ガンダルヴァー村の朝は、砂漠の光に柔らかく包まれていた。
建物から漂う乾いた木と石の匂いが、まだ冷たい風と混ざり、歩くたびに砂利がかすかに鳴る。
レイラは少しぼんやりとした足取りで砂利を踏む。
氷元素の神の目を胸元に宿し、微かに青白い光を放つそれは、心の揺れを映す鏡のように微動していた。
目は遠くの空を追い、指先で砂を軽くすくい上げる。
「……おはよう、エルテナ」
声は柔らかく、朝の光に溶けるように消えそうだ。
エルテナは短剣を腰にかけ、歩幅を自然に合わせる。
「おはよう。昨夜はちゃんと眠れたか?」
レイラは首をかしげ、手で髪をかき上げる。
「うん……夢は覚えてないけど、落ち着く夜だったかな」
微かに心がざわつくのを感じながらも、隣にいるエルテナの存在が、自然に安心感を生んでいた。
二人は村を抜け、護衛ルートの砂漠の道を進む。
陽射しが砂を黄金色に照らし、足元の熱気が靴を通して伝わる。
レイラは砂粒を手で弾き、青白い神の目の光と砂のきらめきを重ねる。
「ねぇ、エルテナ……この砂、光に当たると綺麗……」
ふわりと呟き、心の奥では誰かに寄り添いたい気持ちが小さく揺れていた。
「眩しいけど、確かに綺麗だな」
エルテナは短剣の柄に手を添え、砂埃を避けながら歩く。
守るべき対象を前にした無意識の意識――その姿勢に、レイラは安心感を覚える。
「……エルテナって、護衛中も、そんなに冷静でいられるの?」
レイラは視線を少し斜めに向け、問いかける。
「する。でも、守るべきものがいると自然に冷静になれる」
答えに、レイラの胸の奥が少し温かくなる。
守られる安心感と、守る対象として意識される自覚が、互いに静かに心を結ぶ。
歩きながら、レイラは肩を無意識に少し近づける。
その距離の微妙な変化に、エルテナの胸が軽くざわつく。
まだ恋とは呼べない――でも、互いの存在を自然に意識していることは確かだ。
「……星、昨日の夜も見たよね」
レイラは指先で空を軽くなぞる。
「夜空って……守られてるみたいで、安心する」
胸の奥に微かなざわめきが混ざる。
隣にいる人の存在が、意識しなくても心を支えてくれる実感があった。
砂漠の昼下がり、光が砂粒に反射して煌めく。
レイラは帽子のつばを押さえ、注意深く歩きながらも、自然な歩幅を保つ。
砂に足を取られそうになり、軽くバランスを整える動作に、エルテナは守るべき対象への責任を改めて感じる。
「……あ、ありがとう、エルテナ」
レイラは振り返り、少し照れた笑みを浮かべる。
「隣にいてくれると、落ち着く……不思議だけど安心するの」
その言葉に、エルテナは短く微笑む。
「……それなら、俺も安心だ」
肩の距離はまだ少しあるが、互いの心の奥では確かに近づいている。
レイラは氷の神の目を胸元で微かに光らせながら、隣にいる人の存在に自然に守られている実感を抱く。
恋という言葉にはまだ早い――しかし、信頼と安心、微かな胸の高鳴りが二人の距離を静かに縮めていた。
砂漠の風がそよぎ、太陽の光が砂の粒に反射する。
氷の神の目を持つ青年と、同じ力を宿した少女。
昼下がりの光と砂漠の匂いの中で、二人の心は互いに寄せられ、まだ言葉にできない特別な距離感を育んでいた。
お待たせして申し訳ないです