逃げ上手の転生記 〜亀有の破天荒警官と〜   作:虹武者

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陶器鑑定なら時行にお任せ!?

 ある日、大原部長が派出所に陶器を持って来た。淡緑色の自然釉がかかった茶碗だ。

 

「なんですかこれ?」

「これは鎌倉時代の名のある陶芸家が作ったとされる山茶碗だ。」

「汚い茶碗ですね。」

「バカモン!この侘び寂びが分からんか!」

 

 大原部長が両津に叱責する。

 

「山茶碗は12世紀から15世紀までのおよそ400年にわたり生産された鎌倉時代室町時代を代表する陶器だぞ!」

「そんなに言われてもピンときませんよ。」

「なら、低俗なお前にも分かるように言ってやる。この山茶碗は500万の価値がある。」

「ご、500万!?」

 

 両津が驚く。

 

「わしはこれを知り合いの骨董店の店長から300万で譲ってもらったのだ。ゲームやフィギュアではなくこういう高尚な物をコレクションしろ。」

「なんか、変ですね。」

 

 大原部長が両津に詰め寄った時、時行が山茶碗を持って呟いた。その呟きに大原部長が振り返る。

 

「と、時行君。今なんて?」

「私の知り合いがこういう焼物を作っているのですがそれと比べると変な感じがします。」

「時行君には分からないかもしれんがこれは鎌倉時代に作られた歴史ある…」

「部長、部長。時行はその鎌倉時代の人間ですよ。」

「あっ!」

 

 両津に言われて思い出す。時行は正に鎌倉時代から南北朝時代を生き抜いた武将なのだ。

 

「わしらが歴史的価値云々言ってますが時行にしてみれば日常で使っているただの食器ですよ。もっと言えば時行にとってはこれと同じ感覚ですよ。」

 

 そう言って両津は持っている湯呑みを見せる。大原部長はもしかしてと時行に聞いてみる。

 

「時行君、その知り合いというのは…」

「景政殿です。確か藤四郎さんという方の孫だと言っていました。」

「部長。藤四郎はおそらく加藤四郎左衛門景正のことです。鎌倉時代を代表する陶工で陶工の本家の陶祖として語り継がれている伝説的人物ですよ。」

 

 中川の説明に大原部長は冷や汗を流す。気になった両津が時行に聞く。

 

「時行、武家以外でお前の知り合いってどんな奴がいる?」

「ん〜…いつも刀を作っているところを見せてくれる正宗殿やいつも面白い話をしてくださる兼好おじさんとかですね。」

「正宗は鎌倉時代を代表する名工ですし吉田兼好は徒然草の著者ですよ。」

 

 大原部長の冷や汗がさらに多くなる。自分が持っている山茶碗に自信が無くなっていく。中川がもしかしてと知り合いの鑑定家を呼んで鑑定してもらった。

 

「偽物ですね。少なくとも鎌倉時代の物ではありません。作られたのも3年ぐらい前でしょう。値段にすると1000円ですね。」

「せ、1000円…」

「なら、こうしましょう。」

 

 無慈悲な結果に大原部長は目を点にする。そこに両津が来て山茶碗を思いっきり投げつけ割った。

 

「両津!」

「弁償しますよ。はい1000円。」

「300万が1000円に…」

 

 大原部長が1000円札を持ってがっかりする。両津が大原部長の肩に手を置いた。

 

「部長。これからは陶芸品を買うのを止めましょう。何回騙されているんですか。」

「それにしても時行君凄いわね。」

「時行君はその時代に生きた人ですから歴史的価値などに惑わされずに観ることが出来るのでしょう。」

 

 時行の意外な才能に驚く。そこに両津が提案した。

 

「中川、今テレビでやっている真贋鑑定団に時行出してみないか?」

「いいかもしれませんね。」

「真贋鑑定団?」

「依頼人が持ってきた品物が本物か贋物か見極める企画のテレビ番組よ。」

 

 麗子が説明してくれた。時行は悩んだが経験してみようと両津の提案を受け入れた。そこに椎名がパトロールから帰ってくる。そこにはワイワイ楽しそうにしている時行達とがっかりしている大原部長がいた。

 

「何があったんだろう。」

 

 数日後、早速両津のコネで時行を真贋鑑定団に出演させる。今回は3つある品物のうち本物は1つ。それを当てるという物だった。

 

「本物は3億もしますよ。」

「す、凄いな…」

「それぐらいで驚いてはダメですよ部長。今回は見極めるだけじゃない面白い演出を時行に言っています。」

 

 両津がニヤリと笑う。時行はA、B、Cの箱に入った陶器を鑑定する。すると、Bの陶器で止まった。鮮やか色彩の花が描かれている酒瓶だ。

 

(この酒瓶…顕家卿が嗜む時に使っていた品だ。)

 

 時行はBの酒瓶を懐かしい顔で見る。一息つくとAとCの陶器を持ち上げ叩き割った。それを見た大原部長達は驚く。司会者が結果を聞く。正解はBだ。それを見た観客達は拍手する。大原部長達も拍手した。

 

「お見事。」

「まさか叩き割るとは…」

「時行に偽物なら叩き割れと言っておいた。最近はただ本物と贋物を判別するだけだからマンネリ化している。だから、少し刺激的な要素を与えた。最近の日本人は怒りをぶつける機会が少なくなっている。だから、こういう企画が人気になるんですよ部長。」

 

 別室で見ていた両津達のところに時行がやって来た。

 

「どうでした?」

「バッチリだ!それにしてもよく分かったな。」

「あれは顕家卿がよく使っていた物でしたので覚えていました。」

「凄い歴史のある一品だったとは…」

「値段も凄いがそれを使っているところを実際に見ている時行も凄いな。これで視聴率は取れたも同然だ。」

 

 両津の狙いは的中し視聴率は19%と上々だった。この企画が大人気となり本物を当てるという時行の企画がスタートした。様々な鎌倉時代や南北朝時代、室町時代に安土桃山時代の陶器の鑑定をさせると見事百発百中全問正解という快挙を成し遂げた。

 しばらくは番組も人気だった。しかし、途中からやらせ疑惑が浮上した。予め教えていたや実は全部贋物で割っていないのだけ正解だと言ったような物が増えていく。

 両津がそんなツイートを見ていると時行が後ろから覗いてきた。心許ない言葉に時行は悔しい気持ちになっている。

 

「私はそんなことしていません。」

「人は自分が理解出来ないものは無理矢理理解出来るまのに変えようとする生き物だ。自分が納得出来れば真偽はどうでもいいもんだ。気にするな。お前の凄さ、誠実さはわしらがよ〜く分かっている。それだけでも充分だろ。」

「はい。そうですね。」

 

 両津と一緒に中川や麗子も微笑む。それに時行は救われていた。

 翌日、いつものように陶器が並べられる。今回は江戸時代の陶器が6つあった。どれも高そうに見える。早速時行が鑑定を始める。別室で見ていた両津達はどれが本物か分からず悩んでいた。

 

「全然分からん。」

「全て本物に見える。」

「それはそうですよ。全部本物ですから。」

「「なにぃ!?」」

「1番最後の品なんて番組史上最高金額の5億はしますよ。」

「「ご、5億〜!!」」

 

 両津と大原部長が驚く。

 

「今回はみんなに驚いてもらうためにこのことは誰にも言っていません。時行君が本物を全て当て贋物が無いと思っているところに僕が出て全部本物だと教えてドッキリさせる企画です。」

「なるほど。」

『なんか全部変な感じがしますね。』

「…え…?」

 

 時行の発言に中川が凍る。

 

『も、もしかして今回は全て贋作ということでしょうか?』

『少なくとも私はよく分からない物ですね。』

『では、恒例のぶっ壊しタイムと行きましょう!』

「え!?待ってください!嘘ですよね!?」

 

 中川が大声をあげて止めるも無慈悲に時行が最初の茶碗を割った。

 

「あ〜!それは250万もする京都の茶碗〜!」

「時行君、どうしたのかしら?」

 

 中川が嘆く。今度は隣にある湯呑みを豪快に割った。

 

「それは780万する有田焼の湯呑み〜!」

「時行君、一体どうしてしまったんだ?」

「もしかして時行の奴、江戸時代の作風を知らないだけじゃ…」

 

 両津の言葉に中川達はハッとした。時行の鑑定は経験からくものだ。そのため見たことない江戸時代の陶器はよく分かっていなかった。

 

「そうだった!確かに今まではほとんど鎌倉時代の陶器が中心でした!安土桃山時代の陶器も鎌倉や室町の作風と似ている物だった。」

 

 パリン!その音に中川が再びモニターを見る。既に時行が絵皿を叩きつけて割っていた。

 

「そ、それは2500万する尾形乾山と光琳の合作の貴重な絵皿〜!」

「まずいぞ。時行の奴、本当に全て割る気だ。」

「両津!なんとかしないと…」

「行ってきます!」

 

 両津が慌てて出る。中川達も急いでスタジオへと走る。中川がスマホから時行が花瓶を割ろうとしているのを見て叫ぶ。

 

「止めてください時行君!それは8000万もする酒井田柿右衛門の花瓶〜!」

『えいっ!』

「ぎゃあ〜!」

 

 中川が荒れる。ガシャンという音と共に8000万がガラクタになる。時行は隣の壺を持ち上げる。

 

「止めて時行!お願いだからそこで止まって!それ、2億はするんだ!野々村仁清の代表作の壺なんだ!」

『行きまーす!』

「行くなー!」

 

 また無慈悲に割られる壺。中川は目をグルグル回し泡を噴いて倒れる。大声部長と麗子が支える。すぐに気を取り直す。しかし、時行は最後の大きな皿に手をかけた。

 

「止めろぉクソガキィ!」

「圭ちゃん!?」

「それ5億するだぞ!国宝に指定されてるんだぞ!」

 

 時行が大皿を叩きつける。そこに両津が来てギリギリ受け止めた。

 

「両ちゃん!」

「ナイス先輩!」

 

 なんとか受け止めた両津は傷がないか調べる。

 

「両さん?」

「時行!よく見てくれ!なんか高そうに思わないか!?」

「う〜ん。私にはよく分かりません。」

「もう1回考え直してくれ!」

 

 両津が必死に説得するも時行は首を傾げるだけだった。番組に邪魔とプロデューサーが両津を退けるように指示する。客席からも壊せのコールが止まらない。

 

「止めろ〜!それを壊すなぁ!」

「待ってくれ時行〜!」

「では、時行君。派手にどうぞ!」

「はい!」

 

 中川が必死に叫ぶも両津は退かされ時行が大皿を割った。その瞬間に中川達がスタジオに入る。割れた陶器の数々を見た中川は青ざめる。

 

「では、判定は〜…え、全部本物?最後のは5億?嘘…」

 

 スタジオがシーンと静まりかえる。司会者もプロデューサーもディレクターも視聴者も中川も言葉が出ない。唯一、この大変な状況を理解していない時行だけが周りをキョロキョロ見ていた。

 

「あ、あれ?もしかして…私、やってしまったのでしょうか?」

 

 ことの重大さを知った時行は凄い量の汗を流してカメラを見つめた。この時の最高視聴率は驚異の71.4%だった。

 

 後日

 

「いいですか時行君。ここから江戸時代中期に入ります。」

「あの…中川さん。もうかれこれ6時間以上はやってますけど…」

「ダメです。江戸時代全てマスターするまで逃がしません。」

「珍しく圭ちゃん怒ってるわね。」

「きっかけはわしらだが8億以上の借金を背負うことになったな。」

 

 時行を椅子に縛り付け延々と江戸時代の陶器について勉強させる中川に両津と麗子はただ見ることしか出来なかった。

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