Blue/SOULS   作:文才の無い本の虫

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第2話 / 誓約

 

 

 

 

 

 

パチパチ

 

 

天井は無く、壁が崩れた教室の中央で篝火が弾け、揺れている。

 

空は暗く、数多の星が輝いている。

 

そんな廃墟とも形容出来る教室の中で、小柄な黒い制服に身を包んだ白い長髪の少女と、『上級騎士の兜』で顔を隠した不死人が向き合っていた。

 

 

「はじめまして、先生。私はこの『シッテムの箱』の管理者であり、メインOS・・・・・『A.R.O.N.A』。先生の為に造られたスーパーAIです」

 

 

不死人の前に佇む少女――A.R.O.N.Aは言う。

 

その端正な容姿と、感情の機敏を見取り辛い表情が合わさり、儀式の様な不気味さを醸し出す。

 

 

「コレは誓約であり、契約です。私という理の鍵を得る為に、貴方は【キヴォトス】の救世主と成らなくてはなりません――問。どうしますか?」

 

 

「クックック・・・・・救世主(薪の王)、か」

 

 

不死人は今更な話だと言わんばかりに兜の中で苦笑しながら、左の膝を地面に突き、A.R.O.N.Aに向かって右手を差し出した。

 

それは握手の様で、また、忠誠を誓う騎士の様でもあった。

 

 

「ああ。やってみせよう」

 

 

「了解。資格者の同意及び承認を確認。プロトコル:G.E.A.Sを実行します」

 

 

A.R.O.N.Aは不死人の手を握る。

 

すると不死人とA.R.O.N.Aの間に路の様なものが繋がり、何処からともなく光が収束していく。

 

それはまるで――

 

 

「完了しました。以後、『シッテムの箱』及び『A.R.O.N.A』はマスター(先生)のモノです」

 

 

「そうか。これからよろしく頼む、A.R.O.N.A」

 

 

「イエス、マスター」

 

 

――祝福(呪い)の様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狭間を走る列車の中で、水色の髪の少女は苦笑する。

 

その笑みは自嘲を多分に含んだものだった。

 

罪悪感と、期待と、様々な感情が合わさり、彼女は己に苦笑したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「救世主、理の鍵、預言者、それにパラドックス。役者は揃い、プロローグ(序章)は終わり・・・・・この先の物語は全て先生の手に委ねられました。先生、本当に大変なのは此処からですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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彼女の領域から現実世界に戻り、目を開く。

 

左手には起動状態の『シッテムの箱』。

 

場所は記憶と違わぬビルの地下室だ。

 

 

「・・・・・はい、わかりました」

 

 

部屋の外からリンの声が聞こえた。

 

暫くして、彼女が部屋の中に入って来て、言う。

 

 

「サンクトゥムタワーの制御権の確保が確認出来ました。これで連邦生徒会長がいた頃と同じ様に、行政管理を行えます・・・・・ありがとうございました、先生。連邦生徒会を代表して、深く感謝いたします」

 

 

あの少女の役割の重圧を察し、リンに見え無い様、兜の中で苦笑する。

 

 

それが理由では無いだろうが、【キヴォトス】は彼女に頼り過ぎていたのだろう。

 

ならば、己が目指すものは・・・・・。

 

 

そう考えながら、リンに向かって言う。

 

 

「俺への礼は良い。礼なら此処まで来るのに尽力してくれた彼女達にしてくれ」

 

 

するとリンは少し思案する様子を見せ、頷いた。

 

 

「ふむ・・・・・わかりました。それと、此処を襲撃した不良達と停学中の生徒達については此方で対処しますのでご心配無く」

 

 

「了解した」

 

 

「では、ついてきて下さい。連邦捜査部S.C.H.A.L.E(シャーレ)をご紹介いたします」

 

 

そう言って歩き出したリンの後をついて行く。

 

暫くして「空室 近々始業予定」という張り紙がされたガラス張りの扉の前に着く。

 

リンは、その扉を開きながら言う。

 

 

「此処がメインロビーです。長い間空っぽでしたが、ようやく主人を迎える事になりましたね」

 

 

中に入り、少し進むと、デスクや棚が置かれたスペースに着いた。

 

 

「そして、此処が連邦捜査部S.C.H.A.L.E(シャーレ)の部室になります。此処で先生のお仕事を始めると良いと思います」

 

 

「ふむ、仕事とは?」

 

 

己の魔術の師である人嫌いの賢者を思い浮かべながら問う。

 

するとリンは表情に少しの困惑を滲ませながら言った。

 

 

「・・・・・S.C.H.A.L.E(シャーレ)は、権限だけはありますが目標の無い組織なので、特に何かをしなければならないという強制力は存在しません。ですが、【キヴォトス】のどんな学園の自治区にも出入りでき、所属に関係無く、先生が希望する生徒達を部員として加入させることが可能です」

 

 

リンは続ける。

 

 

「面白いですよね。捜査部とは呼んでいますが・・・・・その部分に関しては連邦生徒会長も特には触れていませんでした。つまり、何でも先生のやりたい事をやって良いという事ですね」

 

 

「・・・・・」

 

 

その言葉に絶句する。

 

 

リンの言う通りなら、この組織は既に多方面に喧嘩を売っている状態だ。

 

国で例えるなら全く見聞きもしたことのないぽっと出の人物が自国内で好き勝手出来る権限を持っているようなもの。

 

政治屋からすれば不穏分子や邪魔者でしか無い。

 

 

「私達は連邦生徒会長を探す事に全力を尽くしている為、この学園都市で起こる問題に対処する余裕がありません。今も連邦生徒会に寄せられてくるあらゆる苦情・・・・・・・・・・支援物資の要請から落第生の対応まで」

 

 

余裕の無い連邦生徒会、新しく出来た目的のない組織、権限、あらゆる苦情。

 

淡々と話していくリンの思惑を察し、兜の中で顔が引き攣る。

 

 

「もしかしたら、時間の有り余っているS.C.H.A.L.E(シャーレ)なら、この苦情の数々を解決出来るかもしれませんね。その辺りに関する書類は、先生の机の上に沢山置いておきました。気が向いたらお読み下さい。全ては、先生の自由ですので・・・・・それではごゆっくり。必要な時には、またご連絡いたします」

 

 

そう言ってリンはメインロビーから出て行った。

 

残されたのは積み重なった書類の山。

 

左手に持っている『シッテムの箱』から声が響いた。

 

 

『書類の山・・・・・鼓舞。ファイト、です。頑張りましょう、先生』

 

 

「・・・・・・・・・・ハァ」

 

 

思わず天を仰ぐ。

 

取り敢えず、下に待たせている彼女達に礼を言わなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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連邦捜査部S.C.H.A.L.E(シャーレ)のビルから出て、近くで待機していた少女達に近付く。

 

 

「お疲れ様でした、先生。先生の活躍は【キヴォトス】全域に広がるでしょう。先生はちょっと不思議な見た目ですし、すぐにSNSで話題になってしまうかもしれませんね?」

 

 

その物言いに笑う。

 

人生とは、わからないものだ。

 

 

「クックック・・・・・そうかもしれないな。取り敢えず、感謝する。君達のお陰で此処を奪還出来た。ユウカ、ハスミ、スズミ、チナツ、ありがとう」

 

 

そうして彼女達に礼を伝える。

 

暫くして彼女達が帰る時間になった。

 

 

「これでお別れですが、近い内にぜひ、トリニティ総合学園に立ち寄ってください、先生」

 

 

「(ぺこり)」

 

 

「私も、風紀委員長に今日の事を報告しに戻ります。ゲヘナ学園にいらっしゃった時は、ぜひ訪ねてください」

 

 

「ミレニアムサイエンススクールに来てくだされば、またお会いできるかも?先生、ではまた!」

 

 

そうして少女達が帰って行くのを見送り、S.C.H.A.L.E(シャーレ)の部室に戻る。

 

左手に持っていた『シッテムの箱』をデスクの上に立て、近くの椅子を引いて座る。

 

すると、『シッテムの箱』の中からA.R.O.N.Aが言う。

 

 

『お疲れ様です、先生』

 

 

「ああ。A.R.O.N.Aもありがとう。君のお陰でサンクトゥムタワーの制御権をどうにかすることができた」

 

 

『スーパーAIですので。これぐらいお茶の子さいさい、です』

 

 

ふんす、といった様に彼女は言う。

 

 

案外、少女らしいじゃないか。

 

 

彼女の様子にそんな事を考えながら、デスクを見る。

 

大量に書類が積み重なっている。

 

 

「まあ、取り敢えず・・・・・コレを片付けるか」

 

 

『はい。お手伝いします、先生』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









『誓約』
何処かで誰かと誰かが交わしたもの
神と人が結ぶ事もあり、内容は千差万別である
時に、誓いは命より重いのだ



『書類の山』
デスクの上に積み重ねられた、紙の山
それは紙の束にしては重く、高く、またあまりに多い
これに一人で立ち向かうならば死は免れないだろう




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