昔、父に教えてもらったことがる。あれはたしか・・・・そう、流れ星のお話。
流れ星には、願いを叶えるという言い伝えが古くからある。それは日本のみならず、ここイギリスでも根強く浸透しており、流星群の見れる夜は寒かろうと暑かろうとテラスに出て願い事を託したものだ。
最初は・・・・そう、たしかあれは自分が6歳のころ。仕事で忙しい両親と誕生日を一緒に過ごしたいと願った。次は10歳の頃。病気がちな叔母の病が早く治るようにと願った。
最後に願ったのは・・・そう、あれはたしか14歳の時。遠方に旅立つ二人の無事を祈ってだった。
その結果、どれも叶ってはいない。
「流れ星は途中で燃え尽き落下する・・・そんなものに願いを託したところで、所詮はただの気休めですわ」
「・・・そうだな」
肯定というには少し足りない。でもただ相槌を打ったにしては何かを孕んだ返事を隣の少年は返す。二人は視線を交わすことなく、ただ夜空を見上げている。
「ロマンが足りないと、思うかしら?」
「別に。そもそも願掛けなんてしたこともねぇし、叶えたい願いもないしな」
「ロマンがありませんわね」
「お前が言うか」
仮にも学生なのだから、そういった夢の一つや二つあってもいいようなものだが。しかし
星が流れていく。今日はどうやらそういう日らしい。こんな日にあの人と一緒ではないことを悔しく思うがまぁ、一人で見るよりはいいと気持ちを切り替える。
「地上に落ちた流れ星が願いを叶えられるわけでもなし。ましてやそんな都合のいい話が実在のものだったとして、この世界は不幸なんて概念とは無縁な人間で溢れかえるだろうな」
「ですが、そうすれば世の中平和ですわよ?何かに怯えることもなし、争いなんてことも起きませんし」
一人ひとりの願いが叶うのなら、それはこの上なく良いことだ。世界から争いがなくなる。誰も悲しまなくてすむ。死すら恐れずにいられるのだから。そうなればこの世界はもっとより良いものになるだろう。
だが。
「・・・だとしたら、叶わなくてもいいや」
「相も変わらずロマンという物が著しく欠けてますわね」
「悪いな、こういう性分なんだよ」
「貴方、友人無くしますわよ」
「友達なんて欲しいと思ったことないね」
売り言葉に買い言葉。口が悪いのは生まれつきとか言っておきながらその実言った後に見える表情の変化というか、内面の変化がわかりやすい。こうして話せば、相手のことがよくわかる。理解できる。
――――あの時、こんな風にしていれば、こんな遠回りはしないでもよかったのだろうか。
分かり合えないまま別れを迎えたことは、今でも悔いている。嫌っていながらも、その実必要としていたことも。もしかしたら、母よりも慕っていたかもしれない。だが、今となってはそれを確かめることも伝えることもできないのだ。
「・・・貴方の戦い方を見て思ったのですが」
「ロマンの欠片もねぇな」
「概念がない貴方よりはマシです。いいから聞きなさい。・・・・正直に言います。タクミ、今のままの戦い方を続ければいずれ貴方は――――」
「お節介だなァ。ンなことはわかってるつーの」
「聞きなさいと言ったでしょう!?」
「
ぐぬぬ、と言い返すこともできずに拳を握る。この男、本当にいっぺん殴った方がいいのではないだろうかと真剣に思う。だがそうなってしまっては自分もこの男と同じランクまで格下げされてしまう。そうなってはオルコットの名に泥を塗るどころではなくなるのでなんとかこらえて溜息として吐きだす。
まぁ、自分のことを話さないというのは少し認めるが。
「ま、かといって別にアンタのことを深く知ろうとも思わない。だからアンタも、そんなにお節介をやく必要はないぞ」
「わたくしは貴方のことを思って言っているのではありません」
「じゃぁなんだよ?」
「・・・自分の為、です」
誰かの為になんて動いたことはない。思ったことすら。そう、いつだって皆自分の為にしか何かをしようとはしない。願いも同じだ。結局は自分の為。誰かの為になんてことは所詮キレイごとにすぎないのだから。
「・・・聞いてやる」
「はい?」
「だから、聞いてやるって言ってんだ。アンタの為になるんだろ?」
「え、あ・・・え、えぇ。そうですわ」
「自分の為に何かしようとも思わない奴が誰かの為になんてできるわけねぇ。その点、アンタはあのバカよりはわかってるみたいだからな」
多分、一夏で間違いないだろう。まぁ、あれは流石に自分でもフォローしきれないほどのお人よしなのでここはあえてスルーするに限る。いくらなんでも、アレは流石にどうかしているとしか思えない。
そこがイイところでも、あるのだが。
「・・・いいですか?幾らシールドエネルギーの膜があるからと言って徒手空拳で戦うなど素人以前に命知らずです。IS戦闘は普通の武術とは異なりますのよ。たとえ貴方が痛みを感じなかったとしても、命の危険がないわけではありませんの。というか、どうして同室でもある光野さんは何も言わないのですか」
「俺のやりたいようにやらせるんだとさ」
常識とはいったいなんだったのか。哲学しそうな頭を左右に少し降って紛らわせる。整備士で護衛も兼ねているのなら真っ先に忠告、改善させるべき立場の人間がこれではこうもなるのも頷ける。セシリアは再度頭を抱えた。
「・・・ともかく。今の戦い方を続ければ何れ命の危険を伴います」
「ハイハイ」
コイツ・・・聞く気あるのか!?
普段の自分を忘れそうになるほど怒りにかられるセシリア。同じパイロットとしてアドバイスをしてあげているというのにこの男は、と拳を震わせながら眉間にしわを寄せる。
「・・・だったらさ」
「・・・・」
「祈ってくれよ」
「・・・流れ星に、とでも言う気ですか?」
「おう」
「言っておきますけど、流れ星というものは――――」
「知ってる。けどさ、消える前に願い事三回言い切ることができたら叶うとも言うだろ?だったら捨てたもんじゃないと思うけどな」
空を見る。満天の夜空に星が煌めいている。今夜は流星群らしい。星が次々に瞬いて・・・・消えていく。そんな儚くも美しい光景を見ながら巧は言う。
「安全祈願ってわけじゃないけどさ。アンタが祈ってくれるなら、多分、心配ない気がするんだ」
「・・・それ、口説き文句としては三流ですわよ」
「ムードねぇなオイ」
せっかくの気分が台無しだ、そう言いたげに不満をまき散らす少年を見て内心ガッツポーズをする。いつも意地の悪いことをするお返しだと笑う。もちろん、それを表に出すことはない。あくまでも内心で、だ。
でも、まぁ。
「でしたら、次はそれなりにムードのあるシチュエーションでリベンジをしていただこうかしら」
これより上を望むとか。そう言いたげに嫌な顔そして溜息をつく姿をみて今度は隠さずに笑う。そうだ、この男は少しくらいこうやってイタいめをみればいい。すっきりしたところで再度空を見上げる。
叶うかどうかは―――わかっていることではあるが。それでも、星に願いを込めながら。
◇ IS学園の劣等生 ~第八話 流星-スターライト- ◇
どうして、今になってそんな会話を思い出したのか。それはきっと、いや、絶対あの女のせいだと思う。だってそうだろう?今まさに―――
「枢!」
超ド級のピンチなのだから。武装は全て潰されて、打つ手なし。時間稼ぎにはまだ不十分だ。そんな状況で、今現在首を掴まれて足も地面につかない状態にある。正直ここまで何もできないともう悔しさどころか恨みが湧いてくる。
「ク・・・、ソが・・・ッ!」
みっともない。さっきかっこつけたくせにこのザマか。なんとも嘆かわしい。
「グッ・・・鈴、まだなのか!?」
「やってるわよ!こっちだって、調整すんのに手一杯よ・・・!」
まだか。まだなのか。焦りが行動に移るのを必死でこらえながら一夏は今にも首を折られてしまいそうな巧を見る。こんな時こそ助け合いとかチームワークとかが必要とされるんだろうに、肝心な時に足踏みどころか地団太踏むこともかなわないとは。思わず雪片を握る手に力が入る。
『巧さん、巧さん!』
何かと思えば映像通信。まだ妨害が働いているのか映像はかなり荒く、音声のみがかろうじて聞こえてくる程度だが、それでもハッキリと聞き取れた。
『ノワールには、今までのISにはない機能が搭載されています!今巧さんが着ているISスーツは、ソレを円滑かつ最大限に生かすためのスーツです!』
なるほど、と自分が着ているものが道理で少し違うことに気が付く。全身にまるで血管のように伸びたラインがそれを物語っていた。
『巧さんの戦い方、それを最大限に生かすことのできる機体とスーツ・・・まだ粗削りですけど、それでも!』
―――貴方の力に、なるはずです。
(だったら、一か八か・・・!)
腕に意識を集中させる。イメージは、この血管を通じて血が流れるイメージ。それを明確に描いて拳に集め・・・・振るう!
直後、今までとは比べものにならないほどの強力なパワーで巧は相手の腕の関節を逆に曲げた。への字に曲がった巨腕はその中身であろう強化骨格を露出させ漏電させながら後退する。それを見た一夏は確信がいったように「やっぱり」と呟く。それを聞いて今まで半信半疑だった鈴は驚愕した。あれだけの短い時間、少しの戦闘。そして鋭利な感覚で相手がどんなものなのかを見抜いていたのだから。
流石は、腐っても弟、か。――――いや、流石に言い過ぎか。
ともあれ、相手が人間ではなく無骨な機械であるならば遠慮はいらない。
「ラァ!」
殴る、殴る、ただひたすら殴る。カウンターも反撃もさせない。ただがむしゃらに殴り続けるその様はまさに〝喧嘩〟のよう。ラッシュの合間、時折右手をスナップさせながら殴るその姿はどう考えても不良にしか見えなかった。
だが、おしていることに変わりはない。これでようやく目的は果たせた。
「織斑ァ!」
「鈴!」
「オッケー、行くわよ一夏!龍砲最大出力――――発射ァ!」
撃ちだされた見えない弾丸が白式の背中に直撃。しかしそれはダメージとして認識されることはない。空気の塊を白式が吸い、一時的なエネルギーへと変換し、直後一夏が動く。雄叫びをあげながら相手を愛刀で一閃。研ぎ澄まされた刃はスピードも相まってその威力を増幅させている。
が、それは巨腕を切断するまでには至らず、あろうことか弾かれてしまい、刀が宙を舞った。丸腰、隙を作ってしまった一夏とスイッチするように巧がフォローに出るが、それも頭上からの拳で阻害され、地面に沈み、そしてそのまま頭上に抛り投げられた。
「枢!?」
作戦失敗―――二人の脳裏にその四文字が浮かび上がる。が、そんな絶望感を覚える一夏と鈴とは対照的に、巧は口角を歪めていた。
「・・・願掛けってのな」
「・・・・!」
「叶うってこと前提でするもんなんだよ。そうだろ?・・・オルコット」
「えぇ、そうですわね・・・!」
直後、星が瞬いた。