東方黒檀姫   作:Crimson Wizard

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他作品のスランプから抜け出せない


第3話

 

陽が昇らず人里の人間もまだ寝ている明け方。

慧音さんの家から抜け出した私は日課である素振りをしていた。

 

宿を借りている身で勝手に外出するのはどうかと思ったが、まさか家の中で素振りをする訳にもいかない。

半刻程剣を振り続けた私は少し明るくなってきた空を見て一息ついた。

 

今更剣の腕を磨く意味も、素振りをする意味も無いのだが、こればかりは子供の頃からの日課なので仕方がない。

それよりも……紫に聞いた話ではあるが、この地には過去に世界中で猛威を奮った魑魅魍魎達が跋扈しているという。

まあ紫もその魑魅魍魎の内の一人ではあるのであまり気にしていなかったが、鬼と関わるのだけはやめておけと言われた。

 

私が敗れる心配をしている訳では無く、そもそも鬼が居るのが地底という問題児の掃き溜めみたいな所なので面倒を起こさないで欲しいと懇願された。

とはいえ、鬼ほど武者修行の相手に相応しい相手も居ないので、機会があれば地底に潜るつもりでいる。

鬼とは数回しか戦った事は無いが、皆一様に規格化の力を持っていた。

厄介なのは能力などではなく、ただ単純に身体能力が馬鹿げているのと酷いとそれにプラスして能力が付いて来る事だ。

 

だが、基本的に鬼は脳筋なので卑怯な戦法には滅法弱い。ただそれをすると不興を買って首がちぎれても噛み付いてくるらしいので厄介極まりない。

酷いと怨念だけで復活するらしい。まあ鬼もあくまで妖怪なので精神が主体といえばそれまでだが、あまりにも無法過ぎる。

 

さて、何故こんなことを考えているのかというともう人里を出て行くつもりでいるからだ。

早速地底に行ってみようかと思ったが、他に面白そうな所があれば先にそちらへ向かうつもりである。

そろそろ慧音さんも起きているだろうし、別れの挨拶をしようかな。

今後も幻想郷で暮らす以上、また会うこともある筈なのでそこまで悲観することは無い。

 

私は部屋に戻り朝食を用意している慧音さんに声を掛ける。

 

「おはようございます、慧音さん。私はそろそろ出て行きますのでまたお会いしたら宜しくお願い致します。」

 

「ん?もう出て行くのか?……というか、何処に行くつもりだ?」

 

「それはまだ未定です。とりあえず里の外を散歩してみます。」

 

そういうと危険だからと少し引き止められたが、また戻って来るつもりではある旨を説明すると渋々納得してくれたので私はそのまま人里を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、あれからかなり歩いているが野良の妖怪には殆ど遭遇していない。下級妖怪以下の妖獣となら数回程遭遇したが、全て一太刀で斬り捨てた。

ちなみに私が紺色の着物を着ているのは返り血があまり目立たないからという割と身も蓋もない理由がある。

 

そういえば、先程慧音さんに朝食だけでもどうだと言われたのに遠慮してしまったのだ。

だが、良く考えると別に急がなくても良いので勿体ない事をした気もする。

そんな事を考えながら歩いていると私の周囲に霧が漂ってきた。というよりも、少し先にある湖を中心に霧が漂っているように見える。

 

視界が悪い中歩いていると正面に明らかに配色を間違ったとしか思えない程紅い館を見つけた。

少し興味が湧いたので館の入口まで歩いて行くと、門番らしき妖怪が壁に寄りかかって居眠りをしていた。

一見すると無防備だが、よくよく見ると隙がない。何かしらの武術を修めている様だが、妖怪と武術が結びつかないので少し困惑している。

妖怪は基本的に生まれ持った身体能力で殴るだけで人間程度相手にならないので武術を修める意味が無い。

 

つまりこの門番はかなりの変わり者妖怪という事になる。

 

「少し宜しいですか?」

 

私が門番に声を掛けると彼女は静かに顔を上げた。

 

「……お客さんですか?それとも手合わせ希望ですか?」

 

手合わせ……?もしかして、彼女は定期的に誰かと手合わせをしているのだろうか。面白そうなので少し手合わせ願おうか。

 

「では、少し手合わせ願えますか?」

 

「勿論です!ちょっと待ってくださいねー!準備しますんで」

 

そういうと彼女は館の中に入っていってしまった。しばらくすると彼女は館から出てきて私を敷地内に案内した。

 

「上を見てください」

 

そう言われて視線を上に向けると、そこには従者らしき少女に日傘を差された幼い少女がバルコニーから不敵な笑みを浮かべて此方を眺めていた。

微笑みながら軽く手を振られたので軽く会釈して再び正面の女性と向かい合った。

 

「この中庭は屋敷の中からでも見えるので偶に人里から手合わせに来た人との試合をお嬢様が観戦するんです。」

 

まあ単なる妖怪の暇つぶしですよ、というと彼女は此方を向いて姿勢を正した。

 

「刀を使っての手合わせをご希望ですか?」

 

との彼女の言葉に、そういえば最近は体術主体で戦っていなかったなと思い出す。

 

「いえ、今回は大丈夫です。」

 

そう言って私は着物を着崩し、刀を壁の所に置いて来る。

 

 

そして、互いに距離を置いた後、正面から向かい合った私達。赤髪の妖怪は両の手の拳を軽く合わせて頭を下げた。

 

「レミリア・スカーレットお嬢様が傘下、紅美鈴(ほんめいりん)

 

「カヤと申します。いざ尋常に……」

 

「「勝負っ!」」

 

まず彼女は目にも止まらぬ速さで一歩を踏み込むとそのままの勢いで右ストレートを放ってくる。

だが、その攻撃は突きにも関わらず直突きと呼ばれる所謂縦拳であり、踏み込み方からして何かしらの中国武術である事を窺わせた。

 

私は半身になってその攻撃を躱すと同時に彼女の腕を掴み取り、背負い投げを試みる。

だが、彼女は腕を掴まれた瞬間に身を捩り、逆に私を抑え込もうとする。

 

捕まると終わりなので、私は全力で腕を引いて重心を少しズラした後、相手の下に潜り込んで足を掛ける。

そのまま太ももの付け根を蹴りあげる。所謂巴投げだ。受け身をとった彼女は当然のように立っており、体幹の強さを感じさせる。

 

私が起き上がろうとするタイミングで既に彼女は此方を狙って蹴りを放ってきていたので、身体を回転させながら足払いを仕掛ける。

軽く飛び上がって避けられたので瞬時に立ち上がって彼女の顎に掌底を放つ。

 

宙に浮いているタイミングなので入ったと思ったが、首を捻って躱されてしまった。

すると直感が働き、私は咄嗟にしゃがみ込んだ。

 

なんと彼女はノーモーションで頭突きを放ってきており、しゃがんでいなければもろに食らっていた。

私は立ち上がる勢いを殺さずに裏拳を放つと、拳にしっかりと手応えを感じた。

 

彼女は距離をとったようで鼻を押さえている。やはり、素の身体能力では有効打にならないか。

とはいえ、このタイミングで身体能力を強化するとより警戒される。どこか隙が出来たタイミングで使うしかない。

だが、このままでは千日手なので私は霊力で動体視力のみを強化する。

 

私の体術での立ち回りは基本的に受け主体だ。柔術を中心に立ち回っており打撃主体の彼女に対しては相性がいい。

 

目を強化したのも明確な隙を捉える為だ。

 

そして、再び彼女は踏み込むと私へ向けて蹴りを放ってきた。腹の辺りを狙った前蹴りだ。

私は更に集中し、目に力を込めると周囲の時間が相対的に遅くなるような感覚がある。

 

……ここだ。

 

私は半身になった後彼女の足を掴み取って地面に叩き付けた。

 

「ッ!」

 

彼女は声にならない叫びを漏らすがこの程度で仕留められるとは思っていない。

瞬時に距離をとった彼女の視界から消える位置……彼女の死角から強化した身体能力で踏み込む。

 

「居ないっ!……っそこ」

 

「遅い!」

 

直前で気付かれたが既に私の方が速い。彼女は此方を振り向くが防御の姿勢を取る事が出来ない。

私は霊力を込めた蹴りをねじ込む。彼女は呻き声を上げる間もないまま屋敷を囲う壁の方へと飛んでいき、壁へとぶつかって動かなくなった。

 

思った以上にしっかり技術を修めていた。長い間鍛錬に時間を割いた証拠だ。私は彼女に一礼して刀を手に取ると、館の敷地から出ようとする。

そのタイミングで、拍手の音が聞こえて来た。

 

音のなる方へ視線を向けると、先程の幼い少女が手を叩いており、日傘を差したままふわりと浮かんで私の前に降り立った。

 

「見事な試合だったわ」

 

「お褒めに預かり光栄です」

 

私は軽く頭を下げると、彼女は口を開いた。

 

「アナタ、私に仕える気はない?」

 

昔、紫からも同じような台詞を聞いた事がある。当然断ったが。

 

「今の所は、誰かに仕えるつもりはありません。」

 

「そう……残念ね。まあ良いわ、今日はウチに泊まっていきなさいな。食事も用意するわ。」

 

……ふむ。まあ別に何処かに行く予定もなかったので、そういう事ならここで一日お世話になろうかな。

 

「では、お言葉に甘えさせて頂きます。」

 

私がそう言うと、彼女は満足そうに頷いたあと、再び口を開いた。

 

「私はレミリア・スカーレット、夜の支配者よ。」

 

夜の支配者……吸血鬼か。通りで館がこんな色してる訳か。

 

「私はカヤと申します。以後お見知りおきを」

 

そうして、私は吸血鬼のレミリアさんにお世話になる事となった。

 

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