コードギアス反逆のルルーシュ ロストカラーズ 補完編 作:アシッドレイン
あれからすでに1週間が過ぎていた。
しかし、未だに皇帝陛下の率いる艦隊の行方は不明のままであり、国の最高位の不在にブリタニアは大きな支障が出始めている。
一部の委託を除き、何を行うにも皇帝陛下の許可が必要なためである。
政治に関しては、大部分を宰相たるシュナイゼル殿下に委託されていたため、それほど大きな問題はなかった。
しかし、軍事や外交に関しては、まったくといっていいほど委託されておらず滞ったままになっている。
特にEUの侵攻が始まっていたため、皇帝陛下に代わる代理の国の最高位を確立する事が急務となっていた。
そこで、貴族会の話し合いにより全体の8割近くの賛成を受けシュナイゼルを一時的とはいえ皇帝代理とする事が決定された。
内外的なことも含め、表面上は皇帝陛下の体調不良の為、シュナイゼルを皇帝代理とすると発表されたが、EUも超合衆国も事実上のシュナイゼルの皇帝就任と認識していた。
いくら隠ぺい工作や情報操作をしょうが情報は漏れるように出来ている。
皇帝陛下の行方がわからなくなっているという情報は、すでに両勢力とも手に入れていたのだから、そう認識するのが当たり前だろう。
そして、今まで以上にブリタニアに対して警戒が強くなるのに時間はかからなかった。
もっとも、両勢力も迂闊に動けない理由をそれぞれもっている為、様子見という感じが強かったが…。
シュナイゼル皇帝代理が就任してから、ブリタニアは大きく変化していった。
EUによる攻撃で失った領土の奪還と報復を名目に、まず治安維持の為の情報の規制と戦力の建て直しによる軍事力の増加が行われた。
次に各エリアの本国直轄領への変更と本国への収める税の増加などの命が発せられたのである。
そして、その矛先は行政特区日本となったエリア11にも向けられた。
「ナナリー皇女殿下、シュナイゼル皇帝陛下代理の命をお伝えいたします」
本国行政官が咳払いの後、ゆっくりと用意された命令書を読み上げていく。
その内容は、行政特区の解体とエリア11の直轄領事への変更、さらに騎士団の解散とナナリーを初めとするエリア11の行政官達の本国への帰還命令であった。
その一方的な命令にナナリーは素直に承服できないでいた。
なぜなら、今までの苦労をドブに捨てろと言っているのと変わらないからだ。
それに行政特区になったおかげでエリア11は以前よりも経済的にも内政的にも安定している。
うまくいっているものをなぜ解体するのだろうか…。
理由もなく命令されるのでは納得もなにも出来ない。
その思いは、行政特区に関わったほとんどのブリタニア人も同じだった。
「急な事ですので、返事はこちらの方から皇帝陛下代理に直接連絡いたします。ご苦労様でした」
そう言って本国行政官を追い返すので精一杯だった。
そうしなければ、ナナリーは不満を行政官にぶつけてしまっていただろう。
それほど納得の出来ない命令だったからである。
しぶしぶ本国行政官は帰還したが、多分あることない事を言うだろうというのは想像できた。
「まったく……。特区反対派の人間をよこすとは、皇帝陛下代理が我々をどう思っているか推し量る事が出来るというものだ」
誰かがそう呟いたが、それは特区日本に関わっているすべての人間も同じ思いだった。
だが、表立って皇帝陛下に弓を引く事は出来ない。
彼らとてそれはわかっている。
だからこそ、不満こそあれ、命令には従うしかない。
そう思っていた。
数人の人間を除いて…・・・。
ゆっくりとナナリーは、集まっている人達を見回すと発言した。
「私は、直接、皇帝陛下代理にこの命について質問したいと思います」
ざわめきが起こる。
だが、そのざわめきが収まるのを待たずしてナナリーは言葉を続けた。
「皇帝陛下の命は絶対でしょう。臣下として従うのが正しいのでしょうね。
でも、間違いを正すのも臣下の務め。だから、私は皇帝陛下代理のお考えをお伺いしたいと思っています」
その言葉にその場にいる全員が感激し、彼女と共にこの場にいられる事を誇りと思った事だろう。
就任当初、彼らにとって、ナナリーはただの皇帝の娘であり、皇位継承権の低いお飾りの人形でしかなかった。
しかし、今の彼女にはもうその面影はなく、そしてその場にいる誰もがそう思っていなかった。
ライや周りの優秀なスタッフの補佐があったとはいえ、行政特区日本を推し進め、実行していったのは彼女なのだ。
確かに今この場にいる者は、皇帝陛下の臣下だろう。
だが、今の彼らは、見えないほど高い上から見下ろして命令する皇帝や説明もなくやっている事を否定する皇帝陛下代理よりもナナリーの為に尽くしたいと思うようになっていた。
だから、このナナリーの発言に彼は反対するどころか賛同した。
彼女の下でなら喜んで働けると思いながら……。
そして、3日後、ナナリーと皇帝陛下代理との映像会談は行われた。
だが、それはもう話し合いでもなんでもなかった。
「ナナリー、これは皇帝代理としての命令なのだよ。いくらナナリーでも君の言い分は聞き入れられないものだ。わかるだろう……」
まるでナナリーの話に取り合わず、それどころかナナリーを駄々っ子扱いするシュナイゼル。
そして、理由や説明もないまま、ただ命令に従えという事を繰り返すだけ……。
その様子は、その場にいた行政特区の関係者を憤慨させるに十分だった。
だが、彼らは耐えていた。
そう、ナナリーがそれらの言葉に耐え、辛抱強く話していこうとしていたからだ。
会談は、実に3時間にも及んだが、意見は平行線のままだった。
「困ったね、ナナリー。これでは他のエリアにも示しがつかないな……」
シュナイゼルが呆れたようにそう言う。
「どういう意味でしょうか……、皇帝代理」
そう、ナナリーはこの会談中シュナイゼルの事を兄とは呼んでいない。
あくまで臣下として意見しているのだ。
そういう自覚があったからこそ、あえて使わないようにしている。
だが、シュナイゼルにしてみれば、この会談をそうは受け取っていないようだった。
あくまで駄々をこねる妹を相手にしているとしか映っていないのだろう。
周りから見ているものとしてはそういう風にしか見えないのだ。
これではいくら話し合っても無駄としか思えない。
だから、ついに我慢できず、一人の行政官が口を挟んだ。
「皇帝陛下代理、ナナリー様は、臣下としてきちんと意見を述べられているのです。それを判っていただきたい」
ナナリーが慌てて征しようとしたが彼は言い続けた。
「確かに、陛下の言葉は絶対かもしれません。ですが、臣下の意見も聞き入れる度量も必要だと思います」
その言葉にその場にいた者たちが頷く。
だが、シュナイゼルは違っていた。
しばし、無言の後、ニタリと笑うと冷たく言い放った。
「臣下だと……。何を勘違いしているのかな、君たちは……」
その言葉にその場がしーんと静まり返る。
今までのシュナイゼルからは考えられない発言。
そして、その雰囲気に満足したのか、周りを見渡すように視線を移した後、はっきりと言い切った。
「君らは、駒でしかないんだよ、私にとってはね。駒はただ私のいう事を素直に従っていればいい。
駒の意見など不要だ。わかるかい?これは命令なんだよ」
ぎらりと睨みけられるような目線がナナリーに向けられる。
目が見えないナナリーだが、自分に向けられた敵意は感じられた。
すーっと汗が流れる。
まるで蛇に睨まれた蛙のような心境だ。
だが、彼女は負けなかった。
「ですが……、それでは駄目だと思うんです」
なんとかしょうと必死に言葉を続けるナナリー。
だが、その言葉は、シュナイゼルのさらに冷たい言葉で切り捨てられた。
「わかった。もうこれ以上話しても無駄なようだ。残念だよ、ナナリー。残念だけど、実力行使を行う事としょう」
そして、通信は一方的に切られたのだった。
そこに残されたのは、呆然とするナナリー達。
そして、沈黙と真っ黒な画面のモニターだけであった。
「シュナイゼル様、首尾の方はいかがだったでしょうか……」
ナナリーとの映像会談を一方的に打ち切って、通信室から出てきたシュナイゼルにカノンが近づいて聞いてくる。
「ああ、順調だね。私の予想通りの反応をしてくれたよ、ナナリーや彼らは……」
満足そうな微笑を浮かべ答えるシュナイゼル。
「では、予定通り討伐隊を出発させます」
そう言いながら、持っていたファイルを渡す。
「うむ…。よろしく頼むよ」
カノンの言葉に満足そうに頷き、ファイルを受け取ると中身を確認していく。
そして、ファイルの確認が終わったのだろう。
それをカノンに返しながら、思い出したように聞いた。
「そういえば、彼はどうしてる?」
「ライ・エニアグラムの事ですか?」
シュナイゼルの問いにカノンは意外そうな顔をして聞き返す。
確か彼に関しての報告書は今朝だしたばかりで、シュナイゼル様は目を通されたはずが……。
そのカノンの表情を楽しそうに見ながらシュナイゼルは頷く。
「実験結果の報告書は今朝見たよ。私が知りたいのは、生の彼の様子だよ」
その問いにますます困惑気味の表情を見せるカノン。
彼にしてみれば、人を駒としてしか見ていないはずのシュナイゼルがここまで興味を持つというのは初めての事ではないだろうか。
「………」
困ったような表情を見せ無言のカノンにシュナイゼルは笑いながら答えた。
「私はね、彼にとても興味があるのだよ。こんなに興味が沸く相手というのは初めてかもしれないな」
そこまで言うと、くすりと笑う。
「そう…とても気になるよ、彼のことがね…」
そう言い切るとシュナイゼルは楽しそうに笑いながら、カノンを残してその場を去っていった。
あまりにも一方的なシュナイゼルの対応にナナリーは言葉を失っていた。
なぜなのですか…兄上。
特区設立の時にあれほど協力してくれた同じ人とは思えなかった。
彼女にしてみれば、今回の映像会談も、この提案は特区反対派が押し付けたものではないかという考えがあったからだ。
だが、完全に目論みは外れてしまい、さらに実力行使という言葉さえ使ってきた。
その言葉が本気だという事は、多分、その場にいた誰よりもナナリーはわかっている。
目の見えない彼女にしてみれば、音と触る事が目の代わりなのだ。
そして、耳に届いたシュナイゼルの言葉に嘘偽りがないという事が余計彼女を苦しめる。
とても思い重圧が圧し掛かってくる。
まさにそんな感じだ。
だけど彼女は決心しなければならなかった。
そして、彼女はいつものように格納庫に連れて行って欲しいとカレンに頼み込んだ。
私は、短く同意の返事をすると車椅子を押し始める。
さっきの会談の結果を知ってしまった以上、ナナリーが重圧に苦しんでいるのかはわかっている。
だが、ナナリーがどれ程の重みを感じ苦しんでいるのか一介の戦士でしかない私にわかるはずもない。
だから、言葉が出なかった。
何も言えなかった。
悔しいけど、自分の限界を感じてしまう。
ライ……。
早く戻ってきて…。
私じゃ、ナナリーを支えきれないよ。
不安と迷いが心を弱くしていく。
こんなに心細い思いは初めてだった。
結局、カレンは何も言えないまま、格納庫に着くといつもどおりに一機のナイトメアの前で止めた。
ナイトメア『蒼天』
ライの愛機だ。
そして、カレンは立ち去ろうとする。
これからはライとナナリー、二人だけの語らいの時間なのだ。
ライが行方不明になって、それはナナリーの日課となりつつあった。
だが、今日は違った。
「カレンさん、今日は一緒にいてもらっていいですか?」
ナナリーは、そう言うと手を伸ばす。
その手は震えていた。
「はい。今日はご一緒させてもらいますね」
カレンは、そう言うとその手を優しく握り締める。
その返事と握り返してくれた手の感触にうれしそうにナナリーは微笑む。
そして、いつもどおりに話しかけていく。
ライの愛機に……。
いや、彼女にしてみれば、ライ自身にだろう。
だが、その静寂な時間は、すぐにいきなり駆け込んできたローマイヤの報告によって破られた。
「はぁっ、はあっ、はあっ…た、大変でございます。ナナリー様っ…」
息を弾ませ、喋るローマイヤーに落ち着くように言うナナリー。
だが、ローマイヤの報告で彼女が慌てふためく理由がわかった。
ブリタニア本国から、命に従わないエリア11に討伐隊を派遣したと正式に発表されたのだ。
そして、討伐隊による再占領を行うとまで宣言されている。
「ど、どういたしましょう…ナナリー様」
普段物静かで動揺しないはずの彼女がこんなに慌てているのだ。
政庁の方はどうなっているのか想像できない。
「わかりました。すぐに皆さんを集めてください」
ナナリーは、そう言うと決心した。
私は……負けられない。
彼の為にも、そして、ユーフェミアお姉さまの志を継ぐためにも……。
1時間後、政庁の大会議室では主な関係者が集まっていた。
その中には、日本側の代表である皇神楽耶の姿も見える。
皆、言葉を失い、沈黙が場を占めていた。
ブリタニア本国からの正式な発表は皆、耳に入っている。
だが、どうすればいい……。
誰もが言葉を失っていた。
そんな中、ゆっくりとナナリーは口を開く。
「皆様ご存知かと思いますが、本日、ブリタニア本国よりエリア11、つまり行政特区日本に対して宣戦布告がなされました」
ナナリーは討伐軍派遣をあえてそう言ったのだ。
一瞬、ざわめくもののすぐに沈黙が再び支配する。
いくら言い方を変えたとはいえ、事実は変わらない。
ゆっくりとナナリーが周りを見回す。
いや、見えていないのだが、周りのものにはそう見えた。
そして、言葉を続ける。
「私は、今まで、皆さんと一生懸命になって行政特区日本を支えてきたつもりです。それに、エリア11の時以上の貢献も本国にはしてきたつもりでした。
ところが、本国は、理由も無く、それを廃止せよと言ってきました。私たちの努力をドブに捨てろと言ってきたのです。それも武力まで使って……」
普段のナナリーだったら使わない言い回し、言葉の数々。
だが、彼女は必死だった。
まるで息をするのを忘れているかのように喋り続けた。
「皆さんは、こんな理不尽な事が納得できますか?
私は納得できません。納得なんて出来るはずもありません。
それこそ、ここまでがんばってきてくれた人々の思い、そして今を生きる人々の生活を無に返す事こそ愚策だと考えます。
よって私は、行政特区日本を守る為にブリタニア本国と戦いたいと思います」
荒い息を吐きながらナナリーが言い切る。
思いを込めた言葉。
だが、まったく反応はなかった。
沈黙が完全に支配する。
ナナリーの心が不安に押しつぶされそうになった。
やはり、私では駄目なのだろうか…。
そう思ったとき、一人が拍手をしながら立ち上がった。
「そのとおりですわ。私は、ナナリー代表を指示いたします」
それは、皇神楽耶だった。
そして、それを合図のように次々と拍手が起こり、人々が立ち上がっていく。
いつの間にか、その場に集まっていた人のほとんどが立ち拍手をしていた。
その力強き思いにナナリーは感動し、泣きそうになった。
だが、泣くのはこの事態を何とかしたからだ。
そう新たな決意を彼女は胸に秘めた。
強い……。
ライ、貴方のお姫様は、なんて強いんだろう。
私は、ナナリーの言葉に心が震えていた。
彼女は、ブリタニア人とか、日本人とか関係なく、ここ日本に住む人々の事を考え、決断している。
あのナナリーが……。
1年前までは、守られるだけだった少女が……。
私は、ぎゅっと自らの手を強く握り締めた。
やってやる。
ナナリーの為に出来ること。
日本の為に出来ること。
私が出来る限りのすべての事をやってやる。
「何という事だ。こんな事を決定されるとは……。兄上は何を考えられているのだ」
コーネリアは、本国の発表を愕然とした表情で見ていた。
エリアの本国直轄管理。
これはまぁ納得できない事ではない。
だが、まさかのエリア11への討伐隊の派遣。
こんな時期の武力再制圧などおかしすぎる。
やはり、こうなったら兄上と直接お話せねばならないか……。
そうコーネリアが思ったときだった。
慌てた伝令が司令室に走り込み報告する。
「た、大変です。総司令官。て、敵の…EUの部隊が再度侵攻を開始いたしました」
くっ……。
こんな時に……。
なんて、間が悪いっ。
そう実感し、コーネリアは気が付く。
まるでこうなる事が事前にわかっていたかのようなEUの再侵攻。
ナナリーとの会談後、すぐに派遣された討伐隊。
あまりにも準備が整いすぎていないだろうか。
何かがおかしい……。
たが、確信があるわけではない。
偶々、そうなっただけかもしれない。
たが、彼女の本能がこの出来事の裏にきな臭いものを感じ、警戒を発していた