「怨霊鬼はあなただったのですね…南雲宗邦さん。」
時行に名前を呼ばれると金色の鬼仮面を外して南雲が素顔を露わにした。
「よく分かったな。」
「まず、あなたの左手の傷。それは刀を抜く時に出来る刀傷です。なのに、あなたは剣道をやったことないと嘘を言っていました。」
「これだけで刀傷と分かるか?」
「はい。私のろう…友人がよくそこに傷を付けていましたので。」
「なるほど。」
南雲は左手の傷を見る。
「それに、あなたの死に方はわざとらしかったです。」
「おいおい。結構自信あったんだぜあれ。警察官だって騙せた俺の演技がお前になら見破れたと?」
「はい。私は今まで多くの人の死を見てきましたので。」
「どんな小学生だ。」
南北朝時代、多くの仲間や敵の死を見てきた時行にとっては南雲の死に方は違和感があった。
「何故こんなことを?あなたは中川財閥に恨みがあるようには見えませんが。」
「恨みなんてないよ。」
動機が分からない。すると、両津達の会話やプラスの説明を思い出した。
「もしかして…株…ですか?」
「大正解だ。お前、探偵になれるぜ。」
南雲が褒める。
「中川財閥の株は結構高値で売れる。だから、まずタンカーを爆破して下落のきっかけを作った。次にこのスカイラグーンを乗っ取り墜落させれば中川財閥の株は地の底まで落ちる。この時に中川圭一を生かせば日本史上最悪のテロから生き残った奇跡の社長としてメディアから大注目だ。その後、中川圭一が中川財閥の信頼を取り戻せば株の価値も上がる。そこで売れば大儲けだ。」
南雲が計画を教えてくれる。時行は南雲の側をチラッと見た。倒れている中川。宝石や高級腕時計が入ったバッグ。そして、ハンググライダーがあった。1人で逃げるつもりのようだ。
「仲間はどうするつもりですか?」
「死んでもらう。」
その言葉に時行は激昂した。
「犯罪だとしても共に戦った仲間じゃないのですか!?」
「ああ、仲間だよ。俺が逃げ切るための
南雲が不敵に笑う。
「そもそもこれを成功させるにはテロリストがスカイラグーンで自爆したと思わせる必要がある。怨霊鬼にしたのも実際に恨んでいる奴を仲間にしたのもそれが理由。そうすれば警察は勝手に俺の描いたシナリオ通りに動いてくれるというわけだ。」
「自分だけ逃げるなんて…」
時行は許せなかった。犯罪をしたのもそうだが何より仲間を見捨て1人で逃げることが許せなかった。時行は弓矢を構える。
「あなたの思い通りにはさせません。」
「ここまでペラペラ喋った理由が分かるだろ。お前もどうせ死ぬからだ。」
南雲は鬼仮面を着けて拳銃を取り出した。雲が晴れ月明かりが2人を照らす。
(両さん、あなたの言っていた完全勝利。私が実現してみせます。)
令 こ
和 っ
鬼 ご
怨 霊 鬼
《南雲 宗邦》
南雲が拳銃を撃つ。時行は避けながら矢を放つ。南雲は矢を避けてまた撃つ。
「ウクライナやイスラエル、メキシコの銃弾飛び交う中で傭兵をしてきた俺にとって矢を避けるなんて朝飯前だ。」
南雲は余裕の笑みを浮かべながら撃つ。弾切れになると時行の矢を避けながら装填した。装填が終わると再び時行を狙って撃つ。時行は顔を反らして避けると南雲の足を狙って矢を放つ。それがバレたのかあっさり避けられる。
「矢と銃じゃ圧倒的に性能が違う。もう弓矢の時代は終わりなんだよ。」
南雲は余裕の笑みを浮かべる。確かに弓矢じゃ拳銃相手に分が悪い。それでも時行は冷静に南雲を観察していた。弾丸を避けながら矢を放つ。それを何度も繰り返しているうちに時行は何かに気付いた。時行は矢から鏃を外す。
「何を企んでいるのかな?」
南雲は鏃のない矢を使う時行を挑発する。弾を装填した。南雲が拳銃を時行に向ける。それに合わせて時行も弓矢を構えた。
(来た…あの人は最初の1発は私の頭を狙う!)
時行は南雲が撃つ瞬間に矢を放った。弾丸と矢はすれ違い真っ直ぐ飛ぶ。時行は弾丸を躱す。そして、矢は銃口に入った。
「!?」
南雲が矢を外そうとするも完全にハマってしまっていた。これでは拳銃は使えない。そこに時行が矢を放つ。南雲は避けるも鬼仮面の一部に命中し欠けた。南雲の左目が見える。南雲は拳銃を捨てた。
「驚いたよ。まさか、銃口に矢を当てるなんてな。サーカスでも目指してるのかい。」
「これが私の得意技です。」
時行は続けて矢を放つ。それを南雲は居合斬りで真っ二つにした。南雲が突撃してくる。時行は下がりながら矢を放つもまた斬り落とされてしまう。南雲の接近を赦し近接戦闘が始まる。時行は紙一重で南雲の刀を避ける。下がって弓矢を構える。その時気付いた。弦が切られていたのだ。
「な…」
「もう弓矢は使えない。その竹刀で俺を倒せるか!」
時行は弓幹で防御するも真っ二つにされてしまう。時行は弓を手放し逃げる。
「時間稼ぎか?悪いがここに応援は来ない。」
「何故言い切れるのです?」
「お前こそ何故俺の仲間を全て捕まえたと確信出来る?」
「まさか、まだ仲間が…」
「動くな!」
「嫌ぁ!」
パーティー会場で突然船員の1人が拳銃を持ち出し亜矢を人質にとった。さらに、宴会会場でも船員が檸檬を人質にとった。合計6人の船員が拳銃を取り出し大原部長達を脅した。
「バカな!まだいたのか!」
「おい!何故ここの関係者がテロリストになっているんだ!?」
「誰かが招いた?いや、テロリストと知って採用した?」
「どっちにしてもかなり上の立場の人間が犯人ね。」
プラスやジョディーが考察する。檸檬達を人質にとられた以上従うしかない。テロリスト達は武器を捨てさせると結束バンドで後ろ手に拘束した。
南雲がまだ仲間がいることを時行に告げる。
「その仲間達もあなたが1人で逃げることを知っているのですか?」
「いや。あいつらには後でヘリを寄越すと言っているだけだ。誰1人俺が生きていることを知ってもらっては困るのでね。」
南雲が再び攻撃を仕掛ける。時行は刀に神経を集中させ避ける。一歩間違えば即死の状況、それは時行には慣れていた。これならなんとか避け切れる。そう判断した瞬間、南雲が鞘で時行の腹を突いた。時行は苦しみ嗚咽する。
「刀に集中しすぎじゃないか。」
南雲は鞘で時行を殴る。時行の頭から血が流れる。それを爆竜大佐は遠くから見ていた。援護したいが下手に撃てばスカイラグーンが墜落する。両津との約束を守っている爆竜大佐としては歯痒い状況だ。逃さん君も時行と南雲を撮影しスパーク達に映像を送る。
「時行君!」
「あいつがテロリストの主犯か。」
「解析は!?」
「分からん。完全に戸籍を消しているのかと言いたいぐらい不明だ。」
さすがのスパークも動揺している。そこに爆竜大佐から連絡が入る。
『こちら爆竜。あべのハルカスまで2.5km。500m以内に接近次第撃ち落とす。』
「…わ、分かった。」
スパークが悔しそうに口を開ける。息子のプラスがいる中での苦渋の決断だ。屯田署長も署員と日本の未来をかけられると後者を選ぶしかなかった。
((頼む。))
スパークや屯田署長達は祈ることしか出来なかった。時行は南雲の蹴りを防御しながら下がる。しかし、勢いは殺せず吹き飛び倒れてしまう。そこに南雲が刀を振り下ろす。時行は体を捻って避ける。転がって避けながら離れた。
「すばしっこい奴め。周りに面倒なもんがウヨウヨしているしな。そろそろ逃げる準備はしとかねぇと。」
そう言って南雲はスマホを操作する。その瞬間、スカイラグーンの至るところから爆発が起きた。その爆発に爆竜大佐は巻き込まれないように下がる。
「これでよしと。後は…」
南雲が時行を見る。時行は体中痣や傷が出来ている。それでも目はしっかりと自分を見ていた。それに驚く南雲。
「修羅場をくぐった目をしてるな。まぁ、傭兵として何百と殺してきた俺ほどじゃない。」
「そんなに殺しが自慢ですか。」
「自慢だよ。傭兵にとって殺した敵の数は勲章さ。」
南雲がゆっくりと近付く。時行は南雲がどう来るか警戒する。すると、南雲が空中に何か投げた。南雲はすぐに目を瞑って下を向くが時行は何かを見てしまう。その何かは閃光弾だった。閃光弾は爆発と同時に眩しい光を放つ。その光に時行は目をやられてしまった。
「もらった。」
南雲が飛び出す。時行に接近し居合抜きで時行の首を斬ろうとした。時行はまだ目が開かない。
(右です時行様。)
その時、声がした。時行にとって聞き覚えのある声。その声に反応した時行は咄嗟に外していた鏃を持つとそれで刀を防いだ。しかし、勢いはそのままにスカイラグーンから落ちてしまった。
「あの状況で鏃で防ぐか普通。本当に小学生かあいつ。まぁ、これで邪魔者は全て消えた。」
南雲は刀を鞘に納め中川のところへと向かう。周りに月光やハインケルが飛んで来るが気にしない。中川を連れて逃げる準備をする。時行は落ちながらも矢でスカイラグーンを刺しなんとか落下を防ぐ。ワイヤーに足をかけ登ろうとする。しかし、かなり落ちた結果1人で登るのは不可能だった。
「どうすれば…」
『手を貸そう聖羅寿日太。』
そこに月光刑事が来る。伸ばしたロープを時行に近づける。時行も視界が戻りロープが見えた。ロープを掴みスカイラグーンの側面を走り駆け上がる。そそて、逃げる準備をしていた南雲より高くジャンプした。月が時行と重なる。それを見た南雲は戦慄していた。時行が頬を紅潮させ笑っていたのだ。
(な、なんだこいつ!?さっきまで死にかけてただろうが!なんでそんな顔が出来る!?)
南雲が突撃し刀で斬りかかる。それを時行は紙一重で避けた。その間も発情し頬が紅潮したままだ。それにだんだん恐怖を感じる。
(殺す瞬間に笑う奴がいても殺されそうになる瞬間に笑う奴など…)
南雲の動きが鈍くなる。それに対し時行の動きはだんだん洗練されていく。南雲の周りをグルグル周る。そこだと刀を振り下ろす。それを避けた時行は竹刀でとうとう鬼仮面を砕いた。南雲の素顔が露わになる。
「素顔が見えたぞ!これで…」
「…そういうことか。あいつ、南雲宗邦という戸籍を裏ルートで入手していた。」
スパークがスカイラグーンの乗組員と照合し南雲を割り出した。しかし、それは本人ではないようだ。引き続きスパークが解析をする。
「おそらくあいつも傭兵だろう。」
『あべのハルカスまで1.5km。』
だんだん撃墜までタイムリミットが迫る。そんな危機的状況でも時行は楽しそうに逃げていた。恐怖と動揺で南雲はフラフラし始める。
(誰も死ななくていい。誰も殺さなくていい。楽しい!)
(あと一歩だ。ここを逃げ切れば俺の計画はアガリだ。なのに…何故、俺は怯えている!?これまで何百と殺してきた俺がこんな子供に!)
南雲の攻撃が大雑把になってくる。もう南雲の攻撃は時行に当たらない。鞘で殴ろうと体術で挑もうと時行には当たらない。時行は両手を前に構えて南雲を見る。南雲はやけになり刀を振り下ろす。
《鬼心仏刀》
時行は刀を避けると竹刀を南雲の腕に叩きつけた。南雲の腕が痺れ刀を手放す。刀がスカイラグーンから落ちていく。時行が追撃しようと走り出す。南雲はスタンガンを取り出す。その時、スカイラグーンが大きく傾き南雲はバランスを崩して四つん這いになった。スタンガンも落ちていく。時行はその瞬間を利用し大きくジャンプした。
「なんなんだ…なんなんだよお前は!?」
「私は…逃げ上手で…生きたがりで……両さんの息子の…北条時行だぁ!」
時行が叫ぶ。落下する勢いそのままに竹刀を振り下ろす。その重い一撃は怯えた顔で時行を見る南雲の首に命中した。南雲は倒れ白目を剥いて気絶した。その様子を爆竜大佐達が見ていた。スカイラグーンが止まる。屯田署長達は固唾をのんで見守る。そこに爆竜大佐から連絡が入った。
『テロリストグループ主犯を北条時行が制圧した。スカイラグーンも止まった。現時刻を持って危機は去ったと判断し撃墜を中断。帰艦する。』
その言葉に警視庁中が歓喜の声が上がる。屯田署長もスパークも安心してヘタれる。
「良かった〜!」
「北条君、君は凄い子だ。」
屯田署長達がモニターを見る。そこにはこちらに気付いた時行が満面の笑みでピースしていた。