時行達は荷物を持ってある場所に向かっていた。
「両さんって弟さんがいたのですね。」
「名前は金次郎さん。弁護士をしているんだよ。」
「兄弟揃って人を守る仕事をしているなんて素晴らしいですね!」
今日は金次郎の娘の京子の誕生日。そのプレゼントを持って金次郎達がいるマンションへと向かっていたのだ。しかし、その中に両津の姿はなかった。
「両津先輩はどこに行ったのでしょうか?」
「両さんなら競馬で大当たりしたから良い物買ってくると行ってどっか行ってしまいましたよ。」
「心配しかないわね。」
時行達は金次郎の部屋の前に着く。中川がインターホンを鳴らすと両津に似ている眼鏡を掛けた男性が出てきた。彼が両津の弟の両津金次郎である。
「京子ちゃんのお誕生日おめでとうございます!」
「おめでとう!」
「ありがとうございます!」
金次郎が中川と麗子からプレゼントを受け取る。
「あ、あの!両津先輩のところに配属されました。椎名蘭って言います!よ、よろしくお願いします!」
「よろしく。」
「両津勘吉さんの元で厄介となりました。北条時行と申します。どうぞよろしくお願いいたします。」
「え…」
金次郎が驚いた表情で中川と麗子を見る。
「本当ですよ。」
「両ちゃんの養子になったの。」
「あの兄さんが…」
金次郎は驚きながらも快く迎え入れてくれた。部屋では金次郎の妻、景子が京子を寝かせていた。ぐっすり眠っている京子を見て時行はドキドキしていた。
「可愛いですね。」
「でしょ。自慢の娘なんだ。」
時行が恐る恐る景子に触ってみる。温かくて柔らかい。時行には妹がいなかったのでもしいたらこんな感じなのかなと思った。
「私は亡くなってしまった兄がいました。とても優しい兄でした。金次郎さんにとって両さんはどんな方なのですか?」
「う〜ん。反面教師かな?いつも無茶ばっかりしているから大変だったよ。」
そう言って金次郎は思い出話を始めた。
金次郎が難関高校に入ってから数ヶ月経過した頃
1人で宿題をしていると両津が走ってきた。
「珍吉、豚平!早く行くぞ!」
「待て勘吉!」
「置いていくな!」
両津が走ると金次郎が宿題しているのに気付いた。
「金次郎、何してんだ?」
「兄ちゃん。宿題だよ。先生に提出するレポートを書いているんだ。」
「レポート?」
両津が金次郎の後ろから覗く。
『日本の罰則に関する憲法とアメリカの罰則に関する憲法を比較して双方のメリット、デメリットを詳細に纏めた上で今の日本に必要かつ現実的な法律を2000字以内で書きなさい。』
両津が固まる。そこに珍吉と豚平が来た。2人も気になったのか金次郎の宿題を見る。2人も固まる。よく見ると金次郎の前には日本やアメリカの憲法に関する書物が並んでいた。
「え…何これ?なんて言ってんの?」
「さっぱり分からん?これ本当に高校生の宿題か?」
「大学生の宿題じゃないのか?」
3人は混乱していた。
「こ、このままだと熱出そうだから野球してくる。」
「俺も。」
「俺も行く!」
3人はそそくさと去って行く。金次郎はやっぱりと思いながらレポートを続ける。その夜、金次郎はまだレポートをしていた。両津が起きる。
「まだやってんのか?明日は土曜日だぞ。しっかり寝てからやっても遅くねぇだろ。」
「兄ちゃん、僕は明日も学校があるんだ。」
「嘘…土曜日も学校いくの?土曜日つったらベーゴマしてメンコして銀玉鉄砲して野球するだろ?」
「それは兄ちゃんだけだよ。」
両津は土曜日も学校があるなんて信じられず現実逃避するように寝た。
翌日、金次郎は早起きして学校に通う。その後ろ姿を銀次とよねが見守っている。
「まさか、本当に受かるとはな。」
「あんた、それ何回目だい?」
「まぁ、もしかしたらとは思ってたよ。…それに比べて…」
銀次は呆れながら鼾をかいて寝ている両津を見る。
「こっちはこれだよ。」
金次郎は勉強している。将来、優しい正義の弁護士になるために猛勉強だ。午前中で学校が終わり帰路に着く。少し寄り道してみようと河川敷を歩く。そこには野球している両津達がいた。
「行くぞ!」
「バカ!飛ばしすぎだ!」
両津が打ったボールが高く飛ぶ。川にポチャンと入ってしまう。慌てて両津が川に入る。みんな、楽しそうに遊んでいた。金次郎は楽しそうと思う反面、自分は運動は苦手だからやっても楽しめないだろうとも思っていた。金次郎は自宅に帰る。
「ただいま。」
「おう。おかえり。」
銀次が店番している。金次郎は帰ってすぐに宿題をする。夕方になって両津が帰ってくる。金次郎を見つける。
「また宿題かよ!」
両津が見る。難し過ぎて頭がパンクする。
「最近の高校はこんなのばっかなのかよ。俺のとこなんて宿題自体ほとんどないぞ。」
「勘吉!勉強しないなら店番しなさい!」
「分かっーたよっ!」
よねに言われて店番に行く両津。金次郎は宿題を再開する。両津が寝てからも宿題をする。宿題が終わると勉強をした。翌日、起きた両津が勉強した状態で寝ている金次郎を見つける。
「まったく、布団で寝ろよ。」
「勘吉ー!」
「昨日の続きするぞ!」
「おう!」
両津が準備して家を出る。それと同時にに金次郎は起きた。両津の言葉を寝ながら聞いていたのだ。起きた金次郎は気分転換にと外に出た。ただそこら辺を歩くだけのつもりがいつの間にか知らない場所にいた。
「あれ?」
金次郎は帰り道が分からず歩き回る。すると、また例の河川敷に着いた。そこでは昨日と同じように両津が野球をしていた。両津の背中を見る。汚れだらけで自分とは全然違う。汚いなぁぐらいにしか感じていない。
「ここは昨日来たから家は…」
金次郎は昨日のことを思い出しながら帰る。すると、喝上げしている中学生達を見つけた。よく見ると喝上げされていたのは自分と同じ学校の人だった。だからというわけじゃないが注意した。
「ねぇ、喝上げはダメだよ。」
「あぁん?いっちょ前に正義面か?」
狙いが金次郎に向かった。相手は3人。1人でも敵わないと分かっていたのに金次郎は逃げなかった。ダメなものはダメと言わないと弁護士にはなれないと思っていた。
「なんか言えよ?」
「痛い目見たくなかったら財布寄越せ。」
金次郎は震える手を拳に変える。それを見て笑う3人。金次郎に掴みかかろうとした時、両津が走ってきて飛び蹴りした。1人が吹き飛ぶ。
「なっ!?」
「てめぇ!誰の弟に手ぇ出そうとしてんだ!」
「このやろー!」
喧嘩になる。両津は1人の腕に噛みつき攻撃する。痛がっているとそいつの両足を掴みグルグル回した。そのまま2人を吹き飛ばしもう1人を投げ飛ばす。
「痛え!」
「なんて歯だ!」
「俺の歯はプラスチックだって噛み砕くぞ!」
中学生達が逃げて行く。その時の両津の背中は汚れていたが頼もしかった。
「金次郎!お前は喧嘩弱いんだからこういうのに首突っ込むな。」
「でも兄ちゃん…」
「お前はここがあるだろ。」
そう言って両津は自分の頭を指差した。
「俺は喧嘩でしか守れねぇけどお前は賢いんだから頭で守れよ。弁護士ってそんな感じの仕事だろ。」
その言葉に救われる。
「お前は高校受験でも挫けずに頑張って合格したんだから挫けずに続ければ弁護士になれるだろ。」
「うん。そうだね。」
両津が差し伸べた手をとって起き上がる金次郎。そこに喝上げされていた中学生が来る。
「あ、ありがとう。」
そう言ってお辞儀して去って行く。
「お前のためじゃねぇぞ!金次郎がいたからついでに助けただけだぞ!」
「兄ちゃん、言わなくていいよ。」
両津は金次郎を連れて帰宅する。その背中は大きく頼もしかった。その間、金次郎は両津に心の中で感謝したと言う。
そんな話をしていたら時行がウルウルした瞳で金次郎を見ていた。
「金次郎さんは両さんのことが好きなのですね!」
「ま、まぁそうかな?兄さんにはプロレス技かけられたり勉強の邪魔されたり散々な目にはあっていたけどそれでも信頼はしていたよ。」
金次郎がアハハと笑う。金次郎はアルバムを出し合格祈願の御守りを時行に見せる。
「あの時、弁護士への道を教えてくれた須田成道先生と同じことを言っていたから驚きだったよ。」
「両津先輩にそんな子供時代があったんですね。」
「昔から破茶滅茶だったのは変わりませんね。」
「両ちゃんの反面教師で今の金次郎さんがいるものね。」
みんなで笑う。プレゼントは何かな?と開けてみる。子供用の服や可愛いアクセサリーだった。景子は喜んでくれていた。そこにインターホンが鳴る。
「もしかして両さんかな?」
「ですね。悪の教師の登場だ。」
時行が迎えに行く。両津が大荷物を抱えて入ってきた。
「いや〜!遅れてすまない!時行のおかげでまた競馬大当たりしてな!やっぱり祝い事にはこれだと250万円分のお酒買ってきたぞ!」
「に、250万も…」
「さすが悪の教師。」
「両津先輩。子供の誕生日にそれはないんじゃないですか?」
椎名が呆れて見る。
「安心しろ!京子ちゃんへのプレゼントもしっかりある!」
そう言って両津は金次郎に箱を渡した。何が入っているのか開けてみる。すると、御守りがあった。それは、自分が中学入試当日に両津からもらった合格祈願の御守りと同じだった。ただ、合格祈願ではなく健康祈願と書いてある。
「何がいいか考えた時にやっぱり親にとっては我が子の健康が1番だと思ってな。わしからの願いをプレゼントしたよ。」
「兄さん…」
金次郎が微笑む。その夜は誕生日を祝い両津が買ってきた酒でパーティーを開いた。両津と金次郎が仲良く飲む。時行はその背中を見て兄を思い出す。
「やっぱりお兄さんっていいですよね。」
雰囲気に酔いながらも時行はボソッと呟くのだった。
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