コードギアス反逆のルルーシュ ロストカラーズ 補完編 作:アシッドレイン
式根島、AM11:05
ゆっくりとグレートブリタニアを中心とした大艦隊が近づいてくる。
大小あわせれば20隻近い飛行母艦が並んで移動する様子は壮大なものだ。
それと同時に強大な威圧感を感じる。
これらに搭載されているナイトメアだけでも100機近いだろう。
やろうと思えば、小国1つぐらいなら攻略できるのではなかろうか。
そんな思いを抱いて艦隊が近づいて来るのを見つめていた。
その時だ。
グレートブリタニアを中心に黒い閃光が球状に広がり、艦隊を包んでいく。
「なっ…」
その光景に僕は見入ってしまう。
なんて綺麗な黒の光なんだ…。
ち、違う僕は何を考えている。
「シ、シュナイゼル殿下っ…これはっ…」
そう言うつもりだったが、僕の背中でバチッという音が響き、僕の意識を闇が覆っていく。
そして意識が闇に包まれる直前に見たものは、今まで見た事の無いほどの歪んだ笑いを浮かべたシュナイゼルとスタンガンを持った無表情の彼の副官カノンの姿だった。
同日、AM03:45(トウキョウ AM10:45)
EU戦線の最前線、見張り所…
「どうせ、休戦中なんだから気にするな…」
カードゲームに夢中の兵士達。
「そうだよなぁ…。こっちには、ナイトオブラウンズ二人に戦姫コーネリア様もいるしな」
「そうそう。EUの連中、今頃ぶるって降伏の準備してたりしてな。ひゃははは…」
「よっしゃー、それ当たりだわ…。次の酒代稼がせてもらうぜ」
「なにーーっ…。くそっ…今度は負けないぜぇ…」
だが、彼らはその日の賭けの負けも勝ちも手にする事は出来なかった。
なぜなら、秘密裏に進入したEUの特殊部隊の攻撃で建物ごと吹き飛んでしまったのだから…。
そして、防衛ラインの一角が崩れると同時にEUの総攻撃が始まった。
不意を突かれたヨーロッパ戦線のブリタニア軍は、大混乱に陥り総崩れとなる。
そして、前の戦闘の勝利で手に入れた領土の半分と部隊の4分の1をわずか1時間で失う事となった。
同日、行政特区日本管理局…
EUの総攻撃。
この情報が行政特区日本のナナリー総督の手元に届いたのは、午前11時であった。
しかし、この情報の対応は、ミス・ローマイヤーなどのサポートがあり的確な指示を出すことが出来た。
だが、それから30分後に送られてきた情報にナナリーは絶句した。
皇帝陛下の部隊の消滅と式根島のブリタニア軍基地の壊滅。
それがもたらされた情報だった。
「ミ、ミス・ローマイヤー…間違いないのですか?」
信じられず聞き返すナナリー。
「間違いございません、ナナリー様。シュナイゼル殿下からの暗号通信では、それだけしか…」
実際、ミス・ローマイヤーにしてもこの情報は信じられなかった。
おそらくシュナイゼル殿下からの暗号通信でなければ、誤報としか扱わなかっただろう。
「ライさんの事は…」
「何も……おそらくは……」
その言葉が、ナナリーを追い詰める。
ぐらぐらと意識が回り、思考が止まりかける。
現実を拒絶したがっている黒い靄が心を覆い尽くそうとしていく。
その圧迫感に車椅子の少女は、簡単に意識を手放した。
EUの総攻撃が始まったという情報は、ニュースとして報道されたが、もう1つの皇帝率いる艦隊の消滅と式根島のブリタニア基地の壊滅は一部の関係者以外知らされることはなかった。
国内的にも国外的にも簡単に報道できる内容ではなかったためだ。
その為、皇帝陛下の視察は延期という事になり、行政特区日本とエリア11管理局は表面上落ち着いているように見える。
だが、内部では混乱に近いことが起こっていた。
ブリタニア皇帝の行方不明も問題ではあったが、何より行政特区と管理局を影から支えていた最重要人物であるライ・エニアグラムの不在が大きかった。
そして、さらに追い討ちをかけるかのように総督であるナナリーが倒れ、混乱に拍車をかけていた。
それでも大きな混乱になっていないのは、行政特区日本人代表の皇神楽耶とジェレミア副団長が手を回して収拾した結果であった。
「くっ…」
カレンは、自分の力のなさを嘆かずにいられなかった。
確かに戦闘になれば彼女は一騎当千のナイトメア・パイロットたが、政治に関してはただの素人に過ぎない。
自分の出来る事のなさを痛感してしまう。
また、ライが行方不明という情報は彼女の耳にも届いていたが、彼女は諦めなかった。
ライは必ず生きている。
そして、私たちの元にきっと戻ってくる。
そう信じた。
そうなると自分の役割が見えてくる。
後は、自分に出来ることをやるだけ…。
そう決意すると行動に移った。
副騎士団の統率と治安部隊との連携、さらに式根島に調査部隊の派遣など副団長が行政で手が回らない部分のフォローを行っていった。
そして、彼女はもう一つの大切な役割を行う為、ナナリーの部屋を訪ねた。
「気分はどう?ナナリー…」
カレンさんが私の手を握って聞いてきた。
その手の暖かさが私のふらつく心を包み込んでくれそうな気がする。
「駄目ですね…私…」
「どうしてそう思うのかしら?」
やさしくカレンさんが私に聞き返してくる。
その声は、手から伝わる温かさと同じく包み込むような優しさに満ちていた。
「だって、ライさんが行方不明だというのに…」
言いかける私の言葉をカレンさんの言葉が途中でさえぎった。
「はい。そこまで…」
「え?!」
「ナナリー…間違っているわよ」
一呼吸をあけて彼女は言い切る。
「ライは生きているわ」
その言葉には、大きなものが詰まっていた。
それは彼女の彼を思う気持ち…。
そして、彼女の彼を信頼する心…。
なんて強い…そして、なんてすばらしい絆なんだろう…。
私は、カレンさんのそのたった一言に感動して心が震えると同時に自分の不甲斐なさに情けなくなった。
そんな私の心がわかるのかもしれない。
カレンさんがやさしく続けて言う。
「実は、私もナナリーと同じだったのよ…。前の時は…」
苦笑しているのだろう。
微かに笑い声が聞こえるような気がする。
「ほら、1年前、表向きは黒の騎士団のライは処刑されたって報道されたでしょ…。
あの時は、もうすごかったんだから…。寝込むぐらいじゃすまなかったわよぉ…。
人生終わったって思って、死のうとさえ思ったわ」
辛い記憶のはずなのに、カレンさんの言葉は明るかった。
「でもね、死ねなくて、復讐の為に戦うと思うまで半年以上かかったかな…」
まるで遠い昔話をするかのようにその言葉に悲しみの色はない。
「そしたら…生きてたりするのよね…ライったら…。ほんと、あの時はまいっちゃったわ」
あはははは…と笑うカレンさん。
「それで、再会して暫くして愚痴ったのよ…。
死んだと思ってたのに生きてるなんてずるい。私の決心とかどうしてくれるのよってね」
私は、彼女の話に心を奪われ、無心で聞いていた。
「そしたらさ…なんと言ったと思う?」
想像が出来ず首を横に振る。
「「別れ際に言っただろ、僕は死なないってさ」だって…。もう呆れかえるやら、拍子抜けするやら…すっかり毒気抜かれちゃってさ」
笑い出すカレンさんにつられ、自然と私も笑っていた。
「ライさんらしいです。なんか…」
「そうでしょ?」
「はいっ」
「だから…信じて待とうよ…ライを…。そして、彼の帰ってくるここを守ろう…。ね…ナナリー」
そうだわ。
辛いのは私だけじゃない。
カレンさんもきっと辛いんだ。
でも彼を信じている。信じて待っている…。
そう…私もライさんを信じなきゃ…。
それに、私は一人じゃない…。
カレンさんやいろんな人たちが支えてくれている。
それに決意したではないか…。
お兄様や大切な人たちに見られて恥ずかしくない選択をしたいと…。
「ありがとう…カレンさん」
私は、ゆっくりと…だけど力強く答えた。
「私もライさんを信じ、彼の大切な居場所を守りながら待ちます。だから、私に力を貸してください」
「当たり前よ、ナナリー。任せて…」
カレンさんが私をぎゅっと抱きしめてくれる。
そして、私はなぜカレンさんの温もりや言葉に優しさを感じ、心が落ち着くのか気が付く…。
あ…ライさんと同じなんだ…。
私の大好きな…ライさんと…。
Uの総攻撃と皇帝率いる艦隊の消滅、式根島のブリタニア基地の壊滅の情報がもたらされて3日が経過した。
EU戦線の方は、最初の奇襲こそ大ダメージをうけたブリタニアではあったが、建て直しに成功すると戦線は膠着しにらみ合いの状況になっていた。
もっとも、皇帝が不在の今、進撃を命令できる人物がいないため、防戦しか出来ないというのが正しいのではあったのだが…。
そして、皇帝を初めとする皇族の行方は未だに掴めないままであった。
今残っている皇族といえば、EUの動きを察知して式根島から本国に向かっていて助かった宰相の第二皇子シュナイゼルとヨーロッパ戦線の司令官に赴任した第三皇女コーネリア。
そして、エリア11の総督であるナナリー皇女殿下ぐらいのものであった。
あまりにも急なこの出来事にブリタニア本国は、大騒ぎになり混乱を極めているらしい。
もっとも、シュナイゼルの手腕で公にはなっていないようではあったが…。
また、ライトオブラウンズもナイトオブワンのビスマルク卿が皇帝陛下と一緒に行方不明の為、動きが取れなくなっていた。
そして、式根島のブリタニア基地の壊滅の調査は、本国から派遣された部隊とエリア11からはカレン自らが部隊を率いて現地に赴き調査を行ったがわかる事はあまりにも少なかった。
「ふう…なんなのよ…このやられ方は…」
カレンは、基地の敷地内にぼっかりと半円状に空いた空間のふちに立つとため息をついた。
かってその場所には、基地施設があったはずなのだ…。
その部分だけが綺麗に切り取られたようになくなっている。
「まいったなぁ…。どこから手を付けていいのか考えられないわね…これは…」
仕方ないので、無事な敷地内を捜索してまわる。
それぐらいしか出来る事はないだろう。
部下達にも伝達し、何か発見があれば些細な事でも即時連絡するようにと念を押す。
そして、何か痕跡がないか捜索を開始する。
捜索開始から2時間が経ち、滑走路付近まで来たカレンは滑走路の脇にある草むらの中から光るものを発見した。
それは傷だらけになっていたが、騎士の正装に使われているあおい色のボタンのようだった。
あれ?このボタン…どこかで…。
そのボタンを指で掴み何度もいろんな方向から見直す。
必死になって記憶の中を探る…。
あおいボタン…。
あお…。青…。蒼…。
「あっ…」
そうだ、これはライの騎士正装のボタンだ…。
間違いない…。
確か式根島に向かう時、着ていたはずだ。
そして、そのボタンをじっくりと確認する。
そのボタンは、傷だらけにはなっていたが、爆風などで痛んだ形跡はない。
また、血がついているようでもなかった。
ただ、地面に倒れた際、引っかかり傷つき服から外れたという感じだった。
よしっ…。ライは、あのへんなものに巻き込まれていない。
たったそれだけではあったが彼の生きている可能性がより高くなった事は間違いない。
そう…それだけでも今のカレンにとっては朗報だった。
ライ、待ってて…。
戻ってこれないようなら、私が見つけてあげるから…。
だから…。
だから…絶対に生きてなさいよっ…ライっ…。