私は先生と呼ばれている研究者だ。
私はとある目的のために今までの人生を生きてきた。
ある時は薬の実験に失敗し、ある時は非検体を殺してしまったり、などなど。最近はミレニアムにハッキングを仕掛けてみたんだが、うまく行かないもので、あと一歩のところで妨害されてしまった。こんな失敗の中でも、大金を使って作っていた大事な大事な薬が失敗したときは特にショックだった。他にも色々作った。例えば、猫耳の生える薬、惚れ薬、声に出すのは少し恥ずかしい薬、人に黒歴史を暴露させる薬、いい感じに爆発する薬、などなど。かなり賑やかな薬達だ。今は研究所の地下室に封印しているが、使いたい者がいるのであれば譲ろう。まあ、安全や完全な効果は保証できないが。
こんな魔法のような薬があっても、それを作れる私の天才的な頭脳があっても、私の目的は達成されない。
それほどにこの目的の難易度は高く、それこそ不可能に近いものだ。
だが、私は諦めない、諦められない。この程度でへこたれていては、目的は達成できない。
私はさまざまな失敗を繰り返してきた。だか、苦ではなかった。それもこれも、全てはその目的のためなのだから。
ある日、私は目的への大きな一歩を踏み出すことに成功した。
その日はひどい雨で、私は傘を持っていたが、そんなものでは防げないほどひどい雨の日だった。服はびしょ濡れ、靴は雨の染み込んだ土のせいで汚くなってしまった。何より、わざわざブラックマーケットに行ってまで買った薬品を落としてしまった。最悪の日だった。
私は急いで帰ろうとした。そんなとき、銃声が鳴り響き、ドタドタと走る音が聞こえてくる。3人、大人2人と子供1人と言ったところか。普通の家族だろう、と思い歩き出す。すると、目の前に走ってきた小さな男の子と衝突する。
「あ、すみません」
と言って謝る少年に、私は何も返さず歩き出す。すると大柄な男2人が少年に向かって走っていく。
「こら!坊主、今日こそは逃さねえ!」
「お前には100億払ってもらわねえとなあ!」
100億、子供が借りたとも思えない額の借金。あんな子供に払えるわけがない。まあ、私なら払えないこともないが、あの子は不運だな、とそう思った。が、別に助けたりする訳じゃない。私は別に善人じゃない。
見返りを求めずに助けてやるほど優しくない。
だから、歩き出す。
シュンッ
ザッ、グシャァ
「が、あぁ」
「」
突然のことだった。少年を囲んでいた男達が悲鳴をあげて倒れていた。
思わず振り返ってしまった。ただ、この行動が、私の運命を変えた。
「その翼、」
"まだ"黒いままだが、間違えない、これは、
「少年」
声をかける
「君、借金してるんだろう?私のところにこないか?」
まるで誘拐犯のような台詞を吐く。
当然、少年はこちらを疑い、睨みつけてくる。
だが、折角のチャンスをこんなことで手放すことはできない。
「そう疑うな。そうだな…こういうのはどうだい?私はとある学校を経営していてね、そこでお勉強する、というのは。もちろん衣食住は保証しよう。」
これでも少年は疑いの目を向けてくる。さて、どうするべきか。一度引き込めれば、それでいいのだが。
私が思考していると、少年が口を開く。
「タダほど怖いものはないっていうだろう?悪いが、胡散臭すぎる。」
思っていたより成長しているらしい。あまりに身長が小さいから、てっきり小学生くらいだと思っていたのだが、違うらしい。
「なら、こんな条件をつけよう。私に、その翼を研究させて欲しい。君はその羽を操り戦った。君も、自分の力が気にならないかい?」
すると、少年はまあ、と頷く。だが、完全には頷かないようである。この子供の成長具合を見るに、小さい頃から働いてきたのだろう。しかもブラックマーケットで。グレーな仕事もこなしてきたのだろう。それでも身長が伸びていないことから考えて、親が貧乏、もしくはろくでなし。それで働かされても食って来れなかった。だが、別にガリガリというわけでもない。恐らくだが、親が死んだ、もしくは家出。どちらにせよ愛されたことはないはずだ。そして、愛を知らない。きっと、心の奥底で愛を求めているに違いない。
「私なら、君を愛せる。愛を教えられる。」
少年は驚いたような表情をした。だが、すぐに切り替えて、
「あんたは、愛されたこと、愛したことがあるのか?」
と、問いを投げかけてくる。その返答にすこし悩んだ。私は愛していたが、彼はいま、いや、あの時どう想っていたのだろう。彼は、あの時、愛してくれていたのだろうか。
「もちろんさ」
そう答えた。間違ったことは言ってない。
だが、少しこの子が心配になってしまうな、あまりにもチョロ、簡単に着いてきてくれた。心配か。私は思っていた以上に彼を想っていたらしい。少年の姿と彼が重なる。
こんな最悪な、雨の日でも、私の心は晴れやかで、希望に満ち溢れていた。最高の日だ。
こうして、私は大きな一歩を踏み出した。
その日から、彼に家を与え、ある程度の自由を与えた。
だが、実験の為に、ある薬を飲んでもらっている。羽を活性化させる薬だ。もう使わないと思って封印していたが、また使う時が来るとはな。そしてもう一つ効果がある。これからを考えるとこっちの効果が出るかのほうが圧倒的に重要だ。いまはまだ効果は出ていないが、もう少しの辛抱だろう。
そして、私は羽を研究所に運び込み、とある事実を確かめる。これは本当に私の目的の品なのかどうか。
結論からいうと、これは私の求めていたものに近いものだった。まだ少し弱いが、これからだ。これから赤く染めればいい。
これさえ、これさえあれば、私の目的は達成される。私の一生をかけた償い。いままで犯したどんな罪よりも重い罪の。
もう少しだ、思っていた以上に早くあなたに会えそうだ。
この、破壊の翼さえあれば。
今回はちょっと長めです。一万字とか書いてるひとってやっぱすごいですね。
もう一度言っておきます。この先生はみんなの知る先生とは違います