者共。もうすでにチャイムは鳴っている」
その言葉とともに響く乾いた音4つと悲鳴4つ。今日も出席簿が唸って叫んだ。
◇
ISの実習授業は主に専用機持ちか、試験結果での実技優秀者が見本として駆り出されることが多い、つまりこれに該当するのはこのクラスの場合専用機もちで成績主席合格のオルコットと、ついこの間専用機を手に入れ、代表候補生とほぼ互角の勝負を魅せた織斑が当てはまる。
名前を呼ばれた二人は前にでて機体を展開する。これはもっとも基本的な動作であると同時に一生にかかわることになりかねない重要なことだ。機体の展開が早ければ早いほど急事の時に対応が迅速になる。織斑先生曰く、一流なら一秒かからないとのこと。その点さすがはオルコットだ。いとも簡単に機体を展開しているが織斑は・・・・
「来いっ、白式!」
「…名前を呼んでどうする。自分の手の内を明かしてしまっては元も子もないぞ。それから展開までが遅すぎる。せめて3秒以内でやれ」
んな無茶苦茶な。
「…と、私としたことが忘れていたな。枢。お前も前に出ろ」
「何で俺が…」
「専用機とまでいかずとも、お前にはカスタムされたリヴァイブが渡されているだろう」
・・・・そういやそうだった。今の今まですっかり忘れていた。
どうあがいてもこの人に逆らうのはまず無理だと諦めて溜息を吐く。前に出れば刺さる視線の群れ、正直逃げたい。
「では、機体を展開してみろ」
やるしかない。そう割り切って機体を展開する。光りの粒子が辺りに一瞬散らばると、それらが躰にまとわりついて装甲となる。黒い四肢、全身真っ黒に塗装されたそれは頭のてっぺんから指の先まで禍々しくもあるように見えてしまう。
「ガラ悪…」
誰かがそう呟いたが気にしない方向で行こう。
「・・・・うむ。オルコットまではいかずとも中々だ。これからも精進するように」
とりあえず地味なお説教は回避できたらしい。
それから武装の展開を実演。これには意外だったがオルコットが小言を言われていた。そして次は飛行。地面からふわりと浮いてから上空へと昇る。今回はあくまでも基本動作の模範例なのでそう早く実践せず、ゆるやかに動く。
「光野、枢が使っている機体の説明をしろ」
「はい。巧さんの使っている機体はフランスのデュノア社製IS、ラファール・リヴァイブのカスタム機です。現状急なことでしたので付け焼刃ではありますが一応カスタム化されています。基本スペックは一般的なリヴァイブそのままにし、現在は巧さんの戦闘スタイルに合わせてチューンナップされた機体となっています。実質専用機と言って差し支えはないかと。正式名称はラファール・リヴァイブノワールです」
へぇ、そんな機体だったんだな、コイツ。オルコット戦のあと彼奴が色々と弄ってたり会社にマメに連絡とってたのはその為だったわけか。
「ご苦労。それでは次にオルコット、織斑、枢、急降下からの空中制止をやってみせろ。地面との距離は30cmだ」
30cm・・・・難易度が高い気がするんだが。こっちはまだ初心者同然なのにそんなことまでやらす気かあの鬼教官。
《お二人とも、先に失礼いたしますわ》
オルコットが先行して機体を地面へと向ける。降下しつつ、速度を徐々に落としていき空中で姿勢を制御して足を地面に向ける。ホバーをうまく使って地面との距離を30cm以内に詰めた。
「うむ。さすがは代表候補だ。このぐらいは造作もないようだな。さて、次は枢。やってみろ」
しょうがないと思い切り地面へと降りる。思ったよりもスリル――――いや、恐怖だなもはや。かなり速いスピードで地面が目の前に近づいてくる光景はかなりのものだ。
「クッ・・・・!」
躰にかかるGのぬるい感覚にさいなまれながらも足を地面に向けて――――着地してしまった。やはりオルコットのようにうまくはできないな。・・・・横でドヤ顔浮かべてんのが腹立つ。
「うむ。まぁ地面に穴を空けなかっただけましか。これからも精進するように」
できれば精進したくないんだけどな。
「次、織斑!」
その後、織斑が実践し穴を空けたのは言うまでもなかった。
◇
「パーティー?」
「あぁ。食堂で行われるそうだ」
その日の授業終わり。突然俺のところを訪ねてきた篠ノ之がそんなことを言った。もう既に同居人には伝えてあるらしく、事情があって言えない彼奴の代わりに来たとのことだ。
オルコットが代表を辞退したことにより、一番最初に戦闘不能になった俺を除けばクラス代表になるのは織斑の方だ。その就任パーティを開くとのことだが、生憎とあまりそういうのは好きではない。
何故かって?ボッチになるからだよ言わせんな。
「悪いが俺は遠慮させてもらう」
「ダメだ。お前も連れてくるようにとほのかと約束してしまったからな。友との約束を違えるわけにはいかん」
当然のように断る俺を強引にでも連れて行こうと食い下がる篠ノ之。つかいつの間に友達になったんだこの二人は。
「ンなこと知るか。俺は行かないったら行かない」
「ム・・・・強情な奴め」
こう着状態。と、そこへ。
「あ、あん時の」
あのミニマムツインテールが現れた。
「おい今脳内でディスったろ」
「なんでわかんだよ」
此奴、まさか読心術でも会得してんのか?
「…まぁいいわ。試合の映像データ見てアンタに興味が湧いたの。これから面かしなさいよ」
「・・・・お断りだ。メンドクサイことは嫌いなんでね」
「そうもいかないわ。あの一夏の戦いぶりはアンタの作戦があってこそのもの。どうみても一人だったらやられてた。明らかにIS初心者のアイツがあんな立ち回りできるはずもないしね。それに面白い戦い方するじゃない?」
そんなに特殊か?ISで殴ったりすんのって。考えれば・・・・いや、考えなくてもやりそうなことだと思うが。
「とにかく、今からアタシと勝負しなさい」
「何度も言うが断る。戦う理由もなければ勝率もない」
代表候補と対戦だぞ?勝てるわけねーっつの。そもそもなんでこう代表候補とかって連中は血の気が多いんだよ。バトルジャンキーの巣窟かなにかですかここは。少年漫画みたいなノリは苦手だって言っただろうが。
不満オーラ全開で拒否る。でもそれを見てまだひかないところを見ると相当ご執心だなこりゃ。
・・・まてよ?ここでパーティのこと話して断って後で適当な理由くっつけてパーティも欠席すればグータラできるんじゃないか!?
「待て。枢はこれから私と食堂のパーティに参加する予定だ。勝手に横やりを入れてもらっては困る」
そうだ篠ノ之、もっと言ってやれ!
「ならこうしましょ。アンタが私と勝負して、勝ったら好きにしなさい。でも、負ければパーティに連行。いいわね?」
「勝手に決めるな。つか勝負することは確定かよ」
「つべこべ言わない。で、どーなのよ?」
「うむ、それならいいだろう」
「ハッ!?よくねーだろ!」
「んじゃ、決まりね」
おいおい、本人の意思は無視かこの凹凸コンビは!?
「言っとくけど、拒否権はないからね!」
そう言って凰の右手が光と、ISの腕部が部分展開されていた。その腕力を生かし、凰は俺の首根っこを掴んで持ち上げる。
「おいコラ、放せ!放しやがれ!」
「拒否権はないって言ったでしょ。ささ、時間もないからとっとと行くわよ」
「不幸だァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」
どこぞの小説の主人公バリの叫びが、柊の寮に響き渡った。