パチパチ
揺れ、時たま弾ける篝火を眺めながらあの心折れた戦士の様に溜息をつく。
此処、ロードランは時間の流れが淀んでいる。
故にこの祭祀場から見える空は変わらず、あの太陽の戦士が憧れた太陽も天に昇ったまま、ただ本当に流れているのかすらわからない時間が過ぎていくのみ。
「・・・・・また、独りか」
受け取り手の居ない独り言は虚しく祭祀場に消えて行く。
ふと、思い立った様に、『プリシラの短剣』を取り出し、篝火に翳す様に見つめる。
微かな温もりを与えてくれるこの短剣が、篝火の光を反射した。
「
今ならわかる。
雪に包まれ、凍えようとも、この世界とは違い、あの世界は、確かに完結していたのだから。
だが、今その様な事を考えても意味は無い。
己が知る
「・・・・・・・・・・ハァ」
篝火の前に座り込んだまま、変わらない天を仰ぐ。
――不死としての目的は疾うの昔に失い、在るのは火継ぎの使命のみ
何度も繰り返した。
死に、篝火で目覚め、また死ぬ。
死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで。
だが、折れない。
何時か、何かが変わると信じて。
『先生――――』
――そして、待ち焦がれていた転機が訪れた
「声?」
声が聞こえた気がして、立ち上がり、周囲を見渡す。
ふと足元に現れたサインに目が留まった。
「・・・・・・・・・・これは」
サインの近くにしゃがみ込み、観察する。
召喚の白サインとも、侵入の赤サインとも違う、青いサイン。
「青いサイン、か・・・・・」
――己は、長らく感じていなかった期待を感じた
それを切っ掛けに、長らく忘れていたものを想起させる。
未知への興奮、挑戦の素晴らしさ、成し遂げた時の歓喜を。
「クックック・・・・・此処まで来ても、俺は俺だと言うことか。なら、行くしかあるまい」
→サインに触れる
そして、青い光が周囲を照らした。
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ガタン――ゴトン―――
不思議な列車の中に、水色の髪の少女と、煤けた騎士が向かい合う様に座っていた。
「・・・・・私のミスでした」
少女は、自身の対面に座る男に向けて懺悔する様に語り掛ける。
その少女はおびただしい量の血に濡れ、先も長く無いだろう。
だが、無駄になろうとも、彼女は言葉を紡ぐのだ。
「私の選択、そして、それによって招かれたこの全ての状況」
「・・・・・」
「結局、この結果に辿り着いてはじめて、貴方の方が正しかったと悟るだなんて・・・・・」
少女は、車窓から、青とも赤とも取れる紫色の空を見上げた。
彼も、同じ様に空を見上げた。
【律】が混ざった、歪で、それでも尚美しい空を。
「・・・・・責任を負うものについて、話したことがありましたね。あの時の私にはまだわかりませんでしたが、今なら理解できます」
「・・・・・」
「大事なのは選択。貴方にしか出来ない
少し、苦そうに少女は微笑った。
その苦さは、彼への罪悪感故か、それとも・・・・・。
「だから先生、どうか・・・・・」
「・・・・・」
持たざるものは、立ち上がる。
車両から降りるために、また、旅立つ様に。
そして、扉の前に立ち、振り返らずに鎧兜の中で口を開いた。
「・・・・・俺に、師という高尚な役割が果たせるかは、わからない。だが、俺がそうする事で、何かが変わると言うのなら・・・・・・・・・・やってみせよう」
「・・・・・ありがとうございます、先生」
不死人が停車した列車から降りて行き、扉が閉まる。
そしてまた、列車は走り出した。
致命傷を負い、更に存在の根幹を表す【神秘】を託した少女はもう永くは無いだろう。
だが、この列車は狭間に在った。
故に少女は終わりを待つ。
「先生・・・・・私は此処で、見守っていますから・・・・・ゴホッ・・・・・・・・・・何時か、迎えに来て下さいね?」
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「・・・・・先生、起きて下さい」
凛とした鋭い声が聞こえる。
「先生!!」
重い目蓋を上げ、声の主を見る。
白い衣装に青いネクタイ。
そして、尖った耳と頭上に浮かぶ光輪。
「・・・・・君は?」
その声の主である少女――少女と呼ぶには少々無理のある容姿であるが――に問う。
すると少女は少し瞬きをした後、答えた。
「私は七神リン、学園都市【キヴォトス】の連邦生徒会所属の幹部です・・・・・そして貴方はおそらく、私達が個々に呼び出した先生・・・・・の様ですが」
少女――リンの表情や息遣い、些細な動作から困惑などの感情を感じ取る。
どういう事だろうかと首を傾げる。
「・・・・・ああ、推測形でお話したのは、私も先生が此処に来た経緯を詳しく知らないからです」
「成る程・・・・・」
あの少女は、己にも、リンにも些か説明不足だった様だ。
それでも、己が役割を託されたのは変わり無い。
アストラの騎士の言った、使命を知るという使命よりは具体的なので良しとしよう。
「突然で申し訳ないのですが、取り敢えず私についてきてください。どうしても、先生にやっていただかなくてはいけない事があります。内容は・・・・・学園都市の命運を賭けた大事な事、としておきましょう」
「ふむ、承知した」
軽く頷いてから椅子から立ち上がり、歩き出したリンの後を追う。
歩きながら失っていない情報と自身の状況を確認する。
・・・・・ふむ。
底なしの小箱の中身はちゃんとあり、『プリシラの短剣』や『上級騎士の鎧』もある。
だが、鎧が着れない。
感覚的なものだが、呪いの様な制限が掛かっている様だ。
装備出来るのは・・・・・兜と、短剣、触媒のみだと?
呪死の方が楽だ・・・・・。
「?先生、どうかしましたか?」
「いや、少し考えていた」
リンに応えながら何が襲ってきても良い様に『上級騎士の兜』と『プリシラの短剣』を装備する。
まあ、コレもまた苦難であり、挑戦だ。
あの少女に言ったように、やってみせよう。
「・・・・・何故、兜を?」
「コレが最善だ」
「・・・・・・・・・・そう、ですか」
回答が気に入らなかったのか、リンが少し眉を顰めた。
そうしてしばらく歩き、リンと共に昇降機の様な物に乗り込んだ。
「ほお・・・・・」
澄んだ青空に聳え立つ建造物。
アノール・ロンドとはまた違った景色。
「【キヴォトス】へようこそ。先生。この【キヴォトス】は数千の学園が集まって出来ている巨大な学園都市です。そして、これから先生が働くところでもあります」
昇降機が昇っていくのがわかる。
魔術の類では無い・・・・・凄まじい技術力だ。
「きっと先生がいらっしゃったところとは色々な事が違っていて、最初は慣れるのに苦労するかもしれませんが・・・・・でも、先生ならそれ程心配しなくても良いでしょう。あの連邦生徒会長が、お選びになった方ですからね」
そうしてリンの話を聞いている内に昇降機が止まる。
「・・・・・では、残りは後でゆっくり説明するとしましょうか」
「ああ。よろしく頼む」
そしてまたリンの後を追って歩いて行くと、騒がしい広間に出た。
リンに用があるのか、次々に人が集まってくる。
「ちょっと待って!代行!見つけた、待ってたわよ!連邦生徒会長を呼んで来て!」
藍色の髪を軽く二つに纏めた少女。
「首席行政官。お待ちしておりました」
長い黒髪の長身の少女。
「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています」
栗色の髪の眼鏡を掛けた少女。
・・・・・ふむ、此処は女性しか居ないのだろうか?
そう考えているとリンが少し溜息をつくのが見えた。
「はぁ、面倒な人達に捕まってしまいましたね」
そしてすぐさま表情を切り替えた。
「こんにちは、各学園からわざわざ此処まで訪問してくださった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん。こんな暇そ・・・・・大事な方々が此処を訪ねて来た理由は良く分かっています」
リン・・・・・君は、結構毒舌なんだな。
新発見だ。
記憶の片隅に記録しておこう。
そしてリンは言う。
「今、学園都市に起きている混乱の責任を問うために、でしょう?」
その言葉を皮切りに、集まってきた少女達が次々に言う。
「それがわかってるならなんとかしなさいよ!連邦生徒会なんでしょ!?数千もの学園自治区が混乱に陥ってるのよ!この前なんか、うちの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!」
「連邦矯正局で停学中の生徒達について、一部が脱獄したと言う情報もありました」
「戦車やヘリコプターなど、出所のわからない武器の不法流通も2000%以上増加しました。これでは正常な学園生活に支障を生じてしまいます」
「スケバンのような不良達が、登校中の生徒達を襲う頻度も、最近急激に高くなりました。治安の維持が難しくなっています」
ロードランで考えてみると、亡者の数が20倍になり、ダークレイスも増える、といった所か。
ふむ・・・・・かなり切羽詰まっているようだ。
少女達の表情もその状況の深刻さを際立たせている。
「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの?どうして何週間も姿を見せないの?!今すぐ会わせて!!」
そして、リンは口を開いた。
「連邦生徒会長は今、席におりません。正直に言いますと、行方不明になりました」
「・・・・・え!?」
「・・・・・!!」
「やはりあの噂は・・・・・」
一呼吸置いてリンは言った。
「結論から言うと『サンクトゥムタワー』の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。認証を迂回できる方法を探していましたが・・・・・先程まで、そのような方法は見つかっていませんでした」
「・・・・・それでは、今は方法があると言う事ですか、主席行政官?」
「ええ。此方の・・・・・兜を着けていたりと少々奇抜な方は、連邦生徒会長に特別に指名された、この件のフィクサーとなる人物であり、今後キヴォトスに先生として勤務される方です」
考える事は多い。
だが、紹介されたのなら、やる事は決まっている。
「よろしく頼む」
一礼。
兜越しに見える少女達の反応は様々だ。
困惑、疑惑、興味、警戒。
好意的なものは無いが・・・・・やってみせよう。
「俺が、【先生】だ」
『先生』
素性も知れず、名前すら無くした持たざる者。
彼は『何処』に帰りたかったのか、『何』を探していたのか・・・・・数えきれないほど火を継ぎ、それは煤け、とうに失われてしまったようだ。
『プリシラの短剣』
エレーミアス絵画世界に封印された禁忌
半竜プリシラが自身の尾から生み出した武器
希少なドラゴンウェポンの1つ
何も持たず、また何もかもを失った友のために
彼女は尾を切り、この短剣を送った
故にこの短剣は生命狩りではなく
持ち主に微かな温もりと
あらゆる異常に耐える力を与える