ある日、朝早くから弧太郎がモモの散歩をしていた。急いで公園から学校に戻ろうとしていると転けてしまった。起き上がり膝を見る。擦りむいてしまい血が出ていた。
「痛ってぇ。」
「大丈夫?」
後ろから声が聞こえた。振り返って見るとランドセルを背負っている少女がハンカチと絆創膏を持っていた。少女はハンカチで血を拭うと絆創膏を貼ってくれた。
「これでよし!もし痛むのでしたら保健室に行ってくださいね。」
「は、はい…」
「いつもモモの散歩ご苦労さま。」
少女はニコッと笑うとそのまま去って行った。その日、弧太郎はボーッとしていた。授業中も上の空といった感じだ。それを不審に思った亜矢が時行達を集める。
「弧太郎君、変な病気にかかってるかも。」
「大袈裟です。」
弧太郎を見る。周りの子達が声をかけるも反応していない。
「直接聞いてみたらどうでしょうか?」
「それが1番でしょうかね。」
時行が聞いてみる。
「どうしたの?」
「…」
上の空だ。何言っても反応しない。その時、弧太郎がガタンッと立ち上がり教室を出た。何事だと時行達も追いかける。しかし、弧太郎は廊下で意気消沈していた。トボトボと教室に戻る弧太郎。
「何があったんだろう。」
「多分、誰かを追いかけてた。」
静が話す。弧太郎が出て行く直前、教室の前を少女が通りかかっていた。もしかしてと思い弧太郎に聞く。
「弧太郎君、誰かに惚れた?」
ギクッとする弧太郎。この時点で確信したがもう少し聞いてみる。
「さっき通った人のことが好き?」
「な、べ、べ、べ、別に…そんな…こと…ないっす…よ…」
「捜して連れてこよう。」
「待って静!」
弧太郎が叫ぶ。弧太郎はやっと正直に話してくれた。
「今朝、転んだ時に絆創膏くれた人に一目惚れっすよ。」
「ランドセル背負っていてモモを知っているなら確かにこの学校の生徒だよね。」
「見つけた。」
「早っ!」
静が戻って来た。スマホで撮影したらしく画像を見せる。それを見た弧太郎の顔が赤くなる。この人だと確信した。
「名前は浅野理愛。3年C組で保健委員。好きな食べ物はチョコレートで縄跳びが得意。動物は犬が好きで恋愛小説や歴史小説にハマっている。」
「なんでそこまで分かるの!?」
静の情報収集力に驚愕する渚。
「理愛先輩か…」
「これは恋煩いという病気だね。」
「治療法とかあるの?」
「告白が1番だね。」
「無理っす!」
弧太郎が頭を抱える。
「確かにいきなり告白はハードルが高いでしょう。ここは今朝のお礼として遊びに連れて行くというのはどうでしょう?」
「それいいかも!」
亜矢が弧太郎ラブラブ大作戦と称して弧太郎を理愛のところへと連れて行った。保健室から出て来たところに突き出す。弧太郎は心臓のドキドキを鎮めながら息を整える。
「その…今日どこか遊びに行きませんか!?」
「早いよ!」
陰から見守っていた渚がツッコむ。明らかにテンパっている弧太郎にどうしようか考える。
「は、はい。いいですよ。」
なんとOKしてくれた。それを見て喜ぶ時行達。教室に戻った弧太郎はウキウキしている。
「良かったね!」
「問題はこれからですよ。どこに遊びに連れて行くつもりですか?」
「確かに考えてないっすね…あれ?これってもしかして…デートっていうやつっすか?」
「気付くの遅い。」
弧太郎が急に顔を赤くする。仕方ないと時行達がデートプランを考えてくれた。ここから近くて子供だけでも問題ない場所。そう簡単には見つからない。
「弧太郎の家は?」
「ハードル高すぎます。」
「レストラン。」
「子供だけじゃあちょっと行きにくいかも。」
「公園はどうですか?」
「無難ですね。」
時行達が考えたデートプランを弧太郎に伝える。放課後、弧太郎は理愛を連れて下校デートをする。近くの店でたい焼きを買って公園で食べる。その様子を後ろから時行達が見守っている。
「私、寄り道なんて初めてです。」
「そ、そうなんすね!」
弧太郎がギクシャクしている。早く何か言えと念を送る。伝わるわけはない。それでも弧太郎は口を開いた。
「その!今朝は絆創膏ありがとうございまっす。」
「最後おかしくなかった?」
「言ったらダメ。」
弧太郎がお礼を言う。理愛は笑顔で答えてくれた。
「いえ。私は保健委員なので当然です。弧太郎君も毎日モモちゃんの世話ありがとうございます。」
「お、俺も飼育委員になったもんで…」
ぎこちないがいい感じにはなっている。そのまま公園を散歩して自販機でジュース買って帰って終わった。
翌日、弧太郎が緊張していた。
「大丈夫?」
「お、俺…今日告白してみるっす。」
「早くない?」
モジモジしている弧太郎。そこに静が来た。
「理愛先輩も告白するかどうか迷っているみたい。」
「どこからそんな情報を掴んでくるの?」
静の情報に驚く渚。弧太郎はもしかしてと思いさらにモジモジしてしまう。時行はそんな弧太郎の思いに応えるべく昼休みに理愛に会いに行った。理愛は保健委員として保健室にいる。
「すみません。」
「はい。」
保健室には理愛だけがいた。時行は一礼して入る。
「どこか怪我されました?」
「い、いえ!実は…」
時行は理愛の前に座る。
「あ、あの理愛さん!」
「なんでしょうか?」
「理愛さんって好きな人とかいるのでしょうか!?」
直球で聞いた。すると、理愛は顔を赤らめモジモジしながら答えた。
「はい。います。」
「どんな人なのですか?」
理愛は時行を見ながら答える。
「初めて知ったのは運動会の時でした。」
(うんうん。)
「その人は騎馬戦の中、上級生にも負けず…」
(うんうん。)
「かっこよく戦っていました。」
(弧太郎だ!)
「そして、最後の笑顔ご凄い可愛くて素敵でした。」
(やっぱり弧太郎だよ!)
時行はキラキラした目で理愛を見る。彼女が好きなのは弧太郎だ。そう確信していた。
「でも、自分の思いはこのまま秘めたままにしようと思っています。」
「なんで!?」
「その人には私より素敵な人がお似合いだと思います。私は可愛くないですし引っ込み思案で奥手で運動が苦手でその人には相応しくないと思っています。」
このまま理愛の思いを弧太郎に伝えることもなく終わってしまうのは良くないと判断した時行は詰め寄る。
「そんなことありません!弧太郎が言っていましたよ。あなたは優しい人だと。私は見た目や性格だけで好きになるとは思いません。」
理愛が顔を上げる。
「その人がどんなことをしてきたかが大切だと思います。あなたは弧太郎に絆創膏をあげた優しい方です。弧太郎はその優しさに惚れたのです。」
勢い余って弧太郎の好意を伝えてしまう時行。
「きっとお似合いだと私は思います。いえ、確信しています!だから自分に自信を持ってください!弧太郎に自分の思いをぶつけましょう!きっと思いは届きます!」
「あ、ありがとうございます。」
時行は満面の笑みで保健室を出た。その放課後、弧太郎は理愛を中庭にある大木の下に呼んだ。亜矢がそよ大木の下で告白すると絶対成功するという噂を聞きつけたのだ。
「そ、その…」
陰から時行達が見守る。いい雰囲気だ。
「昨日今日でいきなりだと思うっすけど…どうしても伝いたいことがあるっす。」
「はい…」
「俺、理愛さんが好きになりました!」
時行達はきたー!と喜んでいる。このまま理愛が告白を受け入れてハッピーエンドまっしぐらだ。
「俺と付き合ってください!」
「あ、ありがとうございます。そう思ってくれて嬉しいです。」
もうここまできたら告白は大成功だ。そう思いながら見守る。
「私も自分の思いを伝えます。」
「は、はい!」
「私…時行君が好きです!」
「はい?」
弧太郎の目が点になる。時行達の目も点になる。
「え?え!?」
「初めて運動会で弧太郎君のことを全力で応援したり騎馬戦でかっこよく勝利したり最後の笑顔がとても素敵で…それに時行君は私の嫌なところも受け入れてくれました。」
「あ、あれ?」
「どうしたの時行君?」
「昼休み会った時は弧太郎が好きだと…」
時行が慌てる。
「その時はなんと?」
「運動会の騎馬戦で上級生相手にかっこよく戦って最後は笑顔が素敵だと…」
「それ、時行のこと。」
「私もそう思う。」
「私も。」
「僕も。」
静達がジト目で時行を見る。時行は冷や汗を掻きながら弧太郎を見る。初めての失恋が友人に恋したからと知った弧太郎の顔が白くなっていた。
「どうするつもりで?」
「私は…」
雪長達が弧太郎に同情している間に時行はすぅ~と消えるように逃げた。その後…
「時行はどこっすかぁ!?あの逃げバカはどこにいるっすぅ!?」
「時行君なら両さんにモテない方法で伝授してもらうって言って下校したよ。」
涙目でバットを持ち教室に突撃してきた弧太郎に答える亜矢だった。