ある日、両津は派出所で温泉特集の雑誌を読んでいた。時行が後ろからヒョコッと顔を出す。
「温泉ですか?」
「そうだ。日本は世界有数の温泉大国だ。草津、別府、指宿、有馬、下呂…と数え切れんぐらいの温泉がある。」
「私も信濃にいた頃はよく温泉に入っていましたよ。」
時行が昔のことを思い出しながら話す。両津は海外からの客も増加傾向にあることを知る。時行が両津を見ると笑っていた。時行はもう何か企んでいると確認した。
「両さん。何企んでるのですか?」
「日本の温泉を世界にアピールするイベントだ。」
両津はすぐに中川に電話した。
それから、数日後。レース場にたくさんの人達が集まった。スタート地点には大量の湯船がある。よく見るとタイヤやエンジンが着いていて車のようだった。
時行が周りを見渡す。参加者達は全員全裸だ。バスタオルだけで体を隠している。テレビの取材も来ているのでさらに恥ずかしい。両津は取材陣に説明していた。
「これはエンジンの熱でお湯を沸かしながら走る画期的な車。その名も温泉カーだ!」
ネーミングのダサさは放っといて説明を続ける。
「1人がアクセルやハンドル操作、もう1人がエンジンを回して風呂を焚く。基本操作は普通の車と同じだ。座席の代わりに底が段になっている。簡単に言えば温泉になったオープンカーだ。」
両津の説明が終わる。温泉カーに戻ると中川が恥ずかしそうに話しかけた。
「先輩。またやるんですか?」
「もちろんやるぞ!世界中にはユニークなレースがある。日本を全世界にアピールするにはこれぐらい奇抜なものじゃないといかん。」
「もう懲り懲りですよ。」
「何故わしまで…」
中川と大原部長も参加していた。その後ろには麗子とマリアもいる。両津は時行と組んで参加するつもりらしい。さすがの時行も恥ずかしいのかしゃがんで体を隠している。
「気にすることないぞ時行。周りを見てみろ。みんな、全裸だ。何も恥ずかしいことなどない。」
「無理ですね。」
「ちなみにわしらは鬼怒川温泉だぞ。」
「分かりません。」
両津が周りを見せる。ボルボ、左近寺ペアに小町、奈緒子ペア。さらにはジョディー、パンテルペアまでいた。ボルボは既に鼻血を出している。
「女性も参加するのですね。」
「老若男女国籍関係無くだれでも参加可能だ。ちなみに、新葛飾署のほとんどを無理矢理参加させた。」
大会が始まり司会者がルールを説明する。約100kmの長いコースを2人一組で湯船を操縦してゴールを目指すというものだ。優勝賞金は100万円。両津はやる気満々だ。みんな、温泉カーに入り準備する。
「あっ!纏さん!」
「時行もいたのか。」
隣に纏と早矢がいた。纏は恥ずかしがるも早矢はいつも通りだった。司会者がスタートの合図を出した。その瞬間、一斉に飛び出す温泉カー。
「速すぎません!?」
「最大時速80kmはだせる!」
スタートした瞬間に温泉カー同士が打つかりコース上に転ぶ全裸の男女達。あまりの恥ずかしさにすぐに逃げる。開始早々阿鼻叫喚だった。両津は湯船の中にあるハンドルで見事に操縦する。
「これが次世代の最新カーだ!」
「これ…退化しているような…」
猛スピードで駆け抜ける温泉カー。最初の難関急カーブに差し掛かる。爆走していた先頭集団が次々とクラッシュする。曲がりきれず脱落していく。両津ペアも急カーブに差し掛かった。両津は見事なハンドル捌きで温泉カーをドリフトさせた。
「よっしゃあ!」
「温泉が目に〜!」
時行は目を覆っている。その後ろに中川ペアとボルボペアがついてくる。さらにその後ろには麗子ペアもいる。
「さすがについて来れるか。」
両津は前にいる外国人ペアを視界にとらえる。両津はスピードをあげて追いかける。すると、前方に緩やかな坂がいくつもあった。外国人ペアはスピードを落としてコースアウトしないようにする。それに対し両津はさらにスピードを上げた。
「両さん!このままですと…」
「飛ぶぞ時行!」
「ええ〜!?」
湯船が飛んだ。外国人ペアが上を向いて驚く。そのまま両津ペアがトップに立った。
「相変わらずめちゃくちゃしますね先輩。」
「信じられん。」
両津ペアが2位との差を広げた状態で独走する。しかし、無理をさせ過ぎた結果、温泉カーがエンストしてしまった。
「何!?」
『お〜っと!トップを走っていた両津•北条ペアが突然止まった〜!どうやらエンジンに問題が発生したみたいです!』
両津は急いで直す。その間に次々と抜かれてしまう。直した時にはかなり後ろになってしまった。時行が何度やっても温泉カーは焚かれない。
「両さん。寒いです。」
「我慢しろ!」
エンジンの熱で温めているためエンストすれば当然お湯も冷める。時行がブルブル震えている。両津はエンジンをフル稼働させて走る。前に小町ペアがいた。
「どけぇ!」
「げっ!原始人!」
来るなと叫ぶと両津はお構いなく温泉カーをぶつける。その結果、小町ペアの湯船が倒れ2人は外に放り出された。2人はお互いの体を密着させる。
「ライバルが減ったぞ!」
「たまに思うのですが両さんって本当に勝つための手段は選びませんよね。」
「それが勝負の世界だ。時行も勝つための…逃げるための手段は選ばんだろ。」
「確かに。」
時行が納得してしまった。そこからも次々と温泉カーを抜いて行く両津ペア。他のペアがスピードを落としてしまう連続カーブや急斜面もまったくスピードを落とさずに突っ切る。
「両さん!風が寒いです!」
時行が叫ぶも無情にも風に掻き消される。やっと先頭グループが見えてきた。次々と抜いて行く。
「両津が来たぞ!」
左近寺が後ろを見て叫ぶ。ボルボがハンドルを回しカーブする。その内を両津が入り込んだ。
「絶対わしが1位になる!」
「金がかかると両津は強え!」
激しい打つかり合いになる。温泉カーは同じだが乗っている人の重さでボルボペアが有利だった。すると、眼前にジョディーペアがいるのを見つけた。
「よし。」
両津はスピードを上げてジョディーの隣まで来た。そこにボルボが来る。ボルボはジョディーとパンテルを見てしまう。
「ハァイ、両さん、ボビー。」
「しまった!」
「悪いな!」
ボルボは鼻を抑える。その隙に両津がボルボペアに体当たりしてジョディーペアに激怒させた。その結果、ボルボはジョディーとパンテルの間に入ってしまう。
「ボビー!大丈夫!?」
ジョディーペアの温泉カーが真っ赤に染まる。両津はライバルが減ったと喜ぶ。もうこれ温泉のアピールとか関係無いのではと思い始める時行。続いて纏ペアが見えた。
「一気に抜かせ!」
「カンキチ!」
両津ペアと纏ペアが激しく打つかり合う。そのまま最後の難関ジェットコースターロードに差し掛かった。さらに、激しくなったコースに纏ペアは苦戦していた。
「これ、コントロールが難しいぞ!」
「こんなもん、勢いだ!」
両津が叫ぶ。日和ってしまいスピードを落とした纏ペアと違ってさらにスピードを上げた。そのまま抜かす。すると、中川ペアと麗子ペアが見えた。
「時行!このまま一気に抜かしてゴールだ!」
「凄い酔いそうです。」
両津ペアが中川ペアと麗子ペアの間に入った。激しくぶつけてコースアウトにしようとする両津。中川も麗子もそれに負けじと耐える。
「落ちろー!」
「先輩!やり過ぎです!」
「加減しろバカモン!」
激しく打つかり合う3つの温泉カー。ゴールが見えてきた。最後に縦に大きく回転するカーブに差し掛かる。しかし、そこで問題が発生した。3つの温泉カーが激しく打つかり合ったことでコースを支える支柱のネジが緩み始めた。
「わしが1位だ!」
「ここまで来たら負けませんよ!」
「両ちゃんには負けたくないわね!」
大きく回転する。その瞬間、ネジが外れコースがズレた。そのままものすごい勢いでコースから大きく外れてジャンプする3つの温泉カー。
「「「え…」」」
両津達はどこへ向かうんだと遠くなって行くゴールを見つめる。そのまま大通りに突っ込んでしまった。突然の温泉カーに通行人達はびっくりする。
「ひぃっ!」
「恥ずかしい!」
「きゃあっ!」
大通りの真ん中で全裸のまま放り出された両津達。そのまま警察騒ぎになり温泉レースは中止となってしまった。
後日…
『こちらが日本各地の温泉とスポーツカーを組み合わせた画期的な乗り物になります!』
「あんなことがあったのにまだアピールするのですか?」
「転んでもただじゃ起きない人ですから。」
テレビで海外に温泉スポーツカーを売り出している両津に呆れる時行達であった。