パルクール鬼ごっこ終了まであと1時間
今までにない白熱した鬼ごっこに観客も視聴者もワクワクドキドキが止まらない。もしかしたら初の逃げ切り成功者が出るのではないか。そう思えてくる。そんな状況でも風祭は余裕だった。
「北条時行。はっきり言って君をナメていた。その無礼を詫びよう。」
「は、はい。」
「そのお詫びとして…」
風祭は狐の面を取って時行に素顔を見せた。
「ここからは本気でお相手しよう。」
『な、なんと〜!風祭選手がテレビ初!仮面を取って素顔を見せましたー!』
『凄いことですね。パルクール世界大会でも取ったことない仮面を取るなんて。それほど本気だという意思表示でしょうか?』
(わしの時は本気ですらなかったのか。)
風祭の素顔に会場が湧く。なかなかのイケメン好青年だ。両津は苦虫を噛み潰したような顔をしている。時行は狐の面が気になっている。
「そのお面は?」
「こいつか?こいつは先祖代々受け継いできた由緒正しいお面らしい。うちの家系はこのお面と人並み外れた身体能力…それとお金にがめついところも受け継いでいるらしい。」
風祭の言葉に時行はキラキラさせている。風祭も時行を見て笑う。面を頭の横にかけて構える。時行も興奮しながら逃げる体勢をとる。
「さぁ、ここからは金儲けじゃない。純粋に鬼ごっこを楽しもうじゃねぇか北条時行!」
「はい!」
2人同時にビルから跳び下りる。そのままビルの壁を蹴って移動しジャンプする。互いの顔が数センチまで迫る。
︽ 令
風 和
祭 忍
鬼
玄 鬼 ご
夜 っ
︾ こ
風祭は笑いながら時行を追いかける。住宅街を縦横無尽に駆け回る。時行が屋根の上を走っていると風祭は電柱に登り電線を駆けながら時行を追いかけた。
「まるで本当に忍者みたいね。」
風祭を見た麗子が感想を言う。
「わしはあいつを気に入っている。」
「そうなの?」
「ああ、金にがめついところを隠さないところとか。」
「そこですか。」
威張る両津に中川が呆れる。時行は風祭を見ると方向を変える。風祭は電線からジャンプして上手く回転しながら屋根に着地する。
「今は夜。俺の時間だ。」
風祭が猛スピードで追いかける。その速さは凄まじくあっという間に時行に追いついた。風祭が連続で腕を伸ばし時行を捕まえようとする。時行も紙一重で避け逃げ続ける。
『こ、これは…凄い!私の語彙力の無さを恨んでしまうほど2人の攻防が凄い!』
美濃も実況を忘れてしまうぐらい凄まじい攻防だった。時行がするから離れて逃げる。家の庭に入って突っ切ろうとした瞬間、風祭が窓ガラスを割って現れた。時行の逃げるルートを予測して真っ直ぐ進んでいた。
(凄い…!)
時行は間一髪で避ける。ガラスの破片も避ける。ガラスに反射した自分の紅潮とした顔が写る。凄く楽しそうだ。ガラスが飛び散る中で両者の鬼ごっこが繰り広げられる。風祭が腕を伸ばす。それに対し時行は両手を前にかざす。両手の間に風祭の腕が入る。その瞬間、右に避け風祭の腕を弾きながら家に逃げ込んだ。
「そういう技があるんだ。こいつはすげぇや。」
風祭はコォォと変わった呼吸をすると時行を追って走り出した。時行が割れた窓から出る。そのままビルがある方向へ走る。その後を追う風祭。さっきよりも元気に跳んでいる。
「時行君もですけど風祭も凄いですね。先輩の言う通り無尽蔵のスタミナがあるみたいです。」
「いや、違う。」
両津がボソッと呟く。何か気付いたようでモニターを凝視する。風祭が時行の前に出た。時行はバック転して避ける。時行からはぁ…はぁと吐息が聞こえてくる。風祭をニヤリと笑う。
「疲れただろ。」
「は、はい。凄いですね。あなたは疲れてないのですか?」
「俺は独自の呼吸法で疲労などを全て回復させている。スタミナが無限にあるわけじゃなく即全回復ってわけだ。簡単にいえばスタミナ版ベホマだ。」
簡単に言われても分からない。時行はなんとなく凄いことをしているのだとは思っている。
「この呼吸法で俺は龍馬マラソンだろうがトライアスロンだろうが全力でやっても疲れねぇ。俺はこれを風の呼吸と呼んでいる。」
「待ってください。その呼び方はいけない気がします。」
風祭がなんでと聞くも時行はブツブツ言っているだけだった。
「あれ?何故それを私に教えたのですか?」
「確かにこういうのは隠してこそだがお前相手には全てを晒して勝ちたくなった。」
風祭は再びコォォと呼吸すると時行に向かって走り出した。時行も風祭の猛攻を凌ぐがだんだんと、だが確実に体力が消耗されていった。
「そういえば、お金が好きなんですか?」
「そうだ。うちの家訓が信頼出来る相手でも末代まで金を毟り取れだせ。前も俺に依頼してきたくせに依頼料払わない女がいた。」
「まさか、ゴキブリとおしっこを混ぜて炊いた…」
「いや、そこまでしてねぇ。風呂場にゴキブリ100匹放っただけだ。」
(玄蕃だぁ!)
時行は目を輝かせている。しかし、モニターで聞いてしまった他の人達はドン引きしていた。
「そこも先輩と同じですね。」
「やかましい。」
中川の発言に両津は目を反らす。
「あん時は死ぬほど叫んだわ。」
「あれ、お前かよ!」
「肥溜めにも突き落とされたこともあったわね。」
「お前らよく仲良く出来るな。」
正冬達が夏を引きながら見ていた。そんな状況になっているとも気付かず時行と風祭は鬼ごっこを続けている。小さな身体を活かしてすばしっこく逃げる時行に対してパルクールを活かして豪快に追い詰めていく。
「楽しいな時行!」
「はい!」
ワクワクしながら逃げる時行。忍者のような動き、金にがめつい性格、報復にゴキブリを使うところ、そして受け継がれているという狐の面。それらは時行にとって身近にいた人物と同じだった。
あの時のことを思い出す。初めて会った日、2人で忍び込み、逃げた夜。あの日のワクワクが蘇ってくる。
『なんと!たった今残り時間が30分を切りました!番組史上最長!両津選手を超えました!これはもしかするか!番組初の逃げ切り成功!』
美濃が叫ぶ。それを聞いた風祭は追いかけながら時行に話しかけた。
「そういえばお前の名前、武将みたいだな。もしかしたら、俺の先祖の主がお前の先祖だったりしてな。」
(いえ。あなたの先祖の主が私です!)
時行はワクワクが止まらない。時行は確信していた。
(玄蕃!今、私は…君の子孫と鬼ごっこしているぞ!)
舞うように跳ぶ時行。マンションの階段を駆け上がる。風祭も追いかけるように駆け上がる。屋上まで着くが時行は見当たらない。風祭が捜しながら呼吸しようとした瞬間、壁にぶら下がって隠れていた時行が飛び出し風祭に近付いた。
「何!」
風祭が捕まえようとするもすぐ逃げる。風祭は離れて呼吸しようとするもまた時行が接近してくる。それを繰り返し始めた。
「なんか急におちょくり始めてないか?」
「調子に乗ってるな。」
「先輩、あれって…」
「時行…」
観客席からは時行がナメプを始めたと思っているが風祭は違った。だんだん息が荒くなる。頬を紅潮させ楽しんでいる時行が目に写る。
(こいつ、俺に呼吸をさせない気か!)
風祭の呼吸法はすぐにスタミナが全回復する。もし使われたら敗北してしまう。ならば使わせないように絶え間なく接近と逃走を繰り返した。
「いいぜ!残りの体力全賭けだ!」
風の呼吸を止めて時行を追う。時間は後僅か。ここが最後の攻防となる。風祭の攻撃は激しくなるが隙も増えていく。その隙を見逃さず時行は逃げまくる。すると、時行は風祭の後ろに回ると離れて逃げた。階段は逆側。風祭はもちろん時行を追う。
(そこには逃げれる場所はない。来るとしたら転回して俺の後ろにある階段が一番安牌だ。今の俺ならどう逃げようと捕らえられる!)
風祭は確信する。確かに今いるマンションは10階建で時行が走っている先の壁に掴めるところもない。着地出来そうな建物もない。それでも時行は足を止めない。風祭がまさかと思った瞬間、時行は何の躊躇いも無く屋上から跳び下りた。
「マジか!?」
さすがの風祭も足を止めてしまう。観客席からは悲鳴が聞こえる。風祭が屋上から下を覗くと時行が壁を上手く蹴りながら車の上に着地した。そのまま走って行く。
「ははは…マジかよ。俺よりイカれてるぜ。」
パルクールに一番必要なのは体力じゃない。技術でもない。ならなんなのか?それは怖いを超える狂気だ。どんな危険な場所でも憶せず進める精神力がないとパルクールなんて出来ない。
風祭は笑い始めながら仰向けに倒れる。もう追う気はないようだ。
『た、たった今タイムアップ〜!なんと!なんとなんと!番組史上初!逃げ切り成功者が出ました〜!北条時行選手が番組の歴史を塗り替えました!』
『まさか、こんな結果になるとは。予測出来なさ過ぎて途中解説を忘れてましたよ!』
「すげぇぜ時行!」
会場の盛り上がりが最高潮に達した。テレビで見ていた弧太郎も賞賛する。両津達も拍手する。汗を拭う風祭のところに時行が来る。息切れしているみたいだがとても楽しそうだった。
「おめでとう。」
「ありがとうございます!」
「こんな子供がいるなんてな。」
風祭が起き上がり胡座をかく。
「楽しかったです!」
「240万はお前の物だ。まぁ、残りの400万と出演料は全部俺達の物だがな。」
(そこはやっぱり玄蕃だ。)
お互いに笑い合う。そこに夏達が来る。
「珍しいね。あんたがそこまで認めるなんて。」
「認めるしかねぇだろ。はっきり言って俺よりパルクールの才能あるぜ。」
「はい!私も最高の鬼ごっこが出来て楽しかったです!」
「そいつは良かった。」
風祭が立ち上がる。狐の面を着けた風祭が手を伸ばす。時行も手を伸ばして握手する。
「そうだ!また鬼ごっこしませんか!?」
「悪くない提案だが俺達はこれでも忙しい身なのでね。」
「今回の賞金全てあげます!」
「マジで!」
面の下からも分かるぐらい¥に輝いている。風祭はすぐに片膝着いて時行に忠誠を誓う。
「金がある限りあなたに忠誠を誓います。」
「最低。」
掌を返した風祭を夏が罵倒する。残りの天狐衆も口には出さないが風祭の守銭奴ぶりを見て呆れている。
「またいつか鬼ごっこをしましょう!」
「はい。」
こうして、番組が終わり時行は240万円を手に入れた。両津達が待つ駐車場に行く。みんな、拍手で時行を迎える。
「おめでとうございます!」
「おめでとう!」
「おめでとう時行!」
「ありがとうございます!」
時行が照れくさそうに頭を掻く。両津は時行の手にある札束が入った封筒を見る。
「時行、賞金のことなんだが…」
「そうでした!」
両津が言い切る前に時行が思い出したと口笛を吹く。すると、風祭が現れた。時行は風祭に封筒を渡すと風祭は両津達にバイバイして去って行く。
「時行、今のは…」
「約束したんです!今回の賞金をあげるのでまた鬼ごっこしてくださいと!」
「なにぃ〜!?」
両津は膝から崩れ落ちる。中川と麗子は乾いた笑いをする。時行の賞金目当てで応募した結果がこれだった。結局、お金は手に入らなかったが時行は満足していた。