ある日、両津が派出所で仕事していると休憩室時行の歓声が聞こえてきた。気になった両津は仕事をさっさと終えて休憩室に入る。時行がテレビを見てはしゃいでいた。
「何見てんだ時行?」
「ぱるくーるというものです!」
時行がキラキラした目でテレビを指差す。外国人が街中を走ったり跳んだり登ったりしている。さらに、中には建物から建物へとジャンプしたり飛び降りている。
時行がキラキラして見ているのを両津が見る。
「そういえば時行の逃げもパルクールに似ているな。」
「はい!私の逃げがスポーツというのになってるなんて驚きです!」
「別に逃げをスポーツにしているわけじゃ…そうだ!」
両津は思い出したと自分の机に向かう。机に置いてあったスマホを取り時行のところに戻る。両津が時行に何かを見せた。
そこには“第13回パルクール鬼ごっこ”と記載された画面があった。時行は鬼ごっこの文字を見て興奮する。
「それは何ですか!?」
「こいつは不定期に開催される日売テレビ主催のイベント企画でな。パルクール世界大会優勝チームから逃げ切れたら賞金が貰えるというやつだ。」
両津が時行にスマホを貸す。時行は画面を操作して内容を細かく読む。すると、動きが止まった。何か懐かしい物を見ているような気がする。
「時行…」
「両さん…これ、出たいです!」
「よし!お前ならそう言うと思った!エントリーはわしに任せろ!」
両津がすぐに時行をパルクール鬼ごっこに応募した。その途中、両津はある人物を指差した。
「そうだ。こいつに気を付けろ。こいつの走りは今まで奴らと一味も二味も違う。もしかすると今までの鬼ごっこで一番強いかもしれん。」
両津の忠告に時行は目をキラキラさせて激しく頷く。
そして、イベント当日
抽選で選ばれた10人が会場に現れた。その中に時行もいる。両津は中川と麗子を連れて観客席から時行を見ている。時行の周りには屈強な男やアスリートがいる。
大歓声の中、司会者が出場者達の前に立った。続いて若い男性も司会者の隣にやってくる。
「皆さんこんにちは!司会進行役の美濃紳三郎と…」
「解説役の須脇盛隆です!」
美濃と須脇が自己紹介する。続いて須脇がルール説明する。簡単に言えばステージ内で時間いっぱい逃げるだけのシンプルなものだ。
パルクール鬼ごっこは日本全国に放送されていて弧太郎達や大原部長も見ている。
「では、早速と言う前に今回は特別なルールを設けております!」
美濃がモニターに注目するように手を伸ばす。そこには制限時間が出ていた。
「今回はなんと…制限時間を決めることが出来ます!10分なら20万円、20分なら40万円、と徐々に上がっていき最大2時間逃げ切ればなんと240万!」
モニターに240万とどでかく載ると大盛りあがりした。
「現時点で逃げ切り成功者は0人。一番長く逃げたのは第10回の両津選手の1時間29分!これを超える選手は出てくるのでしょうか!?」
(両さんが…逃げ切れなかった!?)
突然の衝撃的な事実に時行はびっくりする。
「あれ?両ちゃん、時行君に何も話してないの?」
「あまり言いたくないだけだ。」
両津が不貞腐れている。時行がびっくりしてこちらを見ていることに気付く。両津はフッと笑う。
「それでは選手達を追い詰める5人を紹介しましょう。…カモン!」
盛大な音楽と共に時行達の前に5人の人影が現れる。
「まずは彼!甘いルックスからは想像出来ないパワフな走り!優雅に飛ぶ様は当に蝶!パルクール世界大会チャンピオンチーム天狐衆が1人!久瀬春馬!」
「応援よろしく!」
ピンク色の髪をした若い青年が照らされる。観客席にウインクしただけで大絶叫だ。
「続いて天狐衆紅一点!軟体芸は神の領域!狭いところも高いところもお構いなし!鳥のように飛ぶ女傑!四条夏〜!」
ショートカットの女性が照らされる。少しクールな感じの彼女は何も言わずに進む。
「続いて続いて!パワフルなら天狐衆随一!ボディビル日本一!パンプアップ日本一!その力であらゆる障害を難なく乗り越える!加賀地友秋〜!」
スキンヘッドの男性が照らされる。彼も夏と同じで一言も話さずにステージへと歩いて行く。
「まだまだぁ!3年前の事故で全治1年半!それでも翌年復活!復活してすぐに関東大会優勝した実力を持つ!その姿は当に不死鳥!杉正冬!」
正冬は一度礼をしてステージに進む。
「そして、最後…パルクール世界大会個人部門5連覇、若干15歳で初優勝してから負け知らず。彼は動きは人々を魅了し世界を圧巻させた。世界は彼をこう呼ぶ。…“忍”と。チーム天狐衆リーダー…風祭玄夜ー!」
スポットライトが風祭を照らす。身長の高い青年だがそれよりも特徴的なところがあった。顔に狐の面を着けていたことだ。時行はその面を見てどこか懐かしいと感じている。
風祭はノリノリのダンスをしながら指を鳴らしステージへと歩いて行く。夏達の真ん中に着くと高く手を挙げて指を鳴らした。
「さぁ!今日も俺達の荒稼ぎに付き合ってもらうぜ!」
「今日も風祭選手はノリノリのようだ!さぁ、今日こそはチーム天狐衆から逃げ切れる選手は出るのだろうか!」
会場が盛り上がる。モニターにステージが映し出される。逃げる場所は東京ドーム約4個分の広さの街だった。ビルもあれば住宅街もある。
美濃が説明を終わらせると時行達は一旦控室に入っていった。時行がモニターを見る。順番は最後だ。だから、今はゆっくりチーム天狐衆の追い方を見ておこうとモニターに齧り付くように目をやった。
「では、最初のチャレンジャーは…オリンピック陸上100m走9,77を記録。彼の俊足に着いていける日本人はいないと豪語する。オリンピック金メダリスト倉野(そうや)武文〜!」
紹介と共に現れたマッチョの男がみんなに手を振る。有名人のようだけど時行は知らない。倉野はステージの真ん中にいる。対する天狐衆はステージの端っこで待機していた。
「それでは倉野選手、逃走時間は…」
「もちろん、2時間だ!」
「おぉ〜!大胆にも最大の2時間を選びました。」
「いいね。」
風祭がニヤリと笑う。パルクール鬼ごっこが始まる。倉野はすぐに天狐衆がいるところから離れる。
『さぁ、始まりました!パルクール鬼ごっこ!序盤はどんな感じで逃げるでしょうか?』
『倉野選手の強みはやっぱり足ですね。瞬発力もあるので見晴らしのいいところに行けば有利に立てるでしょう。』
「春夏は右、秋冬は左、キツツキ陣だ。」
「「「「御意。」」」」
風祭が指示すると二手に別れて走って行った。倉野がある程度引き離したと思い歩く。
「俺はマラソンだっていけるスーパースターだ。たかが2時間。逃げ切れる。」
倉野が笑っていると目の前に友秋と正冬が現れた。
「もう見つかった!」
『もう見つかった!』
『加賀地選手と杉選手の強みも倉野選手と同じ足です。2人とも倉野選手の思考を読んだようですね。』
倉野が走って逃げる。しかし、春馬と夏に行く手を塞がれた。倉野はすぐに近くにあるビルの非常用階段を駆け上がった。すると、春馬と夏が連携し春馬が夏を高く飛ばした。それに合わせてジャンプした夏が倉野の前まで迫る。
「何!?」
『来ました!久瀬選手と四条選手の合体技!』
『あれはお互いのタイミングが合ってないと大怪我する可能性がありますから信頼関係が成り立ってないと出来ませんね。』
倉野は慌ててビルの中に入る。鍵をかけて時間を稼ぎ階段を探す。しかし、下から音が聞こえる。外からはピュー、ピューと鳥が鳴くような声もする。何が起きているか分からずとにかく屋上を目指す。もう少しで屋上に着く。最初から全力疾走だったためツカレがきている。屋上の扉を開ける。その時、
「見〜つけた。」
『おぉっと!先回りしていた風祭選手が倉野選手を追い詰めた!』
目の前に風祭がいた。倉野は逃げようとするが後ろには既に正冬がいる。
「な、何故ここに…」
「テレビ見てない?俺にかかれば僅かな突起でさえ足場になる。このビルの窓を伝っていげはお前より速く着く。」
風祭が近付く。倉野はなんとかして逃げようと走るも先回りされる。
「お前は狐の罠にかかった哀れな子兎だ。」
風祭が倉野の肩にタッチする。
「240万ありがとさんっ。」
『な、なんと7分で決着!』
スピード決着にみんな驚く。時行も驚いていた。壁の僅かな綻びや窓枠に足をかけて猛スピードで登っていったこと、隣のビルとの間を蹴って登っていったこと、そしてその全てを全力でやっていたのに一切息切れしていないこと。技術や度胸だけではない何かが時行のハートを掴んだ。
「凄い…」
(やっぱり君は…)
それから次々とチャレンジャーが出ては天狐衆に捕まって行く。しかも、時間は全て10分以内だった。
「これで400万、今日も大量大量荒稼ぎ♪」
「相変わらずの守銭奴だな。」
「いやいや、守銭奴なんてもんじゃない。守銭王だ。」
「そうだったそうだった。」
正冬の軽口を軽口で返す。最後よチャレンジャーを見て風祭は眉を顰める。
「ラストは子供か。」
「大方、小学校の鬼ごっこで強いから出たとかいうタイプだろ。俺達なら数分でいける。」
「そうだな。420万プラス出演料ガッポリいただきますか。」
天狐衆が時行の前に出る。時行は風祭をジーと見て動かない。美濃が指定の位置に行くように促すとペコリとお辞儀して向かった。
「それでは時行選手、逃走時間は?」
(こいつもどうせ10分だろ。)
「最大で!」
「!?」
時行の選択に驚く。あれを見て2時間逃げ切れるつもりでいるのか?そう思うと笑えてくる。
『なんと!?倉野選手に続いて北条選手も2時間を選びました!』
『これは意外ですね。てっきり10分でいくものと思ってました。』
『私も10分を選ぶものと思ってました!これは面白くなってきました!』
「いいねぇ。そういうの大好きだぜ。金がガッポリ手に入る。さて、金儲けを楽しむか。」
令 和 鬼 ご っ こ
パ ル ク ー ル 鬼
《 天 狐 衆 》
遂に時行の鬼ごっこが始まった。とにかくいろんなところを走って見る。すると、突然目の前に友秋が現れた。後ろには正冬。挟み打ちにする感じで迫ってきた。時行は塀を足場にして垂直に走ると友秋の手を避け後ろに逃げた。
「何!?」
友秋が後ろを見るが既にいない。すると、正冬が突撃してきた。
「友秋!後ろだ!」
「どこだ!?」
「お前の背中に張り付いている!」
友秋が後ろを見ようとするも時行は視界に入らないように上手く躱した。正冬が近付くと友秋の肩に乗って近くの家の屋根に跳び移った。
『凄い!最初の会合で捕まる人がほとんどの中、北条選手が加賀地選手と杉選手を華麗に躱した!』
『これは予測出来ませんでしたね。期待大です!』
「あのガキ!」
「慌てるな。まだ時間はたっぷりある。」
そう言うと正冬は口笛を吹いた。それを聞いた春馬も口笛を吹く。電柱の上から聞いていた風祭がニヤリと笑う。
「へぇ。思ったよりやるみたいだな。」
時行は屋根の上を走る。そこに今度は夏が現れた。電柱を忍者のやうに走りジャンプして時行の前に出る。時行の後ろには春馬がいる。
「凄いね君。今までの人は最初で終わってたのに。」
春馬が走る。それに合わせて夏も走る。時行は右に走ってジャンプする。向かいの家の屋根に着地して逃げる。それを追うように2人もジャンプする。時行は飛び降りて公園に入る。春馬と夏も左右に別れて時行を追いかける。
『北条選手どうする!?このまま残れば久瀬選手と四条選手に捕まる!さらに風祭選手も向かっている状況、万事休すか!』
時行はジャングルジムの上に乗って見渡している。左右から春馬と夏が迫ってきている。春馬がジャンプしてジャングルジムの上まで行く。すると、時行はちょっと動いてジャングルジムの中に入った。そこに夏が入る。時行はすぐにジャングルジムから出る。夏は柔らかい身体を活かしてジャングルジムから出る。春馬が時行の上から追う。時行はまた避ける。春馬の怒涛の攻めを全て避ける。
(髪すら触れることが出来ない…)
夏が時行の後ろに回る。夏が腕を伸ばす。時行が春馬から避けて後ろに下がる。しかし、夏の腕がまだ迫っていた。時行は驚く。夏の腕が伸びていた。
「凄い。」
「これでもダメか。」
夏は伸ばした腕を元に戻す。関節を外して一時的に腕を伸ばしていたのだ。時行は初めて見る技にワクワクしていた。そこに風祭が現れる。
「いいぞお前!楽しくなってきたじゃねぇか!」
「私もです!」
両者止まることなく走る。すると、時行が風祭の股下を滑り込んだ。風祭と夏が驚く。夏は勢い余って風祭に打つかりそうになる。風祭は咄嗟に夏を掴み巴投げの要領で夏を時行の方へ投げた。真上を通る夏を見て時行は興奮する。
『ここで天狐衆の即席技が炸裂!』
『天狐衆はその場の判断が優れています。臨機応変。彼らにピッタリの言葉ですね。』
「捕まえた!」
夏が再び関節を外して腕を伸ばす。時行はそれを下がって避ける。その後ろには風祭がいる。すると、時行は再び前に走りジャンプして夏の背中を足場にしてまたジャンプした。
『なんと!北条選手、これを躱した!』
時行のプレーに観客席は盛り上がる。中川と麗子も拍手していらが両津はしかめっ面をしている。
時行は裏路地に入り逃げる。前に正冬が待ち構えていた。時行は非常用階段を駆け上がる。そこに友秋と夏が来た。友秋は昇っていく時行を見つけると夏の方を向いて両手を前に出した。夏がジャンプして時行の両手に乗る。友秋はそのまま力一杯夏を投げた。
「凄い!」
2人の連携を見た時行は興奮している。夏が時行の前まで跳ぶない
「これで終わりよ!」
夏が迫る。すると、時行は夏に向かってジャンプした。夏が身体を捻って避ける。時行は楽しそうに落下する。観客や視聴者が目を覆う。下には春馬達が待ち構えている。時行は窓枠に手をかけると窓を開けてビルの中に入った。
「なんなのあの子!?」
「夏、お前は直接追え!俺達が逃げ場所を塞ぐ!」
風祭以外の全員がビルに入る。時行はオフィスに入る。夏が追いかけてくるのを感じると机の陰に隠れた。夏が入る。かなり走ったため息が切れそうだ。夏が奥に行く。バレないように入れ替わりオフィスを出る。その瞬間、夏が時行を見つけ追いかけた。しかし、時行の足が速くなっている。いや違う。自分の足が遅くなっているのだ。疲労が溜まっている。
別階では正冬が右足を抑え春馬が壁に凭れていた。友秋も時行を捜しているがぜぇぜぇ言っている。その間に時行は屋上に出た。まだ誰も居ない。
『北条選手、凄い逃げっぷりだ!もうすぐ1時間経過しようとしています!』
「時行すげー!」
テレビで見ていた弧太郎が興奮する。観客席も大盛りあがりだ。風祭の姿は見えず夏達はスタミナの限界が来ていた。このままいけば逃げ切れる。そう思っていた。両津以外は。
「どうしました先輩?」
「ここまではいい。わしもここまでなら逃げれた。しかし、問題はここからだ。」
両津がモニターをじっと見る。時行は誰も来ないのかなと入口を見る。その瞬間、後ろからフェンスを登って風祭が現れた。
「風祭玄夜。全力で逃げたわしを簡単に捕まえた。しかも、奴は一切息切れしていない。奴の体力は無尽蔵かと言いたくなるレベルだ。」
時行の前に跳び下りる風祭。両者向かい合う。鬼ごっこ終了まであと1時間…