逃げ上手の転生記 〜亀有の破天荒警官と〜   作:虹武者

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両津の禁酒旅行

「禁酒!?」

 

 その日は両津の叫びから始まった。派出所がバラバラになるレベルの叫びに大原部長以外が耳を塞ぐ。絶望する両津に大原部長が説明した。

 

「お前は署員旅行に行く度に物の破壊や署長への暴行をするからな。今回は署員旅行中は一切の酒を禁ずる。」

「そんなぁ!旅行中の酒こそがわしの楽しみなのに!」

「他に楽しみないんですか両津先輩。」

 

 両津が項垂れる。

 

「中川だって酔った挙げ句全裸で宴会場を走り回ったじゃないですか!」

「中川は誰にも迷惑かけてないからいいんだ。」

「そんなことしてたのですか中川さん?」

「…覚えてません。」

 

 時行の質問に中川が顔を反らす。大原部長は顔を両津に近付けて再度釘を刺す。

 

「いいか両津。絶対に飲むなよ。絶対だ。」

「そ、そんな〜。」

 

 両津は膝から崩れ落ちた。

 署員旅行当日。新葛飾署員と時行が温泉街へ行くバスの中でお酒を飲んでいた。しかし、禁酒されている両津は時行からサイダーをもらってチビチビ飲んでいた。

 

「え〜、今回こそは何事も無く無事に署員旅行が終わることを願っています。」

「毎回無事じゃないのですか?」

「両津のせいでな。」

 

 近くにいた署員が笑いながら答える。酒が飲めない両津を煽りながら楽しく飲んでいる。両津は下を向き見ないようにしている。

 

「見るな見るな見るな見るな…」

「必死ですね両さん。」

「両津!この酒上手いぞ!」

「これ、中川が持ってきた高級酒だってよ!」

「飲ませろぉ!」

 

 遂に両津がキレる。煽ってきた署員から酒を奪おうとする両津。その後ろから大原部長がハリセンで両津を叩く。

 

「暴れるなバカモン!これに懲りて少しは自制しろ!」

 

 両津は蹲る。バスが到着し降りる。まずは温泉街を観光する。両津が途中で酒を飲まないように麗子が監視していた。元気のない両津にボルボと左近寺が寄って来る。

 

「大丈夫か両津。」

「心配するなら酒をくれ。」

「家なき子か。」

 

 覇気もない両津にボルボがファンタを出すが反応しない。両津はフラフラ歩きながら進むと本田を見つけた。本田に近付き肩に手をかける。

 

「本田〜。酒をわしにくれ〜!」

「だ、ダメですよ先輩。署長から両津に酒をやるなって言われてますから。」

「わしとお前の仲だろぉ。」

「完全に参ってるな。」

 

 呆れた麗子が両津を引き離す。

 

「両ちゃん。こんな時はお酒以外を考えて楽しむのよ!」

「そうですよ両さん!ほら!あそこのお土産屋さんで檸檬さん達へとお土産買いましょう!」

 

 時行が両津を連れて行く。時行は両津にいろんなお土産を見せるも両津は地酒を見ていた。

 

「時行、ここは逆効果だ。」

 

 左近寺が地酒に手を出そうとする両津を引っ張る。時行はどこに行こうか悩む。すると、足湯を見つけた。両津を足湯に連れて行き入浴させる。

 

「どうですか!?気持ちいいですよ!」

「…」

「両ちゃん。時行君が連れて来てくれたのだからもっと楽しそうにしなさい。」

 

 麗子がそう言うも両津はアサヒビールの看板を凝視していた。

 

「重症だなこりや。」

「3日の辛抱だぞ。」

 

 ボルボ達が励ますも両津には聞こえていない。

 

(やるなと言われたらやりたくなる…こうなったら何がなんでも飲んでやる。)

 

 両津は決心する。す〜と足湯から上がる両津。麗子も上がろうとした瞬間、走り出した。両津は誰も居ないところを探す。丁度酒を出している店を見つけた。麗子達が来る前に飲んでしまおうと店に入る。

 

「あれ?両さんもここに来たの?」

 

 丸井と残念がいた。両津はずっこける。

 

「何故お前らがここに!?」

「ここの地鶏料理が美味しいんですよ。」

「両さんもどう?」

「ぐ…」

 

 ここに署員がいては飲めない。両津はとりあえずここは諦めて一緒に食べた。麗子が両津を捜して店に入る。そこには丸井達と食事している両津がいた。

 

「両ちゃん。何しているのかしら?」

「突然、腹が減ったからいいところ探してた。」

 

 両津はなんとか誤魔化す。時行は雰囲気のいい店に惹かれそこで両津達と一緒に食事をした。両津は麗子の見張りから抜けようといろいろと周るが麗子もしつこく着いてくる。時行も一緒に着いてくる。

 

「くそ、これじゃあ全然飲めん。」

「美味しい水ならあるわよ。」

「美味しい酒が飲みたいんだ!」

「じゃあ我慢しなさい。両ちゃん、酒癖悪いんだから。」

 

 結局、麗子からまくことが出来ず夜になった。宴会場では両津以外の署員達が中川や麗子が用意してくれた高級酒を飲んでいる。

 

「わしがいる時はそんなの出さないくせに…」

「両さんは一瞬で全部飲むだろうが。」

「こういう時じゃないとなかなか飲めないからな。」

「お前はいつも飲んでるだろ。」

「こういう時こそ飲みたいんだ!」

 

 両津の叫びも虚しく宴会場に消えていく。その夜、時行や中川や丸井が寝たのを見計らって両津は起きた。誰も居ないことを確認しながら酒の自販機があるところへと目指す。

 

「こういう時こそ…」

「両津さん。」

「うおっ!」

 

 両津が驚く。そこには根画手部がいた。暗い廊下で見る根画手部の顔ほホラーだった。両津は息を整える。

 

「驚かすな!お前、Jホラーの幽霊だぞ!」

「署長さんから両津は夜中に酒を飲むと言われて見回りしてました。」

 

 図星を突かれギクッとする両津。

 

「両津さん、ここで何を?」

「わ、わしは…散歩だ!なかなか寝付けないからどこかふら〜と歩こうと思ってな!それより根画手部!お前、この施設の安全性を調べた方がいいんじゃないか?」

「もちろんそれを同時に行ってます。非常口の数、スプリンクラーの位置、消火器の数、消防車が到着するまでの時間、全て調べています。」

「さすがだな。」

 

 両津は根画手部にバイバイ言って外に出た。酒の自販機を見つけ駆け寄るも買わない。後ろを振り向き睨んだ。

 

「ボルボも見張ってるのか。」

「暗視ゴーグル無しでよく分かるな。」

 

 こちらを睨む両津にボルボは驚いている。結局、両津は酒を飲むことなく眠りに着いた。

 翌朝、両津が元気無い状態で朝食をいただいている。時行が心配して納豆を出す。

 

「元気出してください。」

「サンキュー。わしの行動、全て知られてる。」

「当たり前だ。お前のやる事などお見通しだ。」

 

 向かいにいる大原部長が厳しい言葉を浴びせる。それに反論する気すらない。今日も麗子が付き添いでいる。両津はいいのか?と聞くも麗子は嫌じゃないと答える。

 

「両ちゃん見ているのも面白いわよ。」

「いつも見てるだろうが。」

「いつも飽きないのよ。」

「分かったから。麗子、暑いからアイスから冷たい飲み物買って来てくれ。」

「いいわよ。」

 

 麗子が離れる。近くのアイスクリームの店に寄って両津を見張る。両津はそれを見越していた。両津は時行に一万円札を握らせる。

 

「時行、これで適当に酒を買ってくれ。後でわしが回収する。」

「ダメですよ。」

「頼む。お前だけが頼りだ。このままだと干からびてしまう。」

 

 時行は呆れながらも酒を買いに行った。麗子がアイスクリームを買って戻る。

 

「ちゃんといたわね。」

「お前が見張っていただろ。」

「時行君に何を買わせに行かせたの?」

「檸檬達へのお土産屋だ。」

 

 両津は惚けながらアイスクリームを食べる。そこに時行が来た。中川も一緒だ。

 

「先輩、時行君にお酒買わせたらダメですよ。」

「両ちゃん。」

 

 両津はアイスクリームを吹く。麗子が呆れて見る。

 

「な…バレたのか!?」

「その…私1人ではお酒は買えないと言われまして…近くにいた中川さんに相談しました。」

「そうだった…未成年だけで酒買うのは…ダメだった…」

「もうそこまで思考が回ってませんね。」

「頑張りなさい両ちゃん。」

 

 項垂れる両津。時行は麗子に言われてそのまま檸檬達へのお土産を買うことにする。そこからも両津は麗子の目を盗んだり酒入りチョコを食べようとしたり画策するが全て失敗に終わった。

 1滴も酒を飲めずに露天風呂に入る。周りで日本酒をいただいている大原部長達が目に入る。両津はどうするか考える。隣にいた本田が日本酒を飲もうとする。そこに両津がぶつかった。

 

「うわぁ!」

「すまん本田!大丈夫か!?」

 

 両津が心配するふりして露天風呂に溢れた日本酒を飲もうとする。そこに大原部長が来て両津を沈めた。

 

「バカモン!卑しい真似をするな!」

「鼻に入った!」

 

 ケホケホッと咳込みしながら露天風呂から出る。だんだん弱って行く両津にさすがに同情し始める署員達。

 

「バルサン焚かれたゴキブリみたいだな。」

「酒を飲まないだけであそこまで弱るとは…」

「1滴だけでも飲ますか?」

「ダメだ。1滴でも飲めば調子に乗る。」

「酒癖の悪い両津には飲ませないが1番だ。」

 

 屯田署長と大原部長が厳しくする。両津は露天風呂から上がりフラフラと歩く。それを小町達が見ていた。

 

「あんだけ弱ってる原始人もなかなか見ないわよ。」

「この前は1ヶ月禁酒出来たのに。」

「両様…」

 

 マリアが心配するも屯田署長の命令で両津にお酒を与えることが出来ない。両津は周りに誰も居ないことに気付く。麗子はまだお風呂だ。それに気付いた両津は近くにいた中居に声をかけた。

 宴会が始まる。両津達が宴会場に集まる。時行の隣に両津が座る。そこにさっきの中居が料理を持って来る。

 

「え〜、今回の署員旅行は何事も無く終わりそうで良かったと思います。」

 

 屯田署長の発言にみんな笑う。両津も不気味に笑う。両津の隣で大原部長が睨みを効かせる。屯田署長が乾杯する。それに合わせてみんな乾杯し料理をいただく。両津は真っ先に飲む。しかし、すぐ吹いた。

 

「な!?…これオレンジジュースか!?」

「当たり前だ。お前は酒無しと言っただろ。」

「どうなってんだ!?」

「すみません!間違えてしまいました!」

 

 さっきの中居が慌てる。それを不審に思った大原部長が聞く。

 

「どういうことかね?」

「え、ええっと…この方にオレンジジュース2人分をオレンジジュース1人分にして日本酒にと…」

「バ…」

「なるほど。」

 

 両津が止めようとする遅し。大原部長だけじゃなく中川や麗子も睨む。

 

「両津。」

「先輩。」

「両ちゃん…」

「ア、アハハハハ…」

「あれ?じゃあ、両津先輩のお酒とオレンジジュースが間違ってたってことは…」

 

 椎名が気付く。オレンジジュース2人分をオレンジジュースと日本酒に変えて両津がオレンジジュースを飲んだ。ってことは日本酒を飲んだのは…

 

「ま、まさか…」

 

 両津が隣を見る。そこには顔を真っ赤にさせている時行がいた。

 

「時行が…日本酒飲んだ。」

「馬鹿者。お前のせいだぞ。」

 

 大原部長がやれやれと中居に水を頼み時行に水を飲ませようとする。しかし、時行は大原部長を避けると大原部長が飲んでいた日本酒を飲んだ。

 

「時行君!?」

 

 慌てて中川達が止めようとするも時行は避けながら中川達の日本酒も飲み干した。

 

「時行!それは日本酒だぞ!」

「な〜にがいけないんですか!?私の故郷鎌倉では私のような子がお酒飲んでもいいんですよ!」

「時行、鎌倉も未成年の飲酒は禁止だぞ。」

 

 左近寺が中居から水をもらって時行に飲ませようとした。

 

「ほらっ、水だ。飲め。」

「分〜か〜ら〜ず〜屋〜共には〜お仕置きら〜!」

 

 時行はフラフラしながら左近寺の前に近付くと振り返りお尻を左近寺にぶつけた。左近寺が宙を舞い吹き飛びKOされる。

 

「左近寺ー!」

「時行君!落ち着いて!」

 

 中川が止めようとしたが時行のヒップアタックが中川の顔面に炸裂する。中川も吹き飛ぶ。そのまま時行は片っ端から日本酒を奪っては飲んで行く。他の署員達が捕まえようとするも全て避ける。

 

「時行、酔拳みたいになってる。」

 

 暴れる時行。誰も捕まえることが出来ない。時行は早矢を見つける。お酒を飲んでいない早矢を見てニヤリと笑う。署員達を避けながら早矢に接近した。

 

「早矢さ〜ん、一緒に飲みましょうよ〜。」

「と、時行君…」

 

 早矢が何か言う前に時行が無理矢理早矢に日本酒を飲ませた。

 

「まずい!早矢に飲ませたぞ!」

「早矢!」

 

 急いで纏が駆け寄る。時行は纏から逃げる。纏が時行の方を見ると早矢が後ろから抱き着いてきた。纏が落ち着けと言うも早矢は纏を羽交い締めにした。

 

「早矢!?」

「時行く〜ん、今ですよ〜。」

「は〜い!」

「ま、待って時行。まさか…」

 

 酔った時行が纏に近付き彼女の胸にヒップアタックした。纏は胸を抑えて蹲る。そこからの時行は凄まじかった。片っ端から丸井、残念、雑と次々と署員達をヒップアタックで吹き飛ばす。

 

「と、時行君…」

 

 遂には屯田署長までヒップアタックで吹き飛ばした。

 

「部長、わしより酒癖悪い奴がいましたよ。」

「南北朝はみんな、こうなのか…」

 

 署員達をヒップアタックで吹き飛ばしていく時行に戦慄する両津と大原部長であった。

 翌日、時行はこのことを覚えていないが朝起きたらお尻が痛かったと言っていた。

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