派出所で両津と時行が鍋を食べている。そこに椎名が来た。
「両津先輩。何しているんですか?」
「椎名か。食べてみるか?」
両津に誘われ鍋の肉を食べてみる。
「美味しいですね。何の肉ですか?」
「猪だ。」
両津の発言に椎名は吐きそうになった。
「い、猪!?」
「何驚いてる。普通に美味いだろ。」
「確かにカマキリと比べると抵抗感はありませんけど。」
また食べてみる。今度は違う食感がした。
「これは…猪じゃない?」
「よく分かったな。それは鹿だ。」
「し、鹿…」
椎名が複雑な顔をする。
「最近は猪や鹿を料理するジビエ料理が流行っている。」
「ジビエ?」
「狩猟で捕獲した鳥獣の肉のことだ。主に秋の鳥獣は旬で美味いぞ。」
「はい。私も昔はよく鹿などを狩って食べていましたよ。」
「時行様、野生児すぎません?」
美味しそうに鍋を食べる時行。両津は猪肉を食べながら考えた。
「そうだ!ジビエ部を作ろう!」
両津は早速中川とボルボを誘い葛飾ジビエ部を設立した。
「ジビエか…この前の南北朝体験の時にやったな。」
「それと同じ感じでOKだ。」
「害獣駆除も兼ねているんですよね?」
「そうだ。土地開発の影響で人里に来てしまった鹿などを追い払うか仕留めるのが本来の目的だ。」
両津はショットガンを構え調整する。
「さすがブローウィング製。なかなかいい。」
「両津。狩りならショットガンよりもウィンチェスターM1892ライフルの方がいいぞ。これなら50ヤード先の鴨も撃ち抜ける。」
ショットガンやライフルの準備をする両津達。しかし、時行だけは弓矢だった。
「時行だけ昔すぎないか?」
「時行にライフルはまだ早いし慣れた方でやるのが1番だ。」
両津のところに早速依頼が来る。人里に鹿が降りてきて畑を荒らしているとのことだ。両津達はすぐに向かう。到着した時には既に鹿は居らず荒らされた畑だけがあった。
「これは酷いな。」
「年々住処を追われた動物達による害獣被害が増えています。」
「最近じゃ猿や熊まで来るようになったからな。」
「自然との共存が問題になっていますね。」
応援に来た猟友会の人達と一緒に山に入る。探している途中、猟友会の1人が時行を見ながら両津に聞く。
「いいのかい?子供なんかがこんなところに来て。」
「安心しろ。時行は自分の身は自分で守れるし狩りも出来る。」
「そもそもなんで弓矢?」
猟友会の人ご聞いていると銃声がした。両津達が慌てて行くと猟友会の1人が鹿を仕留めた。
「仕留めたぞ。今日は鹿肉でやるか。」
「昨日の猪肉もあるぞ。」
猟友会の人達の会話を聞いた両津はいいことを思い付いたと猟友会のところに行った。
後日、葛飾主催でジビエフェスタを開催した。鳥獣被害やジビエの魅力などを地域の人達に知ってもらおうと両津が中心となって運営を始めた。
「葛飾でジビエですか。」
「東京は鳥獣被害がまだ少なく認知度も低いから馴染みがない。こういう機会がないと誰も興味を持たん。」
中川と両津が来場者達を見る。参加してくれる店も多く大繁盛だ。みんな、興味津々でジビエ料理を食べている。両津がジビエフェスタは成功だろうと思っていると聞き慣れた声が聞こえた。
「やぁ両津。」
「お前は…翻堕羅親父!?」
そこにいたのは翻堕羅親父こと麻里晩だった。後ろには翻堕羅拳法の門下生達もいる。
「なんでお前がこんなところにいるんだよ!」
「私達も修行の一環で狩猟もしているのだ。ここにも翻堕羅ジビエとして出店しているぞ。」
両津がえ〜と嫌な顔をする。
「素手で狩猟しているから環境にも優しいぞ。」
「そんなん出来るのお前か爆竜だけだ。」
時行はジビエフェスタを見回っている。自分が生きていた時は当たり前だと思っていたことが今の時代では珍しい催しなんだなと実感している。すると、見慣れた人達がいた。翻堕羅の門下生達だ。時行は目を点にして見る。そこに麻里晩が来た。
「両津がおるなら君もおると思っていたぞ北条時行。」
「お断りします!」
「まだ何も言っとらん!」
時行はすぐ逃げる。その後を追う麻里晩。居なくなってから両津が来ると今日子が門下生達と一緒にジビエ料理を出していた。そこにはマリアもいる。
「ここか。」
「いらっしゃい。」
「両様!」
両津は猪肉のカレーをいただく。
「美味いな。」
「でしょ。最近あの人がハマっていて。」
今日子は時行を追いかける麻里晩を見て話す。ステージでは女性のハンターが猟銃や罠の解説をしていた。来場者は説明に聞き入っている。
「昔は狩猟なんて野蛮って言われてた時もあったのに。」
「ゲームで動物を殺すなとかいろいろ言われていたが鳥獣被害が増えてからはハンターの需要が高まりだんだん認知されていくようになった。」
両津がステージを見る。
「今、空前のジビエブームだ。ジビエ料理だけではなく鹿角のキーホルダーや毛皮の絨毯も人気だ。これを機に狩猟に関するイメージが変わってくれるといいな。」
ステージからハンター達が降りる。次に上がってきたのは高校生達だ。高校のジビエ部らしい。
「高校生もジビエか。」
「ええ。ライフルは無理ですが罠による狩猟なら簡単に出来ると最近増えていますよ。」
後ろにいた中川が教えてくれた。そこに麻里晩から逃げて来た時行が鹿角のキーホルダーを持ってきた。
「買ってきましたよ!」
「逃げながら買ったのか。」
「さすが時行君ですね。」
「まったくだ。是非翻堕羅拳に入ってほしい。」
「ひぃ!」
「あなた!」
麻里晩に驚く時行を見て今日子が叱る。両津はその隙に時行を別のところへと移動させる。周っていると射的ゲームをやっているのを見つけた。
「時行、あれやってみないか?」
「あれですか…」
時行は射的ゲームを見て考える。一度やってみようと射的ゲームに向かう。やってみたはいいものの一発も当たらなかった。時行はむず痒い顔をしていた。
「まぁ、これは慣れだ。」
「弓矢なら百発百中なのですが。」
「それが本当だから怖い。」
時行は参加賞のお菓子を食べている。両津も猪肉のミネストローネを食べている。
「そう言えばそもそもジビエってどんな意味なんですか?」
「え、え〜と、英語で…」
「英語じゃないですよ先輩。ジビエはフランス語で食材となる野生鳥獣肉を表しています。」
両津の代わりに中川が答えてくれた。
「中川は狩りとかしたことあったっけ?」
「イギリスにいた時に皇太子と一緒に鴨の狩猟をしたことならありますよ。」
「さらっと皇太子と一緒って言いやがった。」
中川の自慢を嫌な感じで聞いていると悲鳴が聞こえてきた。なんだと思い悲鳴が聞こえたところへ走る。そこにアナウンスが流れてきた。
『只今、会場に熊が侵入しました。落ち着いて避難してください。繰り返します…』
「熊だとぉ!」
両津が逃げる来場者達の間を抜けながら走る。時行は途中違うところへと行った。両津が熊を見つける。2頭の子熊を連れた母熊のようだ。
「寝床を見つけれなかった家族ってところか。」
子熊の1頭が興味本位で逃げる来場者達のところへ走って行った。両津がまずいと思った時、マリアが飛び出て子熊を抑えた。子熊は恐れることなくマリアにじゃれ着く。普通の人間なら怖がって逃げるだろうがマリアは子熊を逆に可愛がっていた。
「さすがマリア!」
「だが両津。母熊が黙ってないぞ。」
ボルボが母熊を見る。子熊が襲われたと判断したのかマリアへと向かって走る。マリアは避けるが母熊は興奮している。両津は後ろにいた麻里晩を前に出す。
「行け!素手で狩猟出来るんだろ!」
「無理だ!熊だけは無理だと言っているだろ!」
麻里晩は全力で抵抗する。母熊の狙いが叫んでいる麻里晩に向かう。ボルボがナイフを取り出す。遠くから中川が猟友会の人に聞く。
「麻酔弾は!?」
「ない!それにここは人が多い!こんなところで猟銃は使えん!」
ボルボとマリアが前で構える。母熊が突撃する。その瞬間、母熊の前に矢が刺さった。両津達が見上げると時行が弓矢を構えていた。時行はそのままジャンプして降りると母熊の前に立った。
「危ないぞ!」
「待ってください!」
猟友会の人達が本物の猟銃を取りに行こうとするのを中川が止めた。母熊は時行の前で止まる。警戒して唸っているが時行は両手を拡げたまままっすぐ見つめる。
「時行…」
両津達が固唾をのんで見守る。すると、母熊は子熊を連れて近くの店にあったジビエ料理の材料を引っ張り出し咥えて去って行った。それを確認した時行は一安心とため息をした。
「驚かせやがって。」
両津が時行の頭をくしゃくしゃする。猟友会の人達はその光景を見て驚く。
「なんだあの少年。」
(時行君にとっては熊は怖いものじゃないですしね。)
それからは警戒は強めたもののそれ以上問題が起きることなくジビエフェスタは終了した。
翌日の派出所
「やっぱり北条も翻堕羅拳に入って愛の代わりに翻堕羅拳総帥になってくれ!」
「嫌です!無理です!助けてください!」
「毎回誘ってるな。」
翻堕羅拳に勧誘する麻里晩から全力で逃げようとする時行だった。