コードギアス反逆のルルーシュ ロストカラーズ 補完編 作:アシッドレイン
「先発隊、そ、総崩れです」
震える声で報告する副官。
それを詰まらなさそうに聞いているのは、討伐隊総司令官であるナイトオブテン、ルキアーノ・ブラッドリー。
「おいおい、俺の分も残しとけっていうのは言ったが、総崩れとはどういうわけだ? ん~」
ぎろりと副官を睨みつける。
だが、副官は黙ったままだ。
経験上、ここは黙っていた方がいいと判断したのだろう。
そんな反応に気をそがれたのか視線をモニターに移すルキアーノ。
そこには、奮戦する紅いナイトメアが映っている。
「ふん。まぁいい。そんだけ生きがいいっていうんなら殺しがいがあるってもんだ。くっくくくくく…」
ブリタニア本国から派遣された討伐隊との戦闘は、太平洋上で開始された。
実質、あの会談から2日後である。
そのあまりにも早いその動きに各陣営は傍観するしか術はなく、孤立無援の中、ナナリー達は自らの力だけで戦うしか方法はなかった。
そして、圧倒的な戦力のブリタニア軍に対し、エリア11側は、その戦力のすべてをかき集めても実に5分の1程度にしかならず、誰もがあっという間のエリア11の敗退を予想していた。
だが、戦いが始まるとそれは間違いである事を知らされる事となる。
緒戦、戦力的に劣りながらもナナリーの騎士団と黒の騎士団の残存兵力で構成された行政特区防衛隊は、ゼロ番隊を中心とした切り込み隊による波状攻撃と敵部隊の切り崩しを敢行。
そして、統率を乱れさせた後の戦力集中投入によって完全にブリタニア軍の先発隊を圧倒し、敗走させたのだ。
特に、戦場で舞う紅き死神『紅蓮』と彼女に率いられる黒の『暁』で構成されたゼロ番隊は、まさに鬼神の様な動きを見せていた。
紅き死神。
かってブラックリベリオンでブリタニアの騎士達を恐怖のどん底に落とした悪夢が再び訪れたのだ。
「ゼロ番隊っ、各自補給は済んでる?」
カレンは、紅蓮のチェックをしながら、部隊の確認をする為、声をかける。
「壱分隊、問題ありません」
「弐分隊、Okです」
「参分隊、いつでもどうぞ」
「四分隊、オールグリーン」
すぐに無線から各分隊の答えが返ってくる。
「紅月隊長、ゼロ番隊、すべて問題ありません。ご命令を……」
そして、副隊長からの声が最後に響く。
「他の部隊の方は?」
「そうですね、8割程度でしょうか……」
その報告にしばし沈黙し考える。
さて、どうする……。
彼女が率いるゼロ番隊を中心とした切りこみ隊は、独自の判断で動く許可を頂いている。
「よし。副隊長は、他の切りこみ隊の部隊をまとめて後から続いて…。残りのゼロ番隊は、私についてきて。先行するわよ」
「「「了解」」」
「紅月隊長のゼロ番隊、先行するそうです」
オペレーターの報告に、ジェレミア副団長は頷く。
さすがは、黒の騎士団のトップエース。
見事なまでの統率力と判断力だ。
先の戦闘でも、彼女と彼女の率いるゼロ番隊がいなければ、どうなっていただろう。
思わず、そう考えてゾッとした。
多分、圧倒的な戦力差で押し切られてしまったのではないだろうか。
そうとしか考えられなかった。
だが、彼女は、今ここにいて共に戦ってくれる。
おかげで、勝利という予想が少しは考えられるというものだ。
そこまで考えると、頭を振った。
いかん、いかん。
我々は、勝たねばならぬ。
エリア11に住む人々の為。
今は亡き、マリアンヌ様の為。
そして、なにより我が主、ナナリー様の為に……。
ゆっくりと大部隊が迫ってくる。
先発隊とは比べものにならないほどの数だ。
ふふっ……。
思わず笑いが漏れ、汗がにじみ出る。
いいじゃないっ。
やってやろうじゃないっ……。
グリップを握りなおす。
すーっ……。
息を整える。
「本隊へ報告。1400に切り込み隊は敵主力部隊に攻撃を開始します」
そう本隊に連絡を入れると素早く無線を部隊連絡用に切り替える。
「各機、予定通り1400より突撃を開始します。いい、各機ノルマは10機だからね。それまで落とされるんじゃないわよ」
かなりの被害が出るのは判っている。
もしかしたら、殆どの部下を失うかもしれない。
だが、少しでも多くの部下に生き残って欲しい。
その思いが言葉からにじみ出ていた。
しばしの沈黙の後、ぽつりと誰かが言った。
「10機程度でいいんですか?」
「え?!」
思いもよらない返事に一瞬言葉を失う。
そして、その言葉を合図に次々と言葉が飛び出す。
「そうですよ、隊長。10機と言わず、15機にしましようよ」
「おおっ、それなら俺は20機だな」
「何言ってやがる。お前はせいぜい10機ギリギリだな」
「なにお~っ、じゃあ、勝負だ」
次々と楽しそうな言葉が流れてくる。
それは、決してふざけているわけではない。
彼女に対しての部下達の思いやりと、そしてこの一戦にかける決意がそうさせているのだ。
「そろそろ、時間です。紅月隊長」
副官の声が最後に場を締める。
私は、いい部下に恵まれたわね。
そんな事を思う。
死なせたくない。
だが、今は心を鬼にする。
「ええ、行きましょう。我々の未来の為に……」
そう言うと私はゆっくりと紅蓮を前進させた。
激しい戦闘が開始された。
切り込み隊が鋭利な刃物のような突撃を繰り返す。
しかし、それ以上に厚い敵の壁によって、まるで食い込むことさえ出来ていない。
元々数の差が圧倒的に違うのだ。
ジリジリと後退を余儀なくされる切り込み隊。
そして、それをカバーすべく本隊は突撃を開始する。
戦場は、乱戦へとなだれ込んでいった。
「くっ……、ここを突破しないとっ……」
私は、夢中で群がる敵ナイトメアを破壊していく。
輻射派動の加熱ゲージが赤く点滅し、警戒音が響く。
補給だけで整備点検もなく乱発しているのだ。
無理も無いだろう。
だが、今、輻射波動を失う事は、大きな戦力ダウンになる。
「もってよっ……紅蓮っ」
願うような気持ちで、私は戦い続ける。
そして、群がる敵の一群を粉砕した時だ。
そいつは私の前に現れた。
「見つけたよ。黒の騎士団のエース、紅き死神」
紫がかった白色をベースにした見たことも無いタイプのナイトメア。
コンピューターが、自動的に検索する。
ナイトオブテン専用機、パーシヴァル。
「ふふっ、総司令官自ら戦場に来るとはね……」
ビリビリと殺気を感じ、すーっと脂汗が浮かぶ。
こいつ……強い。
「司令官なんて、そんなものに興味はないさ。私はね……」
ニタリ……。
見えてないはずなのに、そう笑っているのが判る。
「相手の一番に大事なもの……。そう、命を狩れればいいんだよ。くっくっくっくっ……」
狂気じみた笑いが響く。
「さすが……ブリタニアの吸血鬼ね」
「その言葉はね、最高の賛辞なんだなぁ」
対峙する紅蓮とパーシヴァル。
めまぐるしく動く戦場で、まるでそこだけ切り取ったような止まった空間だった。
それは互いに相手の動きを読みあうかのような達人同士の戦い。
「紅月隊長っ……」
割って入ろうかとする部下の暁を征する。
彼らでは勝てない。
「ごめん……。部隊の指揮は、副隊長に従って……」
私は、相手を睨みつけたまま、そう命令する。
「いい判断だ……。彼らは、私のヴァルキリエ隊がお相手しょう。お前達、殿方たちの相手にしてやれ。暇にさせるんじゃないぞ。くっくっくっ……」
「「イエス、マイロード」」
その言葉と同時にその背後に控えていたパーシヴァルと同じ色で塗装されたビンセントが散開する。
そして、私たちの周りで激しい戦いが開始された。
「本隊の損耗率40%を超えました」
「紅月隊長は、現在、ナイトオブテンと交戦中の為、指揮は木下副隊長が行っていますが、いまだに切り崩しに成功していません」
悲鳴にも似た声で報告が続く。
くっ……。
やはり、数が違いすぎたかっ。
突破し、かく乱せねばこっちに勝ちは無い。
ここはいったん引くか?
いや、今ここで引いても予備の戦力がない我々に勝ち目は無い。
どうするっ。
その時だった。
「お困りのようだな…。オレンジ君」
映像末端の一つに、そいつは現れた。
「き、貴様はっ……」
自然と語尾が震える。
「ゆっくりとここは昔話でも語り合いたいところだが、時間がないようだな。
戦線をあと5分間持たせろ。プレゼントが届くはずだ」
そして映像は切れ、オペレーター達の視線が私に集まる。
くそっ。
だが、今の現状ではやつに頼るしかない。
そう、今まで何度となく逆転を起こしたやつの手腕に……。
先端を切ったのは紅蓮からだった。
すでに何度も戦闘を潜り抜けてきた状態であり、長期戦は不利だという判断だと思いたいが、そうではなかった。
すべて悪い方へと流れつつある現状に平常心でいられなかったというのが正しいのかもしれない。
牽制に左腕の固定式武装であるハンドキャノンを打ちながら、接近戦に持ち込もうとする。
紅蓮が接近戦に特化した機体であり、駆け引きをしている時間もない現状を考えれば、この選択は間違っていない。
特に一気にけりをつけたいときなら、なおさらだ。
だが、それは相手も望んだならという要素が必要になる。
「ふんっ……」
ルキアーノは、その牽制を軽くかわすと右手についている刃を回転させ、ドリル状の槍に変化させる。
そして、それを巧みに操って攻撃を仕掛けては牽制し、シールドに付けられたミサイルで一定の距離をおく。
あくまで、紅蓮の得意の距離では戦わない。
そういうスタンスだ。
確かに、ロングレンジの輻射波動も打てるが、精密的な射撃には向いていない。
なぜなら、あの武器は、長距離、或いは一対多数で効果を発揮するものだ。
さらに、今は無駄な輻射波動を使い、負担をかけたくないという事もある。
「へぇ~、私のダンスの誘いを断るんだ……」
心理戦ではないが、憎まれ口が自然と漏れる。
「ふふん。残念ながら、女性とダンスよりも狩りの方が好みでね」
律儀にもルキアーノが答える。
そして、距離を置いての攻撃が続く。
くそっ。
こうなったら、粘ってミサイルが尽きた時に接近戦に持ち込むしかないかっ。
そう、カレンが考えていた時だった。
いきなり、パーシヴァルが距離を詰める。
その動きに慌てて紅蓮を突っ込ませようとしたが、再び牽制されて距離を開けられる。
くっ、なんて無様なのっ。
これじゃ、相手に好きなようにからかわれているだけじゃないっ。
イライラが大きくなっていく。
周りの戦況の悪化もそれに拍車をかける。
私がっ。
私が何とかしないとっ。
日本を……。
ナナリーを……。
皆を守らないとっ……。
焦りが焦りを呼ぶ。
頭ではわかっていても、そのプレッシャーとイライラに私は気が狂いそうだった。
そして、それは大きなミスを生む。
ガクッ…。
一瞬ではあるが、機体がブレる。
そして、それを逃すはずもなくパーシヴァルの攻撃が紅蓮に迫る。
ドリル状の槍の一撃。
だが、それは、紅蓮にとってもっとも得意とする戦闘距離だ。
「ちぃっ……」
私はとっさに輻射波動のスイッチを押した。
そして、輻射波動によって槍は粉砕され、パーシヴァルは大ダメージを食らう。
そのはずだった。
だが、ピーッという警告音と共に輻射波動関係の計器が一気に紅く染まる。
「オーバーヒート?!」
そう、輻射波動は不発に終わったのだ。
そして、パーシヴァルの槍が紅蓮の右腕を粉砕し、その衝撃は紅蓮本体にも伝わってくる。
私は、墜落しそうになる紅蓮の姿勢をなんとか押さえ込み、落ち着かせるので精一杯だ。
そんな紅蓮をパーシヴァルは、静止してゆっくりと見下ろす。
倒そうと思えば、続けての一撃で堕とすことも可能だったはず。
だが、奴はそうはしなかった。
「残念だったね……くっくくくく……」
余裕のある声が響き、そして、それは笑い声へと変わっていった。
怒りと屈辱の炎が私の心を焦がしつくほど焼いていく。
ギリギリとかみ締めた歯が鳴る。
舐められたものね。
私は、怒りに駆られて冷静な判断を失いかけていた。
「紅月隊長っ……」
だが、悲鳴のような部下達の声が無線から響き、私は我を取り戻す。
その声が私の怒り狂った炎を沈めていく。
落ち着け。
落ち着くんだ。
私は、自分に言い聞かせると素早く機体のダメージチェックプログラムを走らせた。
右手を失ったものの、まだ何とか戦える。
だが、輻射波動を失い、どう戦う……。
ましてや、確実に自分達が追い詰められている現状をどう打破できるのか……。
何も思いつかない。
悔しいが、今の私には勝てる方法が浮かばない。
だけどっ……。
「残念だけどっ、生きる望みを捨てるわけにはいかないのよっ!!」
私は、悲鳴を上げる紅蓮を操り、再び攻撃を開始した。
だが、そんなカレンの決意をあざ笑うかのように戦いは一方的になっていた。
パーシヴァルは、紅蓮の攻撃をかわしつつ、確実にダメージを与えていく。
満身創痍……。
まさにその言葉どおりになっていく紅蓮。
だが、諦めない。
諦めてなるものですかっ。
カレンは必死になって戦い続ける。
わずかな勝機を得る為に。
たが、食い下がるように攻撃するカレンを嘲笑するルキアーノの声が響く。
「くくくくっ、いいそ。いいっ。すばらしい魂の輝きだっ。そして、それを狩る。ふはははははっ。最高の瞬間だ」
そして、ついに残った左手も破壊さる紅蓮。
すでに計器類の半分が紅く点滅し、いつ脱出ポッドが作動してもおかしくない状態だ。
そして、残る武装は、スラッシュハーケン1基のみ。
「くっ……」
だが、カレンは、諦めない。
パーシヴァルの前に立ちふさがる。
今、ここを突破されれば、間違いなく戦線は崩壊して敗北は間違いないだろう。
そして、ここで逃げるわけにはいかないのだ。
彼女の背中には、多くの仲間達がいて、祖国日本がある。
そして、彼女に託された多くの人達の思いを背負っているのだから……。
「ふふん。逃げ出さないのは残念だけど、まぁ、たまにはこういうのもいいか……」
ルキアーノにしてみれば、弱りきって逃亡を図る相手をねちねちといたぶって叩き潰す事に悦びを感じるのだ。
だから、あくまで戦い続ける紅蓮に興味は薄れ始めていた。
ドリル状の槍がかかげられる。
「終わりだよ、紅き死神。お前の伝説も、そしてお前の命も……ね」
駄目だ……。
ごめん……ライ。
私、やっぱり貴方がいないと……。
まさにそうカレンが諦めかけた時、パーシヴァルを一条の光の矢が襲った。
とっさに何とか攻撃を回避するパーシヴァル。
「なにっ…。何だ今のはっ……」
ルキアーノがセンサーレンジを拡大させる。
すると、まるでいきなり湧き出したかのような反応が、後方の本隊近くの空域にいくつも現れた。
敵増援の奇襲だとっ……。
やつらにそれだけの兵力はないはず。
そして、一番の問題点。
それは、レーダーにも視界の中にもそれらしい機影は見えなかった事だ。
だが、ルキアーノがそう思った瞬間、ブリタニア本隊のいる後方で次々と爆発が起こった。
「ル、ルキアーノ様っ、ほ、本隊がっ、敵ナイトメアのき、奇襲をっ……」
副官の悲鳴が無線から流れ、一際大きな爆発音と共に途切れる。
「ど、どういう事だっ……」
現状が完全に把握できない上に、予想外の戦力による奇襲で慌てるルキアーノ。
それは、後方にいた本隊も同じなのだろう。
あっという間に、本隊の戦力が削られていく。
そして、その光景に呆然となっていたパーシヴァルを再び一条の光の矢が襲う。
「くそっ、そこかっ」
その攻撃をかわすと、牽制にシールドのミサイルを発射して光の矢の発射地点へと一気に距離を詰めていく。
もう紅蓮は彼の眼中にはない。
あるのは、姿の見えぬ襲撃者だけだ。
今、攻撃すれば……。
一瞬だが、その考えがカレンの頭の中に浮かぶ。
だが無線から入ってきた言葉にそれは止められた。
「そこの赤いのっ。さっさと後退しな。ここは私が何とかする」
それは、ぶっきらぼうだが思いやりのある女性の声だった。
それと同時に、パーシヴァルの向かう先の空間が歪む。
その様子は、まるで幻影でも解けるかのような感じだった。
そして、そこに現れたのは、ネービーブルーに塗り上げられたナイトメア。
形は、蒼天とよく似ている。
多分、同系タイプなのではないだろうか。
違いと言えば、ハドロン砲が付けられた肩とセンサーやカメラ関係で大型化した頭部だろう。
それに腕の形も違っており、どうやら輻射波動は実装されていないタイプのようだ。
「ちいっ。俺の狩りの楽しみを邪魔しゃがってっ」
パーシヴァルが弾かれたように攻撃を仕掛ける。
ドリル状のランスが、絶妙の角度で突き放たれた。
だがその攻撃を右手のランスで軽々と受け流す未確認のナイトメア。
「ふんっ。あんたは前々から気に食わなかったんだよ」
その声と共に未確認のナイトメアの左手が大きく動く。
すると左手に持っていた棒状のものがまるでその動きに合わせるかのように伸びた。
いや、内蔵されたワイヤーが伸びたのだろう。
そして、それは腕の動きに合わせてまるで蛇のように動く。
そう、それはまさに鞭だ。
そして、その一撃が攻撃を受け流され体勢を崩したパーシヴァルの左手の盾に絡みつく。
「イッちまいな」
短いその言葉と共に電流が走った。
それがただの盾ならば問題はないのだろう。
だが、パーシヴァルのシールドにはミサイルが仕込まれている。
電流でショートし爆発するミサイル。
慌ててルキアーノは盾を手放すが、すでに遅い。
爆発がいくつも起こり、パーシヴァルに壊滅的なダメージを与えていた。
「くっ……。まさか……てめぇ……」
破片がコックピット内を跳ねたのだろうか……。
血みどろになったルキアーノがひび割れたモニター越しに相手を睨みつける。
「ふんっ。それはあの世で考えるんだね」
大ダメージを受け、なんとか漂うだけで精一杯のパーシヴァル。
そして、トドメを刺そうと未確認のナイトメアが右手のランスを構えた。
その瞬間だった。
いくつもの火線が2機の間に走る。
慌ててパーシヴァルから離れて距離を置く未確認のナイトメア。
その瞬間を狙ったのだろう。
突っ込んできた白と蒼で塗り分けられたランスロット似のナイトメアが2機の間に入り込む。
「そこまでにしていただこう……」
感情の感じられない声が流れる。
だが、ビリビリという殺気がそのナイトメアから発せられていた。
こいつ……只者じゃない……な。
長年培った経験と本能が警報を鳴らす。
「今回の戦いは、君らの勝ちだが、彼まで失うわけにはいかないのでね」
そのナイトメアの後ろでは、友軍のナイトメアに助けられながら戦線を離れるパーシヴァルの姿。
「ちっ……」
思わず舌打ちが漏れた。
だが、動けない。
確かに戦っても負けないだろう。
それだけの自信も腕も持っている。
だが、勝てもしない……。
そんな感覚だ。
そして、パーシヴァルが戦線を離れたのを確認し、そのナイトメアは信号弾を打ち上げた。
赤と赤……。
総撤退の合図だ。
そして、残ったブリタニアの討伐軍がある程度戦線を離れるとランスロット似のナイトメアは背中を見せる。
そう、後ろから攻撃されないと確信しているのだろう。
そして、それはそのとおりだった。
悔しいが、私には出来ない。
もしかしたら、こいつ、私の正体に気が付いているのか?
私の頭の中で一瞬湧き上がる考え。
そして、その考えは的中する。
「ではまた会いましょう……。ノネット・エニアグラム」
そう捨て台詞を残してランスロット似のナイトメアは後退していった。
「シュナイゼル様、討伐軍が敗退したそうです」
カノンの報告にもシュナイゼルの表情は変わらなかった。
「ゼロの仕業かな……」
「はい。間違いないかと……。戦闘中にゼロからと思しき無線連絡が敵側にあった事をこちらもキャッチしております」
「ふむ……」
しばらく考え込むシュナイゼル。
その視線は、目の前のチェス盤を捕らえていた。
「……」
無言のままチェス盤にゆっくりと手を伸ばす。
そして、自らの陣営のキングを手に掴むとそれをゆっくりと手の上で弄ぶ。
「では、我々もキングを動かすとするか……」
その言葉を受け、無言で敬礼して部屋を出て行くカノン。
そう、戦いはまだ始まったばかりなのだ。
シュナイゼルの口が醜く狂気に歪む。
「楽しそうだね……」
ゆっくりと小柄な影がシュナイゼルに近づく。
「ええ、楽しいですよ。これも貴方のおかげだ」
その言葉に小柄の影が揺れる。
そう、笑っているのだ。
声を殺して……。