ある日、派出所に相談しに来た人がいた。
「占有屋ですか?」
「はい。事業所のためにビルを買ったのですが何故か知らない人が私のビルに居座って我が物顔で暴れているんです。」
「占有屋ってなんですか?」
相談に来た男性は山根と名乗る。山根と中川が会話する。その後ろで時行が両津に聞いた。
「占有屋というのは担保不動産が競売に付される際に、不動産を占有して担保価値を損なったり、競売を妨害したりして高額な立退料を要求する奴のことだ。簡単に言えば諏訪を不法占拠する足利軍だ。」
「許せませんね。」
「どんな例えですか?」
両津の隣にいた椎名がツッコむ。どうやら占有屋は男女合わせて5人いるらしい。相談を受けた中川は両津にも来てもらって問題のビルに移動する。
「不動産の価値が向上したバブルの時は結構占有屋がいたが今じゃほとんど見かけなくなったな。」
「最近は占有屋に対する罰則も厳しくなり手続きも簡単にはなりました。それでも、まだ占有屋に対する民法や民事執行法、刑法などの改正が検討されている状態です。」
「こういうのは大抵バックにヤクザとかがいるパターンだな。」
「多分そうでしょうね。」
ビルの前に到着する。窓にはカーテンが敷かれており中は見えない。1階はカフェになっているようだが上が騒ぐため客があまり来ないらしい。
「営業妨害でもしょっぴけるだろ。」
両津が2階に上がりドアを叩く。すると、男が出て来た。
「なんすか?」
「ここはあんたらの家か?」
「そうっすよ。」
「証明出来るものある?」
「なんで見せないといけないんすか?」
「警察だからだ。」
太々しい男と両津が会話する。その男を指差して山根が喋る。
「あの人がリーダーの黒岩です。なんでも半グレ集団を率いていたとか。」
「確実に利権狙いのヤクザが後ろにいますね。」
両津が戻って来る。
「どうでした?」
「ダメだな。あいつら、完全に乗っ取ってやりたい放題だ。一声かけりゃあ100人のヤクザが来るとかのたまってる。」
「どうするんですか?」
「とりあえず様子見だ。」
両津達は向かいビルの2階を借りて監視することにした。夜通し監視して見たが誰1人外出することはなかった。
翌日、両津は中川と椎名を連れてもう一度ビルに来る。ノックして待つと黒岩が出て来た。
「またあんたか?」
「調べてみたところ、ここの所有者は山根義邦さんのものと判明しましたが。」
「知らねぇよ。ここは俺達のもんだ。」
中川が書類を見せるも黒岩は知らないと言い張る。さらに、後ろにいた男女が酒を飲みながら来ると書類を奪い取りビリビリに破いてしまったのだ。
「お前ら!」
「こんなの知らないし。」
「出て行け!」
横暴な2人に両津はイラッとしたのか椎名の眼鏡を外した。その瞬間、椎名は怒鳴りながら突入した。
「グダグダうるせえ!出て行けはこっちの台詞だバカヤロー!」
椎名が暴れる。それを中川が慌てて止める。
「暴行罪で訴えるぞ!」
「こっちにはヤクザがついているんだぞ!」
「知るか!」
「下がって!」
中川が椎名を掴み下がらせる。
「先輩、いきなり何故椎名さんを?」
「おかげで隠しカメラと盗聴器を仕掛けられた。」
両津はニヤリと笑う。早速戻って動作確認した。誰も隠しカメラの存在に気付いておらず好き勝手していた。部屋は荒れゴミが散乱している。黒岩達はそんなこと気にせずじゃんじゃん音楽をかけテレビを見たりゲームをしたりしている。
「これは…酷いですね。」
「以前イギリスの番組で見たことありますが占有屋が去った後も電気代や水道代などの出費、ゴミの処理などは家主がすることになっているんです。」
「今時占有屋なんて流行るわけないんだがな。」
両津が呆れながら見る。
『さっきの警官の顔見たか?』
『あのゴリラみたいなブサイクな顔でしょ?ウケるー!』
『一緒にいた女も体は悪くなかったよな?』
『暴力しか取り柄のない脳みそ空っぽ女だったな。』
「あの…両さん?椎名さん?」
両津と椎名の血管が凄い浮き出ている。そこからもいろいろとこちらをバカにして笑っている。時行が2人の顔を見る。子供には見せれないレベルの恐ろしい顔になっていた。中川と山根も慄いている。
『絶対ここを出てやるかよ。』
『どこか知らんがここで寝るだけで結構金くれたしな。』
『ヤクザが後ろにいると言えば警察官も手出しできねぇし楽な仕事だわ。』
「そうか…そんなに出たくないか。」
「両さん。顔が怖いです。」
両津がフッフッフッフッ…と笑っている。時行と中川はこれからヤバいことをするんだなと確信した。
一方、派出所に来た大原部長は両津達がいないことに気付いた。周りをキョロキョロ見回して麗子に聞く。
「両津達はどこ行った?」
「両ちゃんなら圭ちゃんと蘭ちゃんと時行君を連れて占有屋がいるビルに行ったわよ。」
「占有屋?このご時世にまだそんな者がいたのか。」
「さっき電話があってまだ夜通しでやることあるからこっちには今日も来ないって言ってましたわよ。」
「両津の奴、何をしでかすつもりだ。」
大原部長が心配した。その夜、両津は時行を連れてビルに侵入した。山根から借りた鍵でドアを開け音を立てずに各部屋に箱と隠しカメラを設置した。外に出ると両津はドアの前で何か作業を始めた。
「何しているのですか?」
「ドアを溶接している。」
「溶接?」
「開かないようにしている。どうやっても出ないのなら逆に出さないようにしてやる。」
両津が警察官とは思えない邪悪な笑みをこぼす。時行が逆に黒岩達を心配した。
翌日、両津は時計を見ながらビルを監視していた。そこに起きた時行達が来る。
「どうですか両さん?」
「そろそろ起きる頃だ。」
「何がです?」
「待てよ。3…2…1…」
両津が仕掛けた隠しカメラの映像に映っている箱がゴソゴソと動き出した。なんだと思い覗き込むと箱から大量のゴキブリが出現した。それを見た椎名は叫び中川の後ろに隠れた。
「ざっと1万匹のゴキブリだ。祭りの時間だ。盛大に暴れろよ。」
「最悪なことになってませんか?」
「なぁに。多少手荒くしても中川のところで元通りにしてくれる。」
両津がニヤリとする。黒岩達が起きる。目の前には大量のゴキブリ。それを見た黒岩達はパニックになった。壁中カサカサと動き回るゴキブリ達。逃げようにもゴミだらけの床を這いずり回るゴキブリが邪魔で動けない。なんとか黒岩がドアの前まで行くも溶接されたドアが開くことはなかった。
「なんでだよ!?なんで開かないんだよ!?」
女性の服の中にゴキブリが入る。女性が叫びながら服を脱いだ。隣にいた男性に至っては全身ゴキブリだらけになり気絶した。それを見た両津は笑っている。
「どうだ!」
「地獄絵図ですね。」
「阿鼻叫喚だわ。」
「お、恐ろしい。」
「そろそろわしらも出るぞ。」
両津は弓矢を持って時行と一緒にビルの前に来た。拡声器を取り出し語りかける。
「君達!そろそろ出て行く気になったかね!?」
両津の声に反応した黒岩が窓を開ける。
「ふざけるな!こんなことしていいと思ってるのかよ!?」
「なんのことだね?」
わざとらしく惚ける両津。黒岩の後ろではゴキブリ達が飛んでいる。
「俺達の後ろにはヤクザがいるんだぞ!」
「どこのヤクザ?わしの知り合いにもヤクザはいっぱいいるぞ!」
「そ、それは…」
言葉を濁す黒岩。
「そんなの関係ねぇ!さっさとなんとかしろ!殺すぞ!」
黒岩がそう叫んだ瞬間、時行が矢を放ち黒岩の後ろの天井に命中させた。
「その言葉は冗談でも言ってはいかんぞ。ちなみに、時行はいざという時、覚悟しているから出来るぞ。」
「どんな小学生だよ!?」
黒岩が叫ぶ。黒岩以外は全員気絶していた。黒岩が何か投げつけようと探す。すると、矢にくっついていた筒から煙が出てきた。黒岩は涙が溢れパニックになる。
「なんですかあれ?」
「バルサン。わしからの細やかなプレゼントだ。」
「どこが細やかなのでしょうか?」
しばらく待つ。中川から黒岩も動かなくなったと報告を受けた両津が溶接したところを溶かして中に入る。黒岩も気絶していた、両津はそのまま黒岩達を外に出す。
「よし。これで逮捕だ。」
「悪夢に出てきそうですね。」
無残な姿になった黒岩達に同情する椎名。なにはともあれ、黒岩達を追い出してくれたことに感謝する山根。両津達と握手してお礼を言う。
「これで事業が出来ます。」
「いえ。これぐらい…保証はこちらでします。」
「本当は電気やガス、水道も止めようかと思ったんだが。」
「さすがにやり過ぎですよ先輩。」
解決し笑う両津達。しかし、椎名は青ざめた顔でビルを見ていた。
「両津先輩。」
「なんだ?」
「あのゴキブリ達、どうするつもりですか?」
椎名に言われて気付く。ビルの中にはまだゴキブリ達がいる。しかも、その多くがバルサンに耐えていたのだ。両津達は唖然とする。
「先輩。次はゴキブリが占有してしまいましたね。」
「言葉が通じない分厄介ですよ。」
「頑張ってください両津先輩。」
「てめぇら!さっさと戻って来い!」
ビルの中を飛び回るゴキブリ達を捕まえるはめになった両津達であった。