IS学園の劣等生   作:tubaki7

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第九話 恋路

 

 静まりかえるアリーナ内部。重く苦しいほどに居心地が悪い。緊張感が抜けない。もう終わったにも関わらず気持ち悪さがなくならない。早く、早くなくなれと強く願うが一向にひく気配などない。

  戦闘を開始しておおよその決着がついた頃にかろうじて生きている電光掲示板に目を向ければもうすでにこの乱入者がやってきてから30分近くの時が過ぎていた。そこから自分が乱入して事を鎮めるまでさらに15分。計45分という長きに渡る戦いは幕を閉じた。―――はずだ。

 機体が状況の整理を始める。周囲の施設への影響・・・・人的被害・・・・敵機、機能を再構築中。

 

「・・・終わった・・・」

 

 そう一言。油断するなと声を出すよりも早く躰は辛うじて動いた。もうすっかり慣れ親しんだ銃の姿を手に描き、粒子から具現化したそれをノールックで掲げて引き金を引く。あと少しズレていたらおそらく当たっていただろうと思うが、まぁそれもコイツがからいいかと考えないことにして、弾丸はものの見事に相手の脳天を貫いた。

 

「油断すんなっつってんだろ」

「その前に今俺当たりそうだったんだけど!?」

 

 知るか。そう切り捨てて銃を降ろす。これでようやくモヤモヤが消えてすっきりしたので取り合えず溜まっていたものを溜息と一緒に外に追い出す。こんなことは二度とごめんだと思いつつも回復した回線から聞こえてくる同居人である少女の声が喧しいので耳を塞ぐことにする。

 

『やりましたよ巧さん!やっぱり巧さんはやればできる人だったんですね!口は悪くて遠距離下手くそですけど!』

「おう、コラ。しばくぞ」

 

 いつも通りの会話だ。やはり日常はこうでなくては。そういうことにしてとりあえずはなんとかなった。

 

「・・・おっと」

 

 出血の量が多いらしい。軽く立ちくらみしたのでその場に座る。そして寝そべる。ISが重い。補助は働いているはずだが、躰がそれすら重いと告げてくるので自分ではどうしようもなくその場に仰向けになる形でグテーっとなる。

 

「だぁー」

「みっともないですわよ。まったく貴方という人は・・・」

 

 呆れ顔で観客席からホバリングしてこちらに降り立つセシリアを見て手をあげることでとりあえずは挨拶する。今は喋るのも億劫で「あ~」だの「お~」だのしか言いたくはない。だがそうすると後々やっぱり小言を言われるのでとりあえず最低限の相槌だけは打つことにしてそれ以外はひたすらぐったりとすることに徹する。

 

「・・・無茶をしましたね。今度こそ死んだかと思いました」

「でも生きてる。アンタのお蔭で、な」

「まぁ、貴方にもしものことがあればほのかさんが悲しみますので。・・・・それに、お菓子も食べられなくなりますもの」

 

 絶対前半は建前だ、コイツ割とえげつないな。女というものはこれだから苦手だ。やれ恋だの食べ物だのとまったくもって理解できない。

 

 ―――そう、理解できない。彼女がうっすらと浮かべる、その滴の意味も。でも、まぁ。

 

 ブルーティアーズ(蒼い滴)とは、これまたウマい事を言ったもんだとこの機体の設計者には軽く敬意を示す。ペットと飼い主は似る―――もとい、機体とパイロットは似る、ということか。

 だがそうなってくると自分の愛機には少し酷なことをしたなと思う。お前ももう少しマトモなパイロットに出会えていればよかったのにな、と共に死線を潜り抜けた相棒に言葉を投げる。もちろん、心の中でだ。

 

『織斑、凰、枢、オルコット。よくやった・・・・と、言いたいが後者二名には反省文と危険行為、それから器物破損の罰として一週間の謹慎とする。文句があるなら言ってみろ』

「「ぎゃふん」」

 

 しかし一週間の謹慎なら好都合だ。反省文などぱぱっと済ませてひたすらダラダラしよう。何もかもを忘れて一日過ごす。ここ数日の濃密さを考えれば悪くない。むしろおつりがくるくらいだ。

 

  じゃぁ、そうしよう。とりあえず今は意識を手放すとして、目を閉じた。

 

 

 

IS学園の劣等生 ~第九話:恋路~

 

 

 

 当初予定していた通り、部屋でひたすらだらける。徹底的にダメ人間になった後はとりあえず何かしたくなったので創作料理を作る。そこへ同じく謹慎仲間のオルコットを交えての食事。別に部屋から出るなとは言われていないので寮内であれば自由に行動できることが許されている。こういうところを見る辺りあの人も随分と不器用だと思う。こう、絶対勘違いされやすいタイプだと担任の新たな評価を自分の中で位置づける。姉弟揃ってメンドクサイ。

 

「タクミ、コレはなんですの?」

「メーンのなんちゃってビーフストロガノフだ。偶々読んでいた漫画がこれまた面白い奴でな」

「驚きましたわ・・・」

「そーだろそーだろ?」

「貴方、字が読めましたのね」

「表に出ろドリル頭」

 

 そんなあたりさわりのない会話で過ごしているとあっという間に放課後がやってくる。そこからは同居人と織斑を踏まえての団欒とした時間だ。

 

「ところで箒さんは?」

「誘ってみたんだけどなんか渋っててさ」

 

 案の定、と言えばそうだ。徹底的に、ボロクソ言ってやったのだ。もちろん、全て終わった後で。隣の女子二人からの視線がなんか訴えてくるがそんなことは気にしない。間違ったことは一切言ってないし、あの場でもしもあと少し何かが違っていたら全員死んでいた可能性すらあるのだから、この程度で済まされた上になんのお咎めもないのはむしろ喜んでほしいくらいに思う。しかしながら、視線が痛い。いや、痛覚ないけれども。

 

「・・・わ~ったよ。織斑、コレ持ってけ」

「お、抹茶ロールまだ余ってたのか」

「元々お前らに渡す予定だったしな。けど謝るつもりはねぇぞ」

「あぁ。それは・・・まぁ、わかる」

 

 ここで否定してこない辺り此奴は多少空気というか、思ってることがわかるのかもしれない。

 

 ・・・いや、あの場にいたのなら当然か。

 

「ヤッホー巧!バカにしにきてやったわよ」

「さて、今日は解散すっか」

「そうですわね」

「ですね」

「お、おう?」

「ちょっと、なんでアタシだけこんな扱いなのよ!?というか一夏!アンタ成り行きで返事してんじゃないわよ!」

 

 そんな調子で、謹慎期間は過ぎていく。

 

  ・・・・過ぎていく・・・・筈だった。

 

 

 ◇

 

 

「・・・どうしてこうなった」

 

 目の前で泣きじゃぐるツインテール二人。そしてその手には・・・大量の玉ねぎが。疑問というか、もはや謎でしかないその光景を紐解くためにまずは事情聴取することにして後ろで苦笑いを浮かべている師匠(巧が勝手にそう呼んでいるだけの食堂のおばちゃん)に視線を向ける。

 

「えっとね。鈴ちゃんは巧君に料理で負けたのが悔しくって私のところに来たのよ。それで偶々通りかかったほのかちゃんがこの子に触発されて、”巧さんを地面にみじめに這いつくばらせて私のおっぱいで泣きじゃぐる姿を見せてやります!〟って言って・・・」

「色々とツッコみたいところ満載だけどとりあえずすんませんした」

 

 我ながら綺麗な角度で頭を下げる。これが所謂サラリーマンお辞儀というやつだろうか。知らんけど。

  そんなわけでバカとチビというなんともアレなコンビを引き取った後は仕方なくレクチャーすることになり、調理台には大量に残された玉ねぎのみじん切りがある。これをどうにかしないと罰が、何より料理人の息子としてのプライドが廃る。とりあえず何か作らない分にはどうにもならないので。

 

「暇を持て余したこの二人を呼んでみた」

「うむ。旨い飯を食わせてもらえるということらしいのでな。ちょうど仕事も一区切りついたところだ」

「待てや、なんで鬼とその弟が招かれてんだ。そしてセシリア今あんたダイエット中でしょうが」

「それとこれとは話が別です」

 

 なんでよりにもよって、と項垂れる二人をみて内心ほくそ笑む。そんな自分以外の唯一の男子であり、もはや相棒とでも言ってもいい友の姿をみてだいぶ黒くなったなぁと苦笑い。これにはさすがに触れない方が身のためでもあるのでそうリアクションすることにする。

 

「よく考えてみろ凰」

「あによ?」

「この人の舌をうならせることができれば、織斑の正妻に大進歩だ。あの篠ノ之にも多大なダメージとアドバンテージが稼げるんだぞ?」

「アタシにかかれば美味しんぼも素足で逃げ出すほどの絶品なんて朝飯前よッ!」

 

 扱いやすい。そう思いつつなんでそんな漫画貴女が知ってるんですかと隣でツッコみを内心で入れる。せっかく盛り上がってるしなんだか面白そうなのでそのまま放置という結果になるのだが。

 

「ちなみにお前を強制参加だ。慈悲はない」

「鬼ィ!悪魔ぁ!」

 

 何とでも言え、そう跳ね返してさっそく調理に入った。

 

 

 ◇

 

「・・・なんて言うかさ」

 

 後片付けをしながらそう鈴が切り出した。今はあの食事会の後片付けの最中。ちなみに他のメンバーは各々用事があるとのことで現在は解散となっている。

 皿を水にさらしながら、案外綺麗で小さな手で一枚一枚を慣れた手つきで洗っていく。そういう姿は流石は中華料理屋の娘だなと思う。

 

「ありがと」

「ハァ?」

「その憎ったらしい顔どーにかして。今すぐ双天牙月の錆になりたくなけりゃね」

 

 真面目な雰囲気。また少しの沈黙の後、咳払いをして鈴が喋りだす。

 

「正直な話、あの時ちょっとビビッてた。初めての実戦って、あんなに怖いもんなのね」

「・・・別にアンタだけじゃねーよ。俺だってビビッてた」

「でもあんなに動けたし、策だって練れた。代表候補生のアタシでもできなかったのに」

「だからってなんでもできるわけじゃねーだろ。あの場は俺が一番落ち着いていた。それだけだったし、それよか織斑の洞察力の方がスゲー。無人機だって見切ったのは彼奴が最初だからな」

「まぁ、そうだけど・・・」

「・・・アンタが思ってるより、彼奴は高いとこにいるぜ?」

 

 蛇口を止め、最後の皿を乾燥機にセットして放り込む。渇いた布で手をふく。最近の洗剤は手に優しいだけじゃなくて同時に手洗いも兼ねてできるのだから凄いと感心しつつ話を進める。

 

「昔がどうだったかなんて微塵も興味はねーけどよ。アレで色々と成長してんだよ。彼奴」

「・・・そうね。そうよね」

 

 視線を落とす。自分の知らない凰 鈴音の一面を見れた気がして少し得をした気分になる。言動が少々活発すぎるところを除けば、基本美少女だ。まぁ、その言動が些かネックなのだが。

 しおらしい。さらに悪く言えばらしくない。もっと悪く言えば気持ち悪い。

  なので。

 

「でもまぁ、なんだ。それでも危なっかしいとこは変わってねーみてぇだぞ。だから・・・その、アレだ。誰かが面倒みてやらないと危ないんじゃないか?」

 

 そんなつたないフォローを入れてみる。ガラじゃない。はっきりいってまったくもって得意でもなんでもない。それでも。

 

「・・・そうね」

 

 この子は、笑ってくれた。

 

 

 

 

「すっかり暖かくなりましたわね」

 

 振り返れば、もう寝る予定だったのだろうか。外に出るためにカーディガンを羽織ったセシリアがいた。

 

「まぁ、そろそろ春も終わりだしな」

 

 これから初夏になる。その前に梅雨があるが、気候がどうあれこの学園にはシールドが張り巡らされているためそれもどうということはない。しかしその為だろうか。内側の空気は余分なものをシャットアウトするので澄んでおり、非常に見晴らしがいい。だからこうして夜になれば彩を添える星々は他よりも一段と輝いて見える。二人して手すりに寄りかかる。しかし距離は空いているいる辺りこれが今の自分達の間柄なのだろうと思う。まぁ、それでも少しは縮まってはいるのだが。

 

「・・・あの時も、たしかこうして星を見上げてましたわね」

「お、今回はロマンがあるじゃねーか」

「そう言う貴方は今回も欠片もありませんわね」

 

 あってたまるか。そう言いたげにフン、と鼻を鳴らす。

 

「少し意外でしたわ」

「何が」

「篠ノ之さんのことです。あんなにムキになるとは思っていなかったので」

「・・・人の命ってのはさ、星よりも儚いもんだろ?だったら、それが消えるなんて見たくねー。そう思っただけだ」

 

 ぶっきらぼうというか、単に口が悪いというか。おそらくどっちもという難儀な性格なんだろうと思う。素直に言葉を紡ごうとしないのは、自分も―――そして、母も割とそういう人間だったなと思い出してみる。

 

「・・・なぁオルコット」

「はい」

「・・・星、綺麗だったろ?(・・・・・)

 

 何と言うか。

 

「・・・そうでしたか?わたくしとしては今一つでしたけど」

「あぁ。今まで見てきた中で、多分な」

 

 こういう所は、少しズルいと思う。

 

  いつも通りの、なんてことない会話だ。でも、今日はほんの少しだけ。本当に、少しだけ。

 

 この瞬間に、恋していようと思った。

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